目次

過去の記事をまとめて表示できるようにしてみました。 【 】がついている項目をクリックすると、それぞれのタイトルの記事を一括でお読みいただけます。 【 】内の数字が若い順に古い記事となっております。 【 】内の冒頭数字が同じものはそれぞれ対になるおはなしです。

これまでのおはなし

全タイトルを表示

御来訪感謝

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

Road to スイカ 

   * 1 *


 晩夏の気配を混ぜ込んだ海風がここちよい。
 今日はノブオと鬼工野球部の1年生エース・天宮くんのコンビが『鬼浜ビーチバレー大会』に選手として出場する日だ。
 オレはリュウジとダイゴ、それから森園主将をはじめ野球部の連中と一緒に、朝も早いうちから応援席に陣取っている。

 「よし、いいか? ノブオ、天宮」
 「はい、兄貴!!」
 「ええ、リュウジさん」
 答えた2人は本番用にとリュウジに贈られた、揃いのビキニの海パンを着用している。緑と黒のツートンカラーは、まるでスイカを思わせる色調だ。

 「お前らは充分強いんだからな!!! そこんとこちゃんと信じてけや!!」
 「はいっ!!」
 リュウジを筆頭に、オレたちは揃って若手ふたりを激励した。
 森園主将の指導で円陣なんか組んでみた。オレ、こういうのってなんか新鮮だ。

 そんな感じで朝から始まった、鬼浜ビーチバレー大会。
 試合はトーナメントで行われた。
 初戦で当たったのはサラリーマンの2人組。あきらかに運動量がノブオたちのほうが上回っていて、難なく勝利。
 続く第2戦は、中学生チームとの対戦だった。現役バレー部という相手におびやかされながら、どうにか次へと勝ち進む。
 さらに第3戦は、奇しくも鬼工対決──水泳部のコンビとの対決だった。海の中ではそうはいかなかったろうけど、浜での決戦はノブオと天宮に軍配が上がった。

 そして──ついにノブオと天宮のコンビは、決勝戦まで勝ち進んだのだ!!

 昼過ぎに決勝進出チームが決まると、大会は小休止に入った。
 連戦の疲れと気持ちのたかぶりを鎮めてやろうと、オレたちはノブオと天宮を囲んで海の家で昼食をとることにした。
 あれやこれやの注文を書き留めている、海の家のお姉さんの肌は常夏色だった。

 「ノブオ、本当によくここまで勝ち進んだな!!」
 「ほんとにね。オレも正直驚いたよ。な、ダイゴ」
 「ああ。けれど実際、昨日リュウジたちと実戦練習をしているのを見ていたら、これはもしやと俺は思っていたが」
 いつもは口うるさいと思われているだろうオレたちに、口々に賞賛されたもんで、ノブオは幾分面はゆそうにしている。

 となりのテーブルでは、野球部の面々がこちらと同じように天宮くんを讃えているようだ。とはいえ、さすがに現役スポーツマン。先輩たちに戦術云々を授けられているのを真剣に天宮くんは聞いていた。
 「ノブオ、お前もあっちのテーブルに混ざったほうがいいんじゃないか?」
 「え? 何でです? ハヤトさん」
 「ほら、天宮くんが先輩らに作戦教わってるよ。一緒に聞いたら?」
 「ああ、それなら大丈夫っス! オレ、天宮のリードに従いますからね。それに、どっちかって言ったらオレは兄貴に気合い入れてもらったほうがいけそうですもん」
 「おう、逞しくなったな!! ノブオ」
 リュウジもダイゴも、晴れ晴れした顔をしていた。

 「ところでダイゴ。お前さっきもう一方のブロックの準決勝の偵察に行ってただろう? 野球部たちと一緒に」
 「押忍、リュウジ」
 「どんなチームなんだ? 相手は」
 「構成員は公務員だそうだ。30歳代の男性ふたり組だった」
 そうかそうか、なんてオレたちはダイゴの話を聞きながら、ちょうど運ばれてきた昼食に取りかかった。

 「で、どうだ? ノブオがスイカを獲得するためにはそいつらは強敵なのか?」
 親子丼とおでんといちご味のかき氷を目の前にして、リュウジはダイゴに重ねて訊いた。
 「スイカ──優勝ね」
 大会の優勝者副賞のスイカ1ダース。
 リュウジはそれを獲得することをかなり本気で楽しみにしているようなのだ。

 「ま、相手も決勝まで勝ち進んだのだし、楽に勝てるとは思わないほうがいい。スピードならばノブオたちのほうが格段に上だか、さすが年の功とでも言うか、抜け目無く弱点を突いてくる感じだな。しかも、粘り強い戦い方だった」
 ダイゴは思い出しながら、ゆっくりとこう語った。

 「なるほど、年の功ね。そればっかりは補えないもんな」
 「なんだよハヤト、そんな悲観的な顔すんじゃねえよ!! ダイゴだって言ってるだろ? スピードはノブオたちのほうが上だって。ひとつでも相手に勝るところさえあればな、試合なんてもんはどうにでもなるんだぜ!! あとは執念だな」
 そうリュウジはまくし立てた。
 
 「執念──なるほどね」
 「オウ!! ノブオ、執念なら誰にも負けねえよな!!」
 「はい!! 兄貴」
 「ちなみにお前のプレイには、俺の執念も上乗せされていることを忘れるなよ」
 「……? 兄貴の執念?」
 「ああ。俺の、スイカへの執念だ」
 リュウジの掛け値なしの真剣な眼差しに、オレたちはつい──笑ってしまった。

 「──なんだよ。何かおかしいのかよ?」
 オレたちの反応に不服そうなこの漢は、本当に何事も思いこんだら命懸けなんだよな。
 まあ、そんなところが尊敬できるんだけどね。
 
 「とにかく、オレやりますよ。天宮といっしょに」
 ノブオはチャーハンのスプーンを掌で転がしながら、オレたちを見つめてこう言った。
 「どんな相手だって、オレたちはオレたちにできることをやるだけっス! だって、オレら自身がやらないと勝てないんですからね」
 自分に言い聞かせる意味もあったんだろう。ノブオはきっぱりと言い切った。

 「よし、ノブオ!! よく言ったぜ。俺はそれを聞きたかったんだ」
 満足そうなリュウジに照れ笑いのノブオ。善哉、と頷くダイゴに、顔が笑うのを止められないオレ。
 いいな。なんかいいな。
 オレはこんな雰囲気が大好きだ──最近気付いた。
 なんでだか涙が出そうになったのは内緒だけど。



   * 2 *


 これぞ残暑といった強い陽射しの午後。
 『鬼浜ビーチバレー大会』に参戦中のノブオと天宮くんの鬼工チーム最後の試合──決勝戦が開始されるところだ。

 「ノブオ!! 天宮!! 気合い入れてけや!!!」
 「オス!!」
 「了解です」
 リュウジが声を掛けたのに、選手ふたりは表情を引き締めて応えた。

 コイントス、それからウォームアップ。
 もともと運動部所属の天宮くんは観客のいる中での試合に慣れているはずだ。けど、そんな経験はおそらく多くないであろうノブオのほうも、ちっとも動じていないのに驚いた。

 「なあ、リュウジ」
 「ん?」
 「ノブオってさ、案外度胸が据わってるよな。オレならムリだな。こんな大勢見てる中で試合なんて」
 「わはははは。ノブオはあれだ。褒められるとノるタイプだからな。だからその辺は心配していなかったんだ、俺は。ってか、やっぱハヤトを出すべきだったかもな、ダイゴ」
 「そうかもしれんな」
 「ええっ、何だよ、ダイゴまで。オレ、ムリだって言ってるじゃん」
 「単車に乗っているときと同じ度胸で何事にも当たれ、とリュウジは言っているのではないか?」
 「オウ、ダイゴ!! 正解だぜ。まあ来年を楽しみにな、ハヤト」
 そんなふうに言って、リュウジとダイゴは顔を見合わせてくすくすと笑っている。
 もう、勘弁してほしいなあ。

 そうこうしているうちに試合開始のホイッスルが鳴る。

 第1セットは、天宮くんのサーブから始まった。
 青空に弧を描くボールの軌跡は美しく相手方コートに落ちていく。
 「さすがキレイに決まるな、天宮のは!!」
 リュウジが感嘆を伝えると、森園主将は嬉しそうな顔をした。

 その第1セットは、接戦だった。
 ダイゴが見てきたとおり、相手方の公務員チームは粘り強い立ち回りで本領を発揮してくる。午前中のどの試合よりも、長いラリーが続いていた。
 結局スコアは19-21で鬼工チームが1セットを落とすことになった。

 「大丈夫、大丈夫!! オレたちが負けるわけないよな、天宮!!」
 「ああ、ノブオの言うとおりだ。まだまだここからだ」
 1セットを落としても、ちっとも悄げる様子のないふたりに先輩らは安心させられた。

 続く第2セット。
 さっきのラリーの応酬とは打って変わって、今度はスパイク合戦の様相。
 「へえ、ノブオ君は案外ジャンプ力あるな」
 森園主将が言った。
 「ああ、そうだな。俺も知らなかったぜ」
 答えるリュウジも感心している。

 「あれ──見間違いかな?」
 戦況を見守りながら、オレはふと気になった。
 「ん? 何か言ったか? ハヤト」
 「いや、オレ、あの相手方のプレイヤー、どこかで見たことあるような気がして」
 「知り合いか?」
 「そうじゃなさそうだけど。でも、どこかで──見たことない? ダイゴ」
 「ふむ……」
 ダイゴが考え込む様子を見せたその時、ノブオのジャンプサーブがラインぎりぎりのきわどいところに決まる!!!

 「お~~~!!! ノブオすげえぞ!!」
 リュウジの賞賛に、ノブオは満面の笑みで振り向いた。

 結局、第2セットはノブオのサーブが決まりまくったのもあって21-18で鬼工チームが勝ち取った。
 結果が出ると、オレたち応援側は男たちの怒号をもってわき返り、対してノブオと天宮くんの選手たちは淡々と笑顔を見せる。

 試合は最終セットまで縺れ込んだ。第3セットは、15点を先に取ったほうの勝利だ。
 序盤、ノブオたちは相手の粘り腰のラリーのペースに嵌って苦戦を強いられる。
 続く中盤は、ネット際での天宮くんの活躍が光って連続ポイントを奪取する。
 
 そして──終盤。
 まるで何かの神様か仏様でも後ろにおられるかのような、ノブオの凄まじい攻撃が、少々疲れの見える公務員チームを容赦なく襲った。
 「ノブオ、頼んだ!」
 「オッケイ、天宮!! そ~~~れっ!!!」
 掛け声とともに決まるノブオのアタック!!
 ついに鬼工チームがリードを奪う。
 そしてその後も、リードに気負うことなくノブオと天宮くんは順調にスコアを重ねてゆき、ついに鬼工チームがマッチポイントを迎え──

 「これがラストトスだ、ノブオ」
 「オ~ス! ほんじゃラストアタ~ック!!!」
 絶叫とともに放ったノブオの強打が、この大会のラストプレイとなったのだった。

 試合終了を報せるホイッスルが吹かれ──オレたちは一斉にノブオと天宮のもとに駆け寄った。
 「やった~、兄貴、オレやりました!!」
 「よっしゃあ!! ノブオ、最強だぜ!!!」
 「主将!! 自分頑張りましたよね?」
 「ふっふっふ。天宮も一人前に近づいたな」
 2チームの若手と大将は、どちらも至極満足そうだ。
 そして、リュウジの号令。
 「野郎ども!! 胴上げだ、いくぜ!!!」
 「オ~~~~ス!!!」
 宙高く舞うふたりの姿が、夏の終わりの浜を痛快に彩っていた。

 そんなふうにして、夏の終わりの強化訓練をノブオと天宮くんは終えたのだ。
 ご褒美は、1ダースのスイカ──リュウジが執念を燃やしていた副賞だった。
 表彰式が行われ、優勝の金メダルとともに選手たちに手渡された12個のスイカを見て、リュウジは本当に嬉しそうな顔をしていた。
 
 そして、閉会式の終わったあと──オレはさっきからココロの隅に引っかかっていた疑問が解消することとなる。
 「そこの君たち、待ちなさい!!」
 得意満面でオレたちのもとに戻ってくるノブオと天宮くんを呼び止めて、声をかけたふたりがいた。
 「はい?」
 ノブオたちが振り返ったのは、準優勝の公務員チームのふたりだった。

 ふたりは疲れたながらも爽快、という表情で、交互にノブオたちに右手を差し出す。
 「若者よ、いい試合をありがとう」
 「あ、こっちこそどうも」
 「ええ、すごく大変でした。あなた方に勝つのは」
 「そうかい。それなら私たちもやった甲斐があったよ。なあ?」
 「ああ。実にいい気分だ。敗れたりとは言え」
 そんなふうに、兵たちは互いを労いあっていた。
 しかし──どうも見覚えあるんだよな、オレ。あのノブオを「待ちなさい!!」って呼び止めたほうの人。

 「ところで──若者たちよ」
 オレの記憶のどこかをくすぐる人がそう言ってノブオを見やり、さらにリュウジとダイゴとオレに代わる代わる視線を寄越した。
 「まさかとは思うが、スイカ持ったまま国道をバイクで疾走したりするんじゃないからな。それからメットは必ず着用のこと。次に見かけたら即補導だ」
 「ん?」
 「え──」
 「あ……あ?」
 「え~と、あなたはもしかして……?」

 ようやくオレの記憶が繋がった。
 そして、リュウジたちにもやっとわかったみたいだ。

 「今日は正々堂々と私たちに勝った諸君だが、いつもいつもパトカーの私と法律とに勝てると思ったら大間違いだからな。肝に銘じておくように。以上!」
 言うだけ言って立ち去った公務員氏は──夜の国道でいつもさんざんオレたちを追いかけていた警官だったんだ。

 「へえ、ノブオ……やったな、お前、宿敵打破じゃねえか」
 「えへへ……」
 力無くリュウジが言い、そしてノブオは力無く笑った。
 
 夏休みの締めくくりには、こんなオチが用意されていた。
 さてと、しばらくは大人しく──なんてしてはいられない、か。
 すこし日の入りの早くなったのを感じる浜の風に、オレたちの力無い笑いがさわられていった。
 

   * Road to スイカ 完 *


スポンサーサイト

各話御案内/Road to スイカ

 Road to スイカ 1

 Road to スイカ 2


| ホーム |


 BLOG TOP 


  1. 無料アクセス解析
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。