* 1 *
亜由姉さんの騒動のあったその翌日のこと。
なぜか昼前からリュウジがオレの家まで赴いてきていた。
「今日は店、いいのか?」
「おう。今日は大丈夫だ。どっちみち盆時期で空いてる、店は」
「ああ、そうか。忙しいのはダイゴのとこか」
「だな」
店先で、単車雑誌をぱらぱらめくりながらリュウジは頷いた。
「で? どうかしたのか?」
「いや、どうもしねえけどよ。ただ、俺が監視してないと、お前がパチンコだかパチスロだかに行っちまうんじゃねえかな、って思って」
「え……」
オレはぎくりと背筋を強張らせた。
「あ、やっぱり、だろ? ハヤト、そんなこと考えてただろ。まったく、そんなことだろうと思ったぜ。俺の第六感も捨てたもんじゃねえな」
リュウジは満足そうに言う
「ちぇ。こんなことなら朝イチから出撃するんだったな……」
「ん? 何か言ったか?」
「いや、何でもないよ……」
オレの考えることくらいお見通しなんだな、リュウジは。監視役──適任だぜ。
そんなこんなの会話のあと、リュウジと連れだってオレは町へ出掛けていった。
「なあ、ハヤト。ゲーセン行くか?」
「ゲーセン? あんま興味ないけど……」
「まあ、そう言うなって。たまには楽しいぜ!!」
「うん、リュウジが行きたいんだったらいいよ。だってどうせ、オレには決定権ないんだろ?」
「わはは、そうとも言うな!! それじゃ決まりだ」
リュウジはうれしそうに、オレの手をひっぱってゲーセンへと連行したのだった。
リュウジが好きなのは格闘ゲームらしい。
お気に入りのゲーム機に100円玉を投入すると、慣れた手つきでレバーやらボタンやらを操作し始めた。
しばらく見ていると、リュウジの操作するキャラクターはあっという間に敵を倒して次のステージへ移行する。
「へええ、上手いもんだな、リュウジ」
「まあな」
得意げにリュウジは応える。表情がいきいきとしている。よっぽど好きなんだろう。
「なあ、ハヤトもやってみろよ。ほら、そっち側で。これな、対戦できるんだぜ?」
「そうなんだ。じゃあやってみようかな」
リュウジに勧められるまま、オレは向かい側のマシンに100円を入れ、ゲーム開始。
が──実際、どこをどうやったら技を出せるんだかも理解せぬまま、リュウジ(の動かすキャラクター)にヤられてしまった。
まさに秒殺であった……。
「おい、ハヤト!!! ちゃんとやれや!!! ちっとも楽しくねえぞ」
「そんなこと言ったって、どうやったらいいんだよ、これ」
「もう、わかんねえのかよ、ほら、ここをこうすればパンチだろ?」
とか言いながら、面倒見のいいリュウジは、オレの機械に自分で100円玉を入れてくれて、さらにオレのそばで手取り足取り教えてくれたんだ。
けど──
「ここを? こう……?」
「だ〜〜〜、もうハヤト、タイミング悪いぜ。だから、敵がきたら避けるんだろ?」
「避けるって技もあるんだ」
なんてオレが言うと、リュウジは肩をがくりと落としたのだった。
「まあな、避けるにも技術は要るけどな。でもゲームで技って、普通は攻撃するほうのことだよな。まあ、仕方ねえか。ハヤトはゲームどころか実際の喧嘩もしねえしな」
リュウジはぶつぶつ言っている。
「ああ、そうか。そんならあっちのほうが楽しいか、ハヤトには」
と、急に思い立ったようにリュウジがオレの背中を叩く。
「何?」
「こっちだ、ハヤト。これで勝負しようぜ」
そう言ってリュウジが次にオレを連行したのは、バイクレースのゲーム機の前。
「な? これだったらちっとは勝負になりそうじゃねえ?」
「あはは、そうかな?」
オレは、少しだけいける気がした。これならオレの得意分野かも!
「じゃあ行くぜ、用意はいいか?」
「オウ!!!」
同時にコインを入れ、ゲームを開始させるリュウジとオレ。
ゲーム機から聞こえてくる『Ready Go!!』の声に合わせてスタートさせるも──
スタート直後に転倒するわ、コーナーで派手にスピンするわ、周回遅れの上にリュウジの進路を妨害するわの大騒ぎで、ちっとも先に進まないという体たらく。
「あらら、おかしいな……? なんでこうなる?」
「なあ、ハヤト──お前って、つくづくゲームの才能ねえな」
リュウジがもはや憐れみの目をもって、オレを見ていた。
「だって、ギアチェンジのタイミングがさ……」
嗚呼、なんか抵抗するのも虚しいぜ。
結局、どのゲームをやってもそつなくこなすリュウジの手元を見て、オレは時間をつぶす羽目になった。
途中でのどが渇いたから、ジュースでも買おうかと店内をうろうろしていて、オレはそれを見つけた──お、これはパチスロ機じゃないか? これも100円で遊ぶのかな? あ、そうか。あそこでメダル借りるんだな。
オレはリュウジが花札ゲームに集中しているのを確認して、これこそオレの得意分野たるゲーム機に投入するメダルを借りてみることにした。
* 2 *
換金できないただのゲームとはいえ、機械自体はパチスロそのものなわけで。
オレはリュウジに連れてこられたゲーセンの一角で、ゲーム仕様のパチスロ機と戯れている。
ラインナップはどこのパチ屋にもあるお馴染みの台から、オレが見たこともない古そうな台までと多彩。
その中で、オレは実際打ったことのあるキングパルサーへと着席した。
ああ、やっぱりいいね、パチスロは。
打つことしばし──500円分のメダルを使ったところで、第3バウンド+オレンジハズレからボーナス確定!!! うわ、正直にうれしいよ、オレ。1枚たりとも換金できないけど。
嬉々としてボーナス──運良くBIGだった──を消化するオレ。パチ屋よりも周りが静かだから、BGMがよく聞こえて感激ひとしおだ。
さて、BIG終了後は128Gが勝負だったな。次もお願いします!!! と祈りながらレバーを叩いたところで──
「大当たりは終わったのか? ハヤト」
「わ──びっくりした!! リュウジ、いつからそこに?」
「さっきから、ずっと」
今日はオレがパチ屋に行ったりしないように監視する、という名目でリュウジに連れ出されたにもかかわらず、オレがつい遊んでいるのは、というと……。
ヤバい、リュウジの怒りの鉄拳が来るか……? オレは肩をすくめた。
ところが、意外にも。
「ハヤト、楽しそうだな」
リュウジは興味津々といった表情で、オレの隣りの台の椅子に座った。
「なあ、これどうやるんだ?」
「え? やるのか、リュウジ? 賭事は嫌いなんだろ?」
「賭事って──だってこれ、ゲームじゃねえか。ここはゲーセンだし」
「ああ、そうか」
と、まあ納得して、オレはリュウジに打ち方を教えてやることになった。
オレの座ったキンパルの横は、吉宗だった。
どうせちょっと打ったって当たるわけないだろうから、何でもいいか──なんて思って、深く考えずにレクチャー開始。
オレはBIGで増やしたメダルをリュウジに分けてやった。とりあえずクレジット一杯まで機械にメダルを入れる。
「3枚賭けて、あ、コレ押すんだ。で、レバーを、こう」
「こうか?」
「うん。で、回り始めたら、左から順に止める。コレ押すと止まるから」
「なるほど」
「あ、俵当たったね。10枚獲得だ」
「お〜、やるなあ俺」
なんて、リュウジは素直に喜んでいる。
どうせ遊びなんだし、と甘く見ていたオレは、目押し云々までは教えたりしなかった。
たどたどしい手つきで遊ぶリュウジは、100円分なんてすぐ終わるとか言って──実際に使っているのはオレの持ち玉だけど──怒っているわりに、やめようとしない。
オレは運良くゾーンでもう1回ボーナス──今度はREGだった──を引き、リュウジに羨望のまなざしを浴びせられていたのだが。
そのとき、リュウジの吉宗の障子が閉まった。
なにも考えずに打っているリュウジが、何気なく次ゲームのレバーをONすると──そこには青々とした山並みが!!!
「おおおっっ、鷹狩り!!! リュウジ、すごい!!!」
「へ? 何だよ、それ?」
「激アツってことだよ!!!」
詳しく説明してもしょうがなさそうだったので、とにかくアツいことを伝えたかったオレ。だけどうまく伝わっていない様子。リュウジはマイペースでのんびり打っている。
連続の大きな風呂敷にオレがアツくなろうと、お構いなしで。
「しっかしこの人、顔がまんまるだな。殿様なのか? ん? なんだ、この爺さんは。わはは、なんか言ってるぜ!!!」
「え〜と、リュウジ、おめでとうございます……」
目押し一切無し、どころかよそ見打ちのリュウジの台のリールには、神々しいほどの青い7が一直線に並んでおりました。
鷹狩りから入ったBIGを、知識のないリュウジに消化させるのはおそらく一苦労。なので目押し不要の姫を選択させてあげようと思ったのに、リュウジときたら勝手に爺でBETしちゃうし。
しかも──速攻キ〜〜〜〜ン!!!とか言わせてるし!!!
「うおっ!!! すげえ音。びっくりしたぜ」
「うん。オレもびっくりしたよ、リュウジ。ちょっといい?」
と、リュウジの手を制して7を目押ししてやると、これがダブルラインだったりして。
「お〜、ハヤト、すげえなあ」
「ええ、おかげさまで」
嗚呼──リュウジって、どんなゲームの神様にも愛されているんだなあ。なんて思ったら、何故だか涙が浮かんだよ、オレ。
初当たり+2回の1G連のあとは、鷹狩りだったから天国確定。
そこでREG、さらにBIGと積み重ねて、あっという間にリュウジの手元には溢れんばかりのメダルの入った箱が2つ出来上がった。
このまま行ったらリュウジのこと、BIG中純ハズレでも引きかねないと思うんだが──
「なあハヤト、これメダル預けられるよな? 今日はそろそろやめて、走りに行かねえか?」
「うん? 走りに? いいけど──まだそれ、出るんじゃないか?」
「そうか? なんかそんな気しねえんだよな、俺」
「そんな気……って」
結局、オレはリュウジをなだめて天国ゾーンだけ打ち切らせた。
リュウジの予想したように、ゾーンで次のボーナスは来なかった。
そして、メダルを店に預けて、オレたちは外に出た。今日も陽射しが肌を灼く。
「何枚あった? ハヤト」
「2500枚くらいあったよ」
最初はオレのメダルだったから、と、リュウジはオレの名前で貯玉するように言ったのだ。
「へえ。じゃあしばらく遊べるな」
「そうだね」
「よしよし。ハヤト、今度パチスロ打ちたくなったらここへ来いな。ここなら俺も許してやろう」
「ははは、それはうれしいね」
まあ、それもいいかもしれない。ここで遊ぶ分にはあらゆるリスクがないから。金銭面もさることながら、リュウジに咎められずに打てることが大きいかも。
「それでさ、来るときは俺も誘ってくれや、な?」
なんだかんだ言っていたリュウジも、案外楽しかったみたいだ。目がきらきらしている。
「オス、OK!!」
オレは答えて、笑い返した。
「なあ、ハヤト、2500枚って、パチンコ屋だといくらになるんだ?」
単車を取りに、と歩きながらリュウジが訊く。
2500枚。等価なら5万円、なんだけど──
「ええと、店にもよるよ」
なんとなく言葉を濁した。そんな大きな金額を賭けて遊ぶなんて、リュウジの逆鱗に触れそうで。
「ほう。でも、5000円くらいにはなるよな? きっと」
「え──あ、まあ、それくらいにはなるよ。少なくとも」
「そうか!!! じゃあ俺、今日はすげえ勝ったよな? な、ハヤト」
なんとも無邪気な顔をするなあ、リュウジは。
さて、とりあえず打ちたかったパチスロも、ゲームとはいえ打てたことだし、よしとしよう。
焦げ付くような熱さの中、オレは今度亜由姉さんをここに連れてきてもおもしろいかも、なんて考えていた。