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鬼工七不思議 9-1


 とにかくもうすこしだけ先に進もうということに決着したオレたち、『鬼工七不思議』探検隊はリュウジを先頭にふたたび歩き出したんだ。
 「なんだかんだ言って、結局6つめのやつも本当だったってわけだよな、ダイゴ」
 「そうだな。どこへ通ずるかはわからぬまでも、地下室と地下通路は本当だった」
 ゆっくりと歩を進めながら話すオレたち。どっちみち、この先に何もなくてもあと15分したら引き返すっていう目標があるだけで、なんとなく気が楽だ。
 まあ――もし仮に何もないまま引き返すようなことがあったら、装備を調え直してまた来るってリュウジが言うかもしれないけれど。

 「でも、さすが鬼工って歴史ある学校なだけあるっスよね。オレ、最初は七不思議なんて眉唾かと思ってたんっスけど」
 「あ、オレもだ、ノブオ。どうせ意味なんかない落書きなんだろうな、とか思った」
 「オイ、ハヤト!!! お前ってロマンがねえな」
 「そんなこと言ったってさ……」
 「ノブオもだぜ!!! 俺がお前に薦めてやってる漫画は、どれも漢の熱いロマンを伝えるやつばっかりだろ?」
 「あ――そうでした、兄貴。オレ、ほんとスミマセン。精進するっス!!」
 
 「ダイゴは? どう思ってた?」
 一列になって歩いているので、オレは振り返ってダイゴに問う。
 「俺か? そうだな、ハヤト。俺は、物事には何でも因果があると思うので。どのような言い伝えであれ、おそらくは原因があるであろうし。俺はこう見えても好きなほうだ。こうした探検は」
 「へえ。意外だな」
 「そうか? しかしハヤトとて嫌いではなかろう?」
 「そうだね。うん。オレ、不思議なことに敏感なほうじゃないけど。それでも何だっけ? あのプールの話のときにはちょこっと背筋がぞくぞくしたかな。あの、神様のお使いのちいさい存在がプールを守ってくれている、って話」
 「ああ――なるほどな」
 限りなく優しくダイゴの目が細められたのをオレは見た。
 それを確認してから前を見たら、今度は先頭のリュウジが振り向いてオレを見ていた。リュウジも優しい顔をしていた。
 ……なんだろう? ふたりの視線の意味はわからないけど、どうしてだか胸の奥があったかくなっているのは、いったいなんだろう。

 ダイゴがこまめに腕時計に目をやりながら暗い地下通路を進む。
 だいたい3分おきにダイゴの声が経過時間を伝えてくれる。
 「リュウジ。さきほどの時点から12分経過だ」
 「オウ、そうか。そしたらあとちょっとだけ行って、何もなかったら戻るとするか」
 そうだね、なんてオレたちがリュウジに向けて肯定の返事をしようとしたときだった。
 「お――?」
 リュウジの声音が変わる。幾分の緊張感をはらんでいた。
 
 「どうした? リュウジ」
 「ハヤト。ちょっと見てみろ」
 促されて、一歩前にいるリュウジに並んだ。そしてリュウジの手持ちの懐中電灯に照らされた前方を見る。
 「あれ……? なんか広い」
 リュウジと目を見交わして進んだ一歩先は、今まで歩いてきた細くて暗い地下通路とは打って変わって広い場所――丸い形の広場のようなところだったんだ。

 歩いていた通路とは桁違いに天井が高いその広場。足音すらも響き渡る。
 コンクリートで堅められたそこには、ひんやりとした空気が満ちていた。
 
 『6)道:北校舎階段に地下あり 既に封鎖される 因縁ある場所へ続くとされる』
 『鬼工七不思議』の6つめに従って辿り着いたこの広場。ここが因縁ある場所なんだろうか。
 
 「なんだ? ここは」
 「何っスかね……兄貴」
 気の抜けたような主従の声が広場にこだました。
 オレたちの冒険の行き着いた先にあった広場は、なにもない空虚なところだった。
 懐中電灯の生んだ光はただ壁を丸く浮かび上がらせるだけだった。


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鬼工七不思議 9-2


 それからしばらくオレたちは、その広場の様子をあれこれ見て回った。
 調べてみてわかったことは何もなかった。
 「なんかこう、手がかりになるようなものとか置いてあってもよさそうなもんっスけどね」
 「本当だな、ノブオ。ここまで綺麗に何もないというのが却って不自然というか」
 「わざわざ掘って作ったんだろうからね、道も広場も。前は何かに使われていたんだろうけど」
 
 そんなオレたちのやりとりを聞いていたリュウジがぽつりと言う。
 「なあ――なんか聞こえねえ?」
 「え――?」
 リュウジの声にオレたちは話しを収めて耳をすませた。けれどもオレには何も聞こえてこない。
 「何も聞こえないけど? どこらへんで聞こえたんだ? リュウジ」
 「このあたりから」
 リュウジが示すのは立ち位置の背後、オレたちが入ってきた通路の正面にあたる壁だった。
 「なんだかな。この向こう側のあたりから動物か何かの鳴き声がしたように感じたぜ」
 言って、リュウジが壁に耳をつけた。オレたちもそれに倣う。

 しばらくそのまま壁の向こうの様子を窺う。
 因縁のある場所へ通じるという地下通路の導く先の広場。果たしてここが因縁ある場所そのものなのか、この先があるのか――
 なんて考えながらひんやりとした壁に張り付いていたオレたちの耳に聞こえてきた。
 そう、リュウジが言ったみたいに動物――おそらく小動物の鳴く声と、それに続いて誰かの絶叫が!!!

 何だ?――とオレたちは顔を見合わせた。
 「聞こえたっスよ、兄貴!!!」
 「だろ? ノブオ」
 「って、この壁の向こうに何かあるってこと? 誰かいる?」
 「そのようだな、ハヤト」
 そしてオレたちは、ふたたびその壁のあたりを探索した。
 暗いから手探りで壁を検めるんだけれども、何のとっかかりも見あたらない。
 壁の向こうからはまだ声がとぎれとぎれに聞こえてくるようにも思える。
 言いしれぬ興奮とすこしばかりの恐怖みたいなのに支配されていたオレを我に返らせたのは、ダイゴの落ち着いた声だった。
 「リュウジ。風の流れがある。ほら、ここだ」
 
 ダイゴが気づいた風の流れてくるところ。丸い広場の壁づたいの、言われてよく見てみればほかの部分より壁のコンクリートの色が少々濃いように思えるところだった。
 「ここだな? ダイゴ」
 「押忍、リュウジ」
 「もしかしてここ、隠し扉かもしれねえよな。よっしゃ、ダイゴ。一緒に押してくれや!!!」
 「あわわ、兄貴、大丈夫っスか? 向こう側に何がいるか、わかったもんじゃないっスよ?」
 「わはははは!!! 怖いのか? ノブオ。大丈夫だろ。声がするんだし」
 「声ってか、叫んでるようだったけど……ほんとに人かどうかも」
 なんて言いかけたんだけど、そんなオレやノブオにはリュウジはお構いなし。
 「いくぜ、ダイゴ!!! せ~の……」
 かけ声もろとも、狙ったところに体当たりを喰らわすリュウジとダイゴ。オレもノブオもはらはらしながら見守っている。
 
 そして――――
 ふたりが押し開けた、地下通路の行き止まりの広場のその先は、どういうわけか『外』だった。
 陽の当たる、すっかり春めいた風景が突然目の前に現れたんだ。
 
 「あ……れ? 外?」
 あまりに突然、予期しなかった光景が広がっていることと、暗いところから急に明るいところへ出たことによる混乱がオレに襲いかかった。
 これはオレだけではなくて、ほかの3人にも同じみたいだった。それぞれ何かつぶやいてからぼんやりした顔を見合わせていたから。


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鬼工七不思議 9-3


 「なんだ? ここは一体どこだ?」
 「ええっと……どこだろ?」
 リュウジと顔を見合わせていぶかしむ。
 「海がこちらの方角に見えるということは、鬼工はあちらだな」
 「そうみたいっスね、ダイゴさん。あ。ここ、運動場っスね」
 「そうか。見たことあると思ったぜ。ってか、こんなところに出口があるってどういうことだ?」
 「ええっと……なんでだろ」
 地下通路を歩いていて起伏があるなんて思えなかったけれど、オレたちが地上に出たところっていうのはすこし小高くなっている場所にある町営グラウンドだった。体育祭で使ったところだ。
 グラウンドの横にある茂みの一角に、その出口が隠されていたんだ。
 「まったくもって不可解だよな?」
 なんて言い合っていたオレたちのすぐ横で物音がした。
 かと思うと、オレたちが出てきた出口とはすこし離れたところがざわめいて――

 「うおおおおおお!!!」
 かくなる絶叫が場をどよもした。
 オレたちは瞬時に身構えて、そちらに視線を送る――そしてオレたちの目に飛び込んできた大きな奴は必至の形相でオレたち4人のど真ん中を突っ切って、闇雲に走り去る。
 「おい、落ち着くのだ、ゴンタ!! 戻れ!!」
 そして、次に聞こえてきた声。どこかで聞いたことのある声。
 続いてどこかで感じたことのある気配、さらにどこかで見たことのある特徴ある髪型。

 『鬼工七不思議』の6つめの言うところによる、因縁ある場所でオレたちが行き合ったのは、暗黒一家だった。
 奴らはオレたちを認めて同時に一瞬奇妙な表情を浮かべ、コウヘイが何かを言いかけた様子を見せたがそのまま町の方角へと走っていった。そう、最初に駆けだしたゴンタを追いかけて。

 とにかくもう、まったくもって訳がわからなかった。
 鬼工の地下がこんなところに通じていることもしかり、何故だか暗黒一家に出くわしたこともしかり。
 奴らの姿が見えなくなるまでぽかんと眺めていて、一息ついたあとにリュウジが思いついたようにこう言った。
 「そうか。さっき叫び声が聞こえたと思ったのは奴だったのか」
 「どうしたんでしょうね?」
 「さあね。あ、ネズミでも出たんじゃない? ゴンタ、嫌いだっただろ。ネズミ」
 「そういえば何かの鳴き声が一緒に聞こえたのだからな。おそらくハヤトの言うとおりだろう」
 「だな、ダイゴ。ってか、なんで奴らがこんなとこにいるんだ?」
 リュウジの疑問はオレたち全員の疑問だった。

 それからオレたちは、奴らが出てきたと思われるあたりをちょっと調べてみた。けれども茂みの内側に通路があることを窺わせるものなんて何もない。
 それだけではなくて、オレたちが出てきたはずの場所にも、外からそれとわかる『入口』は見つけられなくなっていた。
 もう何が不思議なんだか、何が不思議じゃないんだか――なんてリュウジがぼやいている。
 
 しばらくあちらこちらを検めたあとに、諦めたようにリュウジが言った。
 「しかたねえな。んじゃ普通に歩いて戻るか。教室に鞄とか置きっぱなしだからな」
 「そうだね……。ぼちぼち校門閉まる時間だし」
 「押忍。怪しまれぬ前に南京錠も元に戻しておかねば」
 そうしてオレたちは、奇妙な気分を引きずったままその場を立ち去ることにしたんだ。
 
 と、その時。ちょうど暗黒一家が出てきたとおぼしきあたりを名残惜しそうに眺めていたノブオが声を上げた。
 「あれ? なんだろ、これ? ヤツらが落としていったんっスかね?」
 「どれ――?」
 ノブオの拾い上げたのは折りたたまれた紙切れだった。促されるままリュウジに手渡す。
 それを広げたリュウジは、目が追うままを声にする。
 「なになに……『暗黒七不思議』だと?」
 「ええっ? 何それ?」
 リュウジの手元の紙切れを一同でのぞき込んでみた。
 そろそろ暮れようとしている春の陽差しで読んだそれは――ここ数日リュウジが持って歩いていたメモ用紙と似たり寄ったりのものだった……。

 「どこにでも似たような話ってあるんだな」
 4人で町を目指して歩きながら、ぽつりとリュウジがこう言った。
 「そうだね。これが因縁そのものってことなのかもね」
 「よくわかんねえけどな」
 奴らの落としていったメモ『暗黒七不思議』は、オレたちはそんなに詳しく見てはいない。リュウジが他校の秘密を変に知るのは気が引けると言って、すぐにたたんでしまったから。
 「それよかさ、明日あたり暗黒に顔出してみようぜ!!」
 「え? なんで?」
 「ほら、返してやらねえと悪いだろ、これ。マルがついてるとことそうでないとこがあったから、多分まだ決着ついてねえところあるだろうしな。それに学校の秘密なんてもんは、おいそれと他に知られちゃまずいかも知んねぇし」
 なんとまあ、リュウジって妙に義理堅いよな。それがリュウジの仁義ってやつなんだろうか。

 「そしたら明日の放課後はまず暗黒行って。それからだね」
 「ん? それから何するんだっけか?」
 「あれ? リュウジ、これで終わりじゃないだろ? オレたちのほうも。失われた7つめを探すんじゃなかった?」
 「お!!! そう言やそうだな、ハヤト!!! お前、なんだかやる気じゃねえか!!!」
 「だって、なんか気になるじゃん? すごい不思議なことが何か待ってるかもよ?」
 「よっしゃ、いい心意気だぜハヤト!!!」
 リュウジがわはははは、と笑いながらオレの背中をどやしつける。

 そろそろ春の匂いの混じり込んでいる夕方前の鬼浜。鬼工にも鬼浜町にも、まだまだいろんな不思議が潜んでいるのかも。
 オレが鬼工に入ってリュウジたちと巡り会って――そのこと自体が不思議だったのかもな、なんてリュウジに叩かれた背中が痺れるのを感じながらひとり思ってくすりと笑う。
 オレの気持ちの落ち着く居場所。ここにはいつも仲間がいる。
 
 
   *  鬼工七不思議 完  *


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すべての不思議を解く者 1-1


 6つめの不思議を追いかけていたオレたちがばったり行き合った暗黒一家。
 奴らもオレたちと似たようなことをしていたらしいことを知らせるメモを落としていったので、その翌日、オレたちは奴らに会いに行った。
 正面切って暗黒水産を訪れたオレたちを出迎えた暗黒一家は、最初の視線はよく見る険しさを帯びていたけれど、リュウジが差し出した紙切れを見たとたんにがらりと物腰を変えたんだ。

 「リュウジ。貴様――これを、どこで?」
 「オウ。昨日、町営グラウンドのとこで拾ったぜ。お前らだろ? 持ち主は」
 「ああ――まあ、な。して、中を……?」
 「ちょっとだけな。ってか、見なかったらわかんなかったしな、お前らのもんだって」
 「確かに」
 「まあ、がんばれや!!! 解明できることを祈ってるぜ!!!」
 「……恩に着る。ところで貴様等、昨日はあの場所で何をしていやがった?」
 「わはははは!!! まあな、お前らと似たようなもんだ」
 なんてやりとりがあって、珍しくもめ事に発展することなく暗黒水産を後にしてきたんだ。
 
 それから数日が経過している。
 いつの間にか鬼浜町にも春が訪れていた。桜の花もすっかり咲いて、オレの苦手な寒風も吹かなくなっていて。
 なんだかんだで――気がついてみたらいつの間にか3学期が終わっていた。
 結局のところ、オレたちがさんざん探求してた『鬼工七不思議』の7つめは、手がかりすら見つけられなかった。
 昔、鬼工の生徒時代に馴染んだことがあるって言ってた赤ジャージもなぜだか思い出すことができなくて。
 春休みになってからも何度か図書室へ行ってほかの本もけっこう調べてみたけれど、思ったような書き付けには出会えなかった。

 そうしたわけで、今日も午前中から図書室に詰めているオレたちだった。すっかり図書館司書の先生とは顔なじみになっているのがらしくなくてなんだか笑える。
 夕方過ぎからは走りに行こうと決めていたので、昼過ぎに図書室を退出してきている。
 4人で歩く校庭の周囲ぐるりを埋め尽くす桜の木は、すでに満開を過ぎた頃だ。桜吹雪が舞っているのが趣深い――なんて、柄にもなく思っていたりして。

 「もう諦めるしかねえのかもな」
 決して簡単に弱音を吐く人間ではないリュウジがそう言い出したのも無理はないのかも。
 「うん。これだけ探しても手がかりがないとは思わなかったしね」
 「不思議は不思議のままなのが不思議ってことっスかね?」
 「なるほどな、ノブオ。解明できんのが七不思議といったところか」
 「まあな。もしかして、忘れたころにひょっこり見つかるかもしれねえからな」
 「無欲の勝利というものもある得るからな」
 「あ、ダイゴ、いいこと言うね」
 「そしたら一度、手を引くか。いいな? お前ら」
 「は~い!! 兄貴の言うとおりにしま~っす!!!」
 
 見上げれば空は穏やかに春霞。こんな中、みんなで単車を走らせるのは気分いいだろうな――なんてオレの意識はすでにそっちに切り替わっていた。
 「そう言えば、遅咲きの桜の木はどうなっただろうな?」
 校門を目指して歩く最中、思い出したようにダイゴが言った。
 「ああ、そう言やどうしたろうな? そろそろ咲くころかも知れねえよな」
 「あ、2つめの不思議だったやつっスね?」
 「ちょっと行ってみようか。園芸部、まだ粘ってるかもね」
 
 みんなで頷いて、そしてオレたちは方向転換することにした。
 目指すは体育館の隅のほう、1本だけ花の遅い桜の木の様子を窺いに。その木の最初の花を見た者に幸福をもたらすと『鬼工七不思議』に謳われるそれを見に。


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すべての不思議を解く者 1-2


 「しかし、桜ってのは理想的だよな」
 重そうなほどに枝を飾っている花を見ながら歩くリュウジがそう言った。
 「うん? なんだって?」
 「いやな。桜って、枯れねえだろ? その前に散るから」
 「ああ、そうだね」
 「一番きれいな時に散るっての、潔いってか。漢字に『女』って入るのに、漢らしいよな」
 舞い落ちる花びらを触ってみようとするように、リュウジはてのひらを広げながらオレを振り返ってこう続けたんだ。
 「……なるほどね。言われてみればそうかも知れないな」
 「兄貴、ご明察っス!!! オレもね、ずっと思ってたんっスよ。兄貴って桜吹雪がすっごく似合うっス!!!」
 「お、そうか? それはうれしいぜ、ノブオ」
 うん。そうかも。リュウジの赤い髪にふわりと降る、限りなく白に近い桜色の花びら――けっこう似合ってるよな。

 さて、そのままのんびりとした足取りで歩いて、オレたちは体育館の近くまで来ている。
 すこし離れたところから見てもオレたちの目指す場所ははっきりとわかる。校庭ぐるりを埋め尽くす今こそ満開の桜の木の中で、たった1本だけ未だつぼみが赤くなったばかりの頃の木。
 『鬼工七不思議』で言うところの、開花の瞬間を見た者にしあわせをもたらすという1本だ。
 この木の開花を見守っているのはオレたちではなくて、園芸部のふたり組だった。『鬼工七不思議』とは関係なくて、ただ部の昔の記録からこの木を知って研究しているんだとか。
 件の木の根本には、青いレジャーシートが敷いてある。園芸部の持ち物だ。
 そこには毛布も用意されていて、食べかけのお菓子なんかも置いてある。
 けれども――現在は無人だった。
 
 「ん? いないな、園芸部」
 「そのようだな。買い物にでも行ったか?」
 「どうでしょうね~。荷物このままで、ふたりで出かけるなんて不用心っスね」
 「あはは。用心しなきゃいけないほど人なんかいないってば、ノブオ。春休みだし」
 「それはハヤトの言うとおりだとは思うけどな。でも、絶え間なく見守っていないと意味ねえんじゃねえか? もしかしたらそろそろその瞬間かも知れねえし……」
 なんてリュウジに言われてオレたちはその木を見上げる。
 実はオレも去年、花が遅いことに気がついていたその木。オレは単にそういう種類なんだろうと親父に言われてそのまま受け流していたその木。
 ほかの木々が満開を過ぎた今でも、未だ静かに体育館の脇に鎮座している――そんな感じ。
 この木に花がついたとき、いったい何が起こるのか。なんてちょっと大袈裟かな。

 「ああ、でも開花は近いようだな。ほら、つぼみがふくらんでいる」
 「ホントっすね、ダイゴさん。触った開きそうに見えるっス」
 「こら、ノブオ。触ったらダメだろ? この木は特別なんだから」
 「物のたとえっスよ、ハヤトさん。ね、兄貴――?」
 そしてノブオがリュウジを振り返る。
 木に見入っていたリュウジは、ノブオに答えなかった。その変わりにちいさく嘆息を漏らす
 「お……」 
 「ん? どうかした?」
 
 オレがリュウジに問い返したそのときだった。
 「これはこれは、総隊長以下おそろいで」
 「ダイゴ。春休みなのに学校か? 珍しいね」
 口々に言いながら、園芸部のふたり――長髪氏と小柄氏が戻ってきた。
 「押忍。ちょっと用事が。な? リュウジ」
 「お、オウ――ってか園芸部。持ち場を離れちゃまずいだろ? 観察を続けないと、な? 今にも咲きそうに見えるじゃねえか」
 リュウジの言にはじかれたように園芸部のふたりは桜の木を見上げた。
 そして――
 「おお!!! 咲いている」
 「ああ、本当だ!!!」
 歓喜の叫びを校庭に響かせて、園芸部はもうオレたちにはお構いなしに桜の木に寄っていっていった。そう、最初の花の咲いた桜の木に――。
 なんだかんだ、オレたちは立ち会うことができたみたい。『鬼工七不思議』に言われるところの桜の開花の瞬間に。リュウジに視線をやったら、微笑みながら園芸部の様子を見ていた。


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