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パチスロ「鬼浜爆走愚連隊」(現・鬼浜爆走紅蓮隊)の二次創作小説をしたためております

ジャンルは青春小説――ヤンキー高校生どもの日常生活を綴ります

少々の喧嘩描写がないとは言えませんが過度の流血はありません
奴ら同士の恋愛的描写はございませんのでどなたさまにも安心です

元ネタをご存知ない方がお立ち寄りくださっても楽しんでいただけるよう精進いたしております

左サイドバーに【目次】を設けておりますのでご参照ください

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ただいま連載中のおはなし目次

単車屋お天気屋
《1-1》 《1-2》   《2-1》 《2-2》   《3-1》 《3-2》
《4-1》 《4-2》   《5-1》 《5-2》   《6-1》 《6-2》

《7-1》 《7-2》   《8-1》 《8-2》   《9-1》 《9-2》完結

最新話更新日:8月7日
ひっそりと完結いたしました
超スローペースで失礼しました
 
 
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最近連載終了したおはなし
  :まとめ読み用として【目次】へ格納いたしました

【29-1】商店街で君と握手!!
【29-2】鬼浜戦隊ショウテンジャー

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華丸のだらだらした日常 《棟割長屋201号室》
  ↑ 6/4 裏庭開設 詳細はこちらでご案内いたします


単車屋お天気屋 9-2



 部屋へ戻って、リュウジに出された宿題をこなすことにする。
 リュウジの貸してくれた漫画は、なるほどオレの好みのジャンルだった。
 言うなればヒーローものの作品らしい。
 ヒーローは悪魔的に強くて乱暴でサディスティックに描かれていた。で、敵対する世界征服を企てる悪の組織っていうのが、どこか憎めないいい人たちの集まりで、お決まりのやられっぷりを見ると何故か同情を禁じ得ない雰囲気。
 ごく当たり前の善悪二元論が当てはまらないギャグ漫画だった。
 なるほど、深いな。敵と言っても悪い奴ばかりじゃないということか。それはオレも薄々感じてはいるけれど。
 どこかオレたちの日々と重なるところもあるかもしれない。

 これだったら案外簡単に宿題というか、感想をリュウジに聞かせられそうだと安心しはじめたところで当のリュウジが現れた。
「お邪魔するぜ」
 玄関のあたりで響く声。続いて階段を上がってくる足音。そしてドアのノブが回る音。
「入るぞ、ハヤト」
「ああ、うん。どうかした?」
「いや、亜由姉に電話もらってな。何でも俺の労をねぎらってくれるとか。よくわからねえけど言いつけに従ってここへ来たんだぜ。言いつけ、守らねえとあとが怖いからな」
 亜由姉さんにはお見通しか。この騒ぎではリュウジにもかなり迷惑かけたってことは。
 
 机に積んだ漫画とオレの手許を見て、リュウジが顔をほころばせた。
「お。ハヤト、感心だな。ちゃんと読んでるじゃねえか」
「まあね。宿題は思い出したときにやっといたほうが、あとがラクじゃん?」
「……なるほどな。思い出す気になるかどうかが肝か。俺、今になってやっと宿題とか出す教師の気持ちがわかった気がするぜ」
 なんて感想するリュウジである。願わくば次の夏休みまでその気持ちを覚えておいてほしいけど。どうだろうね。
「けど、面白いだろ? それ」
「うん。まだ1巻の途中だけど、リュウジが勧めてくれたのがわかるよ」
「だろ? ハヤトならわかってくれると思ったんだよな、俺」
「けっこう深いよな、テーマ。正義の味方は優しいだけじゃないしさ。普通じゃないとこが新鮮っていうか。悪の組織のほうが人気あるんじゃないの? これ」
「お!!! そう来たか。ハヤトがそう読むの、俺は満足だ。ノブオは単にギャグ漫画としか捉えてねえけど、やっぱお前の読み方はスジがいいぜ」
 たった一言感想しただけで及第点をもらえそうな感触だった。うん、よかったよかった。

「ハヤト。真面目な話、ちゃんと何日かおとなしくしとけな。でもって、早いとこ治しちまえ、足」
 オレの左足首を見て、しみじみとリュウジが言う。
「そうだね。そのつもり。心配かけてほんとに悪かった」
「まあな、心配は心配だけどよ」
 と言葉を切って、リュウジは視線をオレの目に移した。
「ここへ来る途中な。俺、ハンゾウを見かけたぜ。俺の知らねえ奴と勝負してたようだ」
「あ――それは」
 昨日の奴かもしれない。リュウジの言葉の続きを待つ
「ハンゾウな、それなりに真剣そうだったんだが、何て言うんだ? こう、あんまり望ましいバトルって感じの音じゃねえんだよな。つまらなそうってか、少なくともお前とやってる時とは比べものにならないくらい義務的ってか。とにかく楽しそうじゃなかったぜ」
 リュウジには何か感じるものがあったらしい。
「うん。リュウジ、正解。さっきハンゾウがウチに来たんだ。昨日、オレが割り込まれた相手は多分リュウジが見た奴だろう。ハンゾウもよく知らない奴らしいけど。最近からんでくるようになったそいつとは、勝負しても面白くないって言ってた。速いことは速いって話だけどね」
「そうなのか」
 リュウジは何か考えるような表情で、斜め上を見てる。
「でも、実際にからまれてるのは自分だから、自分で決着つけるってさ。オレには巻き込んで悪かったって言ってたけど。それだけ言いに来たみたいだ、ハンゾウは」
 ちょっとしてから再びオレの顔を見て、ひとつ頷いてリュウジはこう言い切った。
「それじゃなおさら早く治しちまえや。そんなストレスある勝負ばっかり強いられているハンゾウのはけ口なんかにされたら、それこそこっちが面白くねえもんな」
「いや、まさか。ハンゾウはそういう闘い方はしないだろ?」
 そう答えたら、リュウジはうっすら笑った。
「そしたら、こうか。早いとこお前の好敵手が楽しめるような勝負をしてやれるようになれ、って。な?」

 さすがだな、リュウジは。
 ハンゾウと知らない奴の勝負なんて、ほんの一瞬見ただけだろうに。その時と、オレとの勝負との違いとかリュウジには見えるんだ。
 客観的で冷静。いつもの本人の闘いっぷりとはかけ離れているけど、当たっているので文句のつけようがない。
 だからオレはおとなしく同意した。
「そうだね。了解」
「よし。ハヤトの気分が上向いてよかったぜ!!! なんだかんだお前もたまにはお天気屋だからな。さすが親父さんの血をひいてるだけあるな。わはは」
「え? オレが親父並のお天気屋だって?」
 笑うリュウジに抗議しようとしたところで、玄関のチャイムが鳴った。
「お、亜由姉来たな? オウ、今行くぜ!!! ほれ、ハヤトも」
 これ幸いにとリュウジはオレの背中をぴしっと叩いたかと思うと、速攻で階段を駆け下りていった。
 まあ、それはそれでいいことにしとくか。
 痛めた足をゆっくり進めて階段を下るオレ。次にリュウジを追いかけるべき時までには足も完治してるだろう。
 そしたら今度こそ、身も心も快晴のはずだよな。
 

   *  完  *



単車屋お天気屋 9-1



 約束どおりに「母ちゃんの飯」を口にした親父は、店の扉に掲げていた『本日休業』の貼り紙をはがしてくれた。
 夕方近いのでお客さんが来るのは望み薄だが、オレの単車を診てはもらえそうだ。
 ガレージから引っ張ってくるときに見た感じだと、そんなに致命的とは思えないけれど、テールの塗装に傷がついている。
 昨日の奴、よっぽど力を入れて蹴ったんだな――なんて関心してる場合じゃない。
 愛車を親父に託して、オレは親父の手許を見ている。
「よしよし、大丈夫だ。なんとかなるさ」
 なんて親父の太鼓判に安堵するオレ。
 仕事している親父って、頼もしいよな。なんて思うと、にやりと顔がほころんでくる――って、オレは保護者か。

 しばらく仕事をした親父は、たばこを買ってくると言って一旦外へ出た。
 しゃがんでいるとひねった足に障るから、今日のオレはあんまり愛車に手をかけてやれないけれど、ミラーを拭いたりなんかしながら親父の帰りを待っている。
 と、店の前の通りに排気音が響くのが聞こえた。
 うねりの大きいあの音だ、と気づいたオレはガラス扉の外へ顔を向ける。
 音が止まる。相次いでオレの前に現れた、見知った姿。
「あれ――」
 スキンヘッドは挨拶もなく、オレのサンダル履きの、湿布に彩られた左足首に目をやってから言った。
「巻き込んで悪い、ハヤト」
「いや、別にハンゾウが悪いわけじゃない。それはオレもわかってるから」
 怪我に付け込んで勝負を宣言する腹積もりってことではないらしい。
 そのあたりは信用してもいいだろう、とオレは解釈した。
 座れよ、と合図したら、ハンゾウは木製テーブルのオレの向かいの椅子に収まった。
「昨日の奴って、何日か前の昼頃に鬼工の周りで勝負してた奴だろ?」
「ああ」
「どんな知り合い?」
「いや、よく知らない。どこの奴かも、名前も。何も知らない奴だ」
「そうか。でも、明らかに奴はハンゾウに勝負を仕掛けてったよな?」
「そうらしい。前にハヤトが見たのが2度目、昨日が3度目。俺には絡まれる心当たりもまるでない」
「そうだったのか。なんか気味悪いな」
 オレがそう評したのには、ハンゾウは無反応だった。
「速いのか? 奴は」
「遅いとは思わない。ただ、勝負して面白みのある相手でないことは確かだ」
「それは災難だな、ハンゾウ。面白くない勝負に付き合わされるんじゃ」
「それを言うならお前こそ災難だ、ハヤト。巻き添えで自分も単車も傷ついたし」
「ああ、オレは、うん。そうかも。でも一番腹が立つのは、一度始めた勝負を横取りされたことだったかも。昨夜考えたら、それが最大に納得できないことだった」
 言ったらハンゾウは軽く握った拳をあごに当てて、何か考えたあとにこう言った。
「――ハヤト。単純なようで難解な男だな」
「え、そう? ああ、でもたまにリュウジに言われるかも、それ」
 軽く言ったら、ハンゾウはすこし唇の端をゆるめた。笑ったのかもしれない。

「おや、ハヤト。店番ご苦労。ようこそお客人」
 と、たばこの箱を片手に親父が店へと戻ってきた。
 目があったのか、ハンゾウが親父に会釈する。
「お客人はハヤトのお仲間か? その割に見かけない顔だな」
「いえ。単なる宿敵です」
 きっぱりとそう自称したハンゾウに、オレは思わず吹き出してしまう。
「何故笑う?」
「いや、だって。そりゃ正しいけどさ。ハンゾウってよくわかんない人だな」
「少なくともハヤトにだけは、解らないと言われる筋合いはないと思う」
「お互い様ってことじゃん」
 軽く返したら、ハンゾウはまたさっきみたいな表情を見せた。多分笑ったんだろう。
「それにしても、君のマシンは随分と弄ってあるな。しかも仕事が丁寧だ」
 感心する親父にどうも、と頭を下げるハンゾウである。
「改造が趣味なので」
「ほう? では自分でか!! それは見所のある若者だな。どうだね、我が息子の宿敵殿。将来はうちの店で働く気はないか? なんなら君の宿敵は俺がやっつけても結構」
「って、親父。もういいから」
 まったく、どう答えていいんだかわからない質問をするもんだ。しかもほんの思いつき。
 さすがのハンゾウも笑っていいんだかどうなんだか、って顔をしてる。
 おそらくハンゾウもオレも似たようなことを考えていたに違いない。一番理解しにくいのはウチの親父だ、きっと。

「ハヤト。とにかくこの件は俺が自分で決着をつける」
 親父と少し話したあと、オレには帰り際にそれだけ言ってハンゾウはマシンに跨った。
 オレは何も言わずに頷いて我が宿敵が立ち去るのを見送る。
 『邪魔をするな』でもなく、『気にするな』でもなく。はたまた『任せておけ』でもなくて、さらに最後、重ねて謝辞を言わなかったのはハンゾウらしくて、さっぱりしていた。
 とくに『敵をとる』なんて言われ方をしたら、オレの気分はよくなかったかもしれないけれど、奴はそうはしなかった。
 プライドそのものは理解しあえているみたいだ。
 もしも敵対する隊の特攻隊長同士、なんていうのと違った形で出会ったとしても、奴とはいいライバルになれたんじゃないか。
 だって、勝負のたびに鳥肌が立つ相手なんてそうそういないから。
 そうか。昨日の奴と勝負しても、きっとハンゾウはその感覚がないのかも――面白みのある相手じゃないって言ったのは、もしかしたらそんなことかもしれないな。

 ハンゾウが帰ったあと、電話が2本あった。
 ひとつは亜由姉さんからだった。
 曰く、親父をからかいにお寿司を持って行くから夕飯を食べないで待ってて、とのこと。
 親父に伝えたら、いそいそと瓶ビールを冷蔵庫で冷やし始めた。
 二日酔いはもういいんだろうか。懲りない人だ。
 それで、もう1本の電話はお袋からだった。
 開口一番に「心配してた」って言ってた。親父のことを、ではなくて、親父のお守りをすることになったオレを案じてくれていたらしい。
 なんとかなってる、と言ったところで親父に受話器を奪われた。
 親父ときたらオレが近くにいるのも何のそので、全力の勢いで一言謝罪したかと思うと、電話の向こうのお袋に甘い言葉とかささやきはじめた。
 やれやれ。結局は仲良しなんだな、ウチの両親は。苦笑しつつ、邪魔するのも無粋だから一旦オレは部屋へ引き上げることにした。
 背中を追いかけてくる親父のご機嫌な声。うん、そうしてくれてると助かるよ。
 いつになくお天気屋だった単車屋の店主は、これでしばらく快晴続きに戻るだろう。


単車屋お天気屋 8-2



 遅刻して、さらに体育は大手を振って見学したオレは学校から帰ってきたところ。
 店の前に立ち尽くしているのは、親父の筆跡で書かれた貼り紙を見てるから。
『店主病気療養中につき本日臨時休業』
 療養って大袈裟な。ひとつため息をついてから、今日は玄関から家へ入ることにした。

 さて、病人はどうしているだろう。
 家の中の気配を読むに、どうも寝室にいるようだ。一応ノックしてから扉を開ける。
「親父? 病人なんだって?」
 室内は暗かった。電気もつけないまま、さらにカーテンも閉めたまま、親父は頭から布団にくるまっている模様。
「二日酔いか何かだろ?」
 ごそごそと布団が動く。親父の顔はまだその中のままだ。
「水でも持ってこようか? それとも薬がいる?」
「……水はいらんが、ビールを希望する」
 くぐもった親父の声が耳に届いた。
「って、やめときなよ。依存症になっちゃうだろ?」 
「別にそれでも構わんさ。誰も心配してはくれんだろう」
「まったく。何を拗ねてるんだよ、いい歳して」
「我が可愛い跡継ぎ息子よ。残念ながら父はまだ若いのだ」
「はいはい。親父は若い若い」
 っていうか、ガキみたいなもんか。

 台所へ戻って、コップにコーラを注いで親父の寝室へ運んでやった。
 ビールじゃないけど、炭酸だから多少は似てるだろう。水よりは。
 親父はようやく布団から起き上がって、ベッドに座ってコップを受け取る。
「うむ。二日酔いにコーラは、まあまあだな。覚えておこう」
「やっぱり二日酔いだったのか」
 オレの感想に返事はなかった。
 ひとこと言ったきり、親父は飲み干したコップを手にしてため息をつく。
「どうかした?」
 やっぱり返事はなかった。
 そうか。まだ昨日の落ち込みモードを引きずってるんだな。
「自称親孝行の息子としてはさ、心配だって。親父には元気に働いてもらわないとね。それに昨日オレ、単車に傷つけちゃったから、ほんとはすぐに診てほしかったりして」

 だから、しょうがないか。話してやろう。
「お袋、旅行中だってね?」
「旅行――?」
 やっと反応してくれる親父である。
 亜由姉さん、正解だ。親父は初めて聞かされる話のような反応を見せた。
「うん。あれ、親父は知ってると思ってたけどな」
「それは知らん……と思ったが、言われてみればどこかで聞いたような気もするな」
「あはは。だって、親父はそれが原因でお袋と喧嘩になったらしいじゃん。で、親父が怒るし、旅行もキャンセルできないし、って言うんで、お袋はばあちゃんとこ行って、そこから出かけたって聞いた。亜由姉さんにね」
 オレがそこまで言うと、ようやく親父は得心が行ったような顔をした。
「ああ、そうか。そうだったのか!! 思い出したぞハヤト。俺はあの日、母ちゃんの作った飯が食えないと働く気力が湧かないと言ったんだ。そうだそうだ、原因はそれだ」
「って、そんなこと言ったんだ、親父」
 親父の言い分を聞くと、なんだか気が抜ける。
「それは言うさ。現に母ちゃんの飯を食っていない今、働いておらんしな。わっはっは」
「そういう問題か?」
 オレが言うのも何だけど、まるで困った駄々っ子だな。
 その駄々っ子もすこし元気になったようだ。
 やっとこさ意識の底にしまいこんでいた何かを思い出して。もしかしたらもうお袋が帰ってこないんじゃないかと悩んでいたみたいだけど、それが勘違いだとわかって。

「で? ハヤト、母ちゃんはいつ帰ってくるんだ? 亜由ちゃんに聞いたか?」
「確かあさってだって言ってたかな」
「そうか。ならばあさっては店を休んで迎えに行くかな。新幹線か、飛行機だろうか?」
「それは聞いてこなかったけど、親父。サボり癖はよくないんじゃない? あさっては置いといて、とにかく頼むから今からでも仕事してよ。本気でオレの単車を診てほしいんだ」
 オレの懇願に、これまた気の抜ける親父の言葉が返ってくる。
「いや、しかし。母ちゃんの作った飯どころか、昨夜リュウジが持ってきてくれたラーメン以来何も食べておらんので、目眩がするほど空腹で。それどころではないのだ、息子よ」
 大きな駄々っ子に対して勝ち目のないオレは、仕方ないので何か簡単に食べさせられるものでもあるかと台所を物色しに行った。
 冷凍庫を覗いたら、お袋手製のカレーと小分けにされたごはんが保存されていた。
 フリーザーバッグに油性ペンで書かれた日付は、お袋がうちを出た日だった。
 よく見たら『ハヤトへ。パパの分は卵の黄身をトッピングしてあげてね』なんてメッセージが入ってた。
 ……努力してはみたものの、卵の黄身だけってスプーンですくうの難しいんだな。
 どうにもならなくて、結局ほとんど白身ごとルウの上に流して、やっとつなぎ服に着替えて台所へ来た親父に出してやった。
 親父は、お袋のカレーそのものには感涙ものだったみたいだけど、やっぱり卵の白身が邪魔だったみたいだ。
 今度リュウジにコツを教えてもらっておこうか。



単車屋お天気屋 8-1



 翌朝、リュウジが迎えにきたとき、親父はまだ布団の中だった。
 いつもだったらオレが支度するまで店先でリュウジをからかったりしてるんだけど、今日はその予定がないらしい。
「待たせて悪い、リュウジ」
「オウ、慣れてるからどってことねえぜ!!! わはは」
「……そりゃどうもね」
 リュウジの笑い顔に苦笑いを返すオレ。
「それはそうと、学校には遅刻するって電話しといたからな」
「え? 間に合わない時間じゃないよ、まだ」
「そうじゃねえよ。ほれ、病院行くぞ、病院。俺が付き添ってやるから」
 リュウジはオレの足首を指差してそう言った。湿布を貼っているから、今日は革靴ではなくてスニーカーを、左だけかかとをつぶして履いている。
「病院――? いや、2、3日すれば治るだろうから大丈夫だって」
「おい、ハヤト。お前、素人判断ってのは良くねえぞ? 骨がどうとか、なってるかもしれないだろうが。ちゃんと診てもらえ。そうじゃないと俺が安心できねえからな」
 きっぱり言い切る付き添いさんに、無理やり病院送りにされるオレであった。

 リュウジに連行されたのは、町立病院だった。
 レントゲンも撮ってもらった上での診察結果は骨に異常なし。
 湿布薬を処方されて、市販のものより安いのにちょっと得した気分になった。
 さて、無事に務めを終えた怪我人のオレは、待合室で時間をつぶしてる。付添い人が帰ってくるのを待っているところ。
 前に盲腸でここへ入院したときに、リュウジは退院後も大部屋の同室だった人たちのお見舞いに何度も来ていたのを知っている。
 で、当時の同室さんが退院しても、また次にその病室へ入った患者さんと知り合って、またお見舞いに来て、というループになっているみたいで、今でもたまにここへ顔を出すんだそうだ。
 さっき処置室でオレの足に湿布を貼りながら、看護師さんが教えてくれた。リュウジらしい話だな、と素直に思った。

「待たせたな、ハヤト」
 待合室へ現れたリュウジは、鞄のほかに紙袋を持っていた。
「いや、大丈夫。なに、それ?」
「これな、看護師の姉ちゃんに貸してた漫画だ。ついでだから返してもらったとこだぜ」
「なるほどね。仲いいんだな」
「まあな。って、それはどうでもいいぜ。ハヤト、どうだったよ?」
「ああ、うん。どうってことないって。何日か負担をかけなければ治るって言われた」
「そうか!!! それはよかったぜ」
 オレの背中をぽんと叩いて、リュウジは安心した顔を見せてくれた。
「ってことは、幾日か単車は禁止だな」
「うん。しょうがないな、それは。自業自得だ」
「よし、ちょうどいい。返ってきたら次はお前に貸してやろうと思ってたとこだ。ほれ、ハヤト。これ謹慎中に読んどけ。あとで感想聞くから、どっか抜け出したりしねえでちゃんと読めや!!!」
 リュウジはオレに漫画の入った紙袋を持たせた。
「ハヤトなら気に入ると思うんだよな、この漫画。お前の好きなジャンルだからな」
 リュウジは至って満足そうな表情で紙袋を持たされたオレの顔を見る。
「……あの、まさか重いからオレに持たせてるだけじゃないよな?」
「何だと? ハヤト、俺がそういう奴に見えるのか?」
「え。いや、いや――あはは」
 ふざけて拳を握ったリュウジを、ふざけてかわす。ちょっと油断して重心を左にかけると……やっぱり怪我人なんだな、という自覚が戻ってくるオレである。
「あ、痛っ。ちょ、待った。やっぱり痛いって、足」
 まったくもう、心配してくれるやら、いじめるやら。
「こらっ、リュウジ君。けが人を攻撃しちゃダメじゃないのっ」
 ちょうど通りかかったさっきの看護師さんに、リュウジがたしなめられてる。
「たいしたことねえって。ほんの冗談だよな、ハヤト? まったく、お前が大袈裟なんだってのに」
 憎まれ口とか言ってるけど、さっきは心配してくれてたから水に流しておくか。


単車屋お天気屋 7-2



「お袋、旅行中なんだってさ。どうもそれが根本的な原因で親父と喧嘩になったらしいけど、それ自体を逆上した親父が忘れてるんじゃないかって。亜由姉さんが言ってた」
 しばらく間をとってから、オレはやっとリュウジに伝える気になった。
「そうだったのか。それ聞くとな、親父さんらしいよな」
「うん。そうだね」
 この点においてはリュウジを納得させられたみたいだった。
 それでもって、話にはまだ続きがあるんだよな。
 先を促す素振りをあえて見せないリュウジに向けて、オレは聞いてほしくてこう続けた。
「で、帰り道にハンゾウと出くわしてさ。お互い単車だったから、行きがかり上勝負みたいになって。そこまではいいんだけど、知らない奴――ああ、ハンゾウは知ってる奴だったっぽいけど、そいつに不意に突っかけられて、バランス失って。地面に変に足をついたらこのザマってとこ」
 こういうときに聞いてくれる相手がいるっていうのは幸せなことみたいだ。
 多分、さっきまでの親父も似たようなものだったんだろう。親子して迷惑な者どもだ。

 たいしてたくさん話すべきこともなかった。あっという間の出来事だったから。
 それでもオレは話したら多少は気分が落ち着いた。
 それに引き替え、聞かされたほうは――
「何だと!!! 知らない奴に不意討ちされただと?」
「そんな大袈裟なもんじゃなかったかも知れない。隙があったのかもね。オレに」
「そういう問題じゃねえだろうが!!!」
 逆にリュウジが熱くなっている。
「おい、ハヤト。その知らねえ奴ってのは、ハンゾウの知ってる奴なんだよな?」
「多分。そんな反応だった。っていうか、そうか。こないだ昼休みに鬼工の周りでハンゾウが誰かとバトルしてるらしいのを見たんだけど、その時の奴かもしれない」
「ってことは、ハンゾウに糾せばいいんだな?」
「え。ちょっとリュウジ、そんな熱くなるなよ」
「何だと? これが冷静でいられるかよ!!! うちの特攻隊長を不意討ちでこんな目に遭わせるような奴をオレが黙って許せると思うか?」
「うん。ありがとう。リュウジがそう言ってくれるだけで救われるから、オレ」
 嘘ではなかった。リュウジが熱くなるのに反比例して、オレはどんどん冷静になってく。
「要するに、今日のは恥ずかしながらオレの不注意だ。知らない奴はいざ知らず、ハンゾウに非はないから。だからリュウジは怒らなくていい。これはオレ個人の問題だ。隊同士のあれこれは持ち出さないでほしい」
「ハヤト――」
「オレはオレが納得できればそれでいいから。ちょっとかっこ悪かったしね」
 無理に笑って見せたけど、それができるくらいまでオレは落ち着いてきていたみたいだ。

「リュウジのおかげで頭が冷えたんだ」
 湿布が効いている足首を見ながら言う。
「オレ、本当はさっきまですごく怒ってた」
「そうなのか? 不機嫌かな、とは思ったけどな。親父さんとのやりとりを見てて」
「うん。それもあるけど、実はものすごく腹が立ってた。足も痛かったし」
「そうだよな。気づいてやれなくて悪かったぜ。ってか、ハヤトが怒るのも怪我するのも珍しいからな」
「確かにね」
 リュウジの言葉はいいとこ突いてた。だからオレは自然にほろりと頬をゆるめて見せる。

「さっきも言ったけど、親父って逆上すると何に対して怒ってるんだかわからなくなるだろ? 昔はオレも同じようだったんだ。親父やお袋と喧嘩すると、学校行っても気分を押さえられなかったり、意味不明に引きずってたりね」
「へえ。ハヤトにも反抗期ってあったんだな」
 リュウジが妙に感心している。
「そりゃね。そんな頃もあった。いくらオレでもね」
 思えばあの頃の不安定さは、よく笑う友達が中和してくれてた気がする。そう、タクミのことだ。
 そして今日。すんでのところで逆上するに至らなかったのはリュウジのおかげだな。
 そういうのを肩代わりしてくれるってのは、オレにとって助かるんだ。
 素直に思えたので、そう言った。
「リュウジがオレの代わりに怒ってくれるって、なんかすごくラクだな、オレ」
「な……んだって?」
 言ったきりリュウジは難しい顔をして黙ってる。
「なあ、ハヤト。俺もだいぶお前については理解できてるつもりだったんだが、さすがに今のは難しかったぜ」
「あはは。難しく考えることないって。気分、気分」
 そうそう。今本気で笑えたことが重要。
 現在のオレにはこの熱い漢が側にいるって思うことが大事みたいだ。
 いつかはオレも親父にとってそうなれればいいけれど。
 親父が怒ってたら、オレに愚痴ってくれたら手っ取り早いよな。
 そうじゃないとリュウジに世話かけすぎるから。親子して頼ったんじゃ申し訳ないし。


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