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ジグソーパズルの1ピース 3-2



 リュウジが満足して引き揚げてきたので、オレたちはまだ残っていた野球部の連中に挨拶をして校門を出た。
 朝からこんな時間まで学校にいるなんて滅多にないことだ。しかも夏休みなのに……。
 リュウジのジャージを着ているオレは、汚れているのでそのまま借りて帰ることにした。
「よっしゃ。そしたら汚れついでに浜へ行こうぜ、ハヤト。夕焼けが見頃だからな」
「ってリュウジ、ほんとに元気だね。疲れてないのか?」
「全然。ほら、早く歩けって。日が暮れちまうから」
 早く歩くどころかランニングの速度で走るリュウジに、数歩遅れてついていくのが精一杯のオレ。頑張れ、オレの筋肉、と叱咤しながら道を行く。
 なんとか辿り着いた浜では、見事な夕照がオレたちのゴールを讃えてくれていた。
「オウ、間に合ったぜ!!! いいよな、浜の夕暮れ時ってのは」
「うん。贅沢な気分になるね」
 海面のきらめきを目に映し、潮風を胸いっぱいに吸い込んでみる。
 リュウジとふたりきり、という色気の無さはとりあえず置いておくことにしよう。なんだか気分が満たされているから。

「うん? 俺が喧嘩の練習? いや、別にしねぇけど?」
 しばらく海に沈んでく太陽を眺めたあとに、自販機で買った飲み物を片手に砂浜に陣取っているリュウジとオレ。さっき玉城と話していて、気になっていたことを訊いてみた。
「昔ダイゴに教わった柔道技は役に立ってると思うけど、あとは独学だな。漫画とかも大いに参考になるぜ。読んでるだけで自然に身についてる感じか? あとから考えるとな」
「へえ。何でも勉強になるんだね」
 オレも動体視力を養うためにパチスロを――いや、これは発言は控えておこう。
「オウ!!! 見方次第じゃ漫画でも何でも教科書だぜ!!!」
「……それ、数学と英語の先生の前で言える?」
「おい、喧嘩売ってんのか、ハヤト?」
「あはは、穏便に穏便に」
 ふざけて握ったリュウジの拳がオレの眼前で止まった。

「でもハヤトは練習ってか、計算する方だよな。しょっちゅう考え込みながら走ってるだろ? 単車のとき」
「え――そんなつもりでもないような……ああ、でも、たまにはそうかも。初めて走る道なんかだと、もしここで勝負になったらどう攻めるとか、自然にね。で、もし二度目に同じ道を通ったら予行練習の気分になるときもあるね」
「だよな。たまにそんな顔してるもんな。それってすげぇな、って思ってたんだぜ、俺」
「そんなことまで見えてたんだ、リュウジには」
「当たり前!!! だって俺、総隊長なんだぜ?」
 眼前の海は紺色に染まり始めていた。砂浜にいるオレの横の存在だけが、未だ夕焼け色のオーラを放っているのをなんとなく感じてた。
 一方は本能で君臨する総隊長。
 もう一方は頭脳と努力で登り詰めた総帥――そこまで至らせたのはリュウジかもしれないってことだったのか。
 
 ぼんやりとしたオレの思考は、リュウジの声に遮られた。
「おい、ハヤト。明日は補習のあと浜で泳ごうぜ!!! せっかく夏なんだし」
「オレ、あんまり日焼けしたくないな。っていうか、オレは補習じゃないのに」
「そんな場合か? お前も来週は体育の補習だろ? どうせ種目は水泳なんだし、予行練習の気分でいいじゃねえか」
「え――オレ、補習? 体育の?」
「出席日数足りてねぇって赤ジャージに呼ばれてただろ? まあ俺もだけどな」
「……すっかり忘れてたよ、オレ」
「いや、さすがの俺もそれは笑えねえぞ。ハヤトらしいとか、そういう次元を超えてねえか? ちょっと心配になってきたぜ……」
 リュウジがいたわるような目でオレを見た。ここはオレ、笑っておくしかないのかな?
「あはは、大丈夫だって。ほら、リュウジも一緒ってことで、オレの本能が安心してただけだよ。補習も、頼もしい総隊長どのに先導してもらえばそれでOKってことで」
 ……我ながらどこまで本気の言葉だか、わかったもんじゃないけどさ。


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ジグソーパズルの1ピース 4-1



 朝、体を起こしたら案の定。全身が筋肉痛にさいなまれていた。
 というか、朝起きたこと自体が案の定――リュウジの肉声朝コールにたたき起こされて補習に付き合わされるためだったんだけど。
 午前2時間のリュウジの補習が終わるのを待って――オレは同じ教室にいたんだけど――召集されたダイゴとノブオに学校で合流して、4人で浜へ行くことになった。
「ちょ、ゆっくり歩いてほしいんだけど。オレ、体中痛いんだってば」
「わはははは!!! ハヤトだらしねぇぞ!!! ほら、甘やかすとよくねぇからな。さっさと行こうぜ、ダイゴ、ノブオ」
「は~い、兄貴!! 急ぎましょう。ハヤトさんのために」
「って、ノブオ。お前ね……」
「ハヤト。案外動いたほうが筋肉痛は早く解消するかもしれぬゆえ。頑張れ」
「ダイゴまでそう言う?」
「押忍。荷物くらいは持ってやろう」
「……ありがと、ダイゴ。って、ああ、だから待ってくれってば」
 やれやれ。自業自得ってことなのか。オレも何か運動、しようかな……。

 さんさんと降り注ぐ夏の太陽。昼前なのでまぶしいほどの陽射しだ。
 それに包まれるオレたち4人――有り体に言って柄のよろしくない一団は、やっぱり周囲から浮いてるような気がするんだけど、それでも海は笑って許してくれる気がする。
 うん、夏だね。肌がちりちりする。
 砂浜の適当なところに陣取ってレジャーシートを広げて、荷物を置いて。服――リュウジとオレは学ラン――の下にそれぞれ水着着用だったので、至って身軽に準備完了となる。
「よっしゃ、泳ぐぜ!!!」
「は~い、兄貴!! 行きましょ~」
「リュウジ、ノブオ。準備運動はした方がよいぞ」
「あ、そうっスね、ダイゴさん。兄貴~!! 一旦戻ってくださ~い」
「オウ、そうだな。ってか、ハヤトは何してんだ?」
「え。浮き輪膨らましてるだけだけど、それが何か?」
「うはは、ハヤトさん、泳げないんっスか?」
「いや、そんなことないけど。ただ、のんびりしたいじゃん?」
「……まあな。ハヤト、似合いそうだもんな、浮き輪」
 なにやら諦め口調のリュウジであった。まあいいか。

 さっそくひと泳ぎ、とそれぞれ散っていった。
 リュウジとノブオはものすごい勢いで、ブイのところまで競争の様相。
 オレは持参の浮き輪でのんびりを決め込んでおり、ちょっと泳いでから何か考えた末に一度砂浜へ戻ったダイゴは、海の家からタイヤチューブの大きい浮き輪を借りてきてた。
「なんだ、ダイゴもやっぱりのんびりしたいんだ」
「押忍。というか、実はあまり泳ぎは得手ではないのだ。この年齢で浮き袋もどうかと躊躇していたのだが、ハヤトがいれば照れもないゆえ、甘えてみた」
「あれ、そう? ダイゴって運動なんでも得意だと思ってたんだけど。意外だな」
「筋肉の比率が大きいらしいので、あまり浮かないのだ」
「あ、そうか。柔道家のそんな話、聞いたことあるな。鍛えてる成果なんだ。すごいな」
「そう言ってもらえると助かるな、ハヤト」
 ダイゴがめずらしくはにかんだように言った。

 しばらくして一旦水から上がって小休止していたとき、浜の上の国道から声が呼んだ。
「お前たち、今日は海水浴か?」
 声の主はマウンテンバイクに跨って、道からオレたちを見下ろしている。
「オウ、赤ジャージ!!! 仕事あがったのか。お疲れだったな」
「まあな。リュウジのような生徒がいなければ非番なんだが。仕方ないことだ」
「何言ってるんだよ。それが仕事なんじゃねぇか」
 なんてリュウジがぶつぶつ言ってる。小声なのは済まない気持ちなのかも。
「おお、いいことを思いついた。リュウジ、ハヤト。来週のお前たちの補習のとき遠泳をしよう。それに参加したら補習2日分とするのはどうだ?」
「オウ、それ賛成だぜ赤ジャージ!!! 俺、何時間でも泳げるからな」
「ええと……オレは普通にプールのがいいんだけどな。ダイゴもそう思うよね?」
「いや、俺は補習ではないのでな。悪いが」
「あ、赤ジャージ先生、オレもいいこと考えたっス!! ビーチバレーどうっスか? それだったらオレ、ハヤトさんにコーチできるっス」
「って、ノブオ。いい加減なこと言うんじゃないよ、まったく」
「それも悪くないかもしれん。よし、よく考えてみるか」
 じゃあ来週を楽しみに、と赤ジャージは颯爽と国道を走り去った。なんか不安だ。


ジグソーパズルの1ピース 4-2



 そのあとビーチバレーならぬビーチボール合戦を挟んで、昼食ということになった。
 海の家に入って、この時期ならではの味わいを堪能することにした。
「夏におでんって、海の家でしか喰わなくねえ?」
「そうっスね~、兄貴。海に来ると食べたくなりますもんね」
「確かに。夏場は余らすと鍋のまま保存するのも大変だからかもしれんな」
「うちはたまに出てくるよ、夏でもおでん。親父が急に食べたくなるらしくて」
「ああ、なんかわかる気もするな。親子してマイペースだな、さすがハヤトだぜ」
「うん。親父にそう伝えとくよ、リュウジ」
 なんて、わいわいやりながらの昼食だ。
「なあ、ダイゴ。俺らのクラス、いや、中学んときのな。同窓会とか、やんねえのか?」
 おでんの汁を飲み干して、リュウジが言った。
「ほう、同窓会。聞かないが。リュウジはやりたいのか?」
「あはは、リュウジ、うらやましいんだ」
「いいじゃねえかよ、ハヤト!!!」
 リュウジは必要以上の声をあげて、俺のほっぺたをつねった。なんだかいつもよりぴりぴりするのは灼けたのか、海水の塩分のせいなのか。
「しかし、リュウジが一声かければ皆集まるだろうな。その気ならば手伝うが?」
「そうか? うん……どうするかな」
「てゆーか、兄貴。なんで急に同窓会っスか?」
「ノブオ、それはね。昨日、玉城がさ――って、痛っ!!」
 またしても、さっきと同じところを攻撃してくるリュウジ。
「うるせえよ、いいんだっての、それは。放っとけや、ハヤト」
「なんで恥ずかしがるんだよ、リュウジは」
「別に恥ずかしがってなんかいねえって」
「ああっ、兄貴!! 興奮しないでくださいっス!!」
 リュウジとオレの攻防をおもしろがりながら、ダイゴが言う。
「玉城。ということは、森園あたりには筒抜けか。では俺の出る幕ではないな。その気ならば森園が仕切るだろう」
「そう思うか? ダイゴ」
「押忍。リュウジがそうなら、なんだかんだと森園も同じ気分であろうし。昔からどこか気の合うところがあるゆえな、ふたりは」
「そしたらそれを期待してみるか。もし森園がそんな気配じゃなかったら、俺がけしかければいいだけだもんな、ダイゴ」
「押忍。俺もそういう気分になってきたので、何かあれば手伝う所存」
 なんかいいな。同窓会か。オレも久々に昔なじみの顔とか、見てみたくなってきた。

 それから夕方までさんざん夏の海を堪能したオレたちであった。
 海の家でシャワーを借りて着替えをして、荷物を片付けて。
 昨日とはひと味違う体の疲れを感じながら、でも不思議と筋肉痛はやわらいでいるようにも思いながら町までの道を歩いていたら、ランニング中の野球部と出くわした。
「オウ、今日も精が出るな、野球部は」
 リュウジが声をかけると、先頭を走っていた森園主将が足をとめ、みんなもそれに倣う。
「まあね。我々は強くなるべき使命を負っているので。それより明日は我々の練習に参加する予定は? リュウジ」
「明日か。どうする、ハヤト?」
「え。オレに訊く? いいよ、リュウジに任せるから」
 ……逆らっても叶わないことはわかってるんだし。
「では時間があったら来てもらえれば。ダイゴも昼頃、どうだ? 時間はあるか? 3人で打ち合わせたいことがあるので」
「お、ダイゴと俺と3人で打ち合わせってことは、もしかしてあれか? 中学んときの」
 前髪を掻き上げて、森園主将は微笑んでリュウジとダイゴを交互に見た。
「おや、さすがリュウジだ。解ったのか。気の合う仲間は悪くない」
 やっぱりね、と思って玉城を見た。玉城もくすくす笑ってる。


ジグソーパズルの1ピース 5-1



 海で泳いだ翌日も、やっぱりオレはリュウジに朝から補習に付き合わされて、当たり前のように野球部の練習にも顔を出した。
 昼飯時にはダイゴも現れて、学食でリュウジと森園と3人で中学のときの同窓会を開催すべく相談をしていた。
 午後になると、昼時の昇龍軒のバイトを終えたノブオも集合して、野球部14人+オレたち4人でちょうどいい人数になった、ということでまた紅白戦にかり出されて。
 うん、今年の夏はなんだかんだと運動してるな、オレも。言葉の意味そのままに、もう一皮剥ける寸前だし。海で日焼けしたから、だけど。

 そして数日が過ぎ、リュウジの数学と英語の補習は終了した。
 月曜日からはオレも参加必須の体育の補習があるわけで、またやれやれ、なんだけれどもとにかく土日はきっちり夏休みだ。
 土曜日の今日は、店でバイトの身。
 本当は今週ずっとそうやって小遣い稼ぎをしようと思っていたのに、親父はすっかりオレも数学と英語の補習の該当者だと信じ切っていたので、『学業優先』とか言われてあっさりと断られた。親父はオレの通知票なんて興味ないからな。しょうがないか。
 日中は仕事のあれこれを手伝って、汗と油のにおいを髪とつなぎ服にしみ込ませてた。
 ここのところの健康的な運動生活のおかげか、たいして疲れもしなかった。
 
 店が閉まったあと、シャワーを浴びて夕飯を食べて、そうしたあとにオレは愛車をガレージから引っ張り出してエンジンをかける。
「おや、お出かけか。我が自慢の働き者の息子よ」
「あれ、珍しい。『息子』の前に褒め言葉がついてるじゃん」
「わっはっは。俺ははからずも感心しておるのだ。ハヤトが愚痴ひとつ言わずに長時間汗だくで仕事をしたことにな。健全な精神は健全な肉体に宿るというのは本当だな、と」
「ああ、確かに。ここんとこオレ、筋肉使ってるからね。なんだかんだ」
「よしよし。あとは己のマシンに愛をもって接することもこの仕事をする上では不可欠だからな。存分に走ってこい、ハヤト」
「うん。行ってくる」
 親父に見送られて夜の道へ乗り出した。
 ここ1週間というもの昼間はぜんぜん構ってやる余裕がなくて、夜にほんのちょっとだけ走るのが関の山だった愛車との時間を、今夜は好きなだけ楽しもうと思った。
 本当はリュウジたちを誘って連れ走りしてもよかったんだけど、今日はなんとなくひとりで走りたい気分だった。
 たまにはいいじゃん、愛車とふたりっきりで語りあうのも。なんて。

 大回りに町を回って、灯りの消えた学校を一周。そのまま続く道を走って、鬼浜町商店街を抜ける。昇龍軒はまだのれんが出ている。カブは出動中みたいだ。ノブオが出前に行ってるのかも。
 道は川沿いへとさらに続く。春には見事に咲いていた桜の木々は、昼間見たらみずみずしい枝葉を誇っているんだろうけど、こんな時間には漆黒のひさしとなってオレの頭上を覆ってる。風が吹いたらさわさわと葉擦れの音をたてるのは想像できるものの、今現在はオレが風そのものだからその音はわからなかった。
 川が海に注ぎ込む地点にある信号を曲がると、そこは海沿いの国道だ。
 潮風。昼間とはちょっと違う匂いがするような気がする夜の潮風。
 うん、やっぱりいいね、夏は――今年ほどそう思ったことはなかったかもしれない。
 そしてオレは国道をひたすら西に向けて走ってみた。
 今日も愛車のご機嫌は上々みたいだ。いい音してる。

 気がついたらとんでもなく遠くまで来ていた。愛車のご機嫌とオレの気分がぴったりと重なったから全然そんな感覚じゃなかったんだけど、青い看板を見たらすでに県境を越えていたようだ。
 昼間に来たらおみやげでも買って帰るか、なんていう距離をオレはひとりで――いや、愛車とふたりで走破していた。
 明日も店でバイトだし、と思ったところで道を引き返す気になった。
 いつもだったら往路とは違う道で帰っても楽しいところだけど、今日はこのまま海沿いを走って帰ることにした。なんだかそんな気分だったから。


ジグソーパズルの1ピース 5-2



 鬼浜町に戻ってきたのは、そろそろ日付が変わるころだった。
 来たときをなぞるように、鬼川の交差点で国道を逸れて町の方角を目指すことにする。
 通りかかったときに、あれ――と思った。
 河川敷の、いつもオレたちが集会するポイントよりもすこし川上にあたる場所に大勢の気配がわだかまっているのを感じた。
 ああ、あそこは暗黒一家がよくたむろしている場所だ。
 単車の速度をぎりぎりまで落として、見るとはなしに土手の上から眺めると、やはり一団は暗黒一家の人影であるらしいことが察せられた。
 それにしても、なんだか気配が妙な感じだ。何がどう、とは言えないんだけど、10や20では利かない人数がいると思われるその地点は、しんと静まっているように思えた。
 もちろん排気量が小さくはないエンジンをかけたまままにしている単車はあるので、まったくの無音というわけではないけれど、それにしたって、いつもだったらそれなりに騒いでいるんじゃないかと思われるのに――少なくともオレたちならそうだから――、なぜだかやけに音が少ない。

 何だろう、とは思ったけれども、こちらは単騎だし。妙なことになって因縁つけられても困るので深入りするのはやめておくことにした。オレにだって分別はあるし。
 なるべく噴かさないようにしながら、オレは何事もなかったように通常のスピードに戻して今度こそ町へと戻ることにする。
 立ち去り際、オレの多少鍛えた動体視力が捉えたのは、駐めてある単車の前照灯に浮かび上がったコウヘイらしき人影だった。見間違いじゃなかったら、大勢に向けて頭を下げる姿勢をとっていたような……まさかね。まあ、見間違いなんだろうけど。

 翌日はこともなく過ぎていった。店でしっかりバイトして、親父に時給50円アップの交渉をしてみたりもして。
 夜にリュウジに呼ばれて、ちょっとだけふたりで走った。
 ひとりで走るのもいいけど、誰かと一緒なのもまた違った味わいがある。
 それじゃまた明日、とリュウジと別れたのはわりと早い時間だった。
 明日からまた学校か――夏休みなのに、オレって残念な人だな、なんて考えながら布団に入って、気がついたらもう朝だった。
「ハ~ヤ~ト~くん!!! おはよう!!!」
 ほら。ほんの一瞬でもう朝だよ……。なんでいつもこうなんだろうな、オレ。

 体育補習の初日の行程は、つつがなく終了した。
 種目は水泳。プールから上がって、シャワー程度では塩素の匂いのとれない髪を拭って――リュウジもオレも、髪の毛ちゃんとセットしてないと別人みたいだから笑える――、着替えを済ませて校庭へ出た。今日も陽射しが強い。
 そこへ息せき切って駆けてくる、野球部ユニフォームがひとりいた。
「ああ、いたいた。リュウジ。よかった、間に合って」
「オウ、玉城。どうした? そんな全力疾走して」
「いや、あんまり時間ないからね。練習抜け出して来てる身なんで」
 玉城の指が示す方向には野球部の面々がいつも通りの練習風景を繰り広げている。
「何だ。これからそっち行こうと思ってたんだぜ、俺は。なあ、ハヤト?」
「あ、悪い。オレ、今日は昼から店番頼まれてるから帰らないとまずい」
「そう。けど、リュウジだけでも来るんだったら焦ることなかったんだ、僕」
 うはは、と笑うファニーフェイスの玉城であった。

 それじゃ戻ろうか、という足並みのオレたちである。オレはそのまま帰るけれど、校門まで一緒に、と。玉城は歩きながらリュウジに用件を話しはじめた。
「いや、それがさ。僕らの同窓会の話あっただろ? それが昨日でね」
「ああ、そうだったのか。盛り上がったのか?」
「うん。それなりに。でね、そこで仕入れた情報があって」
 そこで玉城は歩みを止めた。おや、と思ったリュウジとオレも足を止めて、一歩遅れた玉城を見る。
「コウちゃん、やっぱり成績優秀らしいよ、暗黒水産で」
「ほう。そうか。まあ俺らにゃそんなに関係ねぇけどな、ハヤト?」
「うん。まあ、そうだね。そういう意味で勝負してるわけじゃないし」
「直接はね。でもさ、この話はちょっと関係あるかも、って思って、リュウジたちに報せる気になった。コウちゃん、学校に成績を認められて海外留学に推薦されてるって」


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