目次

過去の記事をまとめて表示できるようにしてみました。 【 】がついている項目をクリックすると、それぞれのタイトルの記事を一括でお読みいただけます。 【 】内の数字が若い順に古い記事となっております。 【 】内の冒頭数字が同じものはそれぞれ対になるおはなしです。

これまでのおはなし

全タイトルを表示

御来訪感謝

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

湖畔に吹く烈風 2

 
 「なんかこう、試験ってのはいっつも思うけど俺の気力を吸い尽くすぜ」
 とか何とか言いながら、リュウジは晴れ晴れとした表情を作ってた。
 いざ試験が終わってしまえばこっちのもの、って言わんばかりの顔だった。
 「あはは。そんなもん?」
 「当然じゃねえか!!! なんか神経使うし、緊張もするしな」
 「え、リュウジが緊張するって、なんか珍しいこと言うね」
 「そりゃ誰だって固くもなるだろ? つーか、ハヤトが図太いだけじゃねえの? まあな。結果に心配なさそうだしな、ハヤトに限っては」
 「そんなこともないけどさ。オレだって1学期んときには居眠りしちゃって白紙提出したり、ああ、回答欄を全部いっこずつ間違えたのもあったな」
 「ハヤトらしい武勇伝だな。恐れ入ったぜ」
 「あはは、お褒めいただけて光栄だよ」
 わはははは、って気安く笑いあうのがいい感じだな。って、こういうとき大概笑われてるのはオレなんだけどね……。

 試験を終えたリュウジとオレは、一緒に美山瀬湖を目指して走りに出掛けるところだ。
 平日の、時間はまだ昼前。道路は空いてる。こんな恵まれた状況で遠くまで走るのって滅多にないことだから、思いっきり堪能しようとオレは目論んでる。

 海沿いの国道4649号線をしばらく走って、今度は県道に入る。
 それをひたすら北上して、片側3車線の広い国道を横切る。
 そののち今度は山へ向かう国道をしばらく走って、さらに細い県道で現地を目指す──というルートが今回の旅程だ。
 距離にして40kmほどをオレたちは、昼間ってことも考えて、信号無視とかスピード違反とかをなるべくしないように気をつけながら一路山へと向かって行った。
 あ、一応ヘルメットも持参してはいるんだ。一応、ね。

 予想どおりどこも混んでいるところもなくて、オレたちの行程は順調そのもの。ちょっと風が冷たくなってきているのを感じながら、リュウジの背中を見て走る。
 手術してからそんなに経っていないからすこし心配だったけど、リュウジもこれといって調子悪かったりはしないようでまずは安心だ。
 行き先の書いてある青い看板を見ると、どんどん目的地までの距離が縮まっているのが気分よかったりする。
 
 そうして辿り着いた山道のトンネルを抜けると、目の前には想像よりもずっと大きな湖が広がっていたんだ。
 オレたちは感激のあまり、トンネルの出口際に単車をちょこっと停めてみた。
 「うわ~、大きいんだ。美山瀬湖って」
 「ああ。俺も驚いたぜ」
 リュウジと顔を見合わせてしまう。
 「水が青いよな。当たり前だけど」
 「ほんとだね。ところどころ青の色が違うのがまた、いいね」
 「な、来てよかっただろ? 気分いいよな」
 「うん、リュウジ。いいとこだ」
 オレが頷くと、リュウジは満足そうに頬をほころばせた。
 
 「ほんとはみんなで来たかったね」
 「そうだよな。残念だったな。ダイゴもノブオも」
 ふたりを誘ってはみたんだけど、どちらも忙しいらしかった。
 ダイゴは法事の手伝いがあるそうだ。ノブオは、何だかお母さんと約束があるとか。
 「でもさ、そしたら今日のは下見ってことで。今度ダイゴたちを案内してあげればいいんじゃない?」
 「オウ、それ名案!!! ハヤトってとぼけてるけど時々いいこと言うよな!!!」
 「……どうもね」
 なんか釈然としないけど、そこでつっこむのはキャラじゃないからな、オレ。

 「よし、それじゃそろそろ行くか。俺は今日は目的があって来たんだからな」
 そんなリュウジの掛け声で、オレはふたたび単車に跨った。
 そこからは、湖に沿って道を行くのみ。陽射しに湖面が輝くのなんかを横目で見ながらの走行は気分がいい。海とは違った色合いが、なんだか目新しかった。

 リュウジについてしばらく走って、湖畔の飲食店や売店なんかが並んでいるあたりまで来た。駐輪場に単車を並べて停めると、リュウジは何やらリアにくくりつけていた荷物をほどいた。
 そして、ポケットからメモを取りだしてそれを頼りに歩き出すリュウジに、オレはついていく。

 「ああ、ここだここだ」
 と言ってリュウジが足を止めたのは、何軒か並んだおみやげ屋さんのうちの一軒の前。
 おまんじゅうとかを売っているお店ではなくて、木でつくった小物ばかりが並んでいるところだ。お客さんは女性ばっかりだった。
 
 大事そうに手持ちの包みを抱え直して、リュウジは店先で声を張る。
 「こんにちわ!!! ええと、健兄の親父さんいますか?」
 「うん? 健兄──? 健一だったらウチの息子だが?」
 リュウジの声で振り返ったのは、オレの親父よりちょっと若く見える男性だった。パイプをくわえて、帆布でできた前掛けをつけて、健兄さんと同じ背中の真ん中くらいまである長髪を後ろでひとつに束ねている。
 「どうも、はじめまして」
 リュウジはぺこりとひとつお辞儀をした。それにオレも倣う。
 「俺、健兄に世話になった者です。で、これ。健兄から、親父さんへ渡してほしいって頼まれて持ってきました」
 「健一から……なんだろう?」
 言って、親父さんはリュウジから包みを受け取っていた。

 親父さんが開いた包みから出てきたのは、革製のベストだった。それと一通の手紙。
 手紙に目を通した親父さんの目がちょっと細められたのをオレたちは見ていたんだ。
 「誕生日おめでとうございます、親父さん」
 リュウジが言うのに合わせて、隣に控えるオレも自然とお辞儀していた。

 そうか、親父さんの誕生日プレゼント──そういうことだったんだ。
 足を骨折して自分で来られない健兄さんは、リュウジにお使いを頼んだんだな。
 リュウジから詳しく聞いていなかったから、今ようやくここに来た意図をオレは知ったのだった。

 「ああ、それはどうもありがとう。ご苦労さんだったな、君達」
 「とんでもないです。俺も同じ病室に入院してて、さんざ健兄にはお世話になったから」
 「そうか、君か。リュウジ君というのは。この間、健一から電話があったときに聞いたぞ。なんでもやんちゃな高校生らしいな?」
 「え──俺……わはははは」
 「うんうん。いいじゃないか。そういうのは若いうちしかできないからな」
 健兄さんの親父さんは、リュウジの肩を叩きながら大きく笑ってた。
 
 それからしばらくリュウジは親父さんに健兄さんの近況を話したりしてた。
 そうこうしているうちに、今度はお袋さんが中から出てきて、オレたちに手作りらしきケーキとコーヒーをご馳走してくれたんだ。

 店内の一角にある木製テーブルを陣取って、リュウジと親父さんが話すのを聞いてた。
 親父さんの話からすると、健兄さんってのもオレたちくらいの歳のころはこのあたりでは随分名前が通っていたみたいだ。
 「へ~。だからリュウジと気があったんだね。健兄さん」
 「オウ。なんか納得だぜ」
 オレがちいさく囁くと、リュウジはどことなくうれしそうに頷いた。
 同じ匂いのする人どうしって、惹きあうのかもね。
 

スポンサーサイト

テーマ : パチスロ - ジャンル : ギャンブル

湖畔に吹く烈風 3


 「君達、美山瀬湖は初めてか? だったら少し湖畔を散歩してくるといい。まだ紅葉には少し早いが、いろいろ秋の花も咲いているし」
 「うん、そうします、親父さん。健兄に報告しないといけないから」
 「ははは。そうか。そうしてくれると有り難いな」
 そんなふうに親父さんに言われて、オレたちは外へ出た。

 湖畔の空気は、まったくもって澄んでいた。
 「いや~、すがすがしいぜ!!! 試験のことなんて忘れるよなあ。どうでもいいやな」
 「あはは、そうだね」
 いや、どうでもいいかどうかはわかんないんだけどさ。
 「でもさ、同じ水辺でも浜とは空気が違うよね。植物が多いせいかな?」
 「そうかもな、ハヤト」
 
 湖畔の、芝生が敷いてある公園に降り立ったオレたちは、寝っ転がって青空を仰ぐ。
 「そういや、ほら、あの大きい木あるだろ?」
 リュウジは正面を指さして言った。示した先には、見上げるほどの見事な大木がある。
 「多分あれのことだと思うんだけどな、健兄が言ってた。あれ、日本一大きなクリスマスツリーなんだってよ。時期になると電飾が点るらしいぜ」
 「へえ、そうなんだ。あんなに大きいんじゃ壮観だろうな。見てみたいね、冬に」
 「だよな。今度みんなで来るんだったらその頃を狙うか?」
 「うん、いいね」
 なんて軽く喜んでみたんだけど、ちょっと気になることがあった。
 「でも、ダイゴって宗教上の制約みたいのって大丈夫かな?」
 「ああ、そうか。でも平気じゃねえ? 俺、ガキの頃ダイゴとクリスマスケーキ食ったことあるぜ?」
 「あ、そう? それじゃいいか。うん、いいことにしよう」
 なんて具合でオレたちは、開放感を満喫してた。

 それから公園を一巡りしてたら、子供が喜びそうなロードトレインってやつ──汽車みたいな形をしたクルマの、遊園地なんかにあるような乗り物──と行き合った。
 「なあ、アレ、乗ってみたくねえ?」
 「ん? アレ? 乗りたいんだ、リュウジ。あはは、子供みたいだな」
 「……何だと? いいじゃねえかよ」
 言うが早いか、リュウジは道を行く汽車へと突進していったんだ。
 好きだねえ、こういうの。

 なんだかはしゃいでいるリュウジと一緒に乗り込んで、湖畔公園一周の旅。
 ロードトレインの窓から見た湖には、遊覧船が浮かんでいた。
 小鳥のさえずりなんかも聞こえてくる。
 「うわ~、ハヤト!!! あっち見てみろよ。ほら、あの森んとこ。なんかさ、熊でも出てきそうだよな」
 「熊──はどうかなあ? でもこの辺、イノシシとかシカはいるって聞くね」
 「ほう、そうか!!! いいな、俺もイノシシ仕留めてみてえぜ」
 「いや……さすがに素手じゃどうだろな。少なくともコウヘイやゴンタよりは強いと思うけど」
 「ん? ああ、そんなもんか。それじゃもうちょっとリハビリしてからにすっかな」
 童心に帰って──いや、いつもと同じかもしれないけど、無邪気に騒ぐリュウジがやけにほほえましい。

 そうしてそばらく遊んだあとに、オレたちは湖畔から引き上げたんだ。
 帰りにもう一度、健兄さんの親父さんに挨拶をして──またいつでもおいでって言ってた──、それから駐輪場へと向かった。
 「使命を果たしたあとは気分いいぜ。今日はありがとな、ハヤト。付き合ってくれて」
 「とんでもない。オレも満喫したしね。おいしい空気を」
 「そうか。だったらよかったぜ!!!」
 「でもさ、県内だし、あんまり遠くまで来たつもりないけどすっかり観光気分を味わえたよな」
 まだ視線を湖に残したオレたちは、話しながら駐輪場まで歩いた。
 
 駐輪場の入り口まで来てみたら、オレたちの単車を停めたすぐ脇に座り込むふたつの人影があるのに気が付いた。
 そのふたり組は両方とも背中の真ん中くらいまでの長髪──ちょうど健兄さんとおなじくらいだ──をして、揃いの革ジャンを着込んでいる。
 座り込む彼らの目の前には、オレたちのと大差ないくらい目立つ見た目の単車が停まっていた。
 「うん? どうしたんだろうな?」
 「さて……?」
 リュウジと顔を見合わせて、ともかくオレたちはそっちのほう、というか、自分らの単車が停まっているところまで足を運んでみた。

 「あ~あ、やっちまったなあ。おれ」
 「とにかく直さないことには。こんなところ奴らに見られた日には──」
 「確実に足許掬われるよなー」
 なんだか困って焦ったような顔を彼らはしていた。
 「こんな場合だ。親父さんに助けを求めたらどうだ?」
 「まさか。そんなのおれ、恥ずかしくてできねーよ。いっつも頼ってばっかだし」
 「そうか。それもそうだな」

 「兄ちゃんたち、どうかしたのか?」
 リュウジが突然、彼らに声をかける。
 それまでオレたちにぜんぜん気付いていなかった彼らは、一瞬肩をびくっと震わせてからオレたちを振り返ったんだ。
 「なんか困ってるみてえだな?」
 「ああ──いや、まあ」
 ふたりは立ち上がって、オレたちを値踏みするように見たあとに、目線を合わせていた。

 リュウジは困った顔をしてる奴を見過ごすことができないたちだから、彼らにごく自然に声をかけた。
 困ってる彼らは、そんなリュウジとオレの胸の内を量りかねてかさらにちょっと困ったような顔になっていた。
 「ええと、オレたち別に怪しい者じゃないですから。こっちは困った奴をほっとけない漢なだけですんで」
 「ああ──そうですか。急に声かけられたから驚いたもので」
 立ち上がった、長身のほうの男がそう応えた。痩せていて色白で、漆黒の髪をしてる。
 「ほんとその通り。おれら、ちょっと因縁ある奴らがいるもんで、そいつらかと思ってびっくりしたってわけ」
 そう続けたのはもうひとり。こっちはあまり背が高くなくて、派手な金髪。頭の頂点を短くして逆毛を立ててる。

 「ああ、なるほどな。それだったら驚かせてすまなかったぜ」
 「うん。悪かった。そういうのはオレたちにも身に覚えあるしね」
 オレがそう言ったら、ちょこっと場の雰囲気がやわらいだような気がする。
 なんというか、共感めいたものができたって言うか。

 「いやね。おれ、単車をパンクさせちまって。それでちょっと困ってたんだ」
 金髪のほうがそう言って、耳の裏側をぽりぽり掻いていた。
 「そういうこと。こいつ走りが無謀だから」
 ちいさくため息をついたのは黒髪ほほう。
 「オウ、そんなことか!!! だったらわけねえよな、ハヤト?」
 「ん? ああ、まあね。そしたらちょっと見てみようか」
 どうやらオレの出番のようだな。リュウジがオレの肩を叩く。
 オレはリュウジに頷いてから、自分の単車のサイドに括った荷物をほどきに行った。


テーマ : パチスロ - ジャンル : ギャンブル

湖畔に吹く烈風 4


 パンクしたという金髪くんのメタリックオレンジ塗装の単車を、オレはひとまず調べてみることにした。
 「ああ、釘が刺さってるね。コレだ」
 「あらら、ほんとだ。ついてねーな、おれ」
 「うん。まあ、たまにはあることだし」
 そんな風に答えて、オレはさっそく手持ちのパンク修理キットを取り出した。こんなことに備えて、遠出のときには持参することにしているのが幸いした恰好。

 「え、もしかしてここで直せる?」
 「まあね。これくらいだったらオレにも何とか」
 オレが笑ってそう返したら、金髪くんはほっとしたように表情を緩ませたんだ。
 「こいつな、バイク屋のせがれなんだ。だからこき使っていいんだぜ」
 なんてリュウジは、初対面のふたりに言い放った。
 
 「うわ、ありがとーございます!!! こんな見ず知らずの輩に、どうもどうもご親切に」
 「いえいえ。困ってる人を見捨てるような真似したら、こっちににあとで何されるかわかんないから」
 「当たり前じゃねえか!!! だってよ、単車乗る奴みんな仲間だろ? なあ、ハヤト?」
 「あはは。それはどうだろ。だってほら、コウヘイたちだって──」
 「つまんねえこと言うなよ、ハヤト。いいから早いとこ直してあげろっての」
 「あはは、そうだね」
 リュウジに言われたら、オレは従わないわけにはいかないし。そうじゃなくたって、オレだって自分の力で助けになるんだったら厭わないしね。

 「そしたらしばらくかかるから、そうだなリュウジ。もういっぺん健兄さんの親父さんの店に行って待たせてもらっとくといい。山だし、夕方は冷えるから」
 「そうか?」
 いつもだったら絶対に首を縦には振らないようなオレの提案に、リュウジは乗ってくれた。病み上がりを心配してるオレの気持ちをわかってもらえたみたいだ。
 「だったらそうさせてもらうかな。終わったら呼びに来てくれや」
 「うん、了解」

 「──もしかして、健兄さんの親父さんというのは」
 オレたちのやりとりを聞いた黒髪くんが口を挟む。
 「オウ。そこのおみやげ屋さんの店主だぜ。健兄ってのは、俺のちょっとした知り合いでな」
 リュウジがそう言ったら、長髪のふたりはなんと、そろってリュウジと隣にいたオレとに深々とお辞儀をしたんだ。
 「健さんのお知り合い──健さんは俺たちの尊敬する先輩で」
 黒髪くんは感慨深そうにそう言った。金髪くんのほうもこくりと頷いて、なんとなく懐かしむような顔を見せていた。

 金髪くん──彼はテツと名乗った──に聞いたところによると、リュウジが入院中によくしてもらった健兄さんってのは、大学にいくまではここら辺りを締めていた人物らしい。
 また、さっきオレたちが会ってきた健兄さんの親父さんも面倒見がよくて、自身も単車に乗ることもあって今でも彼らのよき理解者なんだとか。
 「それで、ほら、おれと一緒にいた奴。タケルってんだけど。あいつが健さんから後を託されたってわけ。そんときまだ1年だったんだけどさ、タケルもあれで人望篤いから」
 「へえ。なるほど。そしたらタケルくんは隊長なんだ」
 「そーだな。ちなみに、うちらは美山瀬烈風隊って名前なんだ」
 「ってことは、今は親父さんのとこで隊長会議だね。ウチのリュウジも鬼浜爆走愚連隊の総隊長だ」
 「へ~。なんかわかる。彼、リュウジ? 統率力ありそうだもんねー」
 オレは作業をしながら、テツの話を聞いていた。
 彼はずいぶんと話好きみたいだった。

 「で、テツくんは? タケルくんの腹心って感じ?」
 「わはは。腹心かどーかわかんないけど。でもいつも一緒だな。ってゆーか、呼び捨てでいいってば」
 言ってテツは笑った。なんかオレと同じような立場みたいだ。
 「それでさー、仲間もいれば敵もいるってわけで。おれたち平和主義なんだけど、いっつもちょっかい出してくる奴らがいてさ」
 「あはは、あるある。そういうこと」
 「あ、わかる? そうかー。ハヤトんとこもそんなんか」
 「どこでも一緒だね」
 こういうのって共通の図式なのかもな、なんて思った。
 「で? 直る? ハヤト」
 「うん。とりあえず走れるようにはなるけど──けどこれ、タイヤ自体がそろそろ替え時だ。溝がだいぶ減ってるから」
 「あー、やっぱりね。ちょうどそんな時期だとは思ってた」
 「うん。早めがいいよ。もうちょっと明るい時間だったらいろんなとこ見てあげるんだけど」
 
 ちょっと見だけど、テツのマシンは『無謀な走りをする』ってタケルが言ってたのが頷ける感じだった。きっとテツも幾多の勝負を経てきてるんだろうなって思う。
 オレの手元を見てたテツは、ふと思いついたように立ち上がってオレの単車を見てる。
 「へー、ハヤトの単車も経験豊富そうだね」
 「ん? オレの? ああ、まあ割とそうかな」
 互いのマシンを同じように評するあたり、やっぱりテツとは似たもの同士かも。
 「速いんだろーな、ハヤト。タイヤ替えたら勝負しようか」
 「あはは、いいかも。オレ、こう見えても負けず嫌いだよ?」
 
 刺さっていた釘を抜いて、修理用の工具を幾つか使って。それからポンプで空気を入れて、空気圧を確認する。
 「よし。これでOK」
 「うわ、終わった? すげーな、ハヤト。どうもありがとう!!!」
 「あはは。慣れてるだけ。ちょっと走ってみてよ」
 「うん、そーする」
 うれしそうにテツはエンジンをかけて、それから道へ出ていった。
 
 テツが試走している間に、オレは工具を片づけてからリュウジたちの待っている親父さんの店へ行った。
 「オウ、ハヤト!!! 終わったか?」
 にこやかに振り返るリュウジの顔を見たら、どうやらこっちも隊長同士の会話が楽しくなされていたことが察せられた。
 「うん。いまテツは試走中だよ」
 「お世話かけたな、ハヤト」
 なんとまあ、タケルはオレにまたしても深く頭を垂れた。恐縮しちゃうな、オレ。
 「いえいえ。とんでもない。テツといろいろ話して楽しかったしね」
 そう返すと、あ~あ、みたいな顔をタケルが見せた。
 「奴、おしゃべりだから。聞き疲れただろう?」
 「あはは。そんなことない。大丈夫だよ」
 そんなオレたちのやりとりを、健兄さんの親父さんはあったかい目で見てたんだ。
 なんかいいよね。タケルとテツたちは恵まれてるな、って思った。

 そして試走を終えたテツが戻ってくるころには、夕暮れが近い時間になってた。
 オレたちはもう一度、親父さんに挨拶をしてから駐輪場へ戻った。
 歩きながらリュウジが言う。
 「なんかさ、ハヤト。どこでも同じだよな。仲間がいて、敵がいてみたいなのってよ」
 「ああ、オレもそう考えてた。テツと話してて」
 「それでさ、新しい仲間みたいのにも時々巡り会えたりするもんだな、っても思った」
 「うん。ダイゴだったらこういうのを『縁』とかって語ってくれそうだ」
 リュウジのリハビリを兼ねたお使いは、思わぬおみやげがついてきた。
 健兄さんにこのこと話すの、楽しみだろうな。リュウジは。


テーマ : パチスロ - ジャンル : ギャンブル

湖畔に吹く烈風 5

 ふたたび駐輪場に4人で戻ると、テツが今すぐ町へ出てタイヤ交換をすると言い出した。
 「って、これから行くの? そろそろ日が暮れるけど」
 遠出だっていうことで、オレはいつもはしない腕時計をつけてた。文字盤に目をやったら17時を過ぎたところだ。
 「うん。だっていつ奴らに狙われるかわかんねーから」
 「なるほどね。なんかわかるけど。こっちが弱いときって不思議とそういう展開になるからね」
 オレは納得した。そう、いつだって暗黒一家はそんな風にオレたちに仕掛けてくる。リュウジが入院してるときなんて、オレ、コウヘイに殴られたもんなあ……。

 「でもまあ、用心に越したことねえやな」
 「ああ。けどリュウジ、それ以前にテツはそうと決めたら絶対に意志を曲げないから」
 「正解!! さすがわかってるなー、タケル」
 「だてに付き合い長くないってこと」
 あはは、なんて美山瀬のふたりは笑いあう。
 「よし。そしたら町まで一緒に走ろうぜ!! 俺らも通り道だし。な、ハヤト?」
 「そうだね。そうしようか」
 といったわけで、リュウジとオレ、それに美山瀬のタケルとテツとの4人で町の方角へ向けて単車を発進させた。

 もう日が落ちる寸前の湖面を見ながらの帰り道だ。リュウジとタケルが並んで先行して、オレとテツとはその後ろへつく。
 しばらく走るとトンネルに入る。それを抜けたら町の方角へ通じる下り坂なのだが──
 「ん? なんだ? うるさいのが近づいてくるな」
 ただでさえ音が反響するトンネルの中、オレの呟きは後ろから近づいてくる爆音にのまれて誰の耳にも届かなかった。
 何だろうと思って振り向いてみると、オレたち4台との距離を縮めてくる爆音の主は2台の単車だった。
 ちらりと見たテツの顔は、苦く歪められている。
 たぶんこの表情は、彼には見覚えのあるだろう追随者が作り出させているんだな、という確信めいた理解がオレに訪れた。

 トンネルを抜けたところで、2台の爆音マシンがオレたちの行く手を阻んだ。
 2台はリュウジとタケルの前に回り込んでブレーキを掛けた。
 仕方なくオレたちも単車を停めて路肩に寄せて──そして美山瀬烈風隊の隊長・タケルは、爆音マシンの主に声を放つ。
 「何だ。何か用か。くだらないことで呼び止めたりしないでくれ」
 「さあな。くだらんことかどうか、な」
 タケルと正面から睨み合うふたりは、どちらも坊主刈りだ。応えたほうは不吉に声が太くて、どっしりした体をしていた。
 おそらく彼らが、テツがさっき話していた『ちょっかい出してくる奴ら』なんだろう。
 揃いのつなぎ服の胸には、「清河軍団」の刺繍があった。彼らの部隊名らしい。

 「俺はあんたに用がある、テツ」
 そう言って視線をテツに向けたのはもうひとりのほう。切れ長の目に冷たい光を浮かべている。
 「え、おれ? こっちには別になんもないけど?」
 「ふざけるな。あんた昨日、俺に何をした?」
 「昨日? さて、何かしたっけか?」
 
 日が落ちようとしている、山に囲まれた湖の景色を強い風が吹き抜ける。
 リュウジもオレも黙って見ているけれど、こうした会話から繋がる次の展開なんてだいたい予想がつく。

 「昨日、町で俺の単車を無理矢理追い越しただろう?」
 「いやー、無理矢理っていうか、追い越したっていうか。だって低速走行はほかのクルマとかに邪魔だろ? おれ、そう思っただけだし」
 別段悪いことをした感のないらしい口調でテツはそう答えた。
 「そういうことなら言いがかりだ、清河軍団。俺たちは好きこのんで喧嘩を売るようなまねはしない」
 「そんな道理がどこでも通用すると思うのか? 随分甘いな、タケル」
 「……無駄だ。そんな挑発には乗らない」
 落ち着いてタケルが言った。
 
 オレはなんとなくリュウジを見た。むしろリュウジが率先して喧嘩を買ったりしないといいな、なんてちょっと心配になったら案の定──リュウジはこめかみに青筋を立てんばかりの表情をしてた。
 「リュウジ。落ち着きなよ。オレたちの出る幕じゃない」
 「──わかってるぜ、ハヤト。でもよ、俺は本来こういうの黙って見てられねえんだよ」
 俺たちはちいさく囁き交わす。そんなオレたちに一瞬だけ清河軍団の視線が向けられた。
 
 「とにかく昨日のツケは払ってもらおうか」
 隊長格らしき体つきの大きいほうがタケルとテツとに言い放つ。
「へー、そんなにおれと対決したいんだ?」
 耳の裏側を掻きながら答えたのはテツだった。
 「おい、テツ。自ら煽るような真似はよしたほうがいい」
 「だってしょうがないだろ、タケル。おれ、ご指名受けたんだぜ?」
 「そうは言っても、テツ──」
 終始落ち着いた印象のタケルがすこし慌てた顔をする。
 そうだ。テツの単車は万全な状態じゃないんだ。タケルの反応ももっともだ。
 「いいさ。やれるとこまでやるよ、おれ」
 口笛でも吹くような気楽さでテツは言って、わざと大きくアクセルをふかしたんだ。

 沈み行く夕日の残りに金髪を輝かせて、夕日の色に塗装を施したマシンを操るテツがスタートラインへ立つ。
 その横でテツに冷たい視線を送ったのちに正面を見据える、テツのライバル氏。
 きっと誰が止めてもテツは聞かないんだろう。半ばあきらめた表情のタケルの横顔がそれを物語っていた。

 「よし、いいな? では──Ready GO!!!」
 清河軍団の隊長格が低い声を辺りに響かせると同時に、2台のマシンは爆音を轟かせながら湖に沿ったカーブの先へ姿を消した。

 「なあ、ハヤト」
 「うん?」
 爆音が遠ざかるのを感じていると、リュウジがオレに声をかけた。
 「正直言って、どうなんだ? テツの単車は大丈夫なのか?」
 「ああ──どうだろう。とりあえず通常走行には差し支えないんだけど。無茶しなけりゃね。パンクは釘のせいだったけど、タイヤよくないから」
 「無茶しなければ、か。それは耳が痛いな」
 オレの答えるのを聞いて、タケルがため息混じりにそう言った。
 「そういう時に限って無茶をするのがテツだから」
 「なんかタケルの気苦労、俺にもわかるぜ」
 眉間にしわを寄せてリュウジが洩らす。
 「無茶する仲間をとりまとめるのって大変だよな。ウチにもそういう奴いるからな」
 言いながらリュウジはオレを見た。
 「え? オレ?」
 オレ、そんな無茶するかな? あんまり自覚ないんだけどな……。

 どのみちリュウジも、それからタケルも、オレなんかじゃ味わえないような苦労をしてるってことなんだろう。
 リーダーって大変なんだな、なんて朧気に思いながらオレは気を揉むふたりを眺めてた。
 
 

テーマ : パチスロ - ジャンル : ギャンブル

湖畔に吹く烈風 6

 
 いつもの勝負ルートは湖畔から町へ下って県道を流すコースなんだとタケルが言った。
 「距離はずいぶんあるのか?」
 リュウジが聞き返した。
 「実際測ったことはないが、時間にしてだいたい15分程度かな。細くてくねった道が多い」
 「それじゃ技術が要るな」
 「そう、ハヤト。そのあたりの勘はテツがうちの隊ではずば抜けてる」
 オレたちが話しているのを、離れたところで敵の隊長が腕組みして眺めている。
 なんとなく余裕が見える表情だ。もしかしてテツの単車の状態を知っているのかもしれない。たとえばさっき、オレが修理しているのを通りすがりに目撃したとか。あり得るな。

 「うん? 音がするな?」
 「え、リュウジ、何の音?」
 「いや、爆音がそっちのほうから近づいてきてねえか?」
 リュウジに言われてそっち──テツとライバル氏が走っていった方向に意識をやる。すると確かに、改造マフラーの奏でる音らしきが聞こえてきた。
 そして、しばらく後に見えてきた1台の単車の姿。
 「あれは──? テツと一緒に走り出した奴?」
 「どうもそうみたいだ」
 「って、今さっき出てったばっかりじゃねえか? でもって、テツはどうしたんだ──」
 リュウジが言い終わるかどうかの間に、テツのライバル氏は想像したのと違う方向から単独で戻ってきて、スタートした地点に単車を停めた。

 「一体どうした? うちのテツは?」
 タケルが訊くのに、薄く笑ってテツのライバル氏が答えた。
 「どうもこうも。テツはゲームオーバーだ。自走不能だな」
 それを聞いて、向こうの隊長も低い声で笑っていた。
 
 オレたちの怖れていたことが起きてしまったようだ。
 「勝負はあったようだな。タケル」
 「────」
 「タケル、あんたテツを迎えに行きな。ちゃんとここまで戻ってきて詫びてもらう」
 「──ああ。言われなくても迎えに行く。詫びるかどうかは別だが」
  落ち着いた声でタケルは答える。悔しそうなのは見ていてわかるが、信念を曲げるつもりはないらしい。さすが漢だ。
 「おら、御託はいらねえからさっさと迎えに行って来い」
 言う清河軍団の隊長格を冷たい目で見返して、タケルは単車にエンジンをかけようとしていた。

 そんなタケルを見てたオレは──実は我慢がならなかった。
 さっきからリュウジが首を突っ込みたくて仕方ないのは解っていた。部外者だし、むしろリュウジを留めておくほうに気を回していたんだけど──
 そのとき、オレは反射的にこう口を開いていた。

 「待ってる間、暇だろ? 清河軍団の人。仕切直そうか? よかったらオレがテツのかわりに走るけど?」
 「ああん? 何だと? そもそもお前等、何者だ?」
 敵の隊長を真っ向から見据えて、オレは臆すことなく言い放つ。
 「オレは鬼浜爆走愚連隊のハヤト。特攻隊長を務めてる。こっちが総隊長のリュウジ。オレたちはタケルたちに縁ある者だ」
 「おい、ハヤト──お前」
 「いいから、リュウジ」
 いつもとまったく逆だ、これ。オレはリュウジをさしおいて、感情のままに声をあげていた。
 「タケル、早くテツを迎えに行ってやって。間つなぎくらいは出来ると思うから。単車はどこか安心な場所があったら置いてくるといい。あとでもう一度タイヤ見てみるよ」
 「わかった。恩に着る、ハヤト」
 短く言ったあとすぐに、タケルは単車を始動させたんだ。

 「ハヤト、お前大丈夫なのか?」
 「さあね、リュウジ。でもなんか我慢できなくて。オレ」
 「そんなのは俺も一緒だけどよ。けど、ここら道もろくにわかんねえだろ?」
 「ああ、そう言えばそうだな。気付かなかった」
 あはは、なんて笑ってみる。そうか、これがオレらしいってリュウジは言うんだよな。
 でも、今日ばかりはそんな軽口たたく余裕がリュウジにはないらしかった。逆にオレは開き直っているというか、変に落ち着いてる。
 「とにかく先を走ってもらうよ。ついていければ何とかなるんじゃない?」
 オレはリュウジに笑みを見せてた。

 「それで? 鬼浜の人。あんた本気でやるんだな?」
 切れ長の目をした坊主刈り──テツのライバル氏がオレを見据えた。やっぱり薄く笑っている。
 「うん、そのつもりだけど?」
 「いい度胸だ」
 「あはは、褒めてくれてどうも」
 たったさっきまで敵でも味方でもなかった初対面のひとりの単車乗りと、何の因果で勝負することになったんだろう。世の中、一瞬先ってわかんないもんだな。

 自分の好みの音が出るようにカスタムしたマフラー。親父に手伝ってもらって、できるとこは自分で手を出して。だからオレの愛車はこんなとき、オレを励ますようにいい音を聞かせてくれるんだ。
 
 我ながら心地よいノイズを聞きながら、オレはスタートの合図を受けて走り出した。
 テツのライバル氏の背中を凝視して、振り切られないように細心の注意を払いつつ。
 
 初対面同志の勝負は相手の技量もわからない。しかもオレにはコースさえわかっていないというハンデつき。
 それでもオレは走らずにいられなかった。
 思えばオレたちは、ほかの似たような隊と親しくすることって今までなかったんだ。オレたちが普段顔を合わせるのは敵対する暗黒一家の奴らくらいだから。
 そんなオレが初めて会った、自分と似たような立場のテツ。そう、オレはだからきっと感情的になったんだと思う。

 ──そんな徒然の物思いは一旦やめておこう。ここは集中しないといけないんだった。
 テツのライバル氏に引き離されたら一巻の終わりだ。
 オレは大きく息を吸って、前を行く背中を強い視線で睨みつけてみる。
 なんとなく額の真ん中が熱を持ったような気がした。
 
 下りのまがりくねった道。先には急カーブ。
 知った道だったらカーブを狙って迷わず単車を寄せていって突っかけるところだけど、ここはオレが前へ出ても話にならない。
 たしか15分程度のコースだってタケルが言ってた。オレは普段はしない腕時計をたまたま持っていたのを幸いに、出発からの時間をみてラストスパートのみを念頭においた勝負に賭けることにした。

 最初が下りだということは、ラストに近い辺りは上りのはず。
 知らない道程だって、それだけヒントがあったらどうにでもなるだろう。
 オレの勝負感覚をオレが信じないでどうするんだ?
 ──そうオレを励ましながら、湖の方角から吹いてくる強い風に髪をなぶらせていた。


テーマ : パチスロ - ジャンル : ギャンブル

| ホーム |


 BLOG TOP  » NEXT PAGE


  1. 無料アクセス解析
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。