目次

過去の記事をまとめて表示できるようにしてみました。 【 】がついている項目をクリックすると、それぞれのタイトルの記事を一括でお読みいただけます。 【 】内の数字が若い順に古い記事となっております。 【 】内の冒頭数字が同じものはそれぞれ対になるおはなしです。

これまでのおはなし

全タイトルを表示

御来訪感謝

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

鬼工七不思議

   * 1 *


 鬼工の雰囲気を言葉で表すならば、威勢がいい、とか。騒々しい、とか。柄がよろしくない、とか。
 そんな鬼工を満たす空気からは切り離されたような空間にオレはいた。
 オレを包むのは、古びた紙の放つ独特な香りと静寂からくる耳鳴りみたいなもの。

 ここは昼休みの図書室だ。なんでも辞書が必要だと言うリュウジに付き合わされて来ている。
 ウチの学校は読書家やら勉強家といった存在はそんなに多くはないので――って、胸を張って言えることがどうか微妙だけど――、いつでも図書室は人気が少なくて静かだ。
 もっともどこでも図書室ってのは静まりかえっているもんだけど。それに、いつでも、って言い切れるほどオレもここへ頻繁に来るわけでもないけど。

 リュウジが辞書をめくり、それから百科事典を見ると言い出したので、オレはリュウジとはなれて図書室をうろついている。
 いくつもの書架、整然と並ぶ背表紙。それらをなんとなく見て歩くだけでも勉強した気になるのが不思議だ。
 そしてオレは、普段だったら絶対素通りのはずのひとつの書架の前にいた。
 そこは哲学書が並んだ一角。そもそも哲学なんて、ちっとも親しみのある言葉じゃないけれど。だからこそ、と言ったら変かもしれないけど、そのうちの一冊を手にとってみた。
 えんじ色の、布貼りの装丁。かなりの厚みがあって、ずっしり重い。
 タイトルは『西洋哲学史』。目次を見たけど内容はちんぷんかんぷんだ。
 ギリシャ哲学とか、観念論とか、神学とか書いてあるけど、まったく目に馴染みのない言葉の羅列。
 鬼工のお気楽生徒たちから存在を知られることなく、きっとこの本は何年も書架に座していたんだろう。最初にページを開いたときに、中紙がくっついてぱりぱりと音をたてたくらいだから。
 目次と同じく内容もさっぱりわからなくて、でもそれを眺めただけで勉強した気になれるオレは――やっぱりお気楽生徒の一員ってとこか。
 
 こういうのも勉強したらそれなりに楽しいこともあるんだろうか、なんて思って、その本を持って机に移動した。
 絶対に読破しよう、とかそういう意志があったわけじゃないけれど、たまには違った世界を覗いてみる気になっただけ。
 中に書いてあることがらは、最初から順を追って真剣に読まないと理解できそうにない。ってことだけが理解できた。
 それでもオレは、哲学者の肖像やら、社会科か美術の教科書かなんかで見たこのある有名な絵画の写真なんかを眺めていた。
 
 ぱらぱらとページを進めて、本の最後の索引に目を向けて。やっぱりろくに知っている単語すらろくにないことを確認してから本を閉じようとした――ところで気がついたんだ。
 最終ページの奥付の、ひとつ前のページ。
 まるまる1ページ分の余白があって、そこに印刷ではない文字が書き付けられている。
 古いインクのあと。鉛筆やボールペンの筆跡とは違うそれは、たしか万年筆のものだと推察できた。昔、じいちゃんの大事にしてた万年筆をいたずら書きに使ってしこたま叱られたことがある。そのときと同じ感覚で書かれた、強弱のある文字だった。
 誰が書いたんだか知らないけれど、おそらく鬼工の先輩の手によるものなんだろう。
 ちょっと読んでみたら、落書きと言うには興味深すぎることが書かれていたんだ。

 「ハヤト。待たせて悪い。用は済んだぜ。漫画もときどきは奥深くて難しいもんだからな」
 「ああ、リュウジ」
 その落書きに見入っていたオレの背後からリュウジがささやいた。さすがに場所柄、いつもより数段トーンの低いリュウジの声だった。
 「何読んでるんだ?」
 「うん。これ」
 と、オレは本を閉じてリュウジに表紙を見せた。
 「哲学? って、ハヤトこんな分野に興味あったのか」
 「いや。まったくないんだけどさ。なんとなく手に取ったら、こんなこと書いてあって」
 「どれ?」
 そしてオレはリュウジに見せた。鬼工の先輩らしきの残した記述を。
 「鬼工――七不思議?」
 字面を目で追うリュウジがちいさな声のまま、それを読み上げたのを聞いていた。

 オレが何の気なしに手に取った『西洋哲学史』は、リュウジの名前で貸出記録に残ることになった。裏表紙をめくったところにある記録からすると、最後に貸し出されたのは12年前の日付だった。
 ということは、例の落書きは最低でも12年以上前に書かれたのではないかと推察される。

 放課後を待って、オレたちはダイゴの家、鬼浜寺に集合した。
 例の落書き『鬼工七不思議』について、おもしろそうだから4人で話し合おうってことになったんだ。
 図書室ではさすがに談話はまずいだろう、ということになって、選んだのがここ。図書室と同じぐらい静かで、かといって話声に遠慮することもなく、さらに広い部屋があったから。
 
 畳敷きの部屋におちついて、そこでリュウジは鞄から本を取り出して広げた。
 4人で額を近づけて見入っている。
 「ほう。ずいぶん古い筆跡だな」
 「うん、ダイゴ。オレも最初見てそう思った」
 「学校の七不思議っていったら、オカルトなやつが多いっスよね~、普通」
 「え? そうなのか? ノブオ」
 「そうっスよ、兄貴。ほら、声のするトイレとか、開かずの間とか、階段の段数がいつもと違う、とか」
 「う――俺の苦手分野だぜ」
 リュウジは顔をしかめている。
 「とはいえ、これはその手とは違うようだ、リュウジ」
 「そうだね。幽霊話とか、そんなんじゃないみたいだ」
 「でしょ? だからオレ、珍しいなって思ったんっスよね」
 
 オレたちのたどった筆跡が教えてくれたのは、こんなことがらだった。

 ――鬼工七不思議――
 1)邂逅:入学の日に初対面同士が校門前でぶつかることがあると両者のえにしは生涯続くことになる
 2)桜:校庭に植樹された桜の中で毎年1本だけ開花の遅れる木がある その木に咲いた最初の一輪を見た者は向こう1年幸運に恵まれるという
 3)水辺:プールにはちいさきものが棲むという 冬でも頻繁に水を入れ替える慣例はそこから
 4)恋愛:告白は雨の木曜日、早朝、音楽室が吉と言い伝わる
 5)教師:卒業生が着任する確率高し その場合教師の高校生時代の因縁が再燃しがち 現在の我が校の柔道部が好例
 6)道:北校舎階段に地下あり 既に封鎖される 因縁ある場所へ続くという
 7)…………
 
 残念ながら、七不思議とはいったものの7番目の記述部分が読めなくなっている。インクが水に滲んだ形跡があった。
 「なるほど。言い伝えの類が多いようだな」
 頷きながらダイゴが言った。
 「そうらしいね。でもオレは、どれも聞いたことないな」
 「オレもっスね……。あ、だけど雨の木曜日ってな~んか聞いたことあるような……」
 「なあ、俺、ちょっと興味あるぜ」
 そう言ったのはリュウジだった。それも瞳を輝かせて。
 
 「これ、いっこずつ検証してみねえ? 当たってみたら誰か知ってる奴、いるかも知れねえし。知ってたからって役立つことばっかりじゃねえだろうけど、楽しそうじゃねえか?」
 「あ、賛成っス、兄貴!!!」
 「うん。たまにはこういうのも楽しいかもね。平和で」
 「ふむ。何か惹かれるものがあるのだな、リュウジには」
 「何か、って言葉にゃできねえけどな。ダイゴ。ってか、7番目が気になるぜ。何が書いてあったんだろな?」
 かくして少年のまなざしのリュウジに引っぱられて、オレたちはしばらく七不思議へと立ち向かうことになったんだ。



   * 2 *  


 「じゃあまず、1番目のやつからっスね」
 「押忍。邂逅……というやつか。出会いに関してということだな」
 図書館でなにげなく手に取った哲学書に書き付けられていた、『鬼工七不思議』なるものにオレたち4人は興味津々といったところ。
 その1つめがこの記述だった。
 『1)邂逅:入学の日に初対面同士が校門前でぶつかることがあると両者のえにしは生涯続くことになる』

 「まあ、たしかに入学早々に出会い頭にぶつかる、なんてのは運命的って言えるかもしれないっスね~」
 「そうだな、ノブオ」
 ダイゴとノブオはそんなふうに言い合っている。
 対するリュウジとオレは、目を見交わしていて。
 「ええと……リュウジ?」
 「オウ。そうだな。そんなこと、あったよな、確か」
 「へ? 何があったんっスか? 兄貴」
 「いやな、ノブオ。俺とハヤトって、まさにそれなんだよな」
 「ああ。そうだった。オレが入学式に遅刻しそうで走ってて、んで空かなんか眺めてたリュウジに思いっきりぶつかって……」
 「あの日は天気よかったしな」
 神妙に、とでもいうか。リュウジもオレもそのときのことを思い出して呟いた。
 
 「ほう。ではふたりは、この記述どおりだとしたら――?」
 「うわ、ズルいっスよ、ハヤトさん!!! オレも兄貴とぶつかりたかったっス~~~!!!」
 「って、オイ、ノブオ。落ち着けや」
 「だ、だって、兄貴ぃ」
 拗ねた顔でノブオはオレを上目遣いに見てる。
 ……やれやれ。いつも思うけど、ノブオはほんとにリュウジ一直線だな。

 「まあな。話の出所も、真偽もわかんねえけど。けど、そういや俺はそのときからハヤトと友達だもんな」
 「そうだね。うん。確かにそうだ」
 そんな出会いからほんのまもなくのことだった。オレがリュウジの誘いで、結成直後の鬼浜爆走愚連隊に入ったのは。
 それからの日々はリュウジと、それからダイゴと過ごすことが多かった。
 1年経って、ノブオが志願して入隊して、構成員もずいぶん増えて。
 それでも相変わらず総隊長リュウジのそば近くにいるオレってのは、そうか――入学式のあの日に寝坊したときから定められていたのか。

 「では、この第1の不思議は検証済みということでよいのか?」
 「わはは!!! そりゃわかんねえけどな、ダイゴ!!!」
 「え、兄貴……?」
 「だってそうだろ? 今はそれなりに当たってるように見えるけどな。でも先のことなんてわかんねえだろ。ほんの数時間したら大喧嘩するかもしれねえもんな、俺とハヤトが」
 「なるほど。諸行無常ということか」
 「……難しいことはわかんねえけどな、俺には」
 「っていうか――オレ、勝ち目のない喧嘩なんかしないと思うんだけど」
 まあ、どっちみちそればっかりは神のみぞ知る、ってことだろうか。
 なんとなく最初から縁を感じていたのかもしれないよな。結びつけて考えれば、だけど。
 
 「ほかにも例があればわかりやすいかもしれないっスけどね」
 なんてノブオの指摘はけっこう鋭い。
 「こればっかりはな。全校生徒ひとりひとり当たるわけにも行かねえだろうしな――ってことで、ひとつ目の不思議はそのうちわかるだろってことでいいな?」
 「押忍。楽しみに長い目で見ていよう」
 「不思議の真相はハヤトさんにかかってるってことっスね」
 「え? なんでオレだけなんだ? ノブオ」
 「だってそうでしょ? 兄貴に間違いがあるとは思えないし」
 …………返す言葉が見つからないよ、ノブオ。

 合間にダイゴの母上が淹れてくださったお茶で一息ついて、オレたちは『鬼工七不思議』の2つめに注目することにした。
 「これは時期的にも検証しやすそうだね」
 「だな、ハヤト。ちょうどいい時期に見つけたってもんだぜ」
 
 頷くリュウジが指でたどった次の記述はこれだった。
 『2)桜:校庭に植樹された桜の中で毎年1本だけ開花の遅れる木がある その木に咲いた最初の一輪を見た者は向こう1年幸運に恵まれるという』

 「そんなの俺、ぜんぜん気づかなかったけどな」
 「そう? オレ、去年ちょっと気になったな、そういえば」
 眉唾だとでも言いたげなリュウジにオレはそう返した。
 「え? じゃあハヤトさん、気づいてたんっスか?」
 「いや、そういう意味で気づいてたんじゃないって。ただ、花の遅い木があるって親父に言ったらさ、そういう種類の桜もあるってだけだろう、って聞かされて納得したから」
 「確かに、遅咲きの種類もあるがな。だが、校庭の桜は一種類だけだと思う」
 「ほう。ダイゴは詳しいな」
 「それほどでもないがな」
 
 そうか、あれがそうだったんだ――なんてオレは思っていた。
 知ってたらちゃんと見届けたんだろうにな。うっかり親父に一般論を植え付けられたのがもったいなかったなあ……。

 「ハヤト」
 「なに? リュウジ」
 「お前、覚えてるか? どれがその木だったかって」
 「え――ああ、どうかなあ。大体の位置は覚えているかもしれないけど……」
 「そしたら、今からちょっとばっかり戻ってみるか? 学校」
 わくわくしてます、ってな顔を見せてリュウジが言った。
 そうだろうな。この手の話、行動派のリュウジがじっと論じているだけなんて思えないからな。
 「は~い!! 兄貴、賛成っス!!」
 「さすがにまだ花には早すぎるとは思うが、まあ下見といったところか?」
 ダイゴがすこし笑いながら言ったけれども、止め立てする気はないみたい。どうせムダだし。
 「よし!! そんじゃハヤト、案内してくれや」
 「ああ、うん。OK」

 そしてオレたちは、鬼浜寺を後にしてふたたび学校へと戻った。
 外はもう暗くなりかけていたけれども、今日はあったかい日だったからこの時間でも寒くない。
 肩をすくめずに歩く夕刻って久しぶりかもしれなかった。

 校門を入って見やると、灯りのついた教室はほどんどなかった。
 例外は職員室と、たぶん生徒会室だろう、あそこは。それから道場にも電気がついているようだ。多分、赤ジャージがいるんだろうな。
 
 「で? どの辺りだ? ハヤト」
 鬼工の校庭の外周は、ぐるりと一周桜の木が植わっているんだ。それらすべてを見渡せる校庭の真ん中でリュウジが訊いてくる。
 「ええとね、体育館の近くだったかな。端から何本目だったか……」
 「よっしゃ!!! ちょっと行ってみようぜ」
 「リュウジ、使うか? 懐中電灯だ」
 「オウ!!! 準備いいな、ダイゴ」
 「あ、じゃあオレが持つっスね~」
 日の落ちた校庭に点る懐中電灯。こういうのって、オレもけっこうわくわくするかもしれない。
 「そう……うん。たぶんあの辺――あれ?」
 ノブオが照らす先を見定めて指さすオレなんだけど、なにか違和感があった。
 「なんだ? どうした? ハヤト」
 「いや。ほら、あそこ――」



   * 3 *


 暗い中でもオレが違和感をおぼえた原因ってのは、今からまさにオレたちが目指そうとしていた方角から人の気配がしてきていたからだ。
 「うん? 誰かいるみたいだな」
 「あれ、ホントっスね」
 立ち止まったリュウジとノブオが顔を見合わせている。
 「誰だろうな、こんな時間に。ハヤト、目的はあの辺りなのだろう?」
 オレはダイゴに頷き返す。
 
 「まあいいか。とにかく行ってみようぜ!!!」
 「え。だ、大丈夫っスか? 兄貴」
 「何が大丈夫なんだ? ノブオ」
 「ええっと……あの、まさか、とは思うっスけど……ね?」
 ノブオがおっかなびっくりダイゴを見上げた。するとダイゴは笑い飛ばしてノブオの肩をぽんと叩く。
 「ははは。あれは確かに人の気配のようだ。ノブオが心配しているようなものではないはず」
 「あ、ノブオってば幽霊かなんかと思ったんだ」
 「だって……念には念を入れておかないと。兄貴が怖がるっスもん、ハヤトさん」
 「――ノブオ!! 誰が怖がるっていうんだ!!! 俺はどうってことねえぜ? 第一、ちょっとばかりは覚悟してるしな。こういう奇妙なことに立ち向かうと決意した時点で」
 「あはは。それは頼もしいよ、リュウジ。たしかに何が出てくるかわかんないもんな」
 「……そういう脅かしは好きじゃねえなぁ、ハヤト」
 やっぱり多少は思うところがあるらしいリュウジは、ダイゴに先頭を任せることにしたようだ。
 オレたち4人はいつもと歩く順番をちょっと入れ替えて、そして件の桜の木を目指していった。

 校庭を横切って、体育館までたどり着いた。ここから数えて何本目かがオレの記憶にある、去年花の遅かった桜だったんだ。
 人の気配はまだしている。ちいさな話し声もするみたいだ。
 オレたちは一歩ずつ近づいていって――リュウジが先客に声をかけた。
 「何してんだ? こんなとこで」
 ノブオが持っている懐中電灯が照らし出したのはふたつの人影だった。おそらくオレたちが近づいているのは灯りからわかっていたらしいふたり連れは、1本の桜の木の根本に敷いてあったレジャーシートから立ち上がってオレたちの前に立って、かわるがわる声を出した。
 「なんだ、総隊長たちだったのか」
 「何してるって……そっちこそどうしたんだ? ダイゴ」
 
 相次いで口を開いたのは、園芸部の部員だったらしい。ふたりともダイゴの級友だそうだ。
 「押忍」
 説明を求められたダイゴは、リュウジを見た。リュウジが腕組みをして頷くのを確認してから話すことにしたようだ。
 「実はちょっとした言い伝えを耳にしてな。このあたりに1本だけ開花の遅い桜の木があるとか。それを不思議に思って、調べるというほどではないが、ひとまず見に来ただけなのだ」
 「……え」
 「ダイゴ、それはどこで?」

 ここで語り手はリュウジに変わる。偶然発見した『鬼工七不思議』について、どこまで話したもんかとダイゴは言いよどんだみたいだけど、それを継いで話し出したリュウジはとりたてて隠す必要もなし、と思っているらしい。
 「それがな、図書室で見つけた本に落書きがしてあってな。それで知ったんだぜ。そういやこの辺にそんな木があったな、なんてハヤトが思い出してくれたんで、偵察に来ただけだ」
 「そう……か。ほかにもあったのか」
 「みたいだな」
 園芸部ふたりは顔を見交わしている。

 「園芸部は? ここで何を?」
 オレが訊くと、ふたりのうちの長髪氏が答えてくれた。
 「花見の場所取りと言ったら信じてくれるか?」
 「え……それにはまだちょっと早いんじゃないの? 第一、競う相手もいないだろうし」
 「ってハヤト。冗談だろ? 真に受けるなや!!!」
 ――そんなことわかってるけどさ。オレの乗りツッコミよりリュウジのほうがいつも早いんだ。
 オレはツッコミには向いていないんだ。どうせ。

 「ほかにも、と言ったな?」
 「ああ、言った。さすがにダイゴは鋭いな」
 桜の木の下で会った園芸部の長髪氏が観念したようにこう漏らす。次に話すのは連れの小柄氏だった。
 「数日前に部室を掃除していて、古い記録簿を見つけた。そこにあったこの木の観察記録を読んで、おれたちは興味を持ったんだ」
 「もう20年近く前の記録で。それでも数年分のファイルがあったから、当時は部内で盛り上がっていたんだろう。写真も残っていた」
 「それで? なんか原因とか、そんなのわかったのか?」
 そう訊いたのはリュウジだ。オレたちの知ったルートとは違うところからも話が出てきているあたりに、少なからず興奮しているのはリュウジだけじゃなくて。
 「いや、それは残念ながら」
 「だからおれたちで検証してみよう、という運びになった」
 なるほど、なるほど。納得できた。
 
 「ところで、その記録になんか言い伝えみたいの、書いてなかったか?」
 「言い伝え――?」
 「オウ。この花が幸運を運ぶ、とかそういった類のやつだ」
 リュウジは長髪氏にそう訊いた。長髪氏と小柄氏は、ああ、と思い至ったような顔になってこう答える。
 「その手の言い伝えのことか。特に言及されていなかったが、ひとつそれらしき記録があったな」
 「あったあった。幸運とは逆だけどね。この木に咲いた花を最初に見つけた当時の部員が、写真に撮ろうとしてうっかり触って、花を散らしてしまったとか。偶然だろうけれど、その部員は数日後に花に触れたのと同じ指を骨折した、なんて記述が」
 
 今日まで鬼工に園芸部があることすら知らなかったオレだけど、彼らの活動もかなり気合いが入っているみたいだ。
 冗談半分に『花見の場所取り』なんて言っていた彼らの言葉の、残り半分は本気らしい。
 これから毎夜、ちょっとでも変わったことがあったら記録するんだといって、カメラなんかを本格的にスタンバイしていたのがすごいと思った……。
 「まあ、まだ夜は冷えるからな。風邪なんかひかねえようにな。そんで、なんかわかったら教えてくれや。俺らも興味あるから」
 そうリュウジが言ったのを潮に、オレたちはそこを辞した。
 
 それから桜並木に沿って校庭の外周を歩いて、オレたちは帰ることにしたんだ。
 「どうやら彼らが見守っている以上、オレたちが最初の一輪の目撃者になることはできそうにないってことだよね」
 「だな。ちょっとは残念だな、ハヤト。だけど、いいんじゃねえの? きっとあいつらのどっちかが目撃者になるってことだろ? だとしたら、あいつらを見てればわかるだろうしな」
 「あ、そうっスね。すっごいついてたりするのかもしれないっスもんね。そのあと」
 「なるほど。では春以降の園芸部の活動に期待ということだな」
 「っていうか、やっぱり何かあるんだね。あの木」
 「何か、ってどういうことっスか? ハヤトさん」
 「うん。幸運って説も、裏腹に怪我した人の話ってのもさ。何かあるって証拠なんじゃない?」
 「ああ、そうかもな。あれ、実際古い木みたいだったしな」
 「押忍。古木には念が宿っているのかもしれぬゆえ」
 「どっちみち、桜の木って不思議だよね」
 
 話しながら歩いて、プールの前にさしかかった。
 みんなで中を覗いてみたら、豊かに水がたたえられているのがわかる。
 昼間に見たら、きっと藻なんか生えていないきれいな水に違いないんだろう。
 「よっしゃ。明日はここを見に来るか!!!」
 鬼工七不思議のうち2つめまでをなんとなく検証した気になっているオレたちの次のテーマ。
 プールの水面には、月が映ってゆらゆら揺れていた。


 
   * 4 *

 
 「今までぜんぜん気にしたことなんてなかったが、本当にシーズンじゃなくてもきれいなんだな、うちのプールは」
 招き入れられたプールサイドでリュウジが感心したように呟いた。
 「はい。これが僕ら水泳部1年の仕事ですんで」
 「へえ。偉いんだな」
 なんて、やっぱり感心してノブオが同級生に声をかける。

 昨日たまたま図書室で見かけた本に書きつけてあった『鬼工七不思議』を追っかけているオレたちの、本日の昼休みのメニューはこれだった。
 『3)水辺:プールにはちいさきものが棲むという 冬でも頻繁に水を入れ替える慣例はそこから』
 
 私立高ならいざ知らず、鬼工のプールは普通に屋外にある。校庭の端っこだ。
 おそらく水泳部に訊いたら何かわかるのでは、とダイゴが言ったのを承けたのはノブオ。同級生に水泳部がいるから呼んでくる、と連れてきたんだ。
 どこかで見たことのある水泳部の1年生くんは、夏の終わりにビーチバレー大会でノブオと対戦した人物。
 
 「それでな、早速なんだけど、ここの水を冬でもきれいにしてるって、なんか意味あるのかどうか知ってるか?」
 プールサイドに屈んで、豊かに湛えられた水に指先を浸しながらリュウジが問う。
 「ええ。これは代々のしきたりなんです。リュウジ先輩」
 応えた水泳部くんは、さすがといった肩幅をしていた。学ランの中はきっといい筋肉がついているんだろう。
 「しきたり、と」
 「そうです、そうです。ダイゴさん。なんでもここは神様が守ってくださっているから、って」
 「水の神様?」
 オレが言ったら、水泳部くんはゆっくりと首を縦に振る。
 「部室には神棚もありますし」

 水の神様といったら龍神だろう、とダイゴが言った。
 それから、更衣室脇にある水泳部の部室へオレたちは入れてもらった。
 「運動部の部室っていったらもっと雑然としてるかと思った」
 なんてノブオが目をまん丸くしている。うん、オレも同感だな。
 「まあな。神棚の前じゃこれが正しいんじゃねえ? なあ、ダイゴ」
 「リュウジの言うとおりだな」
 「そっか。じゃあここも1年生くんたちがきれいにしてるんだね。偉いな」
 「ありがとうございます、ハヤトさん」
 はにかんだような笑いが健康的な顔に浮かぶ。スポーツマンってさわやかだ。

 そしてオレたちも神棚にむかって柏手を打って、プールサイドに戻った。
 「先輩に聞いたことがあるんですけれど」
 1年生くんがリュウジにこう切り出した。
 「ときどき、ここで見る人がいるそうです」
 「うん? 神様をか?」
 「いえ。直接はそうではないとは思うんですが、もしかしたらそれに近いかもしれない存在を」
 オレは1年生くんの話すことを、やたらと神妙で、そのくせあったかい、懐かしいような不思議な気持ちになりながら聞いていた。
 「練習中に泳いでいて、足がつったりすることがあるんです。どうしても。そんなときに、ですね。すごくちいさい人型の存在を見たって人がいるようで。まるで助けてくれるように、とか、水の流れを変えるように、とか、いろんな話がありますね。その時は極限状態ですから、錯覚ではないかと言う人もいるんですが、僕は信じています。その存在を」
 
 オレは感動したような妙な気分でぼんやり水面を眺めていた。
 そんなオレをリュウジとダイゴがどうしてだかじっと見ていたみたいだ。
 「うん。きっといつも見守ってくれてるんだね。ちいさい誰かが。いつも感謝していたほうがいいだろうね」
 「ええ、もちろんです」
 1年生くんは気持ちよくそう答えてくれたんだ。
 リュウジとダイゴがやけに優しい目でオレを見ているのが、むしろ気味悪いような。

 オレたちの5時間目の授業は体育だ。
 予鈴ぎりぎりまでプールサイドで過ごしたもんだから、運動着に着替えるのが遅くなってしまった。おかげで当然のように、始業に間に合わず。
 「お前たち。いい根性しているではないか? 俺が時間に厳しいのは知っているな? よし、わかっているならそれでいい。罰は外周一周だ」
 
 赤ジャージの裁きを聞いて、リュウジはかったるそうに楯突いた。
 「ちぇ。ほんのちょっと遅れただけじゃねえか。ってか、むしろ俺は間に合ったろ? 赤ジャージ。ほんとの意味で遅刻はハヤトだけだよな?」
 「え――って、リュウジ。冷たいこと言うなよ」
 なんてオレたちが言い合っている最中に千晶ちゃんがさらに遅れて登場した。
 「あ、遅れてすみませ~ん、先生。今日は陽差しがあるって思って、日焼け止め塗ってたから」
 「……いいからお前たち、3人揃って外周一周、行ってこい!!!」
 有無を言わさぬ勢いの赤ジャージを止めることは、オレたちの誰もが不可能だった。

 罰として課せられた外周一周を、リュウジとオレ、それから千晶ちゃんの3人はとてつもなくだらだらとこなしている。
 「リュウジ。あんまり遅れると、また赤ジャージに文句言われるんじゃないの?」
 「わはははは!!! 臆病だな、ハヤトは。平気じゃねえ? だって俺、カラダ弱いしな!!!」
 「そんなの初耳だけど……」
 「っていうか、大丈夫だよ、ハヤト。だって先生、外周一周って言っただけでしょ? 走ってこいとはあたしは聞いてないしね」
 きゃはは、なんて千晶ちゃんは笑った。
 「オウ、千晶ちゃんは賢いぜ!!!」
 共謀者の顔でもって、ふたりはにやりと笑いあう。あ~あ。オレは知らないよ。

 おだやかな陽気を彩る、花の香りが風に混じっているのを感じる。もうすぐ春だね。
 「ふたりとも、なんで遅れたのよ?」
 ふつうにのんびり並んで歩きながら千晶ちゃんがそう訊いた。
 「オウ。ちょっとな。俺ら、昨日から調べてることがあってな」
 「あら、珍しい。あんたたちが調べごとって……」
 千晶ちゃんはからかうような表情でリュウジとオレをかわりばんこに見た。
 「あはは。確かにね。オレたちには珍しいかも。しかもその発端が図書室にあった哲学書だった、なんて信じる?」
 「え――図書室ぅ? 哲学書ぉ?」
 それ以上の言葉を失ったかのように千晶ちゃんは、その場に立ち止まっていた。
 ……確かにな。

 懲罰の外周一周が半分済んだところ。ちょうど裏門のところでそのままオレたちは歩みを止めて、なんとなくこれまでのいきさつを千晶ちゃんに話して聞かせていた。
 「へえ。鬼工七不思議。そんなの聞いたことないな」
 「だろう? だけどな、最初のは俺とハヤトがそれだし――って先のことはわかんねえとしてもな。2つめのは園芸部にも別の伝わり方してるみてえだし、3つめは、な? ハヤト」
 「うん。水泳部には当たり前の話だったみたいだしね」
 「そうなんだ。へえ。なんかおもしろそうだな」
 言いながら、千晶ちゃんはリュウジが持っていた、鬼工七不思議をメモした紙切れをしげしげと眺めている。
 リュウジ、よっぽど気に入っているんだろう。体育の授業中でもメモ持って歩いてるなんて。

 「で、次はこれを調べるの?」
 千晶ちゃんの、うっすらマニキュアを塗った爪が4つめの不思議を指す。
 『4)恋愛:告白は雨の木曜日、早朝、音楽室が吉と言い伝わる 成功率高し』

 「そうだな。順序としてはそれだな」
 「雨の木曜日か……」
 何かを思い出そうとするように、千晶ちゃんは空に目を向けていた。



   * 5 *


 体育の授業に遅刻した罰だったはずの外周一周を、課されたオレたちが終えたのは5時間目終了のチャイムが鳴ったときだった。
 というより、話し込んでいたもんだからチャイムが鳴るまで授業中だってことを完全に忘れていたっていうのが正解。
 いけね、なんて言いながら、リュウジと千晶ちゃんと3人で急いで戻ったら――校庭の真ん中には、竹刀を持った赤ジャージがどっしり構えて立っていた。

 「ほう。お前たち、いい度胸しているな。感心だ」
 「わはは!!! そうだろ? さすがだよな、俺たち!!!」
 「……リュウジ。俺は呆れて何も言えんよ。だがそれではほかの良識ある生徒たちに示しがつかん。よって明日、3人に道場の掃除を申し渡す」
 「ええっ!!! 先生、何も言えないって言ったじゃん?」 
 「何――? 文句あるのか? ハヤト」
 「え、いや別に――いてっ!!!」
 嗚呼、言葉尻をとっただけだったのに。赤ジャージの怒りの矛先は最終的にオレに向けられて、竹刀で軽く尻をはたかれた……。けっこう痛いな。
 
 「あ~あ、ハヤトってば。きっとお尻、赤くなったね」
 「わはは。それはちょうどいいだろ、千晶ちゃん。ハヤトはなあ、蒙古斑があるらしいからな!!!」
 「ちょ、リュウジ……。そんなのないってば」
 「いいから、もうお前たち、早く教室に戻るんだ。6時間目が始まるだろう?」
 呆れ顔を保ったままの赤ジャージに追い立てられて、オレたちは校舎へと引き上げることになった。最後に赤ジャージは重ねてこう言った。
 「お前たち。明日の放課後は道場に集合だからな。忘れるなよ」
 ……なんだよ、それは。

 「なんてことがあってな。明日の放課後は、謎解きできそうにねえんだよ。オレとハヤトは」
 放課後。例によって教室まで迎えにきたダイゴとノブオに、リュウジはさっきのことを説明した。
 「そうなんっスか。それは残念っスね」
 「押忍。では今日のうちに、もうひとつくらいやっつけておくか」
 「だね、ダイゴ。だけどさ、この4つめって、一体どうやったら調査できるんだろ?」
 
 『鬼工七不思議』のうち、オレたちの次なる調査対象はこれだった。
 『4)恋愛:告白は雨の木曜日、早朝、音楽室が吉と言い伝わる』
 オレたちは揃って、リュウジの手書きによる、七不思議を書き写したメモに目を落としていた。
 
 「そういやノブオ。お前、なんか聞いたことあるような気がするって言ってなかったか? 雨の木曜日」
 「ああ、うろ覚えっスけどね、兄貴。誰だったかな、クラスの奴かな。雨の木曜日はいいことあるんだって言ってたような……」
 「では、それがこの七不思議と関連あるかどうかもわからんのだな」
 「そうっスね、ダイゴさん。もしかしたら中学の頃だったかもしれないし」
 「あ、そしたらノブオ。試してみたら? もしかしたらいいことあるかもよ?」
 なんて言ったら、ノブオが顔を真っ赤にしてオレに抵抗してきた。
 
 「あわわ……って、そんな無責任なこと言うんっスか? ハヤトさんは!!!」
 「ん? 何をそんな勢いで慌ててるんだ? ノブオ。いいじゃねえか。当たって砕けてみたら。なあ、ハヤト? ダイゴ」
 「い、いや、兄貴までそんな……ご、ごめんなさい。オレ、まだそんな!!!」
 「わはははは!!! おかしな奴だぜ、ノブオ」
 ノブオの慌てぶりがおかしくて。
 ってことは、ノブオは少なくとも試してみてもいいような心当たりのある相手がいるらしいってことで。
 ……まさかリュウジじゃないよな。あはは。

 「あ!!! まだいた!!! よかった」
 「オウ、千晶ちゃん。どうかしたか?」
 いつの間にかオレたち4人だけが残っていた教室に、千晶ちゃんが戻ってきた。
 「あのね、ちょっと思い出したことがあって。七不思議に関連あるかも、ってことを」

 いったん帰りかけたのにわざわざ戻ってきてくれた千晶ちゃんの心当たりっていうのは、保健室の遥先生だった。
 オレたちよりひとまわり年上の、きれいな大人の女性。柄のよろしくない鬼工に似つかわしくない、いかにも育ちのよさそうな、おっとりとした雰囲気の遥先生のいる保健室は、校内のどこよりも真実癒されるっていうのがもっぱらの評判だ。
 千晶ちゃんを含めてオレたち5人は、その保健室に押しかけている。会話の中心には遥先生がいた。

 「あんたたちむさくるしい男連中は知らないでしょうけどね。遥先生は、あたしたち女子にとっては偉大なる恋の指南役なのよね~」
 「へえ、そうだったんだ。知らなかったな」
 「そんなに大層なものじゃないわ、ハヤトくん。ただ同じ女として、ちょっと聞き役になってあげられる、って。それだけよ」
 「でも聞いてくれる人がいるってだけで気分的には違うんだろうね、女子は」
 「あ、やっぱりわかる? ハヤト」
 「うん。なんとなく、だけど」
 オレが話しているあいだ、リュウジもダイゴもノブオも黙りこんでいる。こういう話、苦手なんだろうな。

 「で、遥先生の恋愛指南とやらが、七不思議と関係あるんだろ? 千晶ちゃん」
 「うん、そうそう、リュウジ。ね、遥先生?」
 「なに? 千晶さん」
 「あのね。たしか遥先生のオススメするおまじないみたいなのがあるって、あたし聞いたことあるんだけど。女の子に」
 「ああ、あのことかしら。自信のない告白を後押ししてくれるおまじない?」
 「そうそう。多分それだわ。遥先生、それ、このむさくるしい男どもに話してやって」

 そう頼んでくれた千晶ちゃんのあとを承けて、遥先生は話してくれた。
 「たとえば相手が自分のことをあまり知らない人だったりするときね。そんな相手にも好印象を持ってもらえるシチュエーションっていうのがあるんですって。私も聞いた話なんだけれど」
 「遥先生――それって、もしかして、雨の木曜日、早朝に音楽室か?」
 「あら――リュウジくん。そうね、だいたいそんなところかしら。よく知ってたわね」
 遥先生がふわりとリュウジに微笑むのを見て、オレたちは目を見合わせたんだ。

 「なあ、遥先生。鬼工七不思議って聞いたこと、あるか?」
 「七不思議……いいえ、聞いたことないわ」
 「そしたらその話、どっから聞いた?」
 「おととし、だからあなたがたが入学する前に他校に転任になった先生に伺ったのよ。鬼工の伝統ですって。そういうのは近頃では忘れられているようだけれど、っておっしゃってらしたわ。もっとも私が聞いたのは、音楽室ではなかったけれど。単に『静かな音楽の流れる場所』ってだけ」
 「なるほどな。音楽があれば、音楽室である必要はないのだな」
 「そうみたいね、ダイゴ。でもそれには音楽室がいちばん自然ってことよね」
 千晶ちゃんが言ったのに、オレたちは――遥先生も――頷いた。

 「何にせよ、あなたがたがこの話を知っていたことに驚いたわ」
 そう遥先生は感想を言った。確かにオレたちって、そういうのからかけ離れてるもんな。
 「そういえばハヤトくん。1年生だった秋ごろにあなた、そういう告白をされなかった?」
 「え――オレ? 記憶ない……って、あ!!!」
 そうだ、思い出した。オレ、そのころに顔も名前も一致しない当時3年生だった女子の先輩に呼び出されたことがあった。
 うっかり寝坊したから指定の時間に、指定の場所に行けなくて。それを詫びに昼休みになってから先輩の教室を訪ねたら、先輩は悲しそうな顔でオレにこう言ったんだ。
 『もういいの。忘れてね。雨の木曜日に私は味方してもらえなかっただけだから』――

 「ええっと……あれって、もしかして?」
 遥先生はこくりと首を縦に振った。
 「彼女、それで諦めたんですって。ハヤトくんの寝坊癖にはおまじないも形無し、って」



   * 6 *


 放課後。オレたちは道場にいた。
 昨日、体育の授業に遅刻したことに端を発する罰当番――道場の掃除を赤ジャージに言いつけられていたからだ。
 実際に掃除の義務があるのはリュウジとオレ、それから千晶ちゃん。
 道場なら自分も使うので、というダイゴが手伝ってくれると言い出して、兄貴のためならオレも手伝うっス、っていうのがノブオの宣言。
 そんなこんなで、オレたちは5人して、箒やらぞうきんやらを手に、道場へ集まっている。

 だらだら気分のオレだったけど、いざ作業が始まってみたら一生懸命働いていた。
 本来は手伝いだっていうダイゴとノブオがオレたちよりも真剣だったからだ。それに釣られてオレたちもがんばった。
 ぞうきんがけの合間に、オレたちはここまでの『鬼工七不思議』探訪の成果なんかについて話し合っていた。

 「ってか、なんだかんだどれも当たってるっぽいな。桜のことも、プールのことも」
 「そうだね。全校的に有名じゃないにせよ、近しい人たちはそれなりのことを知ってたんだし」
 「ってことは、ハヤトさんはやっぱり兄貴と一生縁があるんっスかねえ。うらやましいっス」
 「ノブオ。そのような出会いでなかったら縁が切れると限ったことではあるまい」
 「あ、そうっスね、ダイゴさん。オレ、生きる希望が湧いてきました~!!!」
 「……大袈裟だな、ノブオ」
 なんて言ったらノブオに睨まれた。ハヤトさんは気楽でいいっスね、だって。

 「っていうか、昨日の保健室の話。あれ、ハヤトがニアミスだったのにはちょっと笑ったなあ」
 千晶ちゃんがくすくす笑っている。
 「そうだな。やっぱ寝坊で台無しにしてるし、しかもまるっきり覚えてねえとこがハヤトらしいぜ。しっかりキーワード聞いてたんだろ? 雨の木曜日云々、っての」
 「――うん。思い出したってことは聞いてたんだろうな」
 「しかし、ハヤトは実際にその告白を受けたら、その先輩とは付き合っていたと思うか?」
 「え? ああ……どうかな」
 
 ダイゴにしては意外なことを言うな、なんて思ってちょっと考えてみる。
 「うん。お断りしたかもしれない。オレ、そのときあんまり、そういうのに興味なかったもんな。単車の腕磨くので忙しかったし」
 「わはははは!!! 今だって大差ねえくせに」
 「……そうとも言う」
 オレの答えを待って、訊いた本人ダイゴは満足そうにこう言った。
 「では、言い伝えは正解だな」
 「どうして? ダイゴ。だって実らなかったんでしょ? その先輩の恋は」
 「ああ、千晶さん。実らなかったが、拒否されることもなかったということ。それで先輩はその恋を、妙な言い方かも知れないが美しい想い出のまま打ち切った、と。おそらく満足したのではなかろうか」
 「なるほどね。そういう見方もあるってことなのね」
 「それはそれで『吉』って読み解けるかも、ってことっスね、ダイゴさん」
 「曲解かもしれんがな」
 ほおお、なんてオレたちは口々に感嘆を漏らした。ダイゴが言うと、なんか説得力あるよな。

 「お前たち、怠けておらんか?」
 そんな時、赤ジャージが様子見と称して道場へ入ってきた。
 「なんだ、ダイゴとノブオも手伝わされているのか? リュウジは人使いが荒いな。反省しているのか?」
 「違うっての!!! ふたりは自分の意志で手伝ってくれてるんだぜ? なあ?」
 「押忍」
 「は~い!! 兄貴の言うとおりっス~」
 「……ならよいが、な。おお、でもさすがに人数が多いだけある。綺麗になったな」
 「だろ? 俺たち働き者だからな。いい教え子を持ってしあわせだろう、赤ジャージ!!!」
 「調子に乗りおって。でも、まああながちはずれでもないので善しとしよう。お茶でも淹れるか? 振る舞ってやろう」
 なんだか今日は機嫌のいい赤ジャージに連れられて、オレたちは道場脇の控え室へと入っていったんだ。

 剣道部、柔道部の試合の際に使われるらしい控え室。簡単な椅子とテーブルが置かれている。そこへオレたちは通されている。
 手ずからお茶を淹れてくれるという赤ジャージに、千晶ちゃんが手伝いを買って出た。
 「そういや俺はここには初めて入るな」
 赤ジャージを待つ間、ダイゴを除くオレたち3人は物珍しいもんで室内をうろうろしていた。
 壁に掛かった写真は、どれも柔道部、剣道部の猛者たちのもの。部室ではなくここに飾ってあるあたり、よほどの成績を修めたときのものなんだろう。
 さすがにダイゴはここへは来慣れているので、別段珍しいものはないみたい。

 「そういえばさ、5つめの不思議ってさ、柔道部が関係なかったっけ?」
 「うん? ああ、そういやそんなんだったっけか、ハヤト」
 リュウジがポケットから出した紙切れを読む。書いてあるのはこれだった。
 『5)教師:卒業生が着任する確率高し その場合教師の高校生時代の因縁が再燃しがち 現在の我が校の柔道部が好例』
 
 「柔道部の歴史みたいな記録ってあるかな? あったら、これが書かれた時期って特定できるんじゃない? 現在、って言われてるってことから」
 「あ、鋭いっスね、ハヤトさん」
 「そしたら赤ジャージに訊いてみるか!!!」
 「というか、先生も鬼工OBだろう? だとすると、佐藤先生とはまさに、という気がするが」
 「言われてみれば――そうだな」
 ここまで話したときに、トレイを提げた赤ジャージと千晶ちゃんが部屋に戻ってきた。
 
 それからオレたちは、この件について赤ジャージに質問しながらのお茶の時間を過ごした。
 「なあ、赤ジャージ。ちょっと訊いていいか?」
 「なんだ? リュウジ」
 「単刀直入に言うとな、赤ジャージ、こんな話を知らないか?」
 リュウジはすでに見慣れた感のあるメモをポケットから取り出して赤ジャージの前に広げた。
 「どれ。ええと、『鬼工七不思議』……ああ、これか!!! 懐かしいな」
 「ええっ!!! 先生、知ってるの?」
 「ああ、知っている。俺が現役生徒だったころには誰でも知っていたがな。そういえばもう聞かなくなって久しいな」
 赤ジャージは、お茶を喉に流し込んで息を継いだ。オレたちもなんとなくそれに倣う。
 
 赤ジャージに請われて、オレたちがどこで『鬼工七不思議』を知ったのかをリュウジが話した。
 それと、端から検証してみていることも。それなりに成果らしきものがあったことも。
 「それでな。ここにほら、現在の柔道部ってあったから、もしかして何か資料みたいの、あったら見せてほしいと思ってよ」
 「資料――はどうだろう。柔道部の部室に行けばあるかも知れんがな。だが、俺には心当たりがあるな」
 「ホントっスか? 赤ジャージ先生!!!」
 「ああ。俺が現役時代の柔道部の顧問がな、その七不思議を身をもって表現しているという噂の人物だったな、確か」
 「ほう? ってことは、七不思議自体はもっと前からあったってことなんだな?」
 「ああ、そうだ。リュウジ。ほら、その写真に写っているのがそうだ。当時の顧問の山本先生だな」
 壁に飾られた、額に入った写真。大会の優勝旗らしきものが一緒に写っている。山本先生ってのは、ダイゴに負けず劣らずの巨漢みたいだ。
 
 「赤ジャージ。ってことは、この山本先生も古くは鬼工の生徒だったってことだよな?」
 「ああ、そうだ」
 「じゃあ、山本先生の学生時代と、当時の鬼工の因縁らしきってのは同じ相手ってことだろ?」
 「いかにも。あれは俺もたしかに記憶しているな」
 「そしたら、その因縁の相手ってのは……」
 「ああ。暗黒水産だ。当時の柔道部主将は佐藤だった。もっとも俺は柔道部ではないので、個人的に因縁があったに過ぎないが」
 歴史は繰り返す――そんな言葉が脳裏をかすめたのはオレだけじゃないよな。



   * 7 *


 「赤ジャージの生徒時代にはこれって当たり前に誰でも知ってることだったんだろ?」
 「そうだな、リュウジ。とはいえ――」
 と言葉を切って、赤ジャージはリュウジの手からふたたびメモを取り上げた。
 「この6番目のものは、言い伝え自体は有名だったが、さすがに誰も実際には経験したことのある者はいなかったのだ、確か」

 赤ジャージの太い指が示した先にあったのはこの記述。
 『6)道:北校舎階段に地下あり 既に封鎖される 因縁ある場所へ続くとされる』
 北校舎は古い建物で、いまとなっては授業に使われている教室は入っていない。オレたち生徒はそれぞれ週に数回そこで授業を受ける程度。
 ときどき使う実習室や、『鬼工七不思議』を仕入れた図書室はこの北校舎にある。
 
 「赤ジャージ先生。地下ってほんとにあるんっスか?」
 「俺達の時代にはすでに封鎖されていたのでな、地下へ続くとされる階段は。教室は普通に使われていたが」
 「ほう。ってことは、真偽は赤ジャージらにもわかんねえんだな?」
 「そうだな。毎年、必ず真実を突き止めてやるという輩が出てくるのだが、最終的には成功した者はおらんよ。階段の行き止まりに扉だけは残っているが、そこには大きな南京錠で鎖が3重に掛けられていてな。工具などをもってきて破ろうとしたものなら、音を聞きつけた教師が飛んできて、最終的には罰当番が待っているのが関の山、といったところだ」
 
 赤ジャージの話を聞いて、オレたちは顔を見合わせている。
 誰も成功しなかったのか。
 不思議は謎のままなのか。
 ってことは、長いこと言い伝えにとどまっているだけで誰も真実を知らないのか。

 「あらら、あんたたち。興味津々の勇者の顔をしてるんじゃないの?」
 「ご、誤解だぜ、千晶ちゃん!!! 赤ジャージだって罰当番に終わったことを、なんで俺たちが成功するはずがある? なあ、ハヤト?」
 「う、うん。そうだね。謎は謎のままのほうがいいこともあるかもしれないし」
 オレたちのやりとりを聞いていた赤ジャージは、どことなく郷愁を秘めた笑いを見せた。リュウジの言うように、本当に罰当番を強いられたことがあったのかもしれない。
 
 「リュウジよ。妙な気を起こすなよ。北校舎はお前の好きではなさそうな話も昔は伝わっていたのだし」
 「――!!! って、な、何脅かしてんだよ、赤ジャージ……」
 ニヤリ、と赤ジャージは笑う。
 「まあ、まさかお前達が何かをできるものでもないしな。大きな物音ひとつで図書館へ筒抜けだから、罰当番は必至だと覚えておくといい。俺に言えるのはそこまでだ」
 そう言って、赤ジャージは湯呑みに残ったお茶を飲み干した。
 
 千晶ちゃんが壁にかかった時計をしきりに気にしだしたころ。そろそろオレたちもおいとまするか、という空気が控え室に流れた――ところでダイゴが口を開いた。
 「先生。為になるお話、有り難く思う」
 「そう言ってくれるのはきっとお前だけだな、ダイゴ」
 「いや、そのようなことは。して、ついでに教えていただきたいのだが」
 「何だ?」
 「俺達の入手した『鬼工七不思議』だが、最後の7つめが判読不明だった。先生は知っておられるのだろうか。最後の記述を」
 「おお、確かにそうだな……。最後のひとつ、か」
 赤ジャージは思い出そうと首をひねる。
 「この6番目に手こずることで、なかなか最後まで行き着かないのがこれの厄介なところだったように思うが……はて、何であったか。思い出せんな」
 奥歯に何か挟まったような表情で、赤ジャージは腕組みをしていた。
 オレたちが『また明日』と道場を辞すまで同じ顔で悩んでいたみたい。
 「そしたら赤ジャージ。思い出したら教えてくれな。ああ、そんな真剣に悩まなくてもいいぜ!!!」
 「おう。なんかこう、思い出せないのは気分良くないものでな」
 赤ジャージ、真面目に悩んでいるみたい。根が真面目なんだな、きっと。

 道場から出て、千晶ちゃんは急いで校門を出た。千尋ちゃんと練習の約束があるんだそうだ。
 オレも誘われたんだけど、また今度と答えておいた。
 だって――今日はきっと、これから、あれだもんな。
 「よっしゃ!!! んじゃ早速行ってみようぜ、北校舎!!!」
 だよな。リュウジがそう言い出さないわけないもんな。

 「しかし、あれだな。改めてその気で来てみると、北校舎ってのは薄暗いよな」
 「そうっスね、兄貴。なんかかび臭いし、それに赤ジャージ先生が不吉なこと言ってましたよね」
 「あれはほんの脅かしだろう」
 「あ、ってことは妙な気配はしない? ダイゴ」
 「いまのところはな」
 なら安心だ、って顔でリュウジはほっと息をつく。

 北校舎には階段が2箇所あるってことに、オレたちはこのときになって気がついた。
 南校舎から続く渡り廊下の突き当たり付近にある階段を普段は使うし、それで事が足りるから、渡り廊下から離れたところにある東側の階段の存在自体を知らなかったんだ。
 いや、知らないってこともなかった。なんとなく『ある』のは感じていたけれど、自分たちの意識の中に『存在』しなかった、というか。
 最初はいつも使う階段のほうを見に行ったんだけど、南京錠のかかった扉なんかなかった。それでもう一方のほうだろうとダイゴが言い出したから、ここまで移動してきた。

 「確かに掛かってるね、南京錠」
 「だな、ハヤト」
 扉の前でオレたちは顔を見合わせた。前に3重の鎖を這わせた重そうな鉄扉。ドアノブがついてはいるけれど、それを回すことがあるとは思えなかった。かなり錆び付いている。
 「工具、一応持ってきたけど使ってみる?」
 「オウ、気が利くな、ハヤト」
 太い鎖に掛かった南京錠。鎖さえ切れれば突破はできそうだけど……。
 リュウジに手渡した簡単な工具セットでは、当たり前のように歯が立たなかった。
 「こりゃ無理だな。実習室からワイヤーカッターかなんか持ってくるか?」
 「それでもどうかな……。ってか、やっぱ音が出るだろうからね。ダイゴ、素手でちぎれたりなんかしないよな?」
 「ハヤト。それはさすがに自信がないな」
 「それもそうか」
 
 さて、どうしたものか。
 「兄貴。ここはひとつオレに任せてくださいよ」
 「なんだ、ノブオ? お前の腕力でやってみるってのか?」
 「へっへっへ。そんなんじゃないっスけどね。オレ、昔っからちょっと練習してたりするんですよ。コレで鍵を開けるのをね」
 忍び笑いのノブオのポケットから出てきたのは、女の人が使うヘアピンだった。
 「オレ、将来は裏稼業を目指してますからね」
 「まさか泥棒?」
 「違うっスよ、ハヤトさん!!! オレはスナイパーになるんっス」
 「ああ、前も言ってたね」
 「って、お前らしゃべるのは後にしとけや!!! 俺、いつ図書館司書の先生に見つかるかって心配でしょうがねえぜ」
 「りょ、了解っス、兄貴!!! ハヤトさんもダイゴさんんも見ててくださいね、オレの仕事の鮮やかさと素早さを」
 自信満々な素振りでノブオはヘアピンを鍵穴に挿した。
 
 正直言って、オレはぜんぜん期待なんかしていなかった。多分リュウジもダイゴも。
 だからかなり驚いたんだ。
 「あ、開いたっス」
 「何? 本当か? ノブオ、でかした!!!」
 「ってゆーか。コレ、最初っから開いてたんっスよね……ほら。拍子抜けっス」
 ノブオの手には重そうな南京錠が乗っていた。オレたちは顔を見合わせて、とりあえずノブオを褒めてみた。



   * 8 *


 手をつけてみれば難なく開かれた、『鬼工七不思議』の6つめに繋がるであろう扉。
 錆びたドアノブを手にとって、リュウジはすこし硬くした表情でオレたちを振り返る。
 「よし。そしたら中、入るぞ」
 「うん。行こうか」
 「押忍」
 「兄貴、これどうぞ」
 「懐中電灯か。気が利くな、ノブオ」

 そんなこんなで入ってみた北校舎のの地下室は、かび臭くて埃っぽい場所だった。
 古い電動工具や使わなくなった机なんかが置いてある倉庫という感じだけど、さっきの赤ジャージの口ぶりからして、今となっては先生方の間でもここの存在は忘れ去られているのかも。
 「狭いな、ここは。ほらノブオ、足許気をつけろ」
 「了解っス、兄貴」
 「しかしこの部屋って、物が多いなあ。よく地震なんかで崩れなかったね」
 「そうだな。もっとも崩れようがないほど物が多いとも言えるような」
 「ほんとだな、ダイゴ。扉以外の3面は埋まってるもんな。つーか、これより先なんかねえよな? ただの地下室じゃねえ?」
 「ああ、そういえば。この先がどっかに通じてるって話だもんね」
 「押忍。因縁ある場所へ続く、だったな」
 そう言いながらオレたちは、物だらけの壁をひとつひとつ調べてみる。懐中電灯だけが頼りなのでちょっと心許ないけど。

 「ああ、そういえばこういう部屋って、隠し扉みたいなのがあるってのが定石じゃないっスか?」
 「隠し扉? 掛け軸の向こう側とか、そういう話か?」
 「そうっスね、兄貴」
 「そんな、漫画じゃないんだから、ノブオ」
 「そうは言いますけどね、ハヤトさん。たとえば、ですよ? この棚そのものがもしかして、えいっと押したら奥へ動いたり――」
 とノブオが示した棚を、冗談半分にダイゴが押してみている。
 すると――

 「お? 動いたな」
 「ダイゴ、本当か!!!」
 「ほら~、ハヤトさん。やっぱりじゃないっスか~~~!!!」
 「ええっと……悪かった、ノブオ。って、そんなの普通想像できないよな」
 「そうか? でもセオリー通りだろ?」
 リュウジまでそんなこと言ってるよ……。しょっちゅう漫画読んでるとそう思えるのかな。

 とにかく目の前に道は開けたってこと。その先を覗いてみたらさらに狭そうだけど、言い伝えどおりに通路になっているみたいだ。
 かなり暗いのでそこでいったん地下室を出て、こっそり実習室へ忍び込んで人数分の懐中電灯を手に入れてきた。
 「よし。そしたら準備はいいな?」
 リュウジのいつもより数段トーンの低い声にオレたちは黙って頷きだけを返す。
 そうしてオレたちの6つめの不思議探求が始まったんだ。

 誰が何のために掘ったのかは想像すらできない。
 どこへ通じているんだかもさっぱりわからない。
 ただ理解できるのは、ここがもう何年も――もしかしたら桁違いの年数で誰も通る者がいなかったのかもしれないってことだけ。
 外はすっかり春めいた陽気だっていうのに、この地下通路ときたら寒いし、埃っぽいし。
 ちょっと音をたてるとびくっとするほど響くし。
 
 正直言って、オレはけっこう参っていた。オレ、あんまり暗いところとか狭いところが得意じゃないのかもしれない――ここへ来て初めて気がついたんだけど。
 とにかく泣き言いうのは性に合わないし、後戻りできる感じでもないから前へ前へとずんずん進むリュウジの背中を頼りに歩を進めている。
 言いたくないけど……もし今、地震とか起きたらとんでもないことになるよな、なんて思いつつ。

 鬼工北校舎の地下の、忘れ去られた通路はいったいどこへオレたちを連れていくのか。
 懐中電灯で照らしてみると、壁にはどういうわけかそれなりにコンクリートをうってあるらしい。オレの身長だとちょっと屈まないと頭が当たりそうなくらいの低い天井。リュウジやダイゴは歩くのがもっと大変なはずだ。

 ゆっくりと、しばらく行ったところでかかったリュウジの声がやたらと反響している。
 「なあ、もうどれくらい歩いたと思う?」
 「え――さあ。けっこう遠くまで来たんじゃない?」
 「そうっスかね? まだそんなでもないような気もしますけど」
 「時間にして15分というところだな」
 腕時計を見て、ダイゴが答えた。
 「この歩調で15分では、1kmは進んでおらんな」
 「そうか。もっと来たかと思ったけどな」
 振り返ったリュウジの頬は、落ちてきたと思われる埃で煤けていた。

 思ったよりも疲れたから、ちょっと小休止といった雰囲気になった。
 ちょうど、ほんのすこしだけ通路の幅の広くなったところがあったから。
 「なあ。この通路ってあとどれくらい続いてるんだろうな?」
 「さあ。でも、どこかへ通じてるんだろ?」
 「とは言うがな。しかし単なる言い伝えということは、その保証があるかどうかは疑問といったところか」
 「ええ~、そんな脅かさないでくださいよ、ダイゴさん」
 「っていうか、でもダイゴが言うとおりだろ?」
 「ハヤトさんまでそんな……」
 「わはは!!! ノブオ、そんなに焦るなって!!! 何てことねえだろ? ちょっと暗くて狭いだけじゃねえか。そんでもってもしこの先何もなかったら、引き返せばいいだけじゃねえか!!!」
 「でも、兄貴。もし――もしも、ですよ? さっきオレたちが入ってきた扉が、また外から南京錠かけられちゃったら、オレたち生き埋め……ってことに」
 ノブオが心配そうに言う。
 なるほど。オレ、そんなこと考えもしなかったな。オレって無謀な生き方をしてるよな……。
 
 ノブオの不安げな顔と、オレにも芽生え始めた恐怖心を払拭してくれたのはダイゴだった。
 「その心配はあるまい。南京錠は、ほら。ここだ、ノブオ」
 「お、ダイゴ。それ持ってきてたんだな!!!」
 「押忍。これさえ掛かっておらねば、扉自体なら何かあっても俺ならどうにかなるゆえ」
 「はは……は。ダイゴって頼もしいよね。こういう言葉にできない畏れみたいなのがあるときってさ。ほんとに心強いな。なあ、リュウジ?」
 「ああ、そうだな。もっとも俺はべつに怖いことなんかねえけどな、今は」
 ……まあね。リュウジの怖がるような幽霊とか、そういうのはいないってダイゴが言ってたし。
 「けど、ダイゴが頼りになるってのはその通りだぜ!!!」
 心持ち大きな声でリュウジが言った。

 「とにかく、先へ行くにしてもここが半分ってとこだな」
 すこし考えたあとに聞こえてきたリュウジの言がこれだった。
 「逆戻りの可能性を考えると、この倍以上だとキツいだろ?」
 「ああ、そうかも。って、意外だね」
 「何がだ? ハヤト」
 「いや、リュウジだったらとにかくどこかへ辿り着くまでっていうか、何が何でも出口を見つけないと納得しないかと思ってたな、オレ」
 「わはははは!!! ハヤト、俺だっていろいろ考えてるんだぜ?」
 「え……」
 「攻めどころと退きどころってのは、勝負にだってあるだろ? 今の俺らのこの状況だって勝負って言や勝負だからな。根拠がねえ分、大きな博打だし」
 笑い混じりに言われて気がついた。
 そうか。何が何でも前しか見ない漢だと思っていたリュウジが、そんなことを言うとは。
 時として見せるガキ大将みたいなリュウジの表情に、ある意味で騙されていたのかもしれない、オレは。
 退くところは潔く――リュウジは質実ともに立派な統率者なんだな。なんて。



   * 9 *


 とにかくもうすこしだけ先に進もうということに決着したオレたち、『鬼工七不思議』探検隊はリュウジを先頭にふたたび歩き出したんだ。
 「なんだかんだ言って、結局6つめのやつも本当だったってわけだよな、ダイゴ」
 「そうだな。どこへ通ずるかはわからぬまでも、地下室と地下通路は本当だった」
 ゆっくりと歩を進めながら話すオレたち。どっちみち、この先に何もなくてもあと15分したら引き返すっていう目標があるだけで、なんとなく気が楽だ。
 まあ――もし仮に何もないまま引き返すようなことがあったら、装備を調え直してまた来るってリュウジが言うかもしれないけれど。

 「でも、さすが鬼工って歴史ある学校なだけあるっスよね。オレ、最初は七不思議なんて眉唾かと思ってたんっスけど」
 「あ、オレもだ、ノブオ。どうせ意味なんかない落書きなんだろうな、とか思った」
 「オイ、ハヤト!!! お前ってロマンがねえな」
 「そんなこと言ったってさ……」
 「ノブオもだぜ!!! 俺がお前に薦めてやってる漫画は、どれも漢の熱いロマンを伝えるやつばっかりだろ?」
 「あ――そうでした、兄貴。オレ、ほんとスミマセン。精進するっス!!」
 
 「ダイゴは? どう思ってた?」
 一列になって歩いているので、オレは振り返ってダイゴに問う。
 「俺か? そうだな、ハヤト。俺は、物事には何でも因果があると思うので。どのような言い伝えであれ、おそらくは原因があるであろうし。俺はこう見えても好きなほうだ。こうした探検は」
 「へえ。意外だな」
 「そうか? しかしハヤトとて嫌いではなかろう?」
 「そうだね。うん。オレ、不思議なことに敏感なほうじゃないけど。それでも何だっけ? あのプールの話のときにはちょこっと背筋がぞくぞくしたかな。あの、神様のお使いのちいさい存在がプールを守ってくれている、って話」
 「ああ――なるほどな」
 限りなく優しくダイゴの目が細められたのをオレは見た。
 それを確認してから前を見たら、今度は先頭のリュウジが振り向いてオレを見ていた。リュウジも優しい顔をしていた。
 ……なんだろう? ふたりの視線の意味はわからないけど、どうしてだか胸の奥があったかくなっているのは、いったいなんだろう。

 ダイゴがこまめに腕時計に目をやりながら暗い地下通路を進む。
 だいたい3分おきにダイゴの声が経過時間を伝えてくれる。
 「リュウジ。さきほどの時点から12分経過だ」
 「オウ、そうか。そしたらあとちょっとだけ行って、何もなかったら戻るとするか」
 そうだね、なんてオレたちがリュウジに向けて肯定の返事をしようとしたときだった。
 「お――?」
 リュウジの声音が変わる。幾分の緊張感をはらんでいた。
 
 「どうした? リュウジ」
 「ハヤト。ちょっと見てみろ」
 促されて、一歩前にいるリュウジに並んだ。そしてリュウジの手持ちの懐中電灯に照らされた前方を見る。
 「あれ……? なんか広い」
 リュウジと目を見交わして進んだ一歩先は、今まで歩いてきた細くて暗い地下通路とは打って変わって広い場所――丸い形の広場のようなところだったんだ。

 歩いていた通路とは桁違いに天井が高いその広場。足音すらも響き渡る。
 コンクリートで堅められたそこには、ひんやりとした空気が満ちていた。
 
 『6)道:北校舎階段に地下あり 既に封鎖される 因縁ある場所へ続くとされる』
 『鬼工七不思議』の6つめに従って辿り着いたこの広場。ここが因縁ある場所なんだろうか。
 
 「なんだ? ここは」
 「何っスかね……兄貴」
 気の抜けたような主従の声が広場にこだました。
 オレたちの冒険の行き着いた先にあった広場は、なにもない空虚なところだった。
 懐中電灯の生んだ光はただ壁を丸く浮かび上がらせるだけだった。

 それからしばらくオレたちは、その広場の様子をあれこれ見て回った。
 調べてみてわかったことは何もなかった。
 「なんかこう、手がかりになるようなものとか置いてあってもよさそうなもんっスけどね」
 「本当だな、ノブオ。ここまで綺麗に何もないというのが却って不自然というか」
 「わざわざ掘って作ったんだろうからね、道も広場も。前は何かに使われていたんだろうけど」
 
 そんなオレたちのやりとりを聞いていたリュウジがぽつりと言う。
 「なあ――なんか聞こえねえ?」
 「え――?」
 リュウジの声にオレたちは話しを収めて耳をすませた。けれどもオレには何も聞こえてこない。
 「何も聞こえないけど? どこらへんで聞こえたんだ? リュウジ」
 「このあたりから」
 リュウジが示すのは立ち位置の背後、オレたちが入ってきた通路の正面にあたる壁だった。
 「なんだかな。この向こう側のあたりから動物か何かの鳴き声がしたように感じたぜ」
 言って、リュウジが壁に耳をつけた。オレたちもそれに倣う。

 しばらくそのまま壁の向こうの様子を窺う。
 因縁のある場所へ通じるという地下通路の導く先の広場。果たしてここが因縁ある場所そのものなのか、この先があるのか――
 なんて考えながらひんやりとした壁に張り付いていたオレたちの耳に聞こえてきた。
 そう、リュウジが言ったみたいに動物――おそらく小動物の鳴く声と、それに続いて誰かの絶叫が!!!

 何だ?――とオレたちは顔を見合わせた。
 「聞こえたっスよ、兄貴!!!」
 「だろ? ノブオ」
 「って、この壁の向こうに何かあるってこと? 誰かいる?」
 「そのようだな、ハヤト」
 そしてオレたちは、ふたたびその壁のあたりを探索した。
 暗いから手探りで壁を検めるんだけれども、何のとっかかりも見あたらない。
 壁の向こうからはまだ声がとぎれとぎれに聞こえてくるようにも思える。
 言いしれぬ興奮とすこしばかりの恐怖みたいなのに支配されていたオレを我に返らせたのは、ダイゴの落ち着いた声だった。
 「リュウジ。風の流れがある。ほら、ここだ」
 
 ダイゴが気づいた風の流れてくるところ。丸い広場の壁づたいの、言われてよく見てみればほかの部分より壁のコンクリートの色が少々濃いように思えるところだった。
 「ここだな? ダイゴ」
 「押忍、リュウジ」
 「もしかしてここ、隠し扉かもしれねえよな。よっしゃ、ダイゴ。一緒に押してくれや!!!」
 「あわわ、兄貴、大丈夫っスか? 向こう側に何がいるか、わかったもんじゃないっスよ?」
 「わはははは!!! 怖いのか? ノブオ。大丈夫だろ。声がするんだし」
 「声ってか、叫んでるようだったけど……ほんとに人かどうかも」
 なんて言いかけたんだけど、そんなオレやノブオにはリュウジはお構いなし。
 「いくぜ、ダイゴ!!! せ~の……」
 かけ声もろとも、狙ったところに体当たりを喰らわすリュウジとダイゴ。オレもノブオもはらはらしながら見守っている。
 
 そして――――
 ふたりが押し開けた、地下通路の行き止まりの広場のその先は、どういうわけか『外』だった。
 陽の当たる、すっかり春めいた風景が突然目の前に現れたんだ。
 
 「あ……れ? 外?」
 あまりに突然、予期しなかった光景が広がっていることと、暗いところから急に明るいところへ出たことによる混乱がオレに襲いかかった。
 これはオレだけではなくて、ほかの3人にも同じみたいだった。それぞれ何かつぶやいてからぼんやりした顔を見合わせていたから。

 「なんだ? ここは一体どこだ?」
 「ええっと……どこだろ?」
 リュウジと顔を見合わせていぶかしむ。
 「海がこちらの方角に見えるということは、鬼工はあちらだな」
 「そうみたいっスね、ダイゴさん。あ。ここ、運動場っスね」
 「そうか。見たことあると思ったぜ。ってか、こんなところに出口があるってどういうことだ?」
 「ええっと……なんでだろ」
 地下通路を歩いていて起伏があるなんて思えなかったけれど、オレたちが地上に出たところっていうのはすこし小高くなっている場所にある町営グラウンドだった。体育祭で使ったところだ。
 グラウンドの横にある茂みの一角に、その出口が隠されていたんだ。
 「まったくもって不可解だよな?」
 なんて言い合っていたオレたちのすぐ横で物音がした。
 かと思うと、オレたちが出てきた出口とはすこし離れたところがざわめいて――

 「うおおおおおお!!!」
 かくなる絶叫が場をどよもした。
 オレたちは瞬時に身構えて、そちらに視線を送る――そしてオレたちの目に飛び込んできた大きな奴は必至の形相でオレたち4人のど真ん中を突っ切って、闇雲に走り去る。
 「おい、落ち着くのだ、ゴンタ!! 戻れ!!」
 そして、次に聞こえてきた声。どこかで聞いたことのある声。
 続いてどこかで感じたことのある気配、さらにどこかで見たことのある特徴ある髪型。

 『鬼工七不思議』の6つめの言うところによる、因縁ある場所でオレたちが行き合ったのは、暗黒一家だった。
 奴らはオレたちを認めて同時に一瞬奇妙な表情を浮かべ、コウヘイが何かを言いかけた様子を見せたがそのまま町の方角へと走っていった。そう、最初に駆けだしたゴンタを追いかけて。

 とにかくもう、まったくもって訳がわからなかった。
 鬼工の地下がこんなところに通じていることもしかり、何故だか暗黒一家に出くわしたこともしかり。
 奴らの姿が見えなくなるまでぽかんと眺めていて、一息ついたあとにリュウジが思いついたようにこう言った。
 「そうか。さっき叫び声が聞こえたと思ったのは奴だったのか」
 「どうしたんでしょうね?」
 「さあね。あ、ネズミでも出たんじゃない? ゴンタ、嫌いだっただろ。ネズミ」
 「そういえば何かの鳴き声が一緒に聞こえたのだからな。おそらくハヤトの言うとおりだろう」
 「だな、ダイゴ。ってか、なんで奴らがこんなとこにいるんだ?」
 リュウジの疑問はオレたち全員の疑問だった。

 それからオレたちは、奴らが出てきたと思われるあたりをちょっと調べてみた。けれども茂みの内側に通路があることを窺わせるものなんて何もない。
 それだけではなくて、オレたちが出てきたはずの場所にも、外からそれとわかる『入口』は見つけられなくなっていた。
 もう何が不思議なんだか、何が不思議じゃないんだか――なんてリュウジがぼやいている。
 
 しばらくあちらこちらを検めたあとに、諦めたようにリュウジが言った。
 「しかたねえな。んじゃ普通に歩いて戻るか。教室に鞄とか置きっぱなしだからな」
 「そうだね……。ぼちぼち校門閉まる時間だし」
 「押忍。怪しまれぬ前に南京錠も元に戻しておかねば」
 そうしてオレたちは、奇妙な気分を引きずったままその場を立ち去ることにしたんだ。
 
 と、その時。ちょうど暗黒一家が出てきたとおぼしきあたりを名残惜しそうに眺めていたノブオが声を上げた。
 「あれ? なんだろ、これ? ヤツらが落としていったんっスかね?」
 「どれ――?」
 ノブオの拾い上げたのは折りたたまれた紙切れだった。促されるままリュウジに手渡す。
 それを広げたリュウジは、目が追うままを声にする。
 「なになに……『暗黒七不思議』だと?」
 「ええっ? 何それ?」
 リュウジの手元の紙切れを一同でのぞき込んでみた。
 そろそろ暮れようとしている春の陽差しで読んだそれは――ここ数日リュウジが持って歩いていたメモ用紙と似たり寄ったりのものだった……。

 「どこにでも似たような話ってあるんだな」
 4人で町を目指して歩きながら、ぽつりとリュウジがこう言った。
 「そうだね。これが因縁そのものってことなのかもね」
 「よくわかんねえけどな」
 奴らの落としていったメモ『暗黒七不思議』は、オレたちはそんなに詳しく見てはいない。リュウジが他校の秘密を変に知るのは気が引けると言って、すぐにたたんでしまったから。
 「それよかさ、明日あたり暗黒に顔出してみようぜ!!」
 「え? なんで?」
 「ほら、返してやらねえと悪いだろ、これ。マルがついてるとことそうでないとこがあったから、多分まだ決着ついてねえところあるだろうしな。それに学校の秘密なんてもんは、おいそれと他に知られちゃまずいかも知んねぇし」
 なんとまあ、リュウジって妙に義理堅いよな。それがリュウジの仁義ってやつなんだろうか。

 「そしたら明日の放課後はまず暗黒行って。それからだね」
 「ん? それから何するんだっけか?」
 「あれ? リュウジ、これで終わりじゃないだろ? オレたちのほうも。失われた7つめを探すんじゃなかった?」
 「お!!! そう言やそうだな、ハヤト!!! お前、なんだかやる気じゃねえか!!!」
 「だって、なんか気になるじゃん? すごい不思議なことが何か待ってるかもよ?」
 「よっしゃ、いい心意気だぜハヤト!!!」
 リュウジがわはははは、と笑いながらオレの背中をどやしつける。

 そろそろ春の匂いの混じり込んでいる夕方前の鬼浜。鬼工にも鬼浜町にも、まだまだいろんな不思議が潜んでいるのかも。
 オレが鬼工に入ってリュウジたちと巡り会って――そのこと自体が不思議だったのかもな、なんてリュウジに叩かれた背中が痺れるのを感じながらひとり思ってくすりと笑う。
 オレの気持ちの落ち着く居場所。ここにはいつも仲間がいる。
 

 
   *  完  *



スポンサーサイト

各話御案内/鬼工七不思議


 鬼工七不思議 1-1
 鬼工七不思議 1-2

 鬼工七不思議 2-1
 鬼工七不思議 2-2

 鬼工七不思議 3-1
 鬼工七不思議 3-2

 鬼工七不思議 4-1
 鬼工七不思議 4-2

 鬼工七不思議 5-1
 鬼工七不思議 5-2

 鬼工七不思議 6-1
 鬼工七不思議 6-2

 鬼工七不思議 7-1
 鬼工七不思議 7-2

 鬼工七不思議 8-1
 鬼工七不思議 8-2

 鬼工七不思議 9-1
 鬼工七不思議 9-2
 鬼工七不思議 9-3

| ホーム |


 BLOG TOP 


  1. 無料アクセス解析
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。