目次

過去の記事をまとめて表示できるようにしてみました。 【 】がついている項目をクリックすると、それぞれのタイトルの記事を一括でお読みいただけます。 【 】内の数字が若い順に古い記事となっております。 【 】内の冒頭数字が同じものはそれぞれ対になるおはなしです。

これまでのおはなし

全タイトルを表示

御来訪感謝

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

Road to スイカ 1


 晩夏の気配を混ぜ込んだ海風がここちよい。
 今日はノブオと鬼工野球部の1年生エース・天宮くんのコンビが『鬼浜ビーチバレー大会』に選手として出場する日だ。
 オレはリュウジとダイゴ、それから森園主将をはじめ野球部の連中と一緒に、朝も早いうちから応援席に陣取っている。

 「よし、いいか? ノブオ、天宮」
 「はい、兄貴!!」
 「ええ、リュウジさん」
 答えた2人は本番用にとリュウジに贈られた、揃いのビキニの海パンを着用している。緑と黒のツートンカラーは、まるでスイカを思わせる色調だ。

 「お前らは充分強いんだからな!!! そこんとこちゃんと信じてけや!!」
 「はいっ!!」
 リュウジを筆頭に、オレたちは揃って若手ふたりを激励した。
 森園主将の指導で円陣なんか組んでみた。オレ、こういうのってなんか新鮮だ。

 そんな感じで朝から始まった、鬼浜ビーチバレー大会。
 試合はトーナメントで行われた。
 初戦で当たったのはサラリーマンの2人組。あきらかに運動量がノブオたちのほうが上回っていて、難なく勝利。
 続く第2戦は、中学生チームとの対戦だった。現役バレー部という相手におびやかされながら、どうにか次へと勝ち進む。
 さらに第3戦は、奇しくも鬼工対決──水泳部のコンビとの対決だった。海の中ではそうはいかなかったろうけど、浜での決戦はノブオと天宮に軍配が上がった。

 そして──ついにノブオと天宮のコンビは、決勝戦まで勝ち進んだのだ!!

 昼過ぎに決勝進出チームが決まると、大会は小休止に入った。
 連戦の疲れと気持ちのたかぶりを鎮めてやろうと、オレたちはノブオと天宮を囲んで海の家で昼食をとることにした。
 あれやこれやの注文を書き留めている、海の家のお姉さんの肌は常夏色だった。

 「ノブオ、本当によくここまで勝ち進んだな!!」
 「ほんとにね。オレも正直驚いたよ。な、ダイゴ」
 「ああ。けれど実際、昨日リュウジたちと実戦練習をしているのを見ていたら、これはもしやと俺は思っていたが」
 いつもは口うるさいと思われているだろうオレたちに、口々に賞賛されたもんで、ノブオは幾分面はゆそうにしている。

 となりのテーブルでは、野球部の面々がこちらと同じように天宮くんを讃えているようだ。とはいえ、さすがに現役スポーツマン。先輩たちに戦術云々を授けられているのを真剣に天宮くんは聞いていた。
 「ノブオ、お前もあっちのテーブルに混ざったほうがいいんじゃないか?」
 「え? 何でです? ハヤトさん」
 「ほら、天宮くんが先輩らに作戦教わってるよ。一緒に聞いたら?」
 「ああ、それなら大丈夫っス! オレ、天宮のリードに従いますからね。それに、どっちかって言ったらオレは兄貴に気合い入れてもらったほうがいけそうですもん」
 「おう、逞しくなったな!! ノブオ」
 リュウジもダイゴも、晴れ晴れした顔をしていた。

 「ところでダイゴ。お前さっきもう一方のブロックの準決勝の偵察に行ってただろう? 野球部たちと一緒に」
 「押忍、リュウジ」
 「どんなチームなんだ? 相手は」
 「構成員は公務員だそうだ。30歳代の男性ふたり組だった」
 そうかそうか、なんてオレたちはダイゴの話を聞きながら、ちょうど運ばれてきた昼食に取りかかった。

 「で、どうだ? ノブオがスイカを獲得するためにはそいつらは強敵なのか?」
 親子丼とおでんといちご味のかき氷を目の前にして、リュウジはダイゴに重ねて訊いた。
 「スイカ──優勝ね」
 大会の優勝者副賞のスイカ1ダース。
 リュウジはそれを獲得することをかなり本気で楽しみにしているようなのだ。

 「ま、相手も決勝まで勝ち進んだのだし、楽に勝てるとは思わないほうがいい。スピードならばノブオたちのほうが格段に上だか、さすが年の功とでも言うか、抜け目無く弱点を突いてくる感じだな。しかも、粘り強い戦い方だった」
 ダイゴは思い出しながら、ゆっくりとこう語った。

 「なるほど、年の功ね。そればっかりは補えないもんな」
 「なんだよハヤト、そんな悲観的な顔すんじゃねえよ!! ダイゴだって言ってるだろ? スピードはノブオたちのほうが上だって。ひとつでも相手に勝るところさえあればな、試合なんてもんはどうにでもなるんだぜ!! あとは執念だな」
 そうリュウジはまくし立てた。
 
 「執念──なるほどね」
 「オウ!! ノブオ、執念なら誰にも負けねえよな!!」
 「はい!! 兄貴」
 「ちなみにお前のプレイには、俺の執念も上乗せされていることを忘れるなよ」
 「……? 兄貴の執念?」
 「ああ。俺の、スイカへの執念だ」
 リュウジの掛け値なしの真剣な眼差しに、オレたちはつい──笑ってしまった。

 「──なんだよ。何かおかしいのかよ?」
 オレたちの反応に不服そうなこの漢は、本当に何事も思いこんだら命懸けなんだよな。
 まあ、そんなところが尊敬できるんだけどね。
 
 「とにかく、オレやりますよ。天宮といっしょに」
 ノブオはチャーハンのスプーンを掌で転がしながら、オレたちを見つめてこう言った。
 「どんな相手だって、オレたちはオレたちにできることをやるだけっス! だって、オレら自身がやらないと勝てないんですからね」
 自分に言い聞かせる意味もあったんだろう。ノブオはきっぱりと言い切った。

 「よし、ノブオ!! よく言ったぜ。俺はそれを聞きたかったんだ」
 満足そうなリュウジに照れ笑いのノブオ。善哉、と頷くダイゴに、顔が笑うのを止められないオレ。
 いいな。なんかいいな。
 オレはこんな雰囲気が大好きだ──最近気付いた。
 なんでだか涙が出そうになったのは内緒だけど。


スポンサーサイト

テーマ : パチスロ - ジャンル : ギャンブル

Road to スイカ 2


 これぞ残暑といった強い陽射しの午後。
 『鬼浜ビーチバレー大会』に参戦中のノブオと天宮くんの鬼工チーム最後の試合──決勝戦が開始されるところだ。

 「ノブオ!! 天宮!! 気合い入れてけや!!!」
 「オス!!」
 「了解です」
 リュウジが声を掛けたのに、選手ふたりは表情を引き締めて応えた。

 コイントス、それからウォームアップ。
 もともと運動部所属の天宮くんは観客のいる中での試合に慣れているはずだ。けど、そんな経験はおそらく多くないであろうノブオのほうも、ちっとも動じていないのに驚いた。

 「なあ、リュウジ」
 「ん?」
 「ノブオってさ、案外度胸が据わってるよな。オレならムリだな。こんな大勢見てる中で試合なんて」
 「わはははは。ノブオはあれだ。褒められるとノるタイプだからな。だからその辺は心配していなかったんだ、俺は。ってか、やっぱハヤトを出すべきだったかもな、ダイゴ」
 「そうかもしれんな」
 「ええっ、何だよ、ダイゴまで。オレ、ムリだって言ってるじゃん」
 「単車に乗っているときと同じ度胸で何事にも当たれ、とリュウジは言っているのではないか?」
 「オウ、ダイゴ!! 正解だぜ。まあ来年を楽しみにな、ハヤト」
 そんなふうに言って、リュウジとダイゴは顔を見合わせてくすくすと笑っている。
 もう、勘弁してほしいなあ。

 そうこうしているうちに試合開始のホイッスルが鳴る。

 第1セットは、天宮くんのサーブから始まった。
 青空に弧を描くボールの軌跡は美しく相手方コートに落ちていく。
 「さすがキレイに決まるな、天宮のは!!」
 リュウジが感嘆を伝えると、森園主将は嬉しそうな顔をした。

 その第1セットは、接戦だった。
 ダイゴが見てきたとおり、相手方の公務員チームは粘り強い立ち回りで本領を発揮してくる。午前中のどの試合よりも、長いラリーが続いていた。
 結局スコアは19-21で鬼工チームが1セットを落とすことになった。

 「大丈夫、大丈夫!! オレたちが負けるわけないよな、天宮!!」
 「ああ、ノブオの言うとおりだ。まだまだここからだ」
 1セットを落としても、ちっとも悄げる様子のないふたりに先輩らは安心させられた。

 続く第2セット。
 さっきのラリーの応酬とは打って変わって、今度はスパイク合戦の様相。
 「へえ、ノブオ君は案外ジャンプ力あるな」
 森園主将が言った。
 「ああ、そうだな。俺も知らなかったぜ」
 答えるリュウジも感心している。

 「あれ──見間違いかな?」
 戦況を見守りながら、オレはふと気になった。
 「ん? 何か言ったか? ハヤト」
 「いや、オレ、あの相手方のプレイヤー、どこかで見たことあるような気がして」
 「知り合いか?」
 「そうじゃなさそうだけど。でも、どこかで──見たことない? ダイゴ」
 「ふむ……」
 ダイゴが考え込む様子を見せたその時、ノブオのジャンプサーブがラインぎりぎりのきわどいところに決まる!!!

 「お~~~!!! ノブオすげえぞ!!」
 リュウジの賞賛に、ノブオは満面の笑みで振り向いた。

 結局、第2セットはノブオのサーブが決まりまくったのもあって21-18で鬼工チームが勝ち取った。
 結果が出ると、オレたち応援側は男たちの怒号をもってわき返り、対してノブオと天宮くんの選手たちは淡々と笑顔を見せる。

 試合は最終セットまで縺れ込んだ。第3セットは、15点を先に取ったほうの勝利だ。
 序盤、ノブオたちは相手の粘り腰のラリーのペースに嵌って苦戦を強いられる。
 続く中盤は、ネット際での天宮くんの活躍が光って連続ポイントを奪取する。
 
 そして──終盤。
 まるで何かの神様か仏様でも後ろにおられるかのような、ノブオの凄まじい攻撃が、少々疲れの見える公務員チームを容赦なく襲った。
 「ノブオ、頼んだ!」
 「オッケイ、天宮!! そ~~~れっ!!!」
 掛け声とともに決まるノブオのアタック!!
 ついに鬼工チームがリードを奪う。
 そしてその後も、リードに気負うことなくノブオと天宮くんは順調にスコアを重ねてゆき、ついに鬼工チームがマッチポイントを迎え──

 「これがラストトスだ、ノブオ」
 「オ~ス! ほんじゃラストアタ~ック!!!」
 絶叫とともに放ったノブオの強打が、この大会のラストプレイとなったのだった。

 試合終了を報せるホイッスルが吹かれ──オレたちは一斉にノブオと天宮のもとに駆け寄った。
 「やった~、兄貴、オレやりました!!」
 「よっしゃあ!! ノブオ、最強だぜ!!!」
 「主将!! 自分頑張りましたよね?」
 「ふっふっふ。天宮も一人前に近づいたな」
 2チームの若手と大将は、どちらも至極満足そうだ。
 そして、リュウジの号令。
 「野郎ども!! 胴上げだ、いくぜ!!!」
 「オ~~~~ス!!!」
 宙高く舞うふたりの姿が、夏の終わりの浜を痛快に彩っていた。

 そんなふうにして、夏の終わりの強化訓練をノブオと天宮くんは終えたのだ。
 ご褒美は、1ダースのスイカ──リュウジが執念を燃やしていた副賞だった。
 表彰式が行われ、優勝の金メダルとともに選手たちに手渡された12個のスイカを見て、リュウジは本当に嬉しそうな顔をしていた。
 
 そして、閉会式の終わったあと──オレはさっきからココロの隅に引っかかっていた疑問が解消することとなる。
 「そこの君たち、待ちなさい!!」
 得意満面でオレたちのもとに戻ってくるノブオと天宮くんを呼び止めて、声をかけたふたりがいた。
 「はい?」
 ノブオたちが振り返ったのは、準優勝の公務員チームのふたりだった。

 ふたりは疲れたながらも爽快、という表情で、交互にノブオたちに右手を差し出す。
 「若者よ、いい試合をありがとう」
 「あ、こっちこそどうも」
 「ええ、すごく大変でした。あなた方に勝つのは」
 「そうかい。それなら私たちもやった甲斐があったよ。なあ?」
 「ああ。実にいい気分だ。敗れたりとは言え」
 そんなふうに、兵たちは互いを労いあっていた。
 しかし──どうも見覚えあるんだよな、オレ。あのノブオを「待ちなさい!!」って呼び止めたほうの人。

 「ところで──若者たちよ」
 オレの記憶のどこかをくすぐる人がそう言ってノブオを見やり、さらにリュウジとダイゴとオレに代わる代わる視線を寄越した。
 「まさかとは思うが、スイカ持ったまま国道をバイクで疾走したりするんじゃないからな。それからメットは必ず着用のこと。次に見かけたら即補導だ」
 「ん?」
 「え──」
 「あ……あ?」
 「え~と、あなたはもしかして……?」

 ようやくオレの記憶が繋がった。
 そして、リュウジたちにもやっとわかったみたいだ。

 「今日は正々堂々と私たちに勝った諸君だが、いつもいつもパトカーの私と法律とに勝てると思ったら大間違いだからな。肝に銘じておくように。以上!」
 言うだけ言って立ち去った公務員氏は──夜の国道でいつもさんざんオレたちを追いかけていた警官だったんだ。

 「へえ、ノブオ……やったな、お前、宿敵打破じゃねえか」
 「えへへ……」
 力無くリュウジが言い、そしてノブオは力無く笑った。
 
 夏休みの締めくくりには、こんなオチが用意されていた。
 さてと、しばらくは大人しく──なんてしてはいられない、か。
 すこし日の入りの早くなったのを感じる浜の風に、オレたちの力無い笑いがさわられていった。
 

   * Road to スイカ 完 *


テーマ : パチスロ - ジャンル : ギャンブル

純情・赤ジャージ 1

 
 新学期が始まってからというもの、ウチの担任の様子がどうもおかしい。
 いつも赤いジャージを着ている担任は、自他ともに認める熱血・体育教師だ。
 テンションが高いので有名な赤ジャージの様子が、いつもと違うのだ。

 たとえば今朝のホームルームのこと。
 名簿を読み上げながら担任が出席をとるのが毎朝のお決まりなのだが──
 最中に、リュウジが立ち上がって叫んだ。
 「オイっ!! 赤ジャージ!!! いま俺の名前飛ばしやがったな!!!」
 「お、おう、そうだったか。飛ばしたか。悪かった、リュウジ」
 「オウ!! 気合い入ってねえな、朝から」
 「……すまんな」
 と言って、赤ジャージはため息をつく──なんてことがあった。

 また3時間目が始まる前のこと。
 廊下でダイゴと会って、リュウジと3人で立ち話をしていたとき。ダイゴの背中に、歩いてきた赤ジャージが派手に体当たりを喰らわせた。
 「うん?」
 巨漢のダイゴはまったく動じなかったものの、赤ジャージは勢いで尻餅をついた。
 「うわ、先生、大丈夫?」
 「ああ、ハヤト。大丈夫だ。ダイゴよ、悪かったな。ついよそ見をしていた」
 「いえ。問題ないす」
 「ついよそ見って、こんな見通しいいとこで、どうやったらそんな思いっきりぶつかれるんだ? 赤ジャージ、ちゃんと目ぇ開いてるのかよ!!」
 「ん? ああ、まあ、それなりにはな……」
 大して気のない返事に、リュウジはそれはそれはへそを曲げていた。

 そんなこんなで、昼休み。オレが漫画を読んでる隣りの席で、しきりと考え事をしていたリュウジが声をかけてくる。
 「なあ、ハヤト」
 「ん?」
 「なんかこう、妙だよな。おう、妙だ。アレは」
 「何が──ああ、赤ジャージのこと?」
 「おう、その通り。担任の奴があんなふうだから俺も調子狂うんだよな。よし、わかったぜ!!」
 突然リュウジが立ち上がった。

 「ハヤト、ちょっと試してみようぜ」
 「へ?」
 「ありゃ絶対何かあるだろ。俺がつきとめてやるぜ。でもって、事と次第によっては俺が気合い入れ直してやる!!!」
 「おい、リュウジ。気合いって言ったって……。もしかしたら体調悪いだけかもしれないんじゃないのか?」
 「そんなわけねぇよ。赤ジャージ、ここ何年も胃薬ひとつ飲んだことねえって自慢してたぜ」
 「うん、それはオレも聞いたことあるけどさ」
 「だから、俺に任せとけや。な? ハヤト」
 もう、リュウジは興味津々といった体だった。
 あ~あ、こうなっちゃったら誰にも止められないんだってば。

 「じゃあ、作戦な」
 「はいはい」
 こんな時、リュウジの瞳はまるで悪戯好きの小学生みたいにきらめくんだ。
 「とりあえず、赤ジャージが正気かどうか試してみようぜ」
 リュウジは人差し指を立ててこう言った。
 「6時間目、体育だろ? 赤ジャージの授業だよな。俺が試しに脱獄してみるわ」
 脱獄とは、授業中に裏門からこっそり抜け出すことを指す。
 
 「脱獄──でもさ、赤ジャージの授業のときは滅多に成功しないだろ?」
 「もう、ハヤトはわかってねえな。だから試しになるんじゃねえか。もし成功したりしたら、それ自体で奴が変なことの証明にならねえか?」
 「あ、なるほど。リュウジ、頭いいね」
 「……あのな。成績優秀のハヤトが、俺みたく赤点上等の奴に言う言葉か、それは」
 まったくとぼけているんだから、とリュウジのため息がそう語っている。

 「とにかく、試しに脱獄だ。失敗したら今日はそこまでだな。でもって成功したら、そのときはそのまま放課後、赤ジャージを待ち伏せして問い質すぜ。ハヤトは? どうする?」
 「え、オレ? ん~……」
 「もちろん行くだろ? 行くよな?」
 もはや行かない、なんて言える感じじゃないんだよ、リュウジのオレを見るまなざしが。

 そんなわけで、5時間目が終わると同時に、オレは一足先に学校を出た。
 ちなみに、授業中に脱出することを「脱獄」と言うけれど、休み時間に外へ出るのは単なる「散歩」。
 「散歩」は誰にでも比較的簡単にできるけど、それに較べてリスクが大きい「脱獄」は成功すると褒め称えたれるのが常なのだ。

 文字通り散歩気取りで、オレはリュウジに言われたように単車をとりに家まで帰った。
 とはいえ、時間的に言って今日はこのまま校内には戻れそうにないから、これは事実上早退だな。鞄もしっかり持って来ている。

 あ~あ、オレ、実は1学期はけっこう体育サボったからヤバいんだけどな、出席が。
 リュウジの代返は、巧くいくんだろうか。あんまり演技派じゃないんだけどな。
 でも、赤ジャージがあんな調子だったら大丈夫かもね。うん、そう祈ろう。

 すり寄ってくる人なつこい野良猫と見つめ合ったりしながら歩いていたら、いけね、一瞬なんのために出てきたんだか忘れるとこだった。
 
 さてと、リュウジを待たせたら何言われるかわからないから、大急ぎで行きますか。
 午後の陽射しは、明らかに一週間前のそれとは格段に違う優しさを持っていた。
 散歩のついでに川原で昼寝は、また今度だな。
 
 

テーマ : パチスロ - ジャンル : ギャンブル

純情・赤ジャージ 2

 
 「お、ハヤト。お帰り、今日は早いな」
 店でお客から預かった単車をカスタムしていた親父が、オレの姿を認めて言う。
 「うん、ちょっとね。じゃ行ってきま~す」
 鞄を置きながら親父に手を振って、オレはふたたびに単車に乗って学校へ戻った。

 時間はそろそろ6時間目の中盤といったところか。
 リュウジの作戦決行の予告時間まであと3分、といったタイミングでオレは裏門の前に到着。
 さて、リュウジは脱獄に成功するんだろうか──と考えつつ、オレは待つ。裏庭の草刈りをしている用務員のおっちゃんから身を隠すように気を付けながら。

 成功したらぼちぼちリュウジが出てくるころかな、と思っていた矢先、リュウジの姿が視界に入ってくる。
 普段の脱獄のときだったら全力疾走で近づいてくるはずなのに、どういうわけか余裕でのんびり歩いて裏門に到達した。

 「オス!! 簡単に抜けられたんだ?」
 「オウ。拍子抜けするほどにな」
 体操服姿のリュウジが面白くなさそうに言った。
 そして、あらかじめ裏門の脇の植え込み隠してあった鞄と学ランをオレに投げて寄越す。
 赤ジャージが追ってこないのを一応確認する仕草のあと、リュウジはひらりと裏門を飛び越える。
 
 「やれやれ、なんだかな。脱獄がこんなにあっけないと張り合いねえな」
 体操着の短パンの上から学生ズボンに足を通して、リュウジはオレの単車のリアに乗り込んだ。続いてさらに体操シャツの上に、学ランを羽織る。
 「じゃあ、やっぱりおかしいんだ。赤ジャージ」
 「ああ。おかしいも何もあったもんじゃねえ。転がってたテニスボールに足とられて、転んでやがったぜ」
 学ランの前ボタンを留めながら、リュウジが毒づいた。

 「へえ、じゃあよかった。心配してたんだ、オレ。代返ももちろん成功したよな?」
 「ん? 代返──あ、忘れてたぜ。悪い、ハヤト」
 「え……リュウジ、オレの出席がヤバいの知ってるくせに……」
 わはははは、とリュウジが笑い飛ばした。
 「まあまあ、何とかなるだろ。な? 元気出せや、ハヤト!!!」
 「オス……」
 嗚呼、オレが進級できなかったらリュウジを道連れにしてやろう、なんて思った。

 そうして単車を発進させたオレたちが向かったのは、赤ジャージの家の前。
 学校から海辺を国道に沿って東に8kmくらい行ったところに、赤ジャージの住むアパートがある。ちなみに赤ジャージは、雨の日でも自転車通勤の熱血漢だ。

 勤務を終えた赤ジャージが帰宅するのを、自販機で買ったジュースを片手に待ちかまえる。
 「なあ、ハヤト。実際のとこ、あいつどうしたんだと思う?」
 「赤ジャージ? さあね、見当つかないけど」
 「夏休みぼけってこともねえよな」
 「それはないだろうな。だって、仕事だし」
 「だよな。仕事はきっちり気合い入れてこなしてほしいぜ!! 俺ら生徒に心配かけるなどもってのほかだよな」
 こんなところがリュウジの生真面目なところだとオレは思う。
 勝敗は二の次、全力で向かうことをよしとせよ──とオレたちはリュウジに常に言われているんだ。

 「けどさ、なんか個人的に悩みでもあるんだったらオレらの出る幕じゃないかもよ?」
 赤ジャージの肩をもつわけではないけれど、オレはリュウジの顔色を窺いながら言ってみた。
 「ん? そうか? でも、訊くだけ訊いてみないと俺は納得できねえぜ」
 「うん、そう言うだろうとは思ってたけどね」
 とにかく赤ジャージが帰ってきて、話さえすればリュウジの気も落ち着くだろう。解決するか否かはその次の問題だし。
 
 そうこうしているうちに、路地を見慣れた自転車が入ってきた。
 赤ジャージの自慢の、これまた赤いマウンテンバイクだ。
 「オウ!!! お帰り、赤ジャージ」
 リュウジは右手を上げて呼び止めた。
 
 「お? リュウジじゃないか。ハヤトも。どうした、こんなところで」
 「どうしたもこうしたもねえよ。なあ、ハヤト?」
 「うん、そうだね」
 やっぱり赤ジャージは相当おかしい。
 脱獄したリュウジを咎めないということは、それ自体に気付いていない様子だ。それに、授業に出席すらしなかったオレを責めることすらしないのは──もしかして気付いていないのか?

 「なあ、赤ジャージよ。ちょっと時間いいか?」
 「ああ、べつに構わんが」
 覇気なく赤ジャージが答える。それへリュウジがため息を投げた。
 「落ち着いて話そうや。家、入ってもいいか?」
 「俺の部屋か? 汚れているぞ?」
 「そんなの気にしねえよ。な、ハヤト?」
 「ああ。全然」
 「じゃあ上がっていけ」
 赤ジャージは太い首を縦に振る。

 そしてリュウジとオレは、赤ジャージの家にお邪魔することになった。
 担任の家に上がり込むなんてことがあるとは、オレは全く予想外だった。
 ふつう教師と生徒の間には一線があるから、個人的に遊んだり話したりすることなんてあまりないんじゃないか、とオレは思っていた。
 けど、リュウジにはそんな線引きは通用しないみたいだ。
 
 人間同士という関係以外を思いつかない我らが総隊長は、赤ジャージの部屋の玄関に、脱いだ靴をきちんと揃えているところだった。


テーマ : パチスロ - ジャンル : ギャンブル

純情・赤ジャージ 3


 リュウジとオレは、担任の赤ジャージの部屋にいる。
 「へえ、意外ときれいにしてるじゃねえか」
 リュウジの言ったとおり、男性のひとり暮らしの部屋の割りには、ずいぶんと片づいている印象だ。本棚にはきっちり本が並んでいて、鉄アレイなんかのトレーニンググッズが居間の隅を彩っている──このへんが彼の人となりを物語る。
 「そうか? まあ、片づけてくれる人もいないので自分が頼りだが」
 赤ジャージは皮肉そうにすこし笑んで、リュウジに答える。

 「で、さっそく本題だ」
 赤ジャージが振る舞ってくれたコーラをぐっと飲んで、リュウジが切り出した。
 「赤ジャージ、最近様子がおかしいじゃねえか。一体どうしたんだ?」
 「おかしい……とは? リュウジ」
 意外なことを言われたという表情を、赤ジャージは見せた。

 「おい、自覚ねえのかよ……ハヤト、こりゃ重症だな」
 「うん、そうかもね」
 「なんだなんだ、お前ら。いきなり人の家まで押し掛けてきておかしいだの重症だのという言いぐさは」
 赤ジャージは、思いっきりおもしろくなさそうな顔をする。

 「2学期が始まってから、上の空じゃねえか? 赤ジャージ。今日なんか廊下でダイゴに体当たりだし、授業中にもこけたりしてたし。な?」
 「ああ、まあそういう日もある」
 「って、まだシラを切る気かよ!!!」
 リュウジは声を荒らげる。
 オレも見ていられなくて、加勢することにした。
 「そうだよ、リュウジの言うとおり。オレたち、見ていられないんだよ。先生、ここんとこぼんやりしてるじゃん。いつか大きな怪我でもする前に、どうにか解決したほうがいいってリュウジは言ってる」
 
 「……そうか」
 ガラステーブルに視線を落として、赤ジャージは珍しくもしゅんとした声を出した。
 「なるべく感情は外には出さないように気を付けていたつもりなんだがな。そんなに生徒に心配をかけるようでは、俺は教師失格だな」
 赤ジャージはため息をついた。

 「ほれ見ろ。やっぱり何か原因あるんじゃねえか。な、赤ジャージ。いったい何があったんだ? 俺、聞いてやろうと思ってよ、それでここまで来たんだ。な、ハヤト?」
 「うん。そうだね。リュウジはそのつもりだよ、先生。けど、あんまり難しい話だったら、オレらが聞いてもしょうがないからアレだけど」
 代わる代わるリュウジとオレが言うのに、赤ジャージは苦笑いを返した。

 「すまんな──ふたりとも。そんなに教師思いな生徒がいたとは、俺は感激だ」
 「当たり前!! だって俺は赤ジャージの大事な教え子だろ? 親が風邪ひいたら看病するのと一緒だぜ。なあ?」
 リュウジがオレに同意を求めた。頷きながら、そうか、リュウジはそんなふうに思っていたんだ、なんて気付かされた。

 「話すのも恥ずかしいのだがな、本当は」
 観念した、とばかりに片頬で苦笑をつくり、赤ジャージは言った。
 「まあ、有り体に言って、アレだ。まあ──そのう」
 「おい──赤ジャージ、何を真っ赤な顔してるんだ?」
 「大人からかうんじゃない、リュウジ」
 確かにリュウジが言ったとおりだ。赤ジャージはさらに顔を赤くして抗議する。
 
 「珍しいね。先生がそんな顔するなんて。まるで恋でもしてるみたいだ」
 つい口をついて出たオレの一言で、赤ジャージははじかれたように立ち上がった。
 「ば、馬鹿、ハヤト! そんな大きな声で言うな!!」
 「え──」
 「何をそんなに大袈裟な反応……ん? ってことは、アレってソレなのか? 赤ジャージ!!!」
 リュウジに問いつめられて、赤ジャージはこれ以上赤くはできないであろう色に耳まで染めて、こくりとちいさく頷いた。
 
 「へええ。そうなんだ、そうなんだ」
 リュウジはとんでもなく面白いおもちゃを見つけた子供のような顔をしてる。
 「ちょっとリュウジ、からかっちゃ悪いってば」
 「いいから、ハヤト。なあ、赤ジャージ、せっかくだから相談に乗るぜ!! で、相手はどんな女の人なんだ?」
 
 思わず立ち上がったところを座り直して、赤ジャージはちいさい声で口にした。
 「ああ──言うんじゃなかったな」
 「後悔しても遅えって。俺もう聞いたからな。ほれ、言っちゃえって。そしたら楽になるかもしれないから」
 この手の話には、なんでかリュウジは興味津々なんだ。ちょっとかわいそうだな、赤ジャージ。

 でも──そんなに悩んでるんだったら、話してもらったほうがいいのかもしれない。それ自体にはオレも賛成なので。
 「オレたちなんかじゃ役に立たないかもしれないけど、よかったら話してよ」
 「そうだ、そういう話はハヤトの得意分野だからな!! よかったな、赤ジャージ!! ハヤトが相談乗ってくれるってよ」
 「いや、オレは別に……」
 とかオレたちが言っているのは赤ジャージの耳に届いているのか。

 一瞬、何かを逡巡するようにリュウジを見て、それから混乱する気持ちを振り払うかのように、赤ジャージは深呼吸をしてから語りはじめた。
 「相手はな、数ヶ月前に出会った女性だ」
 「へえ。美人か? 相手は」
 「美人というよりは可愛らしいという形容の似合う人だ」
 心を決めた様子の赤ジャージは、純粋な表情をしていた。
 恋するって、なんかすごいことなんだな──とか、オレはそんなことを考えながら耳を傾けている。


テーマ : パチスロ - ジャンル : ギャンブル

| ホーム |


 BLOG TOP  » NEXT PAGE


  1. 無料アクセス解析
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。