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これまでのおはなし

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御来訪感謝

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鬼浜町 朝風景

「ハ~ヤ~ト~く~ん、お~は~よ!!!」
ウィークデーのオレの朝8時は、いつもこの声から始まる。
 逞しい筋肉によろわれた腹の中から響く、ハリのある声──鬼浜爆走愚連隊 初代総隊長 リュウジの声だ。

目覚まし時計ごときには屈しないオレのまぶたを開かせるその声音に、思わず反応して体を起こす。
2階の自室の窓を開けて、自宅のバイク店の店先を見下ろすと、そこには真っ赤なリーゼント。

「オウ、チィ~っす!!!」
見上げる表情は満面の笑み。頬には絆創膏が似つかわしい。
「チィ~っす……」
呆けた目をこすりながらの、とりあえずの朝のご挨拶。オレのほうはちっとも声が出ていない。

「なんだなんだ、まだ寝てたのかよ。相変わらず仕方ねぇな」
「オレ、血圧低いんだよ」
「わかったよ、もう。いいから早く支度しろよ」
「……オス」

こんな朝がご近所でもお馴染みになってから、もうすでに1年以上が経った。
この1年の間でオレの中で大きく培われてきたものは、大きく2つ。
 ひとつは単車の腕前、そしてもうひとつは──リュウジへの深い敬愛だ。

漢が惚れるにふさわしい魂をもつ漢。そんな存在にめぐり逢えたことを、オレはひそかに守り神たる風神様に感謝していたりする。

 っと、いけね。マジでリュウジに怒られる前に支度しないと。
  店先からはシャッターを上げる音がする。きっとリュウジがやっているんだろう。
 続いて、オレの親父とリュウジが挨拶しているのを聞きながら、オレはようやく洗面所に向かった。
 本来苦手なはずの朝がこのごろ少し好きになったオレを、どうか風神様が見守ってくださいますようにと心の中でつぶやいてみる。
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昼下がりの河川敷 1

 放浪癖っていうのとは違うんだろうけど、オレは散歩が好きだ。
 陽射しに誘われて、空を行く雲に誘われて、ついつい外に出たくなる。

 本当は単車でカッ飛んで行けたらもっと爽快なんだろうけど、大概はリュウジに合わせて徒歩通学なので、こっそり体ひとつで校舎の裏門をすり抜けた。
 取り立てて行くあてがあるわけでもなし、ただ単に、授業中に校門の外にいる優越感をときどき味わいたくなる、って、それだけ。

 別に学校が嫌いなわけじゃない。ああ見えて「学校大好き」の、遅刻・早退はあっても絶対に欠席しない主義のリュウジには敵わないけどね。
 ああ、そうか。そんなリュウジにつられているんだ、オレは。だって中学の頃は確かに学校、嫌いだったよな──思わず片頬で苦笑いのオレ。

 昼下がりの鬼浜町を抜けて、なんとなくいつもの河川敷に下りてみた。
 夜の河川敷とは打って変わって、健康的な明るさの、開放的な場所だ。子連れ主婦が会話していたり、ジョギングおやじが出没したり。

 夜な夜なオレ達が徒党を組んで集会している場所だけに、ここは無法地帯の荒れ放題だと思われがちだが、実はまったくそんなことはない。
 何故かというと、リュウジが厳しくオレ達を律するから。
 「オイ、そこ、空き缶捨てるんじゃねえ!!!」
 「いや、兄貴、それオレらじゃねぇっす。もともと……」
 「あン? それがどうした、ノブオ。何だっていいから拾っとくんだ。俺達の集会の後は、来る前よりも美しく、だろ、え? 何か文句あるか?」
 「あ、す、すみません、兄貴ィ~~~」
 なんてこともしばしばだ。

 ああ、オレ、また片頬で笑う顔を作っていたみたいだ。
 リュウジのことを思い出すと、なんでかそんな顔になるオレを最近発見した。
 一体なんだかなあ、オレ。

 土手に寝っ転がって空を見た。紫外線、強そうだな。今日は。

昼下がりの河川敷 2

 夢を見ていたらしい。
 遠くで鼓膜をゆさぶる気合いの入った声が聞こえた。まるで潮騒みたいに。
 どこかで嗅いだ覚えのあるほのかな香りにつつまれて、なんだか気持ちが安らいだのか、夢にとらわれた意識が覚醒を拒んだらしくて──

「あ~、もう、いい加減に起きろやって言ってンだろうが!!! ったくもう、いつもいつも見境のない。よし、こうなったら──行け、ダイゴよ」
「押忍!」
「ああっ、ダイゴさん、そんなご無体な~!!! あ~、ええっと、カンペキ持ち上がっちゃってますけど、ハヤトさん……って、うわぁぁぁ~~~」

 オレを襲ったのは、いきなりの浮揚感。それに続いて──失墜感。
「ん……? え、あ、だぁ~~~~っ!!!」
 意味不明の叫びを発したオレを、どうか笑わないでほしい。むしろ哀れんでくれるとありがたい。

 巨漢のダイゴはオレを高々と持ち上げ、そればかりか宙に投げ上げたらしい。『わっしょい』の要領で。
 落ちてくるオレの体はふたたびダイゴにキャッチされ、二度、三度と投げ上げられる。

「ひ~~~、助けてくれぇ……」
 オレの情けない悲鳴が河川敷に弱く響いている。
 ノブオのはらはら、おろおろする顔が見える。反対側には腕組みしたまま仁王立ちしているリュウジの姿。その表情が至極満足そうなのがうらめしい。

「よ~し、そこまでだ。ダイゴ、ご苦労」
「押忍」 

 ようやく上昇・下降から解放されたときには、オレは憔悴しきっていた。
 ……いっそもう一度、何事もなかったようにまぶたを閉じてしまおうか、なんて思ったけど、そんなことするとリュウジの張り手が飛んでくるな、と思ってやめておいた。

「大丈夫っスか? ハヤトさん。うわ、白目むいてませんか? も~、ダイゴさん、手加減してくださいよ」
「……大丈夫じゃないです」
 どこから出てるのか定かじゃないオレの声。
「実はオレ、絶叫マシン系は大の苦手で……単車は速くてもOKだけどね」
「おう、ハヤト、なんだその気合い入ってない声は!!!」
 凄んだ声音とともにオレの両頬を同時襲ったのは──リュウジの張り手だった。
 ……結局こうだったんだ。効いたぜ。

「しっかし、噂どおりにどこでも寝ちゃうんスね。ハヤトさん」
 なんて言いながら、ノブオがオレの鞄を差し出した。
 昼過ぎに抜け出した学校は、オレの午睡の間にとうに放課後になっていたらしい。
 いつしか川面には夕日が映っていた。鉄橋を通る電車の音が似つかわしい。
「まあな。特技だぜ」
「それが威張れることじゃねぇってのが解んねぇのか、コラ!!!」
「いいじゃん、別に」
「何ィ~~~?」
「わ~、もう、おふたりともやめましょうよ。ほら、ダイゴさんも黙ってないでなんか言ってくださいってば!」
「……無駄だぞ、ノブオよ」

 そんなこんなで日が暮れる、鬼浜町の平和な一日。
 じゃあまた夜に、と逆方向に向かうダイゴとノブオに手を振って、オレとリュウジは町の方角へ歩き出した。
「それにしても、どうしてあそこにオレがいたのがわかった?」
 肩を並べて歩きながら、オレはリュウジに訊いてみた。
「何で、って言われてもなあ。説明できねぇかも。俺、本能の漢だから」
「は?」
「まあ、そんなもんじゃねぇ?」
「そんなもんかねえ」
 ソウダソウダ、と頷く赤いリーゼント。ふわりと香料が漂った気がした。

 本能──か。なんだか悪くない気分だ。
 胸の内で笑ってみせて、そうしてオレは気がついた。安らかな夢の最後で嗅いだのは、リュウジの整髪料の香りだったようだ。

疾走ロード 1

 さて今日は何すっかなあ──の休日の朝。
 昨夜は気合い入ってたもんで、家に戻ってきたのは明け方近くだった。
 そのくせ、睡眠時間のわりに不思議とスパッと起きられるあたりが休日ならでは、だな。

 たまにはパチンコ店にでも行ってみるかな、なんて思いながら着替えなぞしていると、どうしたことかいつもの声が窓の外からオレを呼ぶ。
「オイ、ハヤト!!! 頼む、起きてくれい!!!」
 あれ、学校じゃないのにこの時間にリュウジ──? 訝りながらオレは窓を開け放つ。
「チィ~ッす」
 応えながら通りを見下ろすと、そこには白い上っ張りを着込んだリュウジの姿があった。

「オウ、助かったぜ。よく起きてたな、褒めるぜハヤト」 
「ああ、起きてたけどね。どうかした──」
「どうかしたもどうかしないも!!! そんなこと後でいいから速攻下りてきてくれ、頼む」
 オレに言わせも果てず、リュウジの怒号が街路樹を震わせる。
「オ、オス、了解」

 いついかなる時だって、オレはリュウジに頭が上がるわけがなかった。ましてや『頼む』などと言われてしまったら逆らう術は皆無で。

「あ、単車のキー忘れるなよ!!! 急いでるんだからそこんとこ夜露死苦ぅ!!!」
 一体どうしたって言うんだろうか。
 なんともあわてふためいているリュウジの気迫に問い返すことも叶わずに、オレは急かされるまま上着に袖を通した。

 さて、エンジン音は今日も至極快調なり。

「ハヤト、時間わかるか?」
 単車のリアにまたがりながら、リュウジが訊く。
 リュウジの着込んだ白い上っ張りは、彼の家の営むラーメン店のお仕着せだった。
 そして、手には大事そうに何やら包みを持っている。

「え~と、10時まであと10分かそこらかな」
 言ってやると、リュウジの焦りが増した。

「やべぇ、間に合わねぇかも」
「どこへ何時までに?」
「南町三丁目、10時。いけるか?」
「オーライ、特攻で!!!」
 オレはリアを振り返り、片目をつぶってみせた。

 距離を考えると、残された時間は結構なタイトロープ。
 だが、オレは行く!
 きっとオレなら行けるとリュウジが頼ってきたのだから。

 なんだか誇らしかったから、ひときわ大きな音をさせてオレは単車を発進させた。

疾走ロード 2

 南町は川向こうの町、わりと栄えている大きな町だ。
 その南町の駅前にあるホテルがオレ達の目的地だ、と信号待ちの間にリュウジに告げられた。

「10時まであと5分か。微妙だな」
「ハヤト、頼むぅ!!! なんとか間にあってくれい」
「オス、了解。飛ばすぜ」
 オレは頷いて、青になった信号に突っ込んでいった。

 通り過ぎた交差点の前にある交番からお巡りが視線を送っている。やべぇ、昼間からノーヘルだよ、オレ達。
 捕まるわけには行かねーぜ、とオレは速度を上げてゆく。

 道を急ぎながら感じる、背後のリュウジの手にした包みから漂う香り。
 訊ける状況ではないのだが、何らかの食べ物が入っているらしい。
 リュウジが店の上っ張りを身につけていることから察するに、これは或る意味「出前」なんだろうな。しかも、よっぽど重要な。

 こう見えて、リュウジは手先が器用だ。
 実家がラーメン店ということもあるし、料理の腕前は大したものなのだ。
 先週、選択科目『家庭科』の調理実習で、リュウジの作ったチャーハンは先生をもうならせた逸品だった。

 オレはリュウジと同じ班だったけど、まったくもって出る幕なしだった。
 リュウジは手早く作り上げ、おまけに自分で食材を持ち込んでまで、オプションでスープとシュウマイを付けるという荒技に出た。

「へえ、リュウジさすがに職人芸だね」
「当然!!! って、見とれてないでさっさと卵割れや、ハヤト」
「ああ──あ、いけね。殻入った」
「気合いが足りねえぞ!!!」
 調理室のフライパンではなく、こちらも持ち込みの自前の中華鍋を振るうリュウジの顔。確かに気合い入ってたなあ。

 実習が終わって放課後に試食したダイゴとノブオもそろって絶賛していた。
「すげえっす、うまいっす、さすがっす、泣けるっす~~~」
 とノブオが涙声を上げるやら、
「おお、ごっつあんです」
 ダイゴも彼にしては目を見開いてたたえるやら。
「喜んでもらえて光栄だぜ。な、ダイゴ。こっちのシュウマイどうだ?」
「最高ス」
「そうか、ならよかった。ダイゴは確かシイタケ嫌いだったよな」
「ウス。あの匂いがどうも」
「フフフ、それでも旨いと言ってくれるなら成功だ」
「ああ、そういえば入れてたな、シイタケ」
「オウ。シイタケ嫌いにもイケるようにと思ってな。生シイタケにしてみたぜ」
「芸が細かいっす、兄貴~~~!!!」
 本当に泣き出さんばかりのノブオの顔を思い出して、オレはちょっと笑ってしまった。

 いよいよタイムリミットまであと2分。
 どうやら間に合いそうだ。
 次の信号のきわに、リュウジの指定したホテルがある。

 折しも差し掛かった最後の信号は、赤。駅前だけあってぶっちぎるには交通量がありすぎた。
「間に合いそうだぜ」
 ブレーキを掛け、振り返ってオレが言うのを聞いてリュウジは頷く。
「よくやった、ハヤト!!!」
 一言返すや否や、リュウジはバイクを降りて、信号の変わる前に駆けだした。
 胸の前には大事そうに抱えた包み。
 リュウジの後ろ姿がホテルの正面扉に滑り込むのを見送って、オレは青になった信号を通過した。

 さて、リュウジの大事なお得意さまはどんな人なんだろう?

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