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アイドルの放課後

   * 1 *


 それはある日の放課後のこと。
 赤ジャージの柔道特訓を一緒に見学したあと、リュウジとともに学校を出て、リュウジの家の前でいつものように別れを言い合ったその後。
 すこし歩いた商店街の真ん中で、オレは千晶ちゃんの姿を見つけたんだ。手には何やら大小ふたつの袋を提げている。
 「お、千晶ちゃん」
 「ああ、ハヤトだ。今帰り?」
 「うん、そう。千晶ちゃんは?」
 「あたしはこれからリュウジのとこへ行くんだ」
 やんわりと笑う千晶ちゃんのほっぺたは、今日も手入れが行き届いているらしく、ふっくらしていた。

 「こないだ頼まれてさ、リュウジに」
 「何を?」
 「買い物。刺繍糸」
 目の前に手荷物のうちの小さいほうの袋をかざして、千晶ちゃんはそう言った。
 「へえ。珍しい買い物を頼んだなあ、リュウジ」
 「ね~。だってさ、こないだコレ渡されてね」
 と、千晶ちゃんが示したのは、持っていたもうひとつの大きいほうの袋。袋の口を開けると、見慣れたリュウジの特攻服が現れた。

 「ここのところと同じ色の糸を買ってきて、って」
 「ああ、ここ? ほつれてるとこだ」
 「うん。直すんだって」
 「直す──って、千晶ちゃんが?」
 「まさか。あたしお裁縫は苦手だもん」
 くふふ、と千晶ちゃんは苦笑いを寄越した。

 「リュウジがね、自分でやるって。それくらいは出来るんだけど、でも手芸店に行くのが自分じゃムリとか言ってさ。恥ずかしいんだって」
 「あはは、そういうことか」
 確かに。リュウジが手芸店で刺繍糸を選んでいる姿って、想像するとやたらと笑えるかも。そりゃ恥ずかしいってのもわかるなあ。

 「それでさ、買い物したからリュウジに渡そうと思って」
 「そっか。じゃあオレも付き合おうかな」
 なんて言いながら、オレはついさっき別れたばかりのリュウジの家の前までふたたび、今度は千晶ちゃんと一緒に戻ることにした。

 「けど、リュウジって自分で裁縫できるんだ」
 「ね~。意外だよね」
 千晶ちゃんがくすりと笑う。
 「意外って言えばそうだけど、でもリュウジは何をやっても器用にこなすからね」
 「ふうん。あたし、ハヤトのほうがそういうの得意かと思った」
 「え? オレ? あはは、オレはムリだな。不器用だっていつもリュウジにからかわれてるよ」
 「へええ。そっちのが意外かも」
 「そう? でも、オレたちは千晶ちゃんがあんなに度胸あるって知ったときはほんとに意外だったけどな」
 「あは。世の中って、見かけによらないことだらけだよね」
 そうかもね、なんて笑いあっていた。

 話しながら歩いて、駅前に通じる道を横切ったところで、前方からひとつの人影がオレたちの前で立ち止まった。
 ん? と横に並んだ千晶ちゃんからはずした視線を前にやると──
 「あ、コウヘイだ……」
 こんなとき、どんな反応していいかって実はオレ、苦手なほう。
 リュウジと一緒に歩いてるときだったらリュウジが真っ先に行動を起こすので、それに倣えばいいだけだからな。
 ノブオだったら向こう見ずにつっかかっていくのかも。ダイゴだったら一礼して何事もなかったように歩き出すのかも。

 したらばオレは──なんて一瞬迷っているうちに、オレより先に千晶ちゃんがコウヘイに笑いかけたんだ。
 「こんにちは、暗黒の大将さん」
 「お……おう」
 ヤバいことにならないといいんだが──オレは腕っ節でコウヘイに敵うわけないから。一緒にいる千晶ちゃんをかばえるのか?
 とか思うオレを後目に、千晶ちゃんはまったく動じずにコウヘイを見据えている。

 見つめられるコウヘイは──なんだか妙な表情を作っているのに気がついた。
 「女子、貴様どうしてそのような恰好を?」
 「え? あたし? 何かおかしい?」
 目顔で問われて、オレは首を左右に振った。
 ちょうど冬服になったばかりのシーズンで、千晶ちゃんはごく普通に学ランを羽織っている。
 「べつにおかしいとこなんてないんじゃない? ちょっとサイズ大きめだけど」
 「それはね。そのほうが似合うから。あたし」
 「いや……そういう問題ではない。貴様、女子なのに何故男用の制服を着ているのだ?」
 言い終わっても、ぽかんと口を開けているコウヘイの顔は、ちょっと見物だった。

 そうか。ようやく納得だ。
 今日までずっと千晶ちゃんを完全に女の子だと思っていたコウヘイが、千晶ちゃんの学ラン姿を見たわけで。
 そしたらそういう反応するのも当然というわけで。
 オレと同時に千晶ちゃんも思い至ったようで、ああ、とばかりに頷いた。

 「貴様、女子の制服はスカートだろう? それは趣味なのか?」
 「いいじゃないの。何着てたって。だってあたしの本質は服の中の、それよりももっと奥のほうにあるのよ?」
 千晶ちゃんの回答はこうだった。さらに続けてこう言った。
 「大将の本質だって、目に見えるものとは違うかもしれないじゃない」
 コウヘイは言葉を詰まらせた。
 あらら、ホントに強いね、千晶ちゃん。オレ、出る幕ナシだ。

 結局のところコウヘイは、首を傾げたままそれ以上何も言わずに立ち去っていった。
 「すごいな、千晶ちゃん。暗黒一家の総帥に勝利だ」
 「あは。これって勝ち? じゃああたしもリュウジに並んだね」
 なんてやんわりと笑む鬼工のアイドルがオレの横にいる。
 オレたちには見慣れた学ラン姿の美少女って、やっぱりちょっと普通じゃないチカラを持ってる。
 それが人を惹き付けるんだな、なんて改めて感心してしまった。



   * 2 *


 そんなこんなでリュウジの家の近くまで、オレは千晶ちゃんと一緒に戻ってきた。
 オレはリュウジのところへつく前に、どうしても千晶ちゃんとふたりになったときに訊こうと思っていたことがあったことに思い至った。
 街路樹の下で足をとめて、千晶ちゃんに問うことにした。

 「そうだ、千晶ちゃん」
 「え? 何、ハヤト?」
 「千晶ちゃんって好きなヤツとかいるんじゃないの?」
 「あたし──? 好きな人?」
 「うん」
 
 オレは前にダイゴとノブオにこう言ったことがある──千晶ちゃんはリュウジのことを好きなんじゃないか、って。
 ダイゴが言うには、カラダは男子だろうが中身は女子なのだからそういうこともあるかもしれない、と。
 ノブオはリュウジに心酔しているから、かなり複雑な顔をしてたけど。
 とにかくオレはここのところずっとそんなふうに想像してたんだ。
 
 「まあね。いないこともないんだけど」
 ほんのりと頬を染める千晶ちゃんがいた。
 「やっぱりね」
 「あは、わかるんだ、ハヤト?」
 千晶ちゃんは目を見開いてオレを見た。
 「うん。まあ、なんとなく。それでもって、案外難航してるんじゃない?」
 「ん~。そうかも。相手はあたしの気持ちなんて知らないしね」
 うつむく千晶ちゃんはオレから見ても可愛いのになあ──。

 「そうだよね。リュウジ鈍いもんな。恋愛上手なほうじゃないし。千晶ちゃんも苦労するよな」
 なんてオレは同情しながら言ってみた。
 「え? リュウジ? リュウジがどうかした?」
 「ん──? だって、千晶ちゃんリュウジが好きなんじゃないの?」
 「え──えええっ? あたしが? リュウジを? なんで!!!」
 一瞬の間をおいて、あはははは、なんて千晶ちゃんはオレの背中をぺしぺし叩きながら大きな声で笑っていた。

 「あれ? 違った? オレ、てっきり千晶ちゃんはリュウジを好きなんだとばっかり思ってたんだけど」
 「違う違う!!! リュウジのことは好きだけど、ぜんぜん意味が違うよ」
 深呼吸で落ち着こうとしながら千晶ちゃんが言った。
 
 「ええとね。誰にも言ってないことなんだけど。ハヤトならいいかな」
 笑いを収めたあと、千晶ちゃんはオレを上目遣いに見つめてこう口を割った。
 「あのね、あたし男子にはそういう感情、もてないの」
 「──え?」
 「ちょっと複雑なんだけどね。あたし、好きになるのって……実は女の子だったりして」
 照れたように言う千晶ちゃんの告白は、オレの脳味噌をこれでもか、ってくらい掻き回した。
 
 カラダは男子、見た目とココロは女子。誰が見てもかわいくて、時に剛胆で逞しくて──そんなすべてを兼ね備えた千晶ちゃんの秘密ってのは、ホントに驚きだった。

 「ええと……ややこしいね、千晶ちゃん」
 「うん。混乱するでしょ? だって本人も混乱してるもん。あは。でもさ、ハヤトだったら相談乗ってくれそうかな、って」
 「オレ?」
 「そう。だから困ったら、ときどき話を聞いてよね」
 「まあ……お役に立てればいいんだけど」
 耳の後ろあたりをかりかり掻きながら、オレは千晶ちゃんに答えていた。
 ……オレもまだまだだな。

 ひとしきり会話を終えたあとのオレたちは、それまでよりもより強い友情に結ばれていたような気がした。
 そうだね、千晶ちゃんの憧れてた男同士の友情ってのに近いかも。
 
 そしてそれから気を取り直して、ふたりして本来の目的のリュウジの家に行ったんだ。
 店先でリュウジを呼ぶと、厨房の奥からリュウジが出てくる。
 「はい、これ。約束の」
 「オウ、ありがとな!!! 千晶ちゃん」
 千晶ちゃんに手渡されたふたつの袋を受け取って、リュウジはにこりと笑った。

 「そうだ、貰い物だけどプリンあるぜ。千晶ちゃん、食ってくか? 女の子は甘いもん好きだろ?」
 「うん、食べる!!! ありがとリュウジ」
 「ハヤトも食うか? お前も好きだったろ?」
 「ああ。いただこうかな」
 オレと千晶ちゃんが、プリンとリュウジのいれてくれたコーヒーをいただいている間、リュウジは思いだしたように家の中に入っていった。
 
 そして、ふたたび店に戻ってきたリュウジの手には、さっき千晶ちゃんが渡したのとは違う袋が提げられている。
 「千晶ちゃん。よかったらこれ着るか?」
 「なに?」
 千晶ちゃんは、手渡された袋から中身を出した。中から出てきたのは──
 
 「うわ、これって……」
 それは──特攻服だった。広げてみると、リュウジがいつも着ているのより丈の短い特攻服。
 「オウ。俺がずっと昔、総隊長なんて肩書きのない頃に着てたやつだ。小さくなったからな。古いので悪いけど、よければ今度一緒に走るときにでもと思ってよ。ちゃんとほつれたとこも繕ってあるし」
 「あは、ありがと。似合うかな?」
 スプーンを置いて、千晶ちゃんは立ち上がり──学ランを脱いでリュウジのお古の特攻服を羽織った。

 「へえ。いいじゃん、千晶ちゃん」
 「そう? ハヤト」
 ちょっと照れたような顔で千晶ちゃんはオレを見る。
 「おう、なかなかだぜ!!! でもやっぱりちょっと大きいか?」
 「ううん。どっちかっていうと大きいほうが好みだよ、あたし」
 「ならいいやな。持って帰ってくれな」
 「うん、そうする。ありがとね、リュウジ」
 脱いだ特攻服を袋にしまいながら、千晶ちゃんは言う。
 
 「あ~、でもさ。これ着て夜の河川敷の集会とか行ったら、完全に女の子にはヒかれるよね、ハヤト。あたしどうしようかなあ」
 「あはは、そうかもね」
 千晶ちゃんの耳打ちに、オレは軽く笑って答えた。そんなオレたちをリュウジが見咎める。
 「ん? 何を内緒話してるんだ? ふたりとも」
 「何でもないよ、リュウジ。ね? ハヤト」
 「ああ。ただ、リュウジのお古を千晶ちゃんが着てたらさ、ノブオがやきもち妬くかな、って」
 「ノブオが──? 何だ、そりゃ」
 「わはは。だから何でもないってば」
 
 しばらく店の中で話をしてたんだけど、そろそろ夜の営業時間が始まるっていうタイミングで、オレと千晶ちゃんは帰ることにした。
 「そしたらまた明日、学校でな」
 「うん。また明日ね」
 「ハヤト、明日こそ寝坊すんじゃねえぞ?」
 「わはははは、え~と、努力します」
 別れ際のいつもの挨拶。こんな日常の積み重ねをなんだか愛おしいオレって、幸せなのかもしれないな。
 
 見上げれば夕焼けの気配が混じった秋の空。
 秋らしい薄めの雲が、ちょこっと茜色に染まっていた。


   * 完 *

 

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