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叢中に咲く一点の紅い花 9


 そうこうしているうちに、そろそろ勝負者ふたりが戻ってきてもいい頃合いになった。
 離れたところで地面に座っていた暗黒一家の連中も立ち上がって、見通しのいいあたりに陣を構え直す。
 
 やがて海からの風に乗って、リュウジたちのマシンの奏でる爆音が聞こえてきた。
 リュウジとコウヘイの実力はほぼ互角だ。まだ近くまで来てはいないのに、爆音のする方角から激しく散る火花が見えるような錯覚に陥る。
 まるで炎に包まれたようなオーラを出す2台のマシンが、オレたちの待つ倉庫群に突入してくる。最後の直線は、駆け引きなしの度胸勝負になる。
 オレは自分が勝負に出ているかのような緊張感に身を委ねた。

 残り300m──予想通り、2台の勢力の優劣は皆無だ。
 残り200m──コウヘイが一歩先んじているか?
 残り100m──リュウジ、頼む!!! みんな信じているから……

 オレの掌には、じっとり汗が滲んでいた。
 それをかたく握り直して、訪れる瞬間を待つ。
 リュウジとコウヘイの互いの自尊心を賭けた勝負の行方──

 ゴール直前に、何かに取り憑かれたような加速を見せたのはリュウジだった。
 灼熱色に空気が染まったかに見えたと思うと、リュウジのマシンがコウヘイを振り切って、ゴールラインを駆け抜けた!!
 「やった──リュウジの勝ちだ」
 オレは目の前が何でだかくらくらするのを感じながら呟いた。

 「よっしゃ!!! 面目は保てたな」
 単車をオレたちの近くに停めて、リュウジが笑んだ。
 それを見て、オレたちはみんな一瞬言葉よりも先に安堵と感嘆のため息をついていた。

 どうにか祝福を言えるようになったのは、そのすぐ後のこと。
 「兄貴!!! よかったっス~!!!」
 「押忍。さすがだ、リュウジ」
 「ほんとにね。頼りになるよ」
 オレたちはリュウジを囲んで、口々に言う。受けるリュウジは笑顔の中にもまだ緊張感を持続させている顔をしてた。
 
 「リュウジ──」
 その声のほうに目をやると、目を潤ませた千晶ちゃんがいた。
 「オウ!!! 心配かけたな、千晶ちゃん」
 「ううん。そんなことない。あたし信じてたもん、リュウジを。ね、ハヤト?」
 「ああ。そうだね」
 「リュウジ、ほんとにありがと。かっこよかったよ」
 今度のは、ちょこっと涙声だった。いけね、なんかオレもつられそうになったよ。

 しばしの後。単車のエンジンを停めて、コウヘイがオレたちの陣へ近づいてくる。背後には3人を引き連れていた。
 反射的にオレは身構えるが、リュウジは鷹揚とそれを待ち受けている。
 「リュウジよ。俺の負けだ」
 「オウ!!!」
 コウヘイの悔しそうな表情──ハンゾウもゴンタも、タカシも同様だ。
 「約束だ。非礼を詫びよう」
 コウヘイはそう言うなり、リュウジに頭を下げようとした。

 「いや、待て!!! コウヘイ」
 けれどもそれをリュウジが制したんだ。
 「──?」
 「俺らが遊びなんかじゃねえってわかればそれでいい」
 吐き捨てるようにリュウジは言う。
 「まあな、こうなる原因を作ったのはこっちだからな。謝られる筋じゃねえのは承知だぜ、本当はな」
 「リュウジ、貴様──」
 コウヘイは珍しく動揺している風だった。

 「俺らはいつでも本気だぜ!!! それが伝わりゃいいんだ、俺は。な、お前ら? そうだよな?」
 リュウジにそう言われて否やを唱える者なんて、いるわけがなかった。
 オレたちは無言で頷いて、肯定を告げたんだ。

 が──オレたちの中でひとりだけ口を開いた者がいる。
 「あの……えと、暗黒の大将」
 「うん? 何だ、女子」
 コウヘイの前へ進み出たのは、なんと千晶ちゃんだった。
 「あのね、こないだはごめんなさい。あたしが悪かったのかもしれない。ちょっと先を急いでたから挑発するような真似したみたいで」
 「ほう──?」
 ぺこりと頭を下げる千晶ちゃんの姿を、コウヘイたちは見ていた。
 
 「オイ、千晶ちゃん……」
 「いいの、リュウジ。あたしね、リュウジにも申し訳なくて」
 「いや、俺はどうってことねえぜ」
 「それに、暗黒の人たちにも迷惑かけたかもって思って」
 「ほう──リュウジよ。貴様のところの女子はなかなか気骨と礼節があるじゃねえか?」
 なあ、と仲間に同意を求めるようにコウヘイは視線をやると、暗黒一家の面々はそれに応えるように頷き返した。
 
 「鬼工の女子よ。覚えておけ」
 すこし間を置いて、コウヘイは千晶ちゃんを正面から見据えて言った。それへまっすぐに千晶ちゃんは視線を返す。
 「なあに?」
 「俺は逞しい精神を持った者は嫌いではない。それが女子であろうと、だ。それに免じて、先日のことは不問としよう」
 「──コウヘイ?」
 リュウジが問うのには、コウヘイは応えなかった。

 「だがまあ、次は容赦しねえからな。たとえ女子でもな」
 「ええ、わかったわ」
 千晶ちゃんはにこりと──さすが鬼工のアイドルたるところを見せて、まるでそれが必殺技であるかのようにコウヘイに笑いかけた。
 それを見たコウヘイは、あからさまに動揺していた──とオレは思った。だってちょっと顔が赤くならなかったか?
 千晶ちゃんを完全に女の子だと思ってるみたいだしな。べつに本当のことを教えてやる筋合いでもないから仕方ないけど。

 「それでは今日はそろそろ退くぞ、お前等」
 仲間を振り返って、ひときわ大きな声でコウヘイはそう言った。
 「了解です、総帥」
 「ラジャー!!」
 「モンガー!!!」
 それぞれ同意を告げると、暗黒一家は各々の単車のエンジンをスタートさせたんだ。

 立ち去り際、コウヘイは千晶ちゃんにこう言った。
 「女子よ。次は俺と勝負してみるか?」
 「それもいいかもね。あたし負けないよ? ハヤトにコーチしてもらうから」
 それへ皮肉めいた笑いを投げかけたのを潮に、コウヘイたちは爆音と共に去っていった。
 コウヘイ相手にそんな風に言えるヤツなんて──男でもそうそういないかも。

 オレたちは改めて、千晶ちゃんに賞賛のまなざしを向けたけど、当の千晶ちゃんはまったく気付いていなかった。
 「え? なに? なんかおかしなこと言った?」
 カラダは男でも、心は女の子。そんな千晶ちゃんはもしかしたら誰よりも──いやリュウジの次くらいに漢なのかもしれなかった。

 「いや、全然おかしなことなんて言ってねえぜ!!! むしろそれこそが俺らの信条だ。千晶ちゃんはやっぱり逞しいな」
 「ああ。リュウジの言うとおり! 千晶ちゃんって男前だよね」
 「ハヤト……オトコマエって、それは褒め言葉?」
 「ん? あ、そうか。間違えたなあ、オレ」
 まあいいけどね、なんて千晶ちゃんは笑ってる。リュウジたちもため息混じりに苦笑い。
 
 わが鬼工のアイドル・千晶ちゃんは、日々自分を磨くタイプの努力家だ。きっとそのうち、単車の腕だって上げてくるんじゃないかな。
 オレもうかうかしてられないかも、なんて思いながら、千晶ちゃんのストレートヘアが風になびくのを見てた。
 
 深夜の倉庫群で単車に跨る千晶ちゃんの姿──爆走天使の称号はもしかしたら千晶ちゃんに一番似合うのかもしれないな。


   * 叢中に咲く一点の紅い花 完 * 


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アイドルの放課後 1


 それはある日の放課後のこと。
 赤ジャージの柔道特訓を一緒に見学したあと、リュウジとともに学校を出て、リュウジの家の前でいつものように別れを言い合ったその後。
 すこし歩いた商店街の真ん中で、オレは千晶ちゃんの姿を見つけたんだ。手には何やら大小ふたつの袋を提げている。
 「お、千晶ちゃん」
 「ああ、ハヤトだ。今帰り?」
 「うん、そう。千晶ちゃんは?」
 「あたしはこれからリュウジのとこへ行くんだ」
 やんわりと笑う千晶ちゃんのほっぺたは、今日も手入れが行き届いているらしく、ふっくらしていた。

 「こないだ頼まれてさ、リュウジに」
 「何を?」
 「買い物。刺繍糸」
 目の前に手荷物のうちの小さいほうの袋をかざして、千晶ちゃんはそう言った。
 「へえ。珍しい買い物を頼んだなあ、リュウジ」
 「ね~。だってさ、こないだコレ渡されてね」
 と、千晶ちゃんが示したのは、持っていたもうひとつの大きいほうの袋。袋の口を開けると、見慣れたリュウジの特攻服が現れた。

 「ここのところと同じ色の糸を買ってきて、って」
 「ああ、ここ? ほつれてるとこだ」
 「うん。直すんだって」
 「直す──って、千晶ちゃんが?」
 「まさか。あたしお裁縫は苦手だもん」
 くふふ、と千晶ちゃんは苦笑いを寄越した。

 「リュウジがね、自分でやるって。それくらいは出来るんだけど、でも手芸店に行くのが自分じゃムリとか言ってさ。恥ずかしいんだって」
 「あはは、そういうことか」
 確かに。リュウジが手芸店で刺繍糸を選んでいる姿って、想像するとやたらと笑えるかも。そりゃ恥ずかしいってのもわかるなあ。

 「それでさ、買い物したからリュウジに渡そうと思って」
 「そっか。じゃあオレも付き合おうかな」
 なんて言いながら、オレはついさっき別れたばかりのリュウジの家の前までふたたび、今度は千晶ちゃんと一緒に戻ることにした。

 「けど、リュウジって自分で裁縫できるんだ」
 「ね~。意外だよね」
 千晶ちゃんがくすりと笑う。
 「意外って言えばそうだけど、でもリュウジは何をやっても器用にこなすからね」
 「ふうん。あたし、ハヤトのほうがそういうの得意かと思った」
 「え? オレ? あはは、オレはムリだな。不器用だっていつもリュウジにからかわれてるよ」
 「へええ。そっちのが意外かも」
 「そう? でも、オレたちは千晶ちゃんがあんなに度胸あるって知ったときはほんとに意外だったけどな」
 「あは。世の中って、見かけによらないことだらけだよね」
 そうかもね、なんて笑いあっていた。

 話しながら歩いて、駅前に通じる道を横切ったところで、前方からひとつの人影がオレたちの前で立ち止まった。
 ん? と横に並んだ千晶ちゃんからはずした視線を前にやると──
 「あ、コウヘイだ……」
 こんなとき、どんな反応していいかって実はオレ、苦手なほう。
 リュウジと一緒に歩いてるときだったらリュウジが真っ先に行動を起こすので、それに倣えばいいだけだからな。
 ノブオだったら向こう見ずにつっかかっていくのかも。ダイゴだったら一礼して何事もなかったように歩き出すのかも。

 したらばオレは──なんて一瞬迷っているうちに、オレより先に千晶ちゃんがコウヘイに笑いかけたんだ。
 「こんにちは、暗黒の大将さん」
 「お……おう」
 ヤバいことにならないといいんだが──オレは腕っ節でコウヘイに敵うわけないから。一緒にいる千晶ちゃんをかばえるのか?
 とか思うオレを後目に、千晶ちゃんはまったく動じずにコウヘイを見据えている。

 見つめられるコウヘイは──なんだか妙な表情を作っているのに気がついた。
 「女子、貴様どうしてそのような恰好を?」
 「え? あたし? 何かおかしい?」
 目顔で問われて、オレは首を左右に振った。
 ちょうど冬服になったばかりのシーズンで、千晶ちゃんはごく普通に学ランを羽織っている。
 「べつにおかしいとこなんてないんじゃない? ちょっとサイズ大きめだけど」
 「それはね。そのほうが似合うから。あたし」
 「いや……そういう問題ではない。貴様、女子なのに何故男用の制服を着ているのだ?」
 言い終わっても、ぽかんと口を開けているコウヘイの顔は、ちょっと見物だった。

 そうか。ようやく納得だ。
 今日までずっと千晶ちゃんを完全に女の子だと思っていたコウヘイが、千晶ちゃんの学ラン姿を見たわけで。
 そしたらそういう反応するのも当然というわけで。
 オレと同時に千晶ちゃんも思い至ったようで、ああ、とばかりに頷いた。

 「貴様、女子の制服はスカートだろう? それは趣味なのか?」
 「いいじゃないの。何着てたって。だってあたしの本質は服の中の、それよりももっと奥のほうにあるのよ?」
 千晶ちゃんの回答はこうだった。さらに続けてこう言った。
 「大将の本質だって、目に見えるものとは違うかもしれないじゃない」
 コウヘイは言葉を詰まらせた。
 あらら、ホントに強いね、千晶ちゃん。オレ、出る幕ナシだ。

 結局のところコウヘイは、首を傾げたままそれ以上何も言わずに立ち去っていった。
 「すごいな、千晶ちゃん。暗黒一家の総帥に勝利だ」
 「あは。これって勝ち? じゃああたしもリュウジに並んだね」
 なんてやんわりと笑む鬼工のアイドルがオレの横にいる。
 オレたちには見慣れた学ラン姿の美少女って、やっぱりちょっと普通じゃないチカラを持ってる。
 それが人を惹き付けるんだな、なんて改めて感心してしまった。

 

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アイドルの放課後 2


 そんなこんなでリュウジの家の近くまで、オレは千晶ちゃんと一緒に戻ってきた。
 オレはリュウジのところへつく前に、どうしても千晶ちゃんとふたりになったときに訊こうと思っていたことがあったことに思い至った。
 街路樹の下で足をとめて、千晶ちゃんに問うことにした。

 「そうだ、千晶ちゃん」
 「え? 何、ハヤト?」
 「千晶ちゃんって好きなヤツとかいるんじゃないの?」
 「あたし──? 好きな人?」
 「うん」
 
 オレは前にダイゴとノブオにこう言ったことがある──千晶ちゃんはリュウジのことを好きなんじゃないか、って。
 ダイゴが言うには、カラダは男子だろうが中身は女子なのだからそういうこともあるかもしれない、と。
 ノブオはリュウジに心酔しているから、かなり複雑な顔をしてたけど。
 とにかくオレはここのところずっとそんなふうに想像してたんだ。
 
 「まあね。いないこともないんだけど」
 ほんのりと頬を染める千晶ちゃんがいた。
 「やっぱりね」
 「あは、わかるんだ、ハヤト?」
 千晶ちゃんは目を見開いてオレを見た。
 「うん。まあ、なんとなく。それでもって、案外難航してるんじゃない?」
 「ん~。そうかも。相手はあたしの気持ちなんて知らないしね」
 うつむく千晶ちゃんはオレから見ても可愛いのになあ──。

 「そうだよね。リュウジ鈍いもんな。恋愛上手なほうじゃないし。千晶ちゃんも苦労するよな」
 なんてオレは同情しながら言ってみた。
 「え? リュウジ? リュウジがどうかした?」
 「ん──? だって、千晶ちゃんリュウジが好きなんじゃないの?」
 「え──えええっ? あたしが? リュウジを? なんで!!!」
 一瞬の間をおいて、あはははは、なんて千晶ちゃんはオレの背中をぺしぺし叩きながら大きな声で笑っていた。

 「あれ? 違った? オレ、てっきり千晶ちゃんはリュウジを好きなんだとばっかり思ってたんだけど」
 「違う違う!!! リュウジのことは好きだけど、ぜんぜん意味が違うよ」
 深呼吸で落ち着こうとしながら千晶ちゃんが言った。
 
 「ええとね。誰にも言ってないことなんだけど。ハヤトならいいかな」
 笑いを収めたあと、千晶ちゃんはオレを上目遣いに見つめてこう口を割った。
 「あのね、あたし男子にはそういう感情、もてないの」
 「──え?」
 「ちょっと複雑なんだけどね。あたし、好きになるのって……実は女の子だったりして」
 照れたように言う千晶ちゃんの告白は、オレの脳味噌をこれでもか、ってくらい掻き回した。
 
 カラダは男子、見た目とココロは女子。誰が見てもかわいくて、時に剛胆で逞しくて──そんなすべてを兼ね備えた千晶ちゃんの秘密ってのは、ホントに驚きだった。

 「ええと……ややこしいね、千晶ちゃん」
 「うん。混乱するでしょ? だって本人も混乱してるもん。あは。でもさ、ハヤトだったら相談乗ってくれそうかな、って」
 「オレ?」
 「そう。だから困ったら、ときどき話を聞いてよね」
 「まあ……お役に立てればいいんだけど」
 耳の後ろあたりをかりかり掻きながら、オレは千晶ちゃんに答えていた。
 ……オレもまだまだだな。

 ひとしきり会話を終えたあとのオレたちは、それまでよりもより強い友情に結ばれていたような気がした。
 そうだね、千晶ちゃんの憧れてた男同士の友情ってのに近いかも。
 
 そしてそれから気を取り直して、ふたりして本来の目的のリュウジの家に行ったんだ。
 店先でリュウジを呼ぶと、厨房の奥からリュウジが出てくる。
 「はい、これ。約束の」
 「オウ、ありがとな!!! 千晶ちゃん」
 千晶ちゃんに手渡されたふたつの袋を受け取って、リュウジはにこりと笑った。

 「そうだ、貰い物だけどプリンあるぜ。千晶ちゃん、食ってくか? 女の子は甘いもん好きだろ?」
 「うん、食べる!!! ありがとリュウジ」
 「ハヤトも食うか? お前も好きだったろ?」
 「ああ。いただこうかな」
 オレと千晶ちゃんが、プリンとリュウジのいれてくれたコーヒーをいただいている間、リュウジは思いだしたように家の中に入っていった。
 
 そして、ふたたび店に戻ってきたリュウジの手には、さっき千晶ちゃんが渡したのとは違う袋が提げられている。
 「千晶ちゃん。よかったらこれ着るか?」
 「なに?」
 千晶ちゃんは、手渡された袋から中身を出した。中から出てきたのは──
 
 「うわ、これって……」
 それは──特攻服だった。広げてみると、リュウジがいつも着ているのより丈の短い特攻服。
 「オウ。俺がずっと昔、総隊長なんて肩書きのない頃に着てたやつだ。小さくなったからな。古いので悪いけど、よければ今度一緒に走るときにでもと思ってよ。ちゃんとほつれたとこも繕ってあるし」
 「あは、ありがと。似合うかな?」
 スプーンを置いて、千晶ちゃんは立ち上がり──学ランを脱いでリュウジのお古の特攻服を羽織った。

 「へえ。いいじゃん、千晶ちゃん」
 「そう? ハヤト」
 ちょっと照れたような顔で千晶ちゃんはオレを見る。
 「おう、なかなかだぜ!!! でもやっぱりちょっと大きいか?」
 「ううん。どっちかっていうと大きいほうが好みだよ、あたし」
 「ならいいやな。持って帰ってくれな」
 「うん、そうする。ありがとね、リュウジ」
 脱いだ特攻服を袋にしまいながら、千晶ちゃんは言う。
 
 「あ~、でもさ。これ着て夜の河川敷の集会とか行ったら、完全に女の子にはヒかれるよね、ハヤト。あたしどうしようかなあ」
 「あはは、そうかもね」
 千晶ちゃんの耳打ちに、オレは軽く笑って答えた。そんなオレたちをリュウジが見咎める。
 「ん? 何を内緒話してるんだ? ふたりとも」
 「何でもないよ、リュウジ。ね? ハヤト」
 「ああ。ただ、リュウジのお古を千晶ちゃんが着てたらさ、ノブオがやきもち妬くかな、って」
 「ノブオが──? 何だ、そりゃ」
 「わはは。だから何でもないってば」
 
 しばらく店の中で話をしてたんだけど、そろそろ夜の営業時間が始まるっていうタイミングで、オレと千晶ちゃんは帰ることにした。
 「そしたらまた明日、学校でな」
 「うん。また明日ね」
 「ハヤト、明日こそ寝坊すんじゃねえぞ?」
 「わはははは、え~と、努力します」
 別れ際のいつもの挨拶。こんな日常の積み重ねをなんだか愛おしいオレって、幸せなのかもしれないな。
 
 見上げれば夕焼けの気配が混じった秋の空。
 秋らしい薄めの雲が、ちょこっと茜色に染まっていた。


   * アイドルの放課後 完 *

 

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祭という名の激突に向けて 1


 「すっかり空は秋模様だな、ハヤト」
 「あはは、なんかリュウジ、詩人っぽいじゃん?」
 いつも通りの昼休み。
 食事を終えたオレとリュウジは、教室の窓際の席に座って窓の外なんか眺めていた。
 リュウジの言うとおり、夏よりだいぶ高くなった空にはいわし雲ってやつが浮かんでた。
 
 「まあな。俺、案外そういうこと考えて毎日生きてるんだぜ」
 「へ~。それは知らなかったよ」
 「あ、ハヤト!!! お前今笑っただろ?」
 「いえいえ。滅相もない」
 なんて、こんなリュウジとオレのやりとりもいつも通りな感じ。

 「しっかし食後ってのは、どうしてこうも平和な気分なんだろうなあ、ハヤト」
 リュウジは大好物のいちご牛乳をストローですすりながら、あくびなんかしている。
 「ん~。なんでだろ。食後は体があったまるからな。眠くなるからじゃないの?」
 「そうか。眠いと平和な気分なんだな──ってことはあれか? ハヤトはいつでも眠そうだから、常に平和な気分なのか?」
 「あはははは、どうかなあ」
 「そうか──だから喧嘩嫌いなんだな、ハヤト」
 「え? 随分飛躍するなあ、リュウジ……って、おい? リュウジ? あ~あ、居眠りなんて珍しいなあ」
 なんだ。飛躍してたのは半分寝ぼけてたのか。やれやれ。

 まあね。確かに昨夜も遅くまで外にいたからね。誰だって眠くなるよ。
 さてと、それじゃオレもついでに昼寝しようかな、なんて思って机につっぷした矢先のことだった。

 「失礼しま~す!! 兄貴~~~っ!!!」
 聞き覚えのある声が聞こえてきたので、オレは上半身を起こして扉のほうに目をやった。
 扉から入ってきたのは1年生のふたり連れ。ノブオと、野球部のエース・天宮くんだ。
 「ん? ノブオ? 天宮くんも。どうかした?」
 「チューっス、ハヤトさん!!!」
 「こんにちは」
 「ああ。どうもね」
 「しかし珍しいっスね。兄貴が寝ててハヤトさんが目を覚ましてるなんて」
 「うるさいよ、ノブオ」
 なはは、と誤魔化し笑いなんてノブオがしてる。つられて天宮くんも笑ってる。
 
 「ちょっと失礼──兄貴?」
 ノブオがリュウジを揺り起こす。
 「んんん、あと1分寝かしてくれや……」
 「ちょっと、兄貴!!!」
 ふたたび激しくリュウジの肩を揺さぶったノブオは──

 哀れなことに、珍しく寝ぼけたリュウジに顔面を殴打されていた。

 「うへ~~~、痛いっスよ、兄貴ぃ……」
 「ん? オウ、ノブオ!!! どうしたそんなとこに寝っ転がって?」
 ようやく目覚めたらしいリュウジが、倒れ伏したノブオを見やる。
 「あはは、リュウジ。それリュウジがやっつけた敵だ。リュウジの安眠を妨害したから正義の鉄拳を見舞ったんだろ?」
 「何? 俺か。それは悪かったな、ノブオ」
 「もう。いいっス、兄貴。オレがいけませんでしたよ」
 すこし赤くなった頬をさすりながら、ノブオは天宮くんに助け起こされている。

 「それで? 何かリュウジに用だったんじゃないの? ノブオ、天宮くん」
 「ええ、そうなんっス。な、天宮?」
 「ああ」
 ノブオの横で天宮くんが頷いた。

 「リュウジさん。ちょっと一緒に来ていただきたいんですが」
 背筋を伸ばして、野球部の1年生エースはリュウジを正面から見る。ひとえの、だが熱い何かを湛えている目が天宮くんの特徴だ。
 「うん? 俺か? 別に構わねえけど、一体どこまでだ?」
 「ええ。生徒会議室まで。主将がリュウジさんを待っているので」
 「主将──森園か?」
 「はい、そうです。主将が、リュウジさんに是非お願いしたいことがあるので、一緒に来ていただくようにと」
 言い終わると、天宮くんはぺこりとお辞儀をする。
 運動部ってのは、やっぱり躾が行き届いているんだな。ノブオも見習わせたいよ。

 「ふうん。何だろうな、ハヤト?」
 「さあ……」
 「まあいいや。森園の招きとあってはとにかく行ってみるか」
 「ありがとうございます!!」
 元気よく答えて、天宮くんはさらに深く頭を下げた。
 こんどはノブオも、なんでだか一緒にお辞儀していた。つられただけかも。
 「それから、ハヤトさんも是非ご一緒に」
 「え? オレも行くの?」
 「はい。これからダイゴさんも呼びに行きますので。皆さんで」
 天宮くんはそう言って、いつもの生真面目そうな表情をすこしだけ緩めたんだ。

 そうしたわけで、オレたちは天宮くんに連れられる恰好で渡り廊下を歩いていた。
 途中でダイゴも呼び出して、集団は5人になっている。
 「しかし森園はなんでそんな、会議室なんて物珍しいとこにいるんだ? 部室じゃねえのかよ」
 「さあね。どうしてだろ。確かに不思議だ」
 オレはリュウジと顔を見合わせる。
 「ああ──あの件か」
 「あの件? ダイゴ、心当たりあるのかよ?」
 「押忍。多少は」
 重々しく頷くダイゴに、ノブオが言う。
 「ダイゴさん。それ多分正解っス!!」
 
 さて、森園主将がリュウジを呼びだした理由とは?
 この扉を開ければわかるらしい。
 目的の会議室についたオレたちは、天宮くんが室の扉をノックする手元を見ていた。


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祭という名の激突に向けて 2


 「失礼します。主将、リュウジさんたちをお連れしました」
 「ああ、天宮。ご苦労だった」
 特別教室棟にある生徒会議室の中には、オレたちもそれなりに面識のある野球部の連中が居並んでいた。
 
 「オウ、森園!!! なんでこんなとこで偉そうにしてんだ?」
 「ふふふ、リュウジ。別に偉そうなことなんてないさ」
 とは言いながら、森園主将は奥の窓際に近い椅子に悠然と足を組んで座っていた。
 その細い中指が、ゆっくりとした仕草で縁なし眼鏡を持ち上げる。

 「とりたてて偉いことはないんだが。けど、現在俺はちょっとした肩書きをもらっているんだ」
 「ん? 何だ、それは?」
 「俺は、本年度の体育祭実行委員長を務めることになったのだよ。俺の権限で、実行役員は野球部の連中に押しつけた」
 「へええ、そうだったのか。そういやそろそろだもんな、体育祭」
 「ああ」
 天宮くんに椅子を勧められて、オレたちもおのおの席につく。
 
 「で? その体育祭実行委員長が俺に何の用だ?」
 「頼みたいことがあってね、リュウジ」
 足を組み替えて、森園主将が続けた。
 
 「その前に、今年の体育祭がちょっとした新趣向で開かれることをお知らせしておこう。今年は例年とは趣向を変えて、学校対決にしようということになったのだよ、リュウジ」
 「学校対決?」
 ふふふ、と森園主将が笑みを挟む。
 「さまざまな意味でライバル関係である暗黒水産と、学校単位で対決してみたらどうだろうという意見が通ったわけなのだ」
 森園主将の表情は、なんだか満足そうだった。

 「それって、毎年みたく学校内で紅組と白組に別れて対決じゃなく、ってことか?」
 「ああ。そうだね。今年は全校一軍となって、暗黒水産と対決するんだよ、リュウジ」
 「って、それはいったい誰が決めたんだ?」
 「それは──両校の実行委員会同志が協議した結果だ。両校の先生方も同意してくださったので実現する運びとなったのだ」
 「なるほどな。面白い案ではあるかも知れねえな」
 リュウジも森園主将につられるかのように、いきいきとした顔になってる。
 
 「リュウジならそう言うだろうと思ったよ。それに、最初に相談した、リュウジのところの担任も乗り気だったしね」
 「担任……赤ジャージか? そうか。今のあいつなら逆に焚きつけてもおかしくねえもんな、そんな案が出たら」
 なんだか観念したような顔で、リュウジはオレたちを見た。
 「確かにね。赤ジャージも対決準備の真っ只中だもんな」
 「押忍。打倒・暗黒は先生の口癖だ、このところ」
 「あ、オレも聞いたことあるっス」
 こちらもまあ、個人的なわけありに過ぎないんだけど。
 オレたちはそんなことになっているなんてちっとも知らなかった。
 もちろんほかの生徒たちも知らないんだろうけど。

 「このことは、6時間目の全校集会で生徒たちに発表することになっている。それに先んじてリュウジを呼んだのはほかでもない」
 眼鏡の奥で森園主将の目がきらめく。なんとなく、闘う気迫を感じさせる──言ってみれば勝負を前にした控え室で見たことあるようなまなざしだった。
 「リュウジ。君に応援隊長就任を依頼したいのだ」
 「え──俺がか?」
 森園主将はちらりと、オレの横にいたダイゴに目をやった。
 ちいさくダイゴが頷いたあたりを見ると、森園主将と同級のダイゴは前もって相談でもされていたのかもしれない。

 「とにかく夏の県大会ではリュウジたちには本当に世話になったと感謝している。あの時と同じ魂で、ふたたび宿命の闘いを盛り上げてほしいのだ、リュウジ」
 森園主将は立ち上がって、リュウジに向かってお辞儀をした。
 実行委員たち──野球部の面々も森園主将に倣う。

 「実は過日、暗黒水産と非公式の練習試合をやってね。そこで不甲斐ないことに、我々は負けてしまったのだよ」
 「主将、あの時はおれが……」
 「ああ、天宮。お前ひとりのせいではないだろう?」
 はい、と頷きつつも、天宮くんはその時の気持ちを思いだしたのか、奥歯を噛み締めるような表情をする。

 「それで、その時に思ったのだ。負けたのはリュウジたちの応援がなかったからかもしれない、とね」
 「わはは、まさか、そんなことはねえだろ?」
 とか言いながら、リュウジはまんざらでもないような顔を見せた。
 「また同時に、敗戦があったからこそ、新趣向の体育祭を思いついたわけなのだが」
 「そうか。なるほどそういうことか」
 はっきり言って、森園主将は乗せ上手だと思う。
 こんな切り出し方をしたら、リュウジに否やは言えないんじゃないか?

 とにかく、野球部、赤ジャージ、そしてオレたち──それぞれ別々の理由だけど、わけありの、暗黒水産には負けられない人間どもが寄り集まった恰好になっていて。
 まだ腕組みをしたままのリュウジは、実行委員長・森園主将の要請にどう応えたもんだろうな。

 「応援隊長──か。あれ、案外疲れるもんだぜ? 森園」
 どうやらリュウジのその台詞は、森園主将には「諾」と聞こえたようだった。
 オレたちにもそう聞こえたからね。

 さて、なんだかまたしても慌ただしくなりそうだ。


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