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商店街で君と握手!! 8-1



 舞台稽古は終盤に入った本番2日前のオレたちである。
 今日はダイゴとオレの怪人組に加勢してくれる有志が来てくれて、キャスト勢揃いのリハーサルが敢行されることとなる。
 有志たちにはとりたてて台詞があるわけではないし、各々忙しいだろうから、ということで稽古場に来てもらったのは今日が最初で最後といった手筈。
 集まってくれた面々を前に、オレがさらっと説明をする。
「そしたら、当日は今着てる黒の部活ジャージで来てくれればそれで大丈夫だから」
「了解した、相棒さん」
「うん。それで、オレが『集合』って合図したら、こっそりとこれを装着して……」
 と言って、オレは用意してあった黒の目出し帽を取り出す。
「被ったら、客席にばらけて座ってた位置にそれぞれ立ち上がってもらいたいんだ」
「そして攻撃へ適当に粘ったあとに、適当にやられたふりをすればよい、ということだ」
「そう。そんな役で悪いけど、協力してもらえると助かるよ。森園主将」
「なんのなんの。我々にとっては何であっても練習だから」
 鬼工野球部・森園主将は妖艶に笑んでそう答えてくれた。
 
 本当は主役級をお願いしてもいいくらいの役者なんだろう森園主将だけれども、今回はほんの脇役として助力してくれることに異議を唱えるでもなく。それだけじゃなくて、もともとは演劇部だったという玉城もメンバーなのでそれなりに恐縮したいたりもしたけれど、彼ら一行はそんなことなど一切気にしない、といったスタンスでいてくれた模様。
「でな、このきっかけで客席から攻撃されることになってるんだけどな。このへんは決して本気になったりしねえでほしいんだよな」
「もちろんそれは了解している、リュウジ。我々はあくまでスパイスなんだろう?」
「まあな。それを理解してもらえてるんだったら言うことなしだぜ!!! なあ、ハヤト?」
 リュウジは気合いの入ったこぶしを挙げた。それへオレも握った右手をぶつけてみる。

 最終的にストーリーは観客の子供たちの参戦を見据えてのものだったから、その部分はちょっと本番では変わってきそうな感じだったけれど、どうにかこうにか稽古は形になっていた。と、オレはそう思ったので満足だ。
 全編通しでのリハーサルを終えたあと、自然に頬をほころばせているオレがいる。
「うん。これなら明後日は上手くいきそうだ」
「そうか。ハヤトがそう言うんだったら大丈夫だよな!!! 何つったって監督だもんな」
「え、監督とか言った? リュウジ、オレはそんな大層なもんじゃないって」
「いや、しかしこのプランは相棒さんがあってのものなんだろう? 我々はリュウジからそう聞かされている。だから監督で正解だろう。な?」
 なんて森園主将が言うのに野球部の面々も賛同していたりとか。
 あとはダイゴもノブオも、それから白鳥先生も俊也さんも笑ってたりとか頷いてたりとか、オレの背中をどやしつけたりとかしてくれて。
 なんだか気恥ずかしいながらも、出演者諸氏にオレはこんな風に言って頭をさげてみる。
「ええと――そしたら本番はどうぞよろしく」
「おい、ハヤト。お前、なんか気合い足りなくねえか? そこは夜露死苦ぅ!!! だろうが!!!」
「あ、そう? じゃ、あらためて――夜露死苦ってことで」
「……なんか締まり悪いけどな。まあ、いいか。ハヤトだからな」
 リュウジがやけに芝居がかったため息をつく。みんな笑ってる。オレも笑ってた。

 リハーサルをこなしたあと、野球部は来たときと同じくランニングで鬼浜寺から去った。 それを見送りながらリュウジが言う。
「そろそろいい時間かもな」
「ん? 何の?」
 オレはリュウジに訊いている。
「今日な、公園に舞台が組まれる日なんだよな。盆踊りのやぐらは明日っつってたか?」
「はい、兄貴。オレもそう聞いてるっス」
「ちょっと様子見にいってみるか?」
「それは良いね、リュウジ君。実際の舞台は前もって知っておいたほうが」
「だな。跳んだりはねたりするのには空間を把握しないと話にならんよな」
 なんて兄貴分ふたりが賛同する。オレにももちろん異論はない。
「うん。そしたら行ってみようか。ダイゴも出られる?」
「押忍。悪いが少し待ってもらえるか? 住職についでの用向きがあるか訊いてくるゆえ」
「オウ!!! ダイゴ、商店街で買い物あったら勉強してくれるように俺が交渉するからな!!!」




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商店街で君と握手!! 8-2



 しばらく後に、オレたちは6人して商店街へ向かった。
 町を通り過ぎる空気には、そろそろ晩夏の気配が混ざり始めているようだ。それでもまだまだ夏を惜しむかのように太陽はがんばってる。
 海の方角には入道雲。だけど頭上の雲はすこしだけ薄くなってきているように見えた。
「で、どうよ? 白鳥氏。あおい様とは、ここんとこ」
「ああ、俊也氏。私は、まあ――それなりに」
「うはは。リュウジ、今の聞いたか? 白鳥氏、えらいはにかみようだよな」
「って、トシ兄。あんまり攻撃すんなや。そのへんは大人のあれこれってのがあるんじゃねえのか? なあ、白鳥くん?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、リュウジ君。大人の――などと、君が言うのか……っ!!」
「うん? なんかおかしいか?」
 リュウジは至って涼しい顔でそれを言ってのけたんだけど、白鳥先生はやけに慌ててる。
 ……おそらくリュウジは単に年齢的に大人の白鳥先生とあおいさんとの関係がそれなりにいい感じなんだろうと言いたかっただけなんだろうけど。それにしては言葉が足りないというか、誤解を招くと言うか。それへの自覚がないリュウジがアレと言うべきか。
 なんだかんだ、オレたちは一切それへはフォローする術もなく、といったところ。
 
 オレが思うにリュウジのあまり深く考えない物言いが、年齢的に『大人』な人たちにどう取られたのかは置いておくとして――いや、置いておくべき異変が訪れた。
 鬼浜町商店街の入り口付近、昇龍軒の前までたどり着いたオレたち一行を待ちかまえていたのは、周囲の喧騒であった。
 商店街のメインの通りは、いつもの賑わいに輪をかけて騒々しいな、という感じ。
 遠目にもテンションの違う空気を放っている商店街の一角には、あからさまに人だかりができていた。
「うん? なんだ? どうかしたのか?」
 つと立ち止まり、それを見やってリュウジがいぶかしそうに言った。
「何だろうね。騒がしい感じだ」
「押忍。いつもの雰囲気とは違うようだな」
 なんて短くオレたちは言葉を交わし合う。
「あれってば、俺んちの方角かも? なんかあったんか?」
「もしかしたらあおいさんの店が――?」
 俊也さんと白鳥先生が顔を見合わせて、頷きあってから喧騒へ向けて駆けだした。
 それについてノブオも走りだす。
「兄貴、オレちょっと見てくるっス。偵察は任せてください!!」
「って、おい、ノブオ、ちょっと待てって!!! 俺も行くぜ!!!」
 さらに続くリュウジを追って、ダイゴもオレも――結局全員で走ってる。

 人だかりのそば近くまで辿り着いたオレたちだけど、思ったよりも人垣は厚くてその中心で何が起きているのかを即座に察知することはできなかった。
 足止めを喰ったオレたちの前へ、逆に人垣の内側から出てきたちいさい姿が現れた。
「あ、リュウジ!!」
「今の、見てた? すごかったよね~」
 口々に言う彼らは、昨日も一昨日もここで会った小学生の2人組だった。
「うん……? いや、俺らは今来たとこなんだけどな」
「あ~、それじゃ見のがしちゃったんだね。ざんねん」
「今ね。すごかったんだよ!! だ~、って!!! うわ~、って。ね?」
「うん。ほんとにすごかったんだ。めちゃめちゃかっこよかったんだよ!!」
「――悪いけど、全然わかんねえぞ? ちょっと落ち着けや、な?」
 興奮してる男の子ふたりの肩に手を置いて、リュウジが訊き返した。
「よし。深呼吸してみるがよい。そうすれば落ち着くはずゆえ」
 なんでダイゴが言うのにつられて、彼ら大きく息をついてから続きを話してくれた。
「あのね。きのうも、おとといも見た怪人ってね、怪人じゃなかったんだ!!」
「そうなんだよ、リュウジ。ぼくら、悪いこと言っちゃったみたい。怪人じゃなくってあの人こそヒーローだったんだね。ぼく、あやまったほうがいいのかな?」

 そして男の子たちの指さす方向を見たオレたちの目に入ってきたのは、喧騒の中心で立ち上がって、ぬっとその魁偉たる姿をさらす暗黒一家親衛隊長その人だった。




商店街で君と握手!! 9-1



「……ゴンタじゃねえか?」
 リュウジが小さく言う。それを承けて、鬼浜町商店街の子供たちはリュウジを見上げる。
「あれ、リュウジ、あの大きいヒーローと知り合いなの?」
「やっぱりな。リュウジは商店街名物だもんね。リュウジだったらヒーローと知り合いだったとしても、ぼくらおどろかないもん。な?」
 そんなふうに評しながら、子供たちはリュウジをうらやましそうに見上げてる。
 リュウジも、同行してるオレたちも男の子たちの視線の意味をはかりかねて顔を見合わせるだけだった。

 人垣の中心に立ち上がった、人々よりも頭ふたつ分くらい体の大きいゴンタは周囲を見回すようにして、オレたち、というか俊也さんを見つけたようで、人波をかき分けるようにしてこちら目指して突進してきたんだ。
「うわ、ゴンタ? お前、どうしたよ? 何があったんだ?」
 血相を変えて眼前に現れたゴンタを、なだめるように俊也さんが言った。それから、よしよし、とでも言いたそうに手を回して背中をさすってやっていた。
 それでちょっとはゴンタも落ち着いたようだった。
 そんなゴンタの様子を、やはり尊敬のまなさしで子供たちは見ていたんだ。
 子供たちは、俊也さんが指示したとおりにゴンタが握手をしてやったところで帰っていった。去り際に手を振りながら、リュウジに「あさってが楽しみだ」って言ってた。
 その様子を見てたらしい別の子供たちがこっちへ走ってきて、次々とゴンタに握手をせがんでた。なんだか人気者になったみたいだ。

 そのあと、オレたちはゴンタを連れて昇龍軒へと戻った。
 4人掛けのテーブル席にゴンタを座らせて、隣に俊也さん、向かいの席にはリュウジと白鳥先生が陣取る。ダイゴとオレは近くのカウンター席に座った。ノブオは人数分の麦茶をいれてきて、それを配ったあとにオレの隣へと落ち着いた。
「で、何があったんだ? ゴンタ?」
 俊也さんがそう訊くと、うつむいていたゴンタは視線を俊也さんに移して口を開く。
「オレ……トオリカカッテ……ミタ……」
 切れ切れに届くゴンタの声。くぐもっていてところどころオレの耳には聞こえない。
 それでも俊也さんはゴンタに頷いたりしつつも話を進めているらしい。
「なるほどな。んで? それ追っかけてったんだ?」
「ソウ――デモ……デキナカッタ。ダカラ……ヤッタ」
「そうかそうか。お前、偉かったな。確かにヒーローって子供らが言ってたとおりだ」
 俊也さんは手を伸ばして、高いところにあるゴンタの頭を撫でてやってた。ゴンタはそれを嫌がるでもなく、ちょっと喉の奥で唸るようにしていた感じ。
「だってさ、リュウジ。ゴンタの活躍で商店街が救われたようなもんみたいだな。子供らがヒーローって言うのもわかるよな」
「ちょっと待った、トシ兄。俺にはさっぱりだぜ。白鳥くん、わかったか?」
「いや、申し訳ない。私にもよく聞こえなかったよ」
「ああ、そうか。ゴンタの声って聞き取りにくいんだっけ? 俺にはちゃんとわかったんだけどな。何でだろうな?」
 小首をかしげる仕草を俊也さんに返すゴンタであった。さすがに俊也さんに懐いているだけあるな、と思わせるレスポンスに見えた。

 ゴンタが語った内容は、俊也さんの通訳のもとにオレたちの知るところとなる。
「ゴンタな、今日は学校の友達……ああ、お前たちも知ってるか。ハンゾウと約束があるんだと。で、ちょっと早くこのへんに着いたから商店街をふらついてたらしい。そしたら俺んちの売り物の魚をくすねて逃げようとする猫を見かけたんだよな? ゴンタ」
「……オオ」
 ゴンタはうつむきながらもそう答えた。これはオレたちにも『同意』とわかる。
「で、ゴンタはそれを追いかけた。偉いよな」
「ベツ……ニ」
 俊也さんに褒められて、もしかしたらゴンタは照れているのかもしれなかった。
「結果的には猫とうちの売り物は取り逃がしたらしい。ゴンタはそれへ自責の念があるって言ってるが、なんで猫の追跡を途中でやめたかってのは、それどころじゃなくなった」
「ほう? 別の何かが現れた?」
「そうそう、白鳥氏。ちょっと先に定食屋があってさ。そこから出てきた客がゴンタにぶつかって、そのまま逃げ出したんだと。さらにその客の後に店員が出てきて、『食い逃げだ、誰かつかまえてくれ』って叫んだ」
「そうか。それじゃゴンタは標的をそっちに切り替えたってことか」
「リュウジ、正解。ゴンタあんまり走るの速くないんで、履いてた靴を食い逃げ犯に思いっきり投げつけて、んで怯んだところへ追いついて。定食屋の店員が呼んだお巡りさんが到着するまで敵に馬乗りになって待ってたんだと」

 俊也さん通訳によるゴンタの活躍の顛末だった。
 交番の巡査が現れて食い逃げ犯を引き渡したあと、定食屋の人たちにお礼を言われて、商店街に居合わせた人々から拍手されて、さっきの子たちをはじめ子供連中がわいわい取り囲んで――ゴンタはどうしたらいいのか混乱しはじめたところへオレたちが行き当たった、ってことらしい。
「そうだったのか。なるほどな。子供らが感心するのももっともだぜ」
 腕を組んで聞いていたリュウジがこう言った。
「本当。その立ち回りを見てたら確実にヒーローだと思うよな」
「そうっスよね、ハヤトさん。オレだったらできたかな……」
「それは大丈夫であろう、ノブオ。何せ商店街の正義の味方なのだろう?」
 ノブオは何かを考えながらも、ゴンタのコップが空になっているのに目が行ったようで、おかわりを持ってきてやっている。さすがに気が利くね。



商店街で君と握手!! 9-2



「まあ、とにかく、ゴンタが活躍してくれて助かった、ってことで」
「そうだな、トシ兄!!! ゴンタ。今日のところは俺からも礼を言うぜ。ありがとうな」
「…………」
 ゴンタは口の中で何かつぶやいてる。
「何か言ったか?」
「礼には及ばないとさ。リュウジのためにやったんじゃないって」
 俊也さんの通訳を聞いて、リュウジはちょこっと笑ってこう続けた。
「それよか、お前元気ねえな? トシ兄に聞いてはいたけど」
「……オオ――ソウ……スイ――」
「コウヘイが元気でいるのか気になって、食欲不振が続いているって言った」
「食欲ねえのか!!! そりゃ辛いだろうな。ラーメンか何か喰ってくか? そうだな、商店街での活躍への礼ってことで」
 そしてリュウジは厨房に入っていって、夜の仕込みをやっている店員さんに何か頼み事をしてから席に戻ってきた。
「そんなに気になるんだったら、お前も連れてってもらえばよかったんじゃねえのか? 奴の家って金持ちなんだろ?」
「ダメダ……コワイ」
「飛行機が怖いって。狭いところも好きじゃないって前に言ってたしな」
「なるほど」
 聞いてた全員が口を揃えてそう言った。

 奥から声がして、ノブオが行った。銀のお盆で運んできたのは大盛りのチャーシュー麺。
 ノブオがゴンタの前に置いてやると、ゴンタはちらりと俊也さんを見る。俊也さんが笑って頷くと、ゴンタは匂いをかいでからラーメンにとりかかった。
「ってか、ゴンタ。お前最近よくここらへ来るだろ? けっこう目立ってるみたいだぜ?」
「ベツニ……ナニモ――」
「別に何も悪いことしてないし、暇だからいいじゃん、って言ってる」
「まあな。そりゃ悪いことじゃねえんだが。でも、今日のでゴンタの株はずいぶんと上がったようだしな。子供ら、次からゴンタに会ったらすげえ喜びそうだぜ」
 マサカ、とゴンタが言った。それはオレにも聞き取れた。
「ゴンタ、知ってるって。子供らがゴンタを見て『怪人だ』って言ってるの」
「ちょっと時期悪かったんだよね、それ。ほら、ヒーローショーのポスターに『怪人』って入ってたから。それと重なっちゃったんだろうな」
「そうだね、ハヤト君。子供はイメージ先行で物事を考えてしまいがちだし」

 ゴンタがゆっくりと箸を進めるのを見守りながら、リュウジが言う。
「そうか。ポスターな……確かに。なあ、ゴンタ。せっかくだからお前もヒーローショー、出るか? 子供らが喜ぶかもしれねえし」
「……イヤ――チガウ……」
「俺は怪人じゃないから出ないってさ」
「そうじゃねえって。お前、子供らからはヒーローだって思われてるんだから、ヒーローやってみるか?」
「ソレ……ムリ……ダ」
「人前だと緊張して乱暴するかもしれないから無理だろ、だと」
 それを聞いてオレは背筋が寒くなった。
「……ちょ、乱暴はよくないよ。オレの体が持たないってば」
「そうか。やられ役だもんな、ハヤトは。ダイゴはどうにかなるかも知れねえけど不安か」
 わはは、なんてみんなで笑った。オレは目が笑ってなかったと思うけど。

 もしかしたら箸を使うのが苦手なのかもしれないゴンタは、かなりスローペースながらもチャーシュー麺をそろそろ平らげそうだった。
「じゃあ、せめて最後んときだけ一緒にいろや。ポスターにあったろ? 舞台が終わったら子供らと握手会するんだ。そんときにお前もいたら、子供ら喜ぶんじゃねえかな」
「オコ……ラレ……ル?」
「コウヘイに怒られるんじゃないかってさ」
「そんなこと気にすんなってば!!! そしたら代わりにハンゾウにでも許してもらえ」
「ム……ハンゾウ!! ――ジカン?」
「ん? 時間か? 今は3時を過ぎたとこだな」
 俊也さんがそう答えると、ゴンタは慌てて立ち上がった。
「ああ、そうか。お前ハンゾウと約束があったんだっけか?」
「オウ!! ゴチソウサマデシタ」
 ゴンタがリュウジに向かって言った。なぜかはっきり聞き取れた。

 立ち去るゴンタを見送ってから、オレたちはあらためて外へ出た。本来の目的の、公園に組まれた舞台を下見するためだ。
 舞台はすっかり出来上がっていた。それを見るとなんだか緊張してくるオレがいる。
 リュウジとノブオは舞台の横でたばこをふかしていた大工の棟梁さんのところへ挨拶しに行った。
 舞台の下手のところに花を飾っているあおいさんを見つけて、白鳥先生はそこへ足取りも軽やかに向かっていく。俊也さんもそれへ続いた。
 ダイゴとオレは客席になる部分を歩きながら、本番の人員配置なんかを打ち合わせてる。
 明後日誕生するはずだった鬼浜町のヒーローは、ゴンタに先を越されてしまったけれど。
 それでもオレたちが作ったヒーローも、どうか子供たちの人気者になれますように。
 明後日ゴンタは来るんだろうか。そしたら人気が集中しちゃったりするんだろうか?

 まあ、いいか。そしたらオレがヒーローに握手してもらえば、それでいいか。
 一緒に写真も撮ってもらって、フレームに入れて飾っておこう。
 こないだおもちゃ屋で買った、懐かしいヒーローのソフビ人形の隣に並べて飾ったら絵になるかな。
 

   * 完 *





鬼浜戦隊ショウテンジャー 1-1



 本番開始は午前11時。定刻まで10分を切った。
 舞台袖からちらりと覗くと、地面にござを敷き詰めただけの客席にはびっしりとお客さんが集まっていた。
 地元のちいさい子たちが主だけど、その家族らしき人たちもけっこういた。商店街でお馴染みの顔も数多ある。前もって仕込んである鬼工野球部の面々も確認できた。
 ポスター作成の仕事を請け負った亜由姉さんもいたし、亜由姉さんの友達で鬼工の保健室の遥先生の姿も見える。ほかにも知った顔がちらほらと。
 あとは、花束を抱えたお姉さん方の姿も見える。白鳥先生のファンの人たちかな? いったいどこで聞きつけてきたんだろう。
 開演5分前になると、短く鐘が振られた。商店街の抽選会のときに大当たりが出ると鳴らされるやつのようだ。

 その音を合図に、リュウジが言った。
「みんな、いい舞台にしようぜ!!!」
「は~い、兄貴!! オレ、ずっこけないようにがんばるっス」
「だな。俺も勢いつきすぎて舞台から落ちたりしないようにするわ」
「ふふふ。私は客席からの声援を浴びて輝いてみせるからね」
 ヒーロー組は口々に言ってる。思ったほど堅くなってる感じじゃないのがさすがだ。
「ハヤトもダイゴも、よろしく頼むぜ!!!」
「押忍。できるかぎりやってみよう」
「うん。そうだね。でもオレ、なんか緊張してるんだけど……」
「わははははは!!! ハヤトが緊張してるってどんな冗談だよ!!!」
「って、リュウジ。失礼だな」
 むすっと言ったらリュウジがオレの背中をばしっと叩いてこう言った。
「ハヤト。お前がそれでどうすんだ? この企画はいわばお前が支柱だろ。しっかりしようぜ。いつも通りでいいんだからな。ハヤトは特に、前にライブハウスとか出てただろ? 舞台経験者なんだし、落ち着いてればそれで大丈夫だぜ。な、ハヤト?」
 不思議だ。リュウジがオレの目を見てそう言っただけでなんだか落ち着くオレがいる。

 ひとつ大きく深呼吸。そのあとオレは思い出したので言ってみた。
「そうだ。ライブって言えば、ステージに上がる前に円陣組んで気合い入れたっけ」
「なるほどな!!! よし、やってみるか」
 そしてオレたちは輪になって、それぞれ右手を真ん中に出し合って。
「よっしゃ!!! 気合い入れてくんで夜露死苦ぅ!!!」
「夜露死苦ぅ!!」
 リュウジの先導に従ってみんなで声を出す。うん、それで完全に気分が切り替わった。
 あとはやるだけ。やれるところまでやるだけだ。
 そうして今度は長々と鐘の音が公園に響き渡った。開演時刻の合図だった。

 ダイゴとオレは客席後方からの登場となる。いったん舞台袖からこっそりと出て公園の外を回って持ち場へスタンバイ。
 舞台背面のパネルには、書き割りの代わりに商店街で実際に撮影された写真を大きく引き伸ばしたものが貼られている。商店街の写真館の人がやってくれたんだと昨日リュウジが教えてくれた。
 
 舞台にリュウジが出る。両脇には俊也さんと白鳥先生。すると客席から拍手が起こった。
 リュウジの衣装は昇龍軒の上っ張り。俊也さんはねじりハチマキとゴム長姿、それから白鳥先生はあおいさんに借りたらしい店名入りの前掛けをつけている。
 ちなみに本番の今日は全員ワイヤレスのピンマイクをつけることになっている。
「オウ、みんな元気そうだな!!!」
「あ、リュウジだっ」
「は~い!! げんきだよ~!!」
 リュウジの呼びかけに、口々に客席の子供たちが応える声。
「元気なのは魚食べてるからだよな? 知ってるか? 魚食べると頭よくなるんだよなー」
 稽古のときよりもおどけた口調で俊也さんが言った。
「ふふふ。女の子は笑顔が素敵だ。どの笑顔にも花が似合う」
 白鳥先生は手に持っていた赤いチューリップを、客席の女の子に差し出した。
 受けとった子はうれしそうにしていたし、大人のお姉さんとおぼしき観客からは羨望のため息が聞こえてきた。
「今日も鬼浜町商店街は元気で楽しくて平和で、最高だよな!!!」
 拳を握った右腕を体の前にもってきて、リュウジは大きく言い放った。
 当然のように客席からはいいお返事。立ち上がって飛び跳ねてる子なんかもいた。
 うん。つかみは上々だ。




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