目次

過去の記事をまとめて表示できるようにしてみました。 【 】がついている項目をクリックすると、それぞれのタイトルの記事を一括でお読みいただけます。 【 】内の数字が若い順に古い記事となっております。 【 】内の冒頭数字が同じものはそれぞれ対になるおはなしです。

これまでのおはなし

全タイトルを表示

御来訪感謝

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

春風到来 1


 ほどけるような陽射しを感じて、いつもの河川敷を単車で走る。
 日常そのものの行為なんだけど、いつもとは気分がすこし違う。
 そうか、「日常そのもの」よりも「春そのもの」が強いんだな。

 こんなオレでも風流めいた気分になるんだから、春っていうのは――桜っていうのはすごいと思う。
 ちょこっとだけピンクに色づいた花で、重そうにたわんだ枝という枝。
 満開の桜の木立を抜けるオレの単車の速度は、いつもの速度はどこへやら。
 うっかり、というよりもうっとりしていた自分に気がついたのは、後続車のクラクションのせいだった。
 慌てて単車を桜の木に寄せてブレーキをかける。
 後続車をやり過ごして、せっかくだからとオレは単車のキーを抜いた。
 
 やわらかい太陽の光。
 なんだか空気が霞んで見える。
 土手におりて振り返れば――見事、満開。
 大きく深呼吸をして、気持ちがいいから土手に座り込んで……

 「いい加減に起きろや、ハヤト!!!」
 耳許を急襲する大音声に、びくっ――と体が反応して目が覚めた。
 ……ってことは、寝てたんだな、オレ。
 
 「またこんなところで寝てるのか、お前は」
 ため息混じりにオレを見下ろす真っ赤なリーゼント。鍛えた腕を組んだポーズであきれ顔をしてる。
 「なんだ、リュウジか。おはよう」
 「なんだ、じゃねえだろうが!!! しかも、おはようってのも違うだろ?」
 「ん? あ、そっか」
 「まったく、あいかわらずとぼけた奴だぜ。うちの特攻隊長は」
 怒った形に作った眉の下で、それでも表情はやわらかかった。
 うん。春っていいな。

 出前の帰りに通りかかってオレの単車を見つけたから――と真っ赤なリーゼントを揺らしながらリュウジは言った。
 鬼浜爆走愚連隊初代総隊長リュウジは、オレたちのリーダーだ。
 正義漢で熱血漢。半端なことは許せない、そんな漢気にあふれた存在。
 なぜか女の子には人気がないのを本人が密かに気にしているのは……知らないことにしといてやるのがオレたちのささやかなる敬意だったりもする。
 
 「何度も声かけたんだぜ? いくら暖かいって言っても、そんな無防備に眠りこけていいような時期でもねえだろ」
 白い上っ張り姿のリュウジ――実家のラーメン店「昇龍軒」の縫い取りが胸にあるやつだ――は、起き上がったオレの横に座りこむ。
 「ああ、そうだね。ちょっと冷えたかも」
 「だろう? まったく、ハヤトと来たらところかまわず昼寝だもんな。緊張感がねえってか」
 「だって、今日はこんな陽気だし」
 「何とでも言っとけ。単車に乗ってる時だけだからな、ハヤトがしゃきっとしてるのは」
 あきらめたような笑い方でオレを見た。
 
 鬼浜工業高校に入ってからというもの、リュウジと共に行動しているオレ。
 単車のテクだったら誰にも負けない自信があって、それをリュウジが買ってくれているのはさらなるオレの自信につながっていたりする。
 自然の流れで、とでもいうか。
 いつの間にか、鬼浜爆走愚連隊の特攻隊長に納まっている。

 「けども、まあ、しょうがねえか。こんな日だもんな」
 土手に寝っ転がって、見上げたリュウジがそう言った。
 彼の瞳には、すこし霞んだ青空と満開の桜の花が映っている。
 
 「桜って、いいよな。花なんか全然興味ねえ俺でも、見てるとそう思うぜ」
 まったく同感だったオレは、それ以上の言葉もないので黙ってうなずいた。
 ――けれどもリュウジの目には『うなずくオレ』は見えていなかったようで。
 「……なんだ、ハヤト? 返事もねえのかよ。そんなに俺には似合わねえって言いたいのか?」
 「え、そんなんじゃないって。ただ、なんか平和だなあ、って思っただけ」
 「そうか。そういうことにしといてやるか」
 納得したんだかどうなんだか。やっぱり環境のせいなんだか。それ以上リュウジがつっかかってくる気配もないので、オレもリュウジの隣に横たわった。
 今度は眠らないようにしないと、なんて思いながら。

 満開の桜は、通り過ぎる風に花びらをさらわせてゆく。
 「桜吹雪って奴だな、ハヤト」
 「うん。贅沢な気分になるね。でも、散るのが早いからもったいない気がする」
 「そうか? 桜ってのは、そういう花だから潔くて、それだから美しいんだって思うぜ、俺は」
 「へえ。リュウジらしいこと言うね。オレはどっちかって言うと、五分咲きぐらいのほうが好きかな。まだまだこれから、って感じるから」
 「わはは。意外とかしこそうなこと言うじゃねえか」
 ――こんな会話、リュウジとオレとでしているっていうのが、まったくもって日常じゃない。
 春っていうだけで、桜っていうだけでこうなのかと思うと、魔力すら感じるな。

 「けど、本当に平和だよな、ここんとこ」
 「うん。まったくね」
 一陣の強めの風がたくさんの花びらを舞いあげるのを見たあと、リュウジは体を起こしながら言った。オレもそれにならう。
 「奴らも大人しくしてやがるしな」
 「たしかにね。ここしばらく、姿も見ない」
 『奴ら』――暗黒水産高校・暗黒一家のことだ。
 総帥・コウヘイを取り巻く集団で、オレたちとは対立関係にある。
 何だかんだと、顔を合わせれば火花を散らす間柄である鬼浜爆走愚連隊と暗黒一家。
 それがここ鬼浜町での構図なんだ。
 
 「まあ、俺らも好きこのんで勝負したいわけじゃねえからな。悪いことじゃねえってことにしとくか」
 「そうだね」
 ほんとはちょっと物足りない気分なのは、オレがまだまだってことなのかな。
 それとも、リュウジも内心はそんな気分でいるんだろうか――オレの経験からすると、おそらく答えは『YES』だけど。

 「ハヤト、このあと暇か?」
 「うん。今日は別に何も」
 「そしたら夜、集まろうぜ!!!」
 「いいね。なんだか久し振りだ」
 「だろう? 冬の間は回数、少なかったからな。そしたら俺、今からダイゴんとこ知らせに行ってくるぜ!!! また後でな、ハヤト」
 言うが早いか立ち上がって、リュウジは単車――愛車の大型じゃなくて、出前用のカブだけど――のところに戻っていった。
 
 また強めの風。
 リュウジの背中を、真っ赤なリーゼントを桜の花びらが飾る。
 あはは、オレ、ちょっと詩人……似合わないけど。


スポンサーサイト

| ホーム |


 BLOG TOP 


  1. 無料アクセス解析
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。