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伴走・白ジャージ 

   * 1 *
 
 
 赤ジャージの本気は残念ながら天に届かなかったけれど、今後への期待感は持続という結果になった純情勝負の、その翌日。
 日曜日だったもんで、オレはリュウジに誘われていつぞや2500枚ほどのコインを預けたままにしてたゲーセンに行った。
 コインの殆どは、前にリュウジがゲーム用パチスロ実機の吉宗で獲得したものだった。
 しょせんあぶく銭とでもいったところか、今日の成果はいまひとつ。
 いろんな台を片っ端からリュウジとわいわい言いながら打って、1000枚ほど貯玉を減らしたところで店を出た。

 頃合いは、すでに夕方。なんとなく散歩がてら、川原にきてみた。
 「もう秋っぽいね。夕方は風が気持ちいい」
 「そうだな、ハヤト。夏も終わりだな」
 リュウジはちょこっと寂しそうに言った。

 そのまま川べりに腰を下ろして、オレとリュウジはこれまたなんとなく話している。
 「でもまあ、あれだな。赤ジャージは」
 「うん?」
 「あいつ、真剣にマキ姉のこと想ってるんだな、って」
 「ああ──うん」
 リュウジにとって、マキ姉さんは子供の頃からの憧れの女性。その女性に恋したのが誰あろうオレたちの担任教師だったというのは、なんとも皮肉なもんだ。

 「俺な、最初は正直面白くなかったぜ。マキ姉に聞いたとき」
 「ははは、やっぱり。リュウジは思いが顔に出るから、オレにだってそれくらいわかってたよ」
 「そうか?」
 リュウジはすこし照れたような顔になる。

 「でもな、マキ姉もまんざらでもなさそうだったし。それに、赤ジャージの目がな。俺にはとてもじゃないが真似できないほどの強さを持ってた」
 「──うん。この数日、確かに赤ジャージは怖いくらいの気迫あったもんな。まあ、リュウジもここぞって時にはああいう目してるけどね」
 「ん? そうなのか? 俺にはわからねえけど」
 「ははは、そりゃそうだ。自分じゃ見えないだろ?」
 「わはははは、ハヤト正解!!!」
 なんて、オレたちは笑いあう。
 草むらでコオロギが鳴いてる。

 「でもな、赤ジャージも悪い奴じゃねえだろ? ああ見えて。だから俺は応援しようと決めたんだ。マキ姉とのこと」
 「うん──リュウジ」
 リュウジは手遊びに、石ころを拾っては川に向かって投げていた。
 
 「だから、焦らなくてもいつか佐藤先生に勝てばいいんだ、赤ジャージが。きっとそういうことなんだろ? 佐藤先生が言った意味は」
 「そうだね。ああ見えて案外、佐藤先生も応援したいのかもね。とは言っても昔のライバルに、やすやすと妹を渡せないってプライド? そんなの?」
 「ああ、おそらくな」
 すこし目を細めてリュウジが言った。
 そろそろ日暮れが近い。

 「そう言や、佐藤先生ってどんな人なんだろうな、ハヤト? 何でコウヘイらがあんなに心酔してんだろ?」
 「あ、それ、オレも不思議だったな。今度会ったら訊いてみようか?」
 「──誰に、だ? ハヤト」
 「だから、コウヘイにでも……って、ムリか。あはは」
 「あ~あ、ハヤトらしいぜ。敵も友達もあったもんじゃねえな」
 「あはははは……」
 リュウジにあきれたような顔をされた。嗚呼、オレってば……。

 「まあ、いいや。今に始まったことじゃねえしな。ハヤトのそういうのは。で? 今夜はどうするよ? 走り、行くか?」
 「うん、それもいいね。気持ちよさそうだ。ダイゴたち誘ってみようか?」
 「オウ!! そうだな」
 それじゃそろそろ一旦引き上げようかと立ち上がって、土手の上に目をやると──

 「おおい、リュウジ!! ハヤト!!」
 大きい声がオレたちを呼びながら、ふたつの人影が手を振っていた。
 「ん? ああ、赤ジャージじゃねえか!!!」
 「あ、ほんとだ。あれ? マキ姉さん?」
 薄暗くなりつつある中、いつもと同じ恰好の赤ジャージと一緒にいたのは、これまた白いジャージ姿のマキ姉さんだったんだ。
 
 「なんで赤ジャージがマキ姉と一緒にいるんだ? きのう負けたくせに」
 「さあ? って、リュウジつまんなそうな顔してるなあ」
 「そんなことねえぞ!!! ちゃんと目ぇ開けとけや、ハヤト」
 「わ、いてっ!! やめてくれってば、リュウジ」
 オレはリュウジに背中をひっぱたかれながら、とりあえずふたりのもとへ駆け寄った。

 「こんばんは、リュウちゃん、ハヤトくん」
 「オウ」
 口ではわかったことを言っていたけれど、さすがに複雑な心境なんだろうな、リュウジ。そんな感じを隠せない、リュウジの短い返事だった。

 「こんばんは、マキ姉さん。先生、どうしちゃったの? お揃いで」
 「うむ。ランニングの途中だ」
 オレにそう答えて、赤ジャージは視線を下げてマキ姉さんを見る。
 と、マキ姉さんがそれにこくりと頷いた。
 なんだかいい雰囲気ってのはほんとなんだな──なんてオレは思っていた。



   * 2 *


 「赤ジャージ、昨日の今日で、こんなとこ佐藤先生に見られたら殺られるんじゃねえか? 昨日負けたじゃねえか。なあ、ハヤト」
 「ん? あ、ああ──」
 「あは、心配してくれるんだ、リュウちゃん」
 白いジャージを身につけたマキ姉さんが、リュウジに笑いかけた。ふっくらとした頬がほころぶ。
 「そんなんじゃねえけどよ、マキ姉」
 「あら、リュウちゃんったら素直じゃないなあ」
 「ちぇ……」
 リュウジのそんな顔を見て、赤ジャージが笑っていた。笑いながら答える。

 「リュウジ、心配無用だ。実は、昨日あのあと佐藤から電話があってな。勝負の結果を曲げるのは良しとしないが、訓練の名目だったらマキさんと会ってもよいというお墨付きをいただいたのだ」
 ひとことずつ言葉を選ぶように赤ジャージは言い、隣で頭ふたつ分背丈の低いマキ姉さんがちいさく頷いている。

 「へええっ、そうだったんだ、先生」
 水面下でかなり意外な方向へと展開してたんだ、この話。オレはだいぶ驚いた。
 すると、リュウジのほうは驚くというよりも、むしろ──
 「なんだよ、心配して損したじゃねえか。にしても赤ジャージ、そんな大事なことどうして俺に真っ先に報告しねえんだ? 水臭いじゃねえかよ!!!」
 ちょっと拗ねているようだな。

 「わ、悪かった、リュウジ」
 赤ジャージは、きっと照れくさかったんだろうな。いまもそんな顔をしてるから。頭をぽりぽり掻いているくらいだし。

 「ね、リュウちゃん。ありがとね」
 「ん?」
 そんな赤ジャージの横にいたマキ姉さんが言う。
 「リュウちゃんのおかげみたい。兄さんがここまで折れてくれたのは」
 「────?」
 「昨日、リュウちゃんが帰り際に言ったことに、兄さん、感心したんですって。先生のことをリュウちゃんが責任もって鍛えるって言ったのが」
 「え……」
 「先生がね、そんなふうに生徒に言ってもらえる幸せな教師になっていたのなら、すこしは信用してもいいかもしれないって。それでここまで許してもらえることになったの」
 
 「へえ、そうだったんですか……」
 オレは感心してしまった。
 そんなふうに大人はリュウジを見るんだな。
 リュウジは拗ねたらまるで子供みたいだけど、その割に喧嘩なんかもさんざんやるけど、それでも誰もがある意味信頼してしまう──それはオレたち同世代だけに限ったことではないらしい。
 初対面に近い佐藤先生にも、リュウジの気合いとか本気とか正義感とか、そういうのって伝わったんだ。
 リュウジ、やっぱり凄い漢だ。
 そして、オレにはなんとなく感じられた。
 佐藤先生には、極悪非道の暗黒一家すら平身低頭してしまうその理由が──。

 「そうだな。本当にリュウジのお陰だ。リュウジ、何から何まで済まん」
 「いや、礼を言われるほどじゃねえぜ。だって俺、嘘なんか言ってねえから」
 ちいさくため息と苦笑を見せたあと、リュウジは思い直したようにそう言った。
 「ま、よかったじゃねえか、赤ジャージ」
 リュウジは赤ジャージの肩をぽんと叩く。なんか、1学期より仲よくなったみたいだ。

 「ハヤトもな。いろいろ迷惑かけた」
 「いえいえ。とんでもない」
 「ほんとうにありがと。ふたりとも」
 純情一路の赤ジャージの「これから」を紡ぐきっかけを作る手伝いができて、オレはかなり気分よくなっていた。
 きっとリュウジも同じ気分になれた……かな?

 「おっと、だいぶ遅くなったようだ。リュウジ、ハヤト。悪いが俺はそろそろ」
 「オウ!! 気を付けてな」
 「まだ練習するの? 先生」
 「ああ。あとちょっとだけ時間があるので、一度道場に戻ろうと思う。マキさん、まだ大丈夫ですよね?」
 「はい、先生。門限の8時まであと2時間あります」
 「では、もう少しお付き合いください」
 「ええ、喜んで」
 そんな会話聞くの、くすぐったい感じだった。

 それじゃあ、と手を振って、ふたたびランニングのふたりの後ろ姿を見送った。
 しばらく見ていたリュウジが、思いついたように急に大きな声で叫んだ。
 「おおい、赤ジャージ、マキ姉!! 帰りにウチの店に来てくれや!! 俺、何か作って待っててやるから!!! 食い終わって門限ヤバかったら、マキ姉は俺が責任もって送ってくぜ!!」
 「お~!! ありがとうな、リュウジ」
 「リュウちゃん、あとで行くね!」
 振り返って、ふたりは応える。
 そして夕焼けに照らされたふたりの背中を、リュウジもオレもしばらく見てた。

 走りに行く予定を返上して、店に戻ったリュウジがふたりのために用意したのはチャーシューをたくさんのせる予定のラーメンのほかに、赤ジャージのために餃子と、マキ姉さんのためにシュウマイだった。

 ご丁寧に、餃子もシュウマイもわざわざタネから作っていた。
 「よし、こっちにはニンニクたっぷり入れて、と」
 「ふうん。サービスいいね。赤ジャージも疲れてるだろうからね」
 「と思うだろう? ハヤト、まだ甘いな。これ食ったら赤ジャージ、マキ姉の唇に妙なことできなくなると思わねえ? そんなこと俺が許さねえってことだ」
 「あはは、なるほど」
 リュウジは自分の思いつきに至極ご満悦の様子だったのが笑えた。
 
 「で? シュウマイはやっぱり?」
 「オウ。干しシイタケ抜きの特製だぜ!!!」
 「うんうん。マキ姉さん、きっと喜ぶね」
 「だろう? 俺、ほんとにマキ姉思いだよな」

 時計は7時半。そろそろ訓練を切り上げたふたりがやってくる頃かな。
 リュウジもちらりと時計に目をやると、蒸し器と鉄板とを用意しはじめていた。

 こないだ作ってもらったときは少々スープがしょっぱかったけど、きっと今日のリュウジのラーメンは、やたらとおいしい予感がする。
 どういうわけか、そんな予感がオレにはしているんだ。
 多分──空腹のせいだけじゃなくてね。
 

   * 伴走・白ジャージ 完 *


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