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鬼浜戦隊ショウテンジャー




   * 1 *


 本番開始は午前11時。定刻まで10分を切った。
 舞台袖からちらりと覗くと、地面にござを敷き詰めただけの客席にはびっしりとお客さんが集まっていた。
 地元のちいさい子たちが主だけど、その家族らしき人たちもけっこういた。商店街でお馴染みの顔も数多ある。前もって仕込んである鬼工野球部の面々も確認できた。
 ポスター作成の仕事を請け負った亜由姉さんもいたし、亜由姉さんの友達で鬼工の保健室の遥先生の姿も見える。ほかにも知った顔がちらほらと。
 あとは、花束を抱えたお姉さん方の姿も見える。白鳥先生のファンの人たちかな? いったいどこで聞きつけてきたんだろう。
 開演5分前になると、短く鐘が振られた。商店街の抽選会のときに大当たりが出ると鳴らされるやつのようだ。

 その音を合図に、リュウジが言った。
「みんな、いい舞台にしようぜ!!!」
「は~い、兄貴!! オレ、ずっこけないようにがんばるっス」
「だな。俺も勢いつきすぎて舞台から落ちたりしないようにするわ」
「ふふふ。私は客席からの声援を浴びて輝いてみせるからね」
 ヒーロー組は口々に言ってる。思ったほど堅くなってる感じじゃないのがさすがだ。
「ハヤトもダイゴも、よろしく頼むぜ!!!」
「押忍。できるかぎりやってみよう」
「うん。そうだね。でもオレ、なんか緊張してるんだけど……」
「わははははは!!! ハヤトが緊張してるってどんな冗談だよ!!!」
「って、リュウジ。失礼だな」
 むすっと言ったらリュウジがオレの背中をばしっと叩いてこう言った。
「ハヤト。お前がそれでどうすんだ? この企画はいわばお前が支柱だろ。しっかりしようぜ。いつも通りでいいんだからな。ハヤトは特に、前にライブハウスとか出てただろ? 舞台経験者なんだし、落ち着いてればそれで大丈夫だぜ。な、ハヤト?」
 不思議だ。リュウジがオレの目を見てそう言っただけでなんだか落ち着くオレがいる。

 ひとつ大きく深呼吸。そのあとオレは思い出したので言ってみた。
「そうだ。ライブって言えば、ステージに上がる前に円陣組んで気合い入れたっけ」
「なるほどな!!! よし、やってみるか」
 そしてオレたちは輪になって、それぞれ右手を真ん中に出し合って。
「よっしゃ!!! 気合い入れてくんで夜露死苦ぅ!!!」
「夜露死苦ぅ!!」
 リュウジの先導に従ってみんなで声を出す。うん、それで完全に気分が切り替わった。
 あとはやるだけ。やれるところまでやるだけだ。
 そうして今度は長々と鐘の音が公園に響き渡った。開演時刻の合図だった。

 ダイゴとオレは客席後方からの登場となる。いったん舞台袖からこっそりと出て公園の外を回って持ち場へスタンバイ。
 舞台背面のパネルには、書き割りの代わりに商店街で実際に撮影された写真を大きく引き伸ばしたものが貼られている。商店街の写真館の人がやってくれたんだと昨日リュウジが教えてくれた。
 
 舞台にリュウジが出る。両脇には俊也さんと白鳥先生。すると客席から拍手が起こった。
 リュウジの衣装は昇龍軒の上っ張り。俊也さんはねじりハチマキとゴム長姿、それから白鳥先生はあおいさんに借りたらしい店名入りの前掛けをつけている。
 ちなみに本番の今日は全員ワイヤレスのピンマイクをつけることになっている。
「オウ、みんな元気そうだな!!!」
「あ、リュウジだっ」
「は~い!! げんきだよ~!!」
 リュウジの呼びかけに、口々に客席の子供たちが応える声。
「元気なのは魚食べてるからだよな? 知ってるか? 魚食べると頭よくなるんだよなー」
 稽古のときよりもおどけた口調で俊也さんが言った。
「ふふふ。女の子は笑顔が素敵だ。どの笑顔にも花が似合う」
 白鳥先生は手に持っていた赤いチューリップを、客席の女の子に差し出した。
 受けとった子はうれしそうにしていたし、大人のお姉さんとおぼしき観客からは羨望のため息が聞こえてきた。
「今日も鬼浜町商店街は元気で楽しくて平和で、最高だよな!!!」
 拳を握った右腕を体の前にもってきて、リュウジは大きく言い放った。
 当然のように客席からはいいお返事。立ち上がって飛び跳ねてる子なんかもいた。
 うん。つかみは上々だ。

 さて、そろそろオレたちの出番だ。
 怪人役のオレたちの衣装は、古くなった特攻服を染めたもの。ダイゴのは深緑、オレは紺色にした。暗めの色のほうがヒーローたちとの差がくっきりするからだ。
 ビニール製のマントを背中にかけて、顔がバレないようにメットとゴーグルを装着して。
 ダイゴが派手にデコレーションしてくれた、電飾までついている自転車。それぞれ風神と雷神のステッカーを貼ってあるそれに跨って、ダイゴとオレは握手を交わした。
「OK。行こうか、ダイゴ」
「押忍、ハヤト」
 頷き合ったオレたちは、自転車のスタンドを蹴って走り出す。
 客席後方の盆踊り用のやぐらを一周、さらにもう一周。ここらで後ろのほうに座っていた子供らの幾人かがこちらに気がつく。
 そのあと別々に、ダイゴは上手側(客席から舞台に向かって右側)の通路を、オレは下手側(客席から舞台に向かって左側)の通路を通って舞台裏へと自転車を走らせる。
 人目をひくように動くっていう意図どおり、次第に客席がざわめいてきていた。
 ……こんなときに言うのもアレだけど、彩色済みのダンボールで覆ってある自転車、やけにバランス悪くて。転んだりしないようにと内心びくびくのオレ。
 実際、人前に出ることの緊張感なんてきれいにどこかへ飛んでくぐらいの心持ちだった。
 
 台本通り無事に舞台裏まで辿り着いたオレは、一歩早かったダイゴの姿を見てほっと安堵しつつ、機材レンタル屋さんの人の手を借りてピンマイクをつけた。
「ハヤト、大丈夫だったか?」
「うん、何とか。けっこう必死だったけど」
「というか、残念だな。昼間だからか。電飾はあまり効果がなかったように思える」
「って、ダイゴ、余裕あるな……そんなとこまでチェックしてたのか」
「それはそうだ。俺にしてみればそれなりに作品なので。ハヤトにとってこの舞台そのものが作品なのと同義なのだ」
 ダイゴはこだわるタイプだなあ、と改めて感心してみたり。
 
 ダイゴと密かにやりとりしてる間も、客席はしっかり騒然となっていた。よしよし。
 パネルの裏で聞いていても、きちんと通るリュウジの声に頼もしさを感じるオレ。
「うん? 今、誰か通っていったよな? 見えたか?」
「見た、ぼく見たよ、リュウジ~」
「なに、あれ? おかしな自転車のってた!!!」
 客席から聞こえる子供の声。ダイゴがちょっとがっかりしてた。
「いかにも怪しい姿だったね、諸君? 誰だったんだろう」
「だな。マシンはおかしいってゆーか、割とかっこよかった気もするけども」
 俊也さんのこの台詞は完全にアドリブ。ダイゴ、これですこしは気分よくなったかな。
 
 裏にいるオレたちには見えないけれど、ここでノブオが舞台に上がったはず。
 リュウジと同じ昇龍軒の上っ張りで登場する手筈のノブオの声が聞こえてくる。きっかけを作る台詞が叫ばれた。
「兄貴!! 大変っス!! 今、妙な奴らが商店街に――!!」
「うん? なんだと?」
「出前の途中に見たんですけど、奴らきっと怪人っス!! さっきは花屋の兄貴んとこで騒いでて、今は魚屋の兄貴んとこで暴れてるんっスよ~!!」
「え。魚屋って、ウチか?」
「そうっス、俊也兄貴!!」
「もしや花が踏みにじられた? だとしたら由々しき問題だ」
「よっしゃ!!! ちょっと様子を見にいこうぜ!!!」
 ここで舞台上の4人は一旦上手にはけることになっている。
 なぜか客席から子供のではない黄色い歓声が起こったのは、おそらく白鳥先生がアドリブで何かやったんだろう。



   * 2 *
 

 舞台背面のパネルの写真が、ふたりの黒子――商店街の世話役の人らしい――によって貼り替えられた。場面転換の合図だ。
 最初の写真は商店街の町並み。それで新しく貼られたほうは、鬼浜鮮魚店の店構えのアップ写真だ。
 準備完了の頃合いを見計らって、ダイゴとオレの怪人組がはじめて舞台に上がる。
 オレの手にある小道具は食品サンプルの鯛。ダイゴはひまわりの花束を持ってる。
 よし、がんばろう。
 オレも声を張って、台詞言わないといけないんだ。
「見てみろよ、カイジングリーン。さすがにイキがいいよな、ここの魚は」
 手にした模造品の鯛を頭上に掲げてアピールするオレ。
「押忍、カイジンブルー。良い商店街には佳い品が自然と集まるゆえ」
 ダイゴも演技として、幾分乱暴に花束を振りかざした。
 どうだったろう。ちゃんと喋れていたんだろうか――いささか心配になるオレだけど、客席の子供たちからブーイングをもらったのでOKだったと理解できた。

 いかにブーイングとはいえ、客席から反応をもらえるのっておもしろいかも。そう考えたら気分上々。
「この調子で、商店街をオレたちのもとに跪かせようか。そしたら何だってできる」
「賛成だ。ところで腹が減ったな。壮大な計画の前には腹ごしらえが必要ではないか?」
「言えてる。何かうまいものを捜そうか、カイジングリーン」
「では手始めにラーメンでもいただくとしよう。旨い店があると聞いているので」
「あはははは。それはいい案だ」
「そうであろう? さあ、食って食って、食い尽くすのだ。わっはっは」
 言って、ダイゴとオレは客席をあおるような仕草をとって見せた。
「なんだって~?」
「ダメだぞ、怪人!! そんなの許さないからなっ」
「こんなやつら、やっつけちゃってよぅ」
 客席は最高潮に盛り上がっていた。まあ、大半は幼い声の野次だったけど。

 子供たちのテンションが、放っておいたら舞台に殺到しそうな感じになるぎりぎりを見切って、満を持して登場するヒーロー。
 パネル裏で最初の衣装からバトルスーツへ着替え、フルフェイスのマスクを装着した4人がそこで舞台に再登場となる。
「ショウリュウレッド、参上だぜ!!!」
 咆吼しつつ、設えられた舞台の脇にあった古木の枝から飛び降りたリュウジが姿を現す。衣装合わせのときに見た赤いマントが翻る瞬間、客席から歓声があがった。ひらりと姿を見せたあとのリュウジは、オレたちには見慣れた闘争ポーズを作ってた。
 その瞬間をあえて待っていたかのように、怪人たるダイゴとオレはわかりきった仕草で周囲を見回した。
「フィッシュシルバー、只今見参」
 得意のバク転を決めて俊也さんがリュウジに続く。舞台上手から下手までの連続技で客席を沸かせたあとにリュウジの横へ並んだ。
「フラワーホワイトの御目見得だ」
 白鳥先生の連続ターン、そしてジャンプ。華麗な身のこなしは、もともと白鳥先生目当てで来ていたらしいお姉さんたちだけでなく、地元の女の子たちも虜にした様子だった。
「デマエピンク、お待たせしました~」
 小走りにステージに上がるノブオは岡持を提げている。それを舞台後方へ置いてから白鳥先生に習ったターンとジャンプを見せる。華麗ではないけれど、なんか一生懸命さが伝わってきて微笑ましい。客席からは「ノブオ兄ちゃ~ん」なんて声がかかった。
「愛と」
「平和と」
「友情の」
「鬼浜戦隊」
「ショウテンジャー参上!!!」
 勢揃いしたヒーローは、ノブオ、白鳥先生、俊也さん、リュウジの順でひと言ずつ、最後は全員で声を合わせて決め台詞を言ったあとにポーズをとった。

 客席が大いに盛り上がっている。なんかうれしい――なんて浸ってる場合じゃないんだ。
「何者だ? そんな仰々しいポーズをとって」
「まさかと思うが、我々の邪魔をしようとでも?」
 オレとダイゴがヒーローたちに向かって放つ台詞。
「邪魔ってーか、ブルーのお前!! 尾ひれ持って振り回すなよ。新鮮な魚が泣くだろうが」
 俊也さんがオレの目前に立ちはだかった。
「グリーンの君もだ。花は振り回すものではなく、胸に抱くように愛でるもの」
 ダイゴの前に白鳥先生が立ちふさがる。
「おい、怪人ども!!! 俺らに喧嘩売ろうってのか?」
 ときどきリアルに聞くのと似たようなリュウジの台詞を承けて、オレが返す番。
「別に喧嘩なんかしないさ。ただオレたちがこの商店街をいただく、ってだけ」
「押忍。俺たちはここが気に入ったのでな」
「気に入ったからって、お前らみたいな狼藉を許せるわけはねえぜ!!!」
「そうだよね、みんな~!!」
 と、ノブオが客席に向かって煽りを入れる。

 ここで客席が沸いてくれないと展開上困るんだけど、どうやら想定通りに加熱してきたたので一安心。
「ゆるさないぞ、怪人め~!!」
「ノブオ兄ちゃん、やっつけちゃえ!!」
「白いお兄さん、がんばって。おねがいっ」
 罵声を浴びて喜ぶ自分がいるなんて……いや、そういう話じゃないか。
 大勢の味方を得たリュウジが客席を向いた。
「みんな!!! 俺たちを応援してくれるよな?」
 異を唱える口なんて、あるわけがなかった。子供って素直だ。
 
 舞台上ではヒーローと怪人の闘いが繰り広げられる。
「さーて、行くか」
 オレに向かって、俊也さんが懐から武器を取り出した。白鳥先生はダイゴに相対するポジション。
 オレとダイゴは背中合わせに位置をとり、その攻撃に備えるといった具合だ。
「説明しよう。フィッシュシルバーの武器は魚の鱗を材料にした銀鱗手裏剣であーる。これが当たると、呪いがかかって三日三晩魚の匂いがとれないのだ!!」
 舞台の隅で客席を向いて、説明を加えるのがノブオの役目。
 その口上を聞きながらオレは手裏剣――ダンボール製でアルミ箔を貼ってある――を右に左に避けている。
「説明しよう。フラワーホワイトの武器は吹き矢であーる。バラの棘でできた矢がささった者は、フラワーホワイトに恋しちゃうのだ!!」
 あれ? そんな設定、台本にあったっけ? ノブオのアドリブか?
 これを聞いた客席のお姉さんが妙に盛り上がってるから、まあいいか。
 左右からの攻撃をどうにか避けようとするダイゴとオレ。いかにも追い込まれている、っていうのをアピールする情けない感じ。
 そこを狙うのがリュウジ、といった寸法だ。

「すきあり!!! うォりゃぁぁぁぁぁ!!!」
 防戦一方に追い込まれているダイゴとオレに向かって、リュウジは拳を向けた。
「さらに説明しよう。ショウリュウレッドに武器はいらない。鍛え抜かれた鋼のような拳が炸裂すれば、怪人なんて一発で倒せるはずなんだ!!」
 リュウジの拳はゆっくりとオレに向かってくる。それを避けつつ、手裏剣をかいくぐりつつ。ヒーローたちはなるべく当てないようにと気を配ってくれてる。多分大変だと思う。
 やられそうになるオレの前に、ダイゴが回ってくる。
 そして大きな両手でリュウジの拳を受け止めた。
 もちろん力加減はされていたはずだけど、近くで聞いたらそれなりにいい音がした。
 それに気を取られていたら、白鳥先生の吹き矢がオレのゴーグルに命中したようだ。
 ……まさか。さっきのノブオの説明、冗談だよな。ある意味呪いをかけられた気分。
 止めた拳を逆に跳ね返して、ダイゴはリュウジに向かい合う。
 オレは吹き矢を奪おうと白鳥先生に突撃して、落ちていた手裏剣を拾って逆に俊也さんのほうへと投げ返す。
 客席には、それなりに本気に見えているだろうか。というか少なくともオレはかなり本気だ。息が上がってきてる。



   * 3 *


 鬼浜戦隊ショウテンジャー・ヒーローショーは、現在「起承転結」でいう「転」の部分である。それをさらに展開させるきっかけまで到達した。
 ヒーロー4人に取り囲まれた怪人は絶体絶命。
「カイジンブルー。このままでは拙い。圧倒的に不利のようだ」
「ああ、言えてる。そしたら仲間を呼ぼう」
 ダイゴに返して、オレは舞台の一番前まで進んで客席に向かって声を出す。
「よし、今だ。軍団集合!!」
 オレの呼びかけに応えるのは、客席に仕込んであった怪人の仲間ども。
 黒の揃いのジャージを着て、黒の目出し帽を被った仲間の正体は鬼工野球部チームだ。
「ウィ~~~ッス」
「ウィ~~~ッス」
「ウィ~~~ッス」

 口々に言いつつ彼らが立ち上がった瞬間、舞台上から見てたらそこかしこで軽い混乱が起きてた。びっくりしたのか赤ちゃんの泣き声が聞こえた。悪いことしちゃったかな……。
「うわあああ!!! なんかでた~!!」
「ウィ~~~ッス」
「なにこれ、怪人?」
「ウィ~~~ッス」
「うわーん、こわいよぅ……」
 軍団の黒ずくめの姿は、想像してたよりも子供たちに恐れられているみたいだ。

 本当だったら少し彼らに客席を動き回ってもらうはずだったけど、それは切り上げて次の展開へ持ち込もう――こっそりとリュウジに提案しようと思って振り返ったら、目があった瞬間にリュウジが頷いた。言うまでもなくわかってくれたんだ。
 オレの横にリュウジが並んだ。
「みんな!!! 鬼浜町商店街の平和のために力を貸してくれ!!!」
 リュウジの隣に立ち位置を変えたノブオは、舞台に上がるときに持っていた岡持を携えている。
 蓋を持ち上げると、中からカラフルなスポンジボールがたくさん転がった。
「みんな。怪人軍団にはコレがきくからね!! これで怪人を退治しよう!!」
 転がったボールを次々と客席に投げ込むノブオ。
 それを受け取った子供は、それ、とばかりに怪人軍団を攻撃しはじめた。

 さらにセットの脇に隠してあった4つの岡持が俊也さんと白鳥先生の手で運び込まれる。昇龍軒のだけでは足りなくて蕎麦屋さんからも借りてきたんだそうだ。
 ふたりはそのまま岡持を手に、客席へ降りていった。適当なところで蓋を開けて、子供たちにボールを配る。
 ボールを手にした子供たちは、嬉々として攻撃――ヒーローのお手伝いに加わってた。
 舞台に残ったオレはノブオと、ダイゴはリュウジと互いに取っ組み合うポーズをとりながら客席の動向を見守った。

 見下ろす客席は、まるでボールプールか、遊園地のゲームコーナーにあるような「鬼なかせ」ゲームのような感じになっている。にぎやかで楽しげだ。
 子供たちははしゃいでおり、俊也さんは「もっとやれ~」とはやし立てており、白鳥先生からボールを受け取ったお姉さんはそれを投げずにバッグにしまいこんでいる。
 怪人軍団は相変わらず「ウィ~~~ッス」を言いながら動き回っている。とくに決まり事をお願いしたわけではないけれど、派手にやられた体裁で泣き真似をしてくれる団員がいたり、直接向かってくる子供に「高い高い」してやる団員がいたり。
 また中身が野球部だから習性なのか、スポンジボールをキャッチしたらごく自然な動作で別の団員へ投げてるのもいた。
「そろそろだね」
 オレはピンマイクを手で覆って、リュウジたちにしか聞こえないように小さく言った。
 みんなが頷いたのを確認して、オレからも頷き返す。さあ、決着だ。

 リュウジとノブオは、ダイゴとオレを捕まえて床へと押さえ込んだ。
「捕まえたぜ、怪人!!!」
「オレもっス!!」
 ふたりの声が響き、客席の視線がこちらへ戻される。同時に怪人軍団たちへの攻撃はそこで止んだ。
「拙い。このままでは全員やられてしまうゆえ」
「そうみたいだ、カイジングリーン……よし、逃げろ!! 軍団撤収!!」
 オレの合図に右手を挙げて、例の「ウィ~~~ッス」を言ったあと、怪人軍団は二列縦隊を作って公園から走って出て行った。
 腰の位置に軽く握った手を添えて、いつも見るランニング風景を彷彿とさせる彼らに心の中で拍手を贈っておこう。
「オウ!!! みんな、逃げる奴らは追いかけねえで大丈夫だからな!!! もう悪さしねえから」
 リュウジが言った。これはアドリブ。ボールを持って立ち上がりかけた子がいたからだ。

 よし、ラストスパート。
 俊也さんと白鳥先生が舞台に戻ってきたのが合図。ダイゴとオレは、それぞれの肩を押さえつけているヒーローの腕からすり抜けて立ち上がる。
「しかたない。今日のところはこれくらいにしといてやろうか」
「押忍。その気になればまたいつでも来られるゆえ」
「覚えておけ、鬼浜戦隊ショウテンジャー」
「いつかきっとオレたちの野望が達成する、っていうことを」
 それが台本にある、ダイゴとオレの最後の台詞だった。
 言い放ったあとは舞台の裏へ戻って、登場のときと同じようにデコレーション自転車に乗って颯爽と公園を後にする、という手筈。

 が――
 下手にはける直前のことだった。
「怪人、なんで悪いことするんだよっ!!!」
 幼いが真剣な声とともに、客席からボールがオレに向かって飛んできた。
 スポンジボールだからダメージはないはず、と高をくくっていたのがまずかった。
 どこでどう混ざったのか、投球者の私物だったのか。それはピンクのゴムボールだった。
 それがオレの喉に当たった。体の中で唯一剥き出しの喉へ。
 予期せぬ度合いの衝撃に慌てたオレはさらに足許に散らばっていた模造品の手裏剣を踏んで、そのまま足を取られて転倒してしまった。
 そして――
 一体、何のはずみだったんだろう。
 あれほど正体がばれないようにと気をつけて装着していたメットとゴーグルが外れてしまったんだ。

 気がついたときには、オレは思いっきり素顔を見せていた。
 ヤバいね、オレ。やっちゃったね、カイジンブルー。
 鬼浜町商店街では今後絶対に悪い奴呼ばわりされるだろうな。
 さっきシメの台詞を言ったところだったのに、思わず呟いてしまった。ピンマイクが生きていることなんて、頭の隅っこにもなかった。
「――オレもヒーローになりたかったな……」

 結果的にオレの最初で最後のアドリブの台詞は、客席に笑いをもたらしたようだった。
 とにもかくにもダイゴに助け起こされて、何事もなかったように、というのは苦しいながらも再びメットとゴーグルを着けてから自転車に乗って撤収した。
 想定される展開としてはオレたちもスポンジボールの洗礼を浴びるんじゃないかと考えていたけれど、それは思っていたよりも少なかった。
 逆に拍手しながら見送ってくれてる子供もいたような気がした。
 
 公園から距離をとる最中にスピーカーから聞こえてきたリュウジの声。
「みんなのおかげで鬼浜町商店街には平和が戻ってきたぜ!!! これからも夜露死苦ぅ!!!」
 この台詞がシメだ。鬼浜戦隊ショウテンジャー・ヒーローショーは終了したんだ。
 風にのってオレの耳にそれが届いた瞬間、自然と自転車をとめてほっと一息ついていた。
「ごくろうだった、ハヤト。一仕事終わったな」
 同じくペダルから足を地面に移して、ダイゴがオレの肩をぽんぽん、と叩いてくれる。
 それへオレはにこりと笑って見せて――
 よっぽど安心したのか、走っていないのに自転車のバランスを崩して、また転びかけた。幸いにもダイゴが気づいて、手を添えてくれたからどうにか持ちこたえたけれど。



   * 4 *


 派手に目立つ自転車は、いったん公園近くのゲーセンの駐輪場に預けさせてもらった。前もってリュウジがその約束を取り付けてくれていた。
 そしてダイゴとオレは舞台衣装から私服に着替えるために、こっそり人目を忍んで商店街の酒屋さんへ向かった。ここの奥座敷が商店街の寄り合い所になっている。
 店先でお辞儀をすると酒屋さんの赤ら顔の店主氏はにっこりと笑ってくれて、オレたちを通してくれた。何度か挨拶するうちに顔を覚えてもらえたようだ。

 ひとまず着替えて、若奥さんと思われる人が持ってきてくれたジュースで喉を潤して。
 ようやく人心地ついたオレはダイゴとあらためて「おつかれ」を言い合ったところ。
「大仕事だったな、ハヤト。企画成功本当におめでとう」
 ダイゴの笑みは奥深い表情に見えた。本気でねぎらってくれているのがわかる。
「いや、オレに祝福っていうのは違うよ、ダイゴ。ただオレは自分のやりたいように話を力業で持ってったっていうか、乱入しただけだし。オレ全然力持ちじゃないのにね」
 いくらか普段よりテンション高くダイゴに言ったら、今度は軽い笑顔を寄越してくれた。
「それに、ほら。全体的には成功だったっぽいけどさ。オレ、最後に失敗しちゃったし」
「あれはあれでよかったのではないか? というより、俺など知らずに見ておれば、あの場面も台本にあった通り、と受け取ってもおかしくないと思ったが」
「え、そんなもん? オレ、うっかりとんでもないこと口走った気がするけど」
「とんでもなくはないと思う。そもそもヒーローも怪人も、同じく『覇』を唱えんとする立場であろう? 手段に一般的な正義が強調されておればヒーロー、逆なら怪人といったところか。目指すところは似たようなものだと俺は仮説するが」
「へ……えぇぇ。なんかオレ感心した。ダイゴって、そういう解釈なんだ。だてにマニアじゃないよな。おもちゃ見ながらそんなこと考えてるんだ」
「まあ、それだけではないがな」
「ん? 他にも何かある?」
「案外、俺達の日常にも似たようなことがあるのかも知れん、とも思う」

 ああ――そうか。それってオレたちと暗黒一家のことなのか。
 すべてを語らなくても、ダイゴの言葉の意味がわかった気がする。
 そしてオレが理解したってことを、ダイゴが察してくれた気がする。
 いいチームメイトを持って幸せだ、オレ――カイジンブルーは。

 ダイゴとふたり、あれこれ話して。
 昂ぶっていた気分が落ち着いたあとのオレは、後にしてきた公園の様子が気になってる。
「握手会は終わったかな?」
「どうだろうな。握手はいいとして、写真希望の子供がたくさんいそうだったからな。まだかかるかも知れんな」
「そう――か。っていうか、ゴンタは来たかな?」
「それはどうだろうな。奴は人だかりは好きではなさそうに思うゆえ」
「……だよね。オレもそれはそう思う」
「ハヤト。気になるのか?」
「あ、わかる? オレ、実はさ。ヒーローと一緒に写真撮ってもらって部屋に飾りたいな、とか思ってたり」
「なるほど。では行ってみるか? 衣装から着替えていれば問題なかろうし」
 なんてダイゴが言うのに、オレはすこし恥ずかしいとは思いつつも頷いている。

 じゃあ行こうか、という空気になったところで、座敷の襖が開いたんだ。
「ふたりとも、おつかれさまでした」
 にっこりと笑って軽やかにアニメ声で言ったのは、花屋のあおいさんだった。
 あおいさんは白鳥先生の想い人――詳しくは聞いていないけど、もしかしたら恋人に昇格させてもらったかもしれないお姉さんだ。
「ああ、こんにちわ。ども、おつかれさまです」
「押忍。この度はいろいろとお世話になりました」
「いえいえ、こちらこそ。楽しませてくれて、ありがとね」
 商店街の人たちも着てたはっぴの中にひまわり色のミニのワンピースのいでたちのあおいさんは、オレとダイゴに握手してくれた。
 様子を知っていそうなあおいさんに、オレはこう訊いてみた。
「あおいさん。握手会ってまだ開催中ですか?」
「うん。絶賛開催中みたい。なかなか子供たちが解放してくれないって」
 あはは、と口を大きく開けて笑うあおいさんであった。
「あ、それでね。ふたりにも出演要請に来たの。リュウジくんに頼まれて。着替えちゃったところ悪いんだけど、舞台衣装で公園までご一緒してもらえるかしら?」
「はい? オレたちですか? 怪人ですが、需要はあるんですか?」

 早く早く、とあおいさんに急きたてられて、ダイゴもオレも一旦脱いだ衣装にふたたび着替えて、メットとゴーグルを手に持って。
 近道となる路地を通って公園へと向かいながら、あおいさんと話した。
「っていうか、オレたち行って大丈夫ですか? しっかり悪役なんですけど」
「もちろん。あなたたちがいてこその今日のショーだ、って。子供たちもわかってるのよ」
「ほう。そうなのですか」
「うん。できたら自分で怪人をやっつけるポーズをとりたい、なんて子もいるみたいだし」
 くすっと笑うあおいさん。大人の女の人なのに幼く感じるのは、小柄なのと仕草と声のせいなのかな。もっとも見た目に寄らず空手の達人だ、っていうのは知っているんだけど。

 ダイゴもオレも納得して歩く道すがら、あおいさんに訊いてみた。
「えっと。白鳥先生って人気者みたいですよね。なんか声援もらってたようですけど」
「ほんとね。舞台終わったあと、女の子たちに囲まれてたもの。白鳥さん」
 なんてことなさそうに言うあおいさんであった。
 もしかして。あおいさんって白鳥先生に興味ないのかな、なんて一瞬考えたんだけど。
「人気のある人にはそれだけの魅力があるってことなのよね」
 なんだか優越感をにじませた表情をあおいさんがしていたのをオレたちは見た。
 妬くでもなく、出しゃばるでもなく。なるほど、あおいさんは白鳥先生にうってつけの女の人なのかも。心意気みたいなのをオレとダイゴはしっかり感じてた。

 路地の出口のところで、ダイゴとオレはメットを装着。あおいさんは一足先にリュウジに報せに行ってくれた。
 おっかなびっくり歩いていくと、気づいた子供が手を振ってくれる。
「あー、怪人きたー!!」
「わあ、ほんとだ~。握手、握手」
 楽しそうな顔、喜んでる顔。笑ってる顔、ほっぺたが真っ赤な顔。
 あっという間にそれらに取り囲まれたダイゴとオレは、なんだか戸惑ってる。
「オウ!!! 来たな、怪人ども」
 リュウジが軽くこちらへ呼びかけた。
 とはいえ、オレはそれへ何て応えたらいいんだ? いつもの調子で「うん」とか、言ったらアレだよな? 迷っていたらダイゴが応えてくれた。
「お招き感謝する、ショウテンジャー」
 ……なるほど。無難だ。ダイゴやるなあ。
「して、我々怪人は負かされた罰に球拾いでもやればよいのか?」
 ダイゴが続けた。見てみれば確かに客席には、さっき本番で怪人軍団退治に使われてたスポンジボールが色とりどりに転がったままになってる。
「なるほど、それで呼ばれたのか。納得。そしたらダ――いや、カイジングリーン。手伝っていこうか」
「押忍。敗者には相応の奉仕が必定ゆえ」
 そしてオレたちはダイゴのアドリブのもとに、客席へと入っていった。

「怪人たち、えらいねえ」
「ぼくもいっしょにやっていい?」
 ボールを拾っていたら、子供たちもわいわい言いながら手伝ってくれた。
「悪いね。頼むよ」
 なんて返したら、けっこううれしそうにしてくれるんだ。
 一緒になってボールを片付ける最中、ときどき握手を求められて。
 ふざけてキックしてくる子がいて、やり返そうとしてダイゴに止められたりもして。
「怪人、ちょっとは反省したー?」
「オレ? さあ、どうかな? また商店街をいただきに来るかも。怪人は打たれ強いから」
 話しかけてくる子にこんなふうに答えるオレ。
「ってことは、ここが好きなんだね、怪人の兄ちゃん」
「そうだよね。さっき最後に泣きそうだったもんね」
「え? オレが? 泣いてないってば」
「あはははは。泣いてた、泣いてたー」
「そんなことないって!! あんまりいじめると襲うよ?」
「きゃーーーー!!!」
 ……とか、子供が逃げるからつい追っかけた。そしたら怒られた。
「おい、こらカイジンブルー!!! 遊んで――いや乱暴すんじゃねえって」
「そうっスよ~。早いとこ片付けて、みんなで記念写真撮りましょ~!!」
 
 ダイゴとオレが罰ゲームの球拾いを終える頃、ハンゾウに伴われてゴンタが姿を現した。
 前々日の商店街での活躍を覚えていた、リュウジの顔見知りの男の子たちがゴンタを見て大喜びしていた。
「わー、やっと来たね!!」
「さっすがヒーローのえらい人はアレだね。『じゅーやくしゅっきん』だ!!」

 いつしかヒーロー界の重鎮という位置づけに祭り上げられているらしいゴンタは、近くのビルの屋上からずっと、公園の様子を見ていたんだそうだ。
「もちろんショーも最初から。俊也先生の勇姿をゴンタが見たがってたので。本当は出てくる予定はなかったが、ゴンタが是非と言うので落ち着いた頃を見計らって連れてきた」
 ハンゾウの説明を聞いた。今まで気づかなかったけれど、ハンゾウも俊也さん同様ゴンタときちんと会話できてるんだな。さすが仲間っていうのは違う。

 何はともあれ、鬼浜戦隊ショウテンジャー・ヒーローショーは無事に全行程を終了した。
 記念写真は2枚。
 1枚はヒーロー4人と怪人ふたりが集まったもの、最後に撮ってもらったもう1枚は子供たちも、ヒーローの重鎮とそのお付きの者も一緒に写った集合写真。
 どちらも大きく伸ばしてもらってフレームに入れて、部屋へ飾ることにしよう。
 きっとずっと、いい思い出になるんじゃないかな。

「ねえ、怪人の兄ちゃん。いつかなれるよ、ヒーロー」
 別れ際にオレに内緒話みたいなトーンで言ってくれた子がいた。
 オレは素直に感動した。
 この言葉も写真と一緒に、きっとずっと大事にしよう。
 将来の夢はヒーロー――男はいくつになっても子供みたいなもんだから、それはそれでOKだよな。



   * 完 *



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鬼浜戦隊ショウテンジャー 1-1
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