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尾ひれのついた怪魚 

   * 1 *


 二足歩行する魚の噂は、最初の日から数日はわが鬼工を駆けめぐっていた。
 噂の魚はオレたちが暗黒一家と手を携えて探し出し、その後はとりたてて連絡はないけれどおそらく暗黒一家がしっかりと見守っているはずなので、ふたたび「見た!」という人間が現れることはなかった。

 噂の立った翌日──つまりオレたちがモモコを捕獲した数時間後──オレたちみたいに探索部隊を結成しようという動きが、最初に写真を撮ったやつを中心とした1年生の間であったらしい。ノブオの報告でそれを知ったオレたちは、止めたほうがいいような気がした。
 だから、有志たちにダイゴをけしかけたんだ。
 「やめておいたほうが身のためだ。あの辺りは古戦場の跡地でな。いまでも成仏できない武者の霊がある気配がしているゆえ。そういえば撮った写真には妙なものは写っていなかったか?」
 ダイゴの深い声を聞いて、どうにか1年生の有志たちは思いとどまったようだ。
 やれやれ、といったところか。

 噂もすっかり下火になった今日。
 学校から帰ると、店先に近所の小学4年生・ケイタがいた。
 「あ、ハヤト!! おかえりぃ」
 「お、ケイタ。来てたんだ。回覧板でも持ってきた?」
 「ううん、そうじゃない」
 ケイタはくりっとした瞳でオレを見上げて、首を左右に振る。
 
 「あのさ、ハヤト。バイクにのっけてよ」
 「ん? 単車に?」
 「そう。あのね、ぼく行きたいとこがあるんだけど、ちょっと遠いんだ」
 なるほど。そういうことか。
 「どこまで行きたいんだ? ケイタ」
 「えっとね。夕映え木立」
 「え──」
 罪のない輝きをしたケイタの瞳は、オレを思いっきり頼りにしてると語っていた。

 どうしてピンポイントでケイタがそこを指定したんだろう。なんだかただ事じゃない予感がしたから、オレはリュウジに電話をかけて呼び出した。
 リュウジがつくまでの間、ケイタに話を聞いてみる。
 「あのね。クラスでうわさになってることがあるんだ」
 「噂、か」
 「うん。夕映え木立にね、おばけ魚が出たんだって」
 「どんな魚だって?」
 「ええとね。歩くんだって。おばけ魚」
 鬼工ではもう下火になっている陸棲の魚の噂は、時間差でケイタたちの小学校に伝播したってことみたいだ。
 「足が生えてて、四つん這いで歩いて、言葉を話せて、すっごく大きいんだって。それでね、人食いなんだって。こわいよね? ハヤト」
 「あはは、それは怖いなあ」
 「もう。笑いごとじゃないじゃんか」
 ケイタはふっくらした頬をぷんと膨らます。カワイイな、子供って。
 
 ケイタの話を聞くと、噂はずいぶん曲解されているみたいだ。
 事実を見た者としては笑うしかないんだけれど、それはあのときあそこにいた8人限定の秘密だから普通にしらばっくれる。

 「よう、ケイタ!!! 元気にしてたか?」
 「わあ、リュウジ!! うん。絶好調だよ」
 ちょうどここでリュウジの登場。オレはケイタに聞いたことをかいつまんでリュウジに伝えた。

 「わはははは、ケイタ。そんな魚いるわけねえだろ!!!」
 つとめて大きく笑い飛ばしたリュウジの目が笑っていなかったことには──子供のケイタにはばれずにすんでいたみたいで一安心。
 「でもさあ、カズマの兄ちゃんがさ……」
 オレはリュウジと視線を合わせた。
 カズマというのは、ケイタの仲良しの友達だ。将来は一緒に単車に乗る約束になっている同級生で、カズマの兄貴は──ハンゾウなんだ。

 「ハンゾウがどうかしたのか?」
 「うん。ここんとこあんまり家に帰ってこないんだって。カズマが心配してるんだ。でね、3日前の朝に会ったときに聞いたら学校のそばの林に行ってたって言うんだって。それってさ、夕映え木立のことなんでしょ?」
 「3日前、か」
 「ってことは、あの後だね」
 「なに? リュウジ、ハヤト、何か知ってるの?」
 「え……いや、何も知らねえって。だって俺たち、学校違うし。なあ、ハヤト?」
 「そうそう。そんなにしょっちゅう会わないからね。ハンゾウたちと」
 「ふう……ん」
 案外鋭いところもあるケイタだったが、それ以上はつっこんでこなかった。

 「でね。カズマがさ、うわさを聞いてホントにこわがってるんだ。もしかして兄ちゃんがおばけ魚に食べられちゃったらどうしよう、って」
 「いやあ、それはないと思うけど」
 「そうだな。ケイタ、よく考えてみろや。人を食う魚が林にいるなんて、おかしいだろ? それによ、魚は食われるもんじゃなくて食うもんだ。なあ、ハヤト? お前魚だったら何でも食うだろ?」
 「ああ。生きがよかったらね」
 とか言ってごまかしてはみるものの、ケイタにはあんまり効果はないみたい。

 「ねえ。おねがい、ハヤト。ぼく、ちょっとだけでいいから行ってみたいんだ。夕映え木立。何もいなかったら安心してすぐ帰るから。それにね、代わりに見てきてってカズマにもたのまれたんだよ。ほんとは自分で行きたかったみたいなんだけど」
 「カズマくんに──か。どうする? リュウジ」
 「そうだな。そこまで言うんじゃ仕方ねえな。ここは折れてやるか」
 「ええっ、ほんと? リュウジ」
 「オウ!!! ケイタの友達思いに負けたぜ、俺」
 「やった~~~!!」
 「な、せっかくだからカズマも連れてってやるか? 俺のリアが空いてるぜ」
 「ほんとに? ありがと、リュウジ。じゃあカズマを呼んでくる!!」

 かくして、オレとリュウジは3日ぶりに、ケイタとカズマを連れて夕映え木立へとふたたび入っていくことになったんだ。



   * 2 *


 「なんか暗いね。ほんとにおばけ魚、出そうかも」
 樹木が多いので、夕映え木立は昼間でも薄暗い。そこへ初めて踏み込むケイタがちょっとおびえてそう言った。
 「ね、ちょっとこわいよね? カズマ」
 「うん。でもおれ、こわいよりか兄ちゃんが心配だな」
 「わはははは、カズマ!!! そうかもしれねえな。兄ちゃん思いで偉いぜ」
 と、リュウジがカズマくんの頭をぐりぐり撫でた。

 「つーか、おばけ魚なんていないから安心しろってば。ケイタ」
 オレは『知ってる者の強み』な口調で言ってみた。
 「うん。でもさ、ぼく、自分で見ないと安心できないんだ」
 「ハヤト兄ちゃん、おれもそうです」
 「よしよし。怖いよりも好奇心が勝ちってのは俺にも身に覚えがあるからな!!」
 なんてリュウジが笑ってる。
 ──そうだよな。オレらがこないだモモコと対面したのだって、もとはと言えばリュウジの好奇心の産物だもんな。

 「とにかく一周するか? そしたらケイタもカズマも納得するんだろ?」
 「うん!! そうなんだ、リュウジ」
 「はい、リュウジ兄ちゃん」
 そんなわけで、オレたち4人は徒党を組んで夕映え木立を歩き回った。
 薄暗いとはいえ、昼間だという安心感が少なくともオレとリュウジにはあった。
 梢で鳥がさえずっているのとか、野生のリスか何かの小動物がちょこまか走っているのなんかを感じながら、オレたちは歩いている。

 ちょうど目の前がひらけるあたり──こないだモモコを捕獲した地点に近い広場──まで来ると、木立の印象は一変する。
 ちょっと見渡すと、木々の切れ目から海の青が見えることを今さら知った。
 「へ~。思ったよりもいいとこじゃん。ここ」
 「うん、そうだね、ケイタ。静かだし、空気もいいよね」
 「こんどお弁当持って来たいねえ」
 ここへ来るのは初めてらしいふたりの感想はこれだった。
 小学生が自力で来るにはちょっと遠いけど、家族でピクニックの距離でもないので、まあそんなもんだろう。
 
 「だろ? 人食いのおばけ魚なんているように見えか?」
 そんなふたりにリュウジが笑って言った。
 「うん。あんまり見えないかも」
 「おれも。最初、入り口のあたりが暗くてちょっとこわかったけど、でもおばけが出るようなとこじゃないみたい」
 「ぼくさ、明日学校行ったらみんなに言うね。そんなのいるわけないって。ね、カズマ!」
 「よ~し。納得したんだったらいいやな」
 まあね。おばけ魚じゃないにしても、何かしら出ないこともないみたいなことをダイゴは言ってたけどさ。リュウジがそう言って、ケイタたちも納得するんだったら──
 「ん? ハヤト、何をぶつぶつ言ってるんだ?」
 「え──いや、何も言ってないってば。気のせい気のせい」
 やれやれ。そんなことリュウジには言えないって。

 「さて、じゃあそろそろ帰るか?」
 「うん。ぼくは満足したよ、リュウジ。カズマは?」
 「おれは──ねえ、リュウジ兄ちゃん。おれの兄ちゃんって今ごろ学校にいるの?」
 「ん? ハンゾウか? さてな。どうだろう」
 カズマくんはちょっと考えてから、リュウジを正面から見据えて言った。
 「リュウジ兄ちゃん、ハヤト兄ちゃん。おれ、もし兄ちゃんが学校にいるんだったら会いにいきたいんです」
 「ああ……そういえば帰ってきてないんだっけ。ハンゾウは」
 鬼浜工業に負けず劣らずガラのよろしくない暗黒水産に小学生ふたりだけを送り込むのはさすがに気がひけるよな──オレとリュウジは目配せしあって頷いた。
 「まあな、ここまで来たらついでだもんな。ひとつ寄ってみるか? なあ、ハヤト」
 「だね。乗りかかった船ってやつだしね」
 
 そうしてオレらは4人して、来た道を戻って暗黒水産への道を辿ることにしたんだ。
 で、その途中──
 「何しに来た? 貴様等」
 「お? コウヘイじゃねえか! こないだはどうもな」
 「ふん。別に礼を言われる覚えはねえな」
 たった数日ぶりの対面、しかも前回会ったときの事情が事情だったことを考えれば、このコウヘイの、まるでいつも通りの対応がなんだか険しく思えた。
 
 「なに? ハヤト、知り合い?」
 オレの服の裾を引っ張って、ケイタは訊いた。それへ応えたのはカズマくんだった。
 「ケイタ、この兄ちゃんは、おれの兄ちゃんの友達だよ」
 「え──?」
 「うん? おう、お前はハンゾウの?」
 「はい。こんにちは」
 カズマくんはコウヘイに深々と礼をする。こんなとこを見ると、よっぽどハンゾウの教育がよさそうだ。

 「あの、おれの兄ちゃんは今どうしてますか?」
 「ああ。ハンゾウなら後から来るが」
 ちらりと国道のほうを振り返って、コウヘイは少し気まずそうな表情になる。

 そして──ケイタとカズマくんがちょっと離れたところに行ったのを認めて、コウヘイはリュウジとオレに素早く囁いた。
 「貴様等、本当にタイミングが良くねえ。ハンゾウはここに、あれを連れて来るのだ」
 「モモコたちか?」
 「ああ。散歩と、少し確認すべきことがあってな」
 「そうか。さすがにチビたちにあれを見せるわけには行かねえよな……」
 「よし。それじゃオレ、ハンゾウを止めに行く。まだ間に合うだろ?」
 「──頼む」
 オレはコウヘイとリュウジに頷いて、暗黒水産に通じる坂道を駆けだした。

 「ああ、いた!! お~い、ハンゾウ!!」
 「……? ハヤトか? 何故ここに」
 ハンゾウは、布でつつんだ飼育かごらしきものを提げてこちらに向かってくる。 よかった、ここまで来ればケイタたちにもまだ見つからないだろう。

 「オレとリュウジでカズマくんを連れてきてる。カズマくんな、ハンゾウが家に帰ってこないって心配してるんだ」
 「心配──カズマが、か」
 「ああ。なんでも小学校で噂になってるんだって」
 「噂?」
 「ここにおばけ魚が出るって噂らしい。巨大で人食いってことになってるみたいだ」
 「え……奇妙な噂になっているな」
 「まあね、相手は小学生だし。それで、ハンゾウがおばけ魚に喰われちゃったんじゃないかって心配になったそうだ。カズマくん」
 「俺が、おばけ魚に喰われる……?」
 ふっ、とハンゾウは頬の筋肉を緩めた。かすかに笑っているんだ。

 「なんかさ、かわいいよな。弟」
 「ああ。そうだな」
 すこし照れたようにハンゾウは言った。
 「な、モモコたちには悪いけど、今日のところはそれ、学校に置いてくれば? 元気な姿を見せてやれよ」
 「──ああ。そうしよう」
 こんどはハンゾウは、唇をゆがめて微笑んだ。
 そして、飼育かごを持って一旦学校へと戻っていった。

 「兄ちゃん!! よかった、おれ心配した」
 「ああ。済まなかった。カズマ」
 その後、空身でやってきたハンゾウの姿をみるなりカズマくんは駆け寄って抱きついたんだ。
 「おれ、兄ちゃんがおばけ魚に食べられちゃったらどうしようってずっと思ってた」
 「カズマ──そんなのいないから」
 困ったような、でもうれしそうな顔をハンゾウはしていた。

 それを見たリュウジが言う。
 「あのな、カズマの兄ちゃんには強い味方がいるから心配ねえぜ!!! ほれ、こっちのコウヘイは強そうだろ? どんなおばけ魚がいたって絶対に負けねえって。きっと焼いて食っちゃうからな。なあ、コウヘイ?」
 「ああ。弟よ。安心しろ。兄貴は俺に任せておけ」
 「ホントですか? えと、ありがとうございます。兄ちゃんをどうぞよろしく」
 丁寧に頭を下げるカズマくんに、コウヘイは珍しくもやわらいだ表情を返していた。
 「だが──俺はおばけを焼いて食う習慣はねえがな」
 やれやれ。子供にはコウヘイも形無しってとこだな。
 
 夕方前の夕映え木立は、なにひとつ不思議なことを隠し持ってる顔を見せてはくれなかった。
 こないだの夜が嘘みたいだな、なんて思いながら、オレたちはカズマくんをハンゾウに託して、ケイタと3人で町まで戻ったんだ。
 
 あとになって聞いたことだが、あのときコウヘイとハンゾウが確認したかったことというのは、夕映え木立にモモコの子供らが残っているのではないかということだったらしい。
 調査結果は教えてもらえなかったんだけど──もしかしたらそのうち学会とかに発表されちゃうかもね。
 

   * 尾ひれのついた怪魚 完 * 


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