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はつはる



 新年の瞬間を鬼浜寺で迎えたオレたちは、その後一旦解散してからふたたび集まることになっている。今年初の集会ってことだ。
 集合場所は浜、時間は朝の6時半。
 みんなで集まって初日の出を拝もうという計画だ。
 浜では水平線からの日の出が見られる。その時間はだいたい6時50分とのこと。

 ダイゴのところから家に帰ってほっと一息。
 さすがに体が冷えたから、風呂に入ってあったまった。
 それから居間でテレビ見て、お菓子をつまんで。まだ6時までは時間があるからここでうたた寝でもしようかな。うん、初夢だな──なんてしゃれこんでたら案の定。
 「ハ~ヤ~ト!!!」
 気合いの入った単車が奏でる爆音が近づいてくるな、と思った矢先に至近距離でそれは止まって、続いてリュウジの声が深夜の店の前でオレを呼んだんだ。
 嗚呼、なんたるタイミングの良さなんだろう。

 勝手知ったる何とやら。リュウジは居間まで上がってきて、こたつのオレの向かいに陣取った。さっそくかごに盛ってあったみかんに手を伸ばす。
 「ほらな。思ったとおりだぜ」
 「何が?」
 「ハヤト、お前、寝てたろ?」
 「え──いや、まだ寝てないってば」
 「まだ、ってことは寝る予定だったんだろ? 正解じゃねえか!!」
 「ああ、まあそうかもしれないけどさ」
 あはは、なんて笑いながらリュウジにお茶を出した。
 「まったくハヤトはちょっと目ぇ離すとすぐ寝るからな。来てよかっただろ、俺」
 「なんだよ。寝たら悪いのか?」
 「だってお前、絶対寝過ごすもんな」
 …………あまり否定できない自分が情けないなあ。

 「ところで親父さんとお袋さんは? いねえのか?」
 「うん。初詣だって。オレと入れ替わりで出てった。さっき」
 「オウ、そうか。んじゃこれ、渡してといてくれや」
 とリュウジが差し出したのは、『御年賀』ののしのついたタオルだった。昇龍軒──リュウジの家のラーメン店の名前が入っているやつ。
 「うん、ありがとう。渡しとくよ。いつもご丁寧に」
 「なんの。こういう挨拶って大事だからな!!」
 「あはは。リュウジらしいね。それじゃ遠慮なく」
 
 結局リュウジの隙のない監視のもとに仮眠を断念したオレは、幾分眠い目をこすりながら朝までの時間を、列島中継みたいなテレビを見たりしながら潰した。
 そろそろ出掛けるか、ということになったのは朝6時過ぎ。
 外は寒いだろうからと、なるべく着込んで武装して。
 「今年もよろしく頼むよ」
 なんてエンジンをかけた愛車に向かって呟いたオレを、リュウジは笑って見てた。

 新年初乗りの単車の調子は上々。
 まだ夜の色の、静まりかえった早朝の町の空気に響くマシンの爆音がことさら心地よい。
 よくオレたちみたいなチームが『初日の出暴走』なるもので取り締まられているって聞くけど、オレたち──というか特にリュウジがひたすら地元を愛するわけで、こんなときこそ鬼浜町で過ごすべきだというのが持論。
 いつもの場所で、いつもの仲間とそれでもどこかしら特別な日を分かち合うのがオレたちのスタイルなんだ。

 浜に向かう途中の国道で、オレたちは見覚えのある一団とすれ違った。
 そう──暗黒一家たち。
 いつもならば何か起こってもおかしくはないんだけど、今日はお互いスルーだった。
 もっとも奴らは、背後にパトカーを従えて低速走行に興じていたからっていうのもあるんだけど。
 やれやれ。相変わらずだな。奴らもオレたちも。
 なんてふうに、並んで走るリュウジと視線を合わせたりした。

 浜にはリュウジとオレが一番乗りだった。
 乗り入れられるぎりぎりのところにある駐輪場に単車を停めて、まだ暗い砂浜へ。
 「うわ……海風くるね。寒いな」
 「おう、さすがに俺でも寒いぜ。けどよ、大勢集まれば大したことねえだろ?」
 「あはは、言える。なるべく寄り集まったほうがいいね」
 とか言ってる矢先にダイゴとノブオが相次いで到着した。
 「チュ~っス!! あらためましておめでとうございます」
 「押忍。さきほどは世話になったな。助かった」
 「とんでもない!! 貴重な経験したぜ。な、ハヤト?」
 「うん。今年ほど新年らしい新年の迎え方をしたことってなかったよ、オレ」
 「それならばよかった。また頼みたいものだな」
 「オウ!! いつでも呼んでくれ、ダイゴ」
 
 そうこうしている間に、浜には知った顔が大勢集まってきた。
 クラスの奴とか後輩連中とか、総勢50人の仲間たちの大部分が浜へ来ていると推察される。
 口々に挨拶して、肩をたたきあって。こういう地元ならではの集会をリュウジが好むのがよくわかる。
 「うん。ちょっとはあったかいかも。人が増えたから」
 「うはははは。ハヤトさん、気のせいじゃないっスか?」
 「え、そう?」
 「いや、ノブオ。大勢いると熱気が違うからな。あながち気のせいではないだろう」
 「オウ!! 全員気合い入ってれば寒くなんかねえぜ!!」
 「──そうかも。リュウジが寒そうにしてるのって見たことないもんな」
 言い得て妙、って感じだろうか。

 ほんのりと水平線の上が明るくなってきているのがわかる。
 ただいま時刻は6時40分。あと10分ほどで初日の出だ。
 「おーい、リュウジ!! ハヤト!! みんな~!!」
 そんな声に振り向いてみると、ふたつの小振りな人影がこっちに向かって近づいてくるところ。
 「おう、千晶ちゃんじゃねえか!! よく来たな」
 気付いたオレが手を振った。千晶ちゃんともうひとり──初めて見る顔の女の子は、ふたりしていかつい集団に気後れすることなく輪に入ってきた。
 
 「明けましておめでとう、千晶ちゃん。そちらはお友達?」
 「うん、おめでとう。ハヤト。こっちは最近一緒にやってるギターの子」
 「はじめまして。千尋っていいます」
 ちょこんとお辞儀した彼女はアーモンド型の瞳が印象的な女の子だった。
 「へええ。千晶センパイと千尋サンっスか。なんか漫才みたいっスね~」
 「こらこら。失礼なことを言うでない、ノブオ」
 「あ──ゴメンナサイっス~!!」
 ダイゴがふざけてノブオを小突くのをみんなで笑って見てた。
 
 「こんなむさくるしいところによく来たな、ええと……千尋さん」
 リュウジはすこし身構えて言った。相変わらず女の子の前だとキャラが変わるのがおかしい。
 「今日はね、千尋のたっての希望で来たの。ね?」
 「うん、そう!! だって楽しそうじゃん? こういうの」
 「あはは。いいノリしてるね」
 千晶ちゃんに言ったらうれしそうに頷いた。なるほど、なんかいい感じなのかもしれないね。
 「千晶くんに聞いたんだけど、こうやるんでしょ? ええと──夜露死苦ぅ!!」
 「オウ!! 千尋さんできるな!! よし、その意気だぜ!!」
 千尋さんの思いの外の気合いを見て、驚いたことにリュウジの硬さがとれていた。
 そうか。『仲間』って意識だったら女の子にも平気で接することができるんだ。リュウジは。
 今年初の発見に、オレはひとりでくすっと笑っていた。

 「おお~い!! 諸君、お集まりだな」
 と、今度は上から声が呼んだ。
 声の主は──野球部の森園主将。国道沿いから野球部総員で浜を見下ろしている。
 「オウ、森園!! ランニング──か?」
 「ああ。一年の計は元旦にあり。よって我が鬼工野球部は新春早朝ランニングの最中なのだよ」
 「あはは。森園主将らしいや。精が出るね」
 「当たり前だよ、相棒さん。今年の鬼工野球部はひと味違うのだ。ふふふ」
 と森園主将は言って、野球部の面々はそれぞれに頷いている。その中のひとりを千晶ちゃんが呼んだ。
 「お~い、玉城くん!!」
 「あ、千晶ちゃん。来てたんだ。あれ? 千尋さんもいる?」
 「うん!! はじめまして、夜露死苦って挨拶してたとこ」
 なんかいいね。仲間ってさ。

 さて、そうこうしているうちに。
 「お──そろそろだな!!」
 リュウジの声で、一同──浜にいた仲間たちと国道沿いにいた野球部たちは、そろって視線を水平線へと向けたんだ。
 ほんのりと明け初めた色が海と空の区切りを作る。そしてその境界は、一秒ごとにはっきりしてきている。
 最初のきらめきが遠くの海を輝かせた。
 だんだんと見えてくる今年初の太陽の顔──大きくて明るくて、それは神々しいほどの存在感でもってオレたちを、そう、まるで祝福するかの如く魁偉たる姿を現しはじめた。
 浜で見守るオレたちは、どことなく敬虔な気持ちを持って静かに最初の輝きを浴びていた。
 
 やがて太陽は、完全なる円盤となって海を照らしはじめたんだ。
 「そんなわけで──今年も一年、気合い入れてくぜ!!!」
 静かに初日の出を見ていたオレたちの中に、リュウジの声が響いた。
 「お~っ!!」
 それに応える全員の雄叫び。オレたちいつもの仲間プラス野球部と千晶ちゃん・千尋さんも交えての、パワーアップ版の喝采が浜を包んでいた。
 
 うん。今年はきっといいこといっぱいあるよな。
 こんな仲間がいる──それだけでオレは毎日楽しく過ごせる。
 仰ぎ見たまるい太陽に、オレは思わず手を合わせていた。



   * はつはる  完 *
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