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鬼の霍乱 1


 いつも元気の塊みたいなリュウジが、今日はなんだかおとなしい。
 「だからオレさ、『そんなの有り得ないだろ?』なんて答えて──って、リュウジ。オレの話ちゃんと聞いてた?」
 「ん? あ──ああ。そうだな」
 「もう、どうかしたのか? そんな眉間にしわなんか寄せて。腹でもこわした?」
 「いや。そういうわけじゃねえんだけど」
 「そいうだよな。リュウジが体調悪いのなんか見たことないもんな」
リュウジと一緒のいつもの帰り道だけど、リュウジの様子だけがいつも通りじゃない感じだった。
 
 「あ、そうか。リュウジまた何か悩んでるんだろ? オレでよかったら相談乗ろうか?」
 「ん? ああ、また今度な」
 「……あ、そう」
 ほらな、こんな具合だ。『ハヤトに相談できる悩みなんてあるわけねえだろ』みたいなのがリュウジのいつもの切り返しだもんな。
 「何か調子狂うよな」
 オレがそう言ったのにも、リュウジは無反応だった。
 
 「リュウジ、気分が晴れないんだろ? どう? そんな時こそひとっ走りってのは」
 そう。いつもだったらコレにのってこないリュウジじゃない。のに──
 「悪い、ハヤト。今日はやめとくぜ。またにしとくわ」
 「ふうん。そうか」
 口に出しては言わないけれど、こんなに調子外れのリュウジには初めてお目にかかったような。
 何か怒らせるようなことでも言ったかな、オレ? どうしたんだろな。
 まあリュウジのことだし、きっと一晩寝たらいつもどおりの気合いの漢に戻ってるだろう──そんなふうに軽く考えて、それじゃあ、とリュウジの家の前で手を振った。

 さて、今日は走りに行く気分だったのに、リュウジが行かないんじゃ盛り上がらないな。
 それならたまにはパチンコ屋にでも出撃しようか、なんて思いつきにいたく満足したオレは、家に帰って亜由姉さんを呼び出すために電話をした。
 
 「おっす、ハヤト」
 呼び出しに応じてくれた亜由姉さんは、オレよりひとまわり年上のいとこだ。当時中学生だったオレにパチスロを教えた張本人。鬼浜町から電車で2駅のところに住んでいる。
 亜由姉さんは、絵を描くのを生業としている。会社勤めではないから、昼間でも仕事が詰まっていなければたまにはオレとも遊んでくれるんだ。
 「珍しいじゃないの。平日の夕方なんて、リュウジの見張りで打ちになんか行く隙ないんじゃなかったっけ?」
 「あはは。いつもはね」
 こちらの事情はすっかりお見通しの亜由姉さん。そうなんだ。オレが賭事やるのをリュウジは許してくれないんだよな。

 「で? 今日はリュウジいないの?」
 「うん。なんだか元気なくてさ。速攻帰って走りにも行かないっていうから。ほら、鬼の居ぬ間に何とやら?」
 「あはははは、鬼、ね。うまいこと言うじゃん、ハヤト」
 「え、そうかなあ」
 たしかに、亜由姉さんの言うように平日にパチンコ屋なんかに行けることは滅多にないもんで、オレはちょっとうきうきしてた。
 だから、その頃リュウジがどうやって過ごしていたのかなんて思いつきもしなかった。

 さすがに駅前の店はマズいだろって保護者が言うもんで、オレと亜由姉さんは単車ふたり乗りで国道沿いの大きいパチンコ屋に来ていた。
 「へ~。オレここは来たことないな」
 「そう? せっかくバイク乗るんだから、こういうとこ来ればいいのに。駅前、出ないでしょ?」
 「うん。そうかもね。今度からそうするよ。こっちのがリュウジに見つかる危険も少ないよね、きっと」
 「あはは、言えてる~」
 駐輪場に単車を停めて、亜由姉さんといっしょにいそいそと店の正面玄関まで歩く。
 「亜由姉さん、今日は何打つ?」
 「あたし? ん~、どうしようかな。南国育ちかな。ハヤトは?」
 「オレはね、番長!!!」
 「……あんた好きだね。でもさ、あんたのとこの隊長と闘わせてみたいね。番長」
 「あはは、それおもしろそうかも。リュウジきっと巧いよ、紙相撲。あれで器用だし」
 「へ~。それは意外だわ」
 亜由姉さんは感心しながらオレの顔を見つめてた。

 多分、それがマズかったんだろう。
 一瞬視線を前方から反らせた亜由姉さんは、すぐ前に人影があるのに気付くのが遅れた。
 「──!!! わ、ごめんなさい」
 入り口のドアの前で『本日のイベント』ポスターとにらめっこしていた女の人の背中に思いっきりぶつかったんだ。
 「いいえ。こちらこそ立ち止まっていて……あ、ら? 亜由──?」
 「はい? って、うわ、久しぶり!!! な~んだ、このへんで打ってたんだあ」
 「ええ、ときどき。亜由も? だったら今まで会わなかったのが不思議よね」
 「あはは、ホント~。だって何年ぶり? 会うのって」
 ぶつかった相手と亜由姉さんは、偶然にも顔見知りだったみたいだ。
 って言うか──
 「あれ、もしかして遙先生?」
 「はい? あら、ハヤトくん? え……?」
 驚いたことにその女の人は、亜由姉さんだけじゃなくって、オレにとっても顔見知りだったんだ。
 「どうして? 亜由といっしょに……」
 「あ、ハヤトはあたしの甥。それよか遙こそハヤトと知り合い?」
 「ええ。今年度から赴任先が変わって、そこで。ね、ハヤトくん?」
 
 遙先生は、保健室の先生だ。
 具合が悪いときだけじゃなくって、しょっちゅう保健室にサボりに行く生徒の代表たるオレがさんざんお世話になっている人。
 腰まであるストレートの黒髪をもつ、すらりとした体型の、見るからに育ちがよさそうでおっとりした遙先生。
 その遙先生が……
 「どうしてこんなパチンコ屋なんかにいるの?」
 「うふふ。変かしら。ハヤトくん、私ね。こう見えてもキャリア長いのよ」
 「ええっ、そうだったんだ……。オレ、ぜんぜん知らなかったな」
 亜由姉さんが頷いているあたり、それはきっとホントなんだろう。なんかこう、遙先生のキャラじゃないんだけどね。パチンコ屋って。
 さっきのリュウジといい、今日は何から何まで調子が狂うなあ。

 オレは久々の再会に盛り上がる女性ふたりを見守っていた。
 「それじゃハヤト。今日はここまで送ってくれてありがとね。帰りは遙のクルマに乗せてもらうから心配しないで」
 しばらく後に、亜由姉さんはひとつウインクしたかと思うと、ばいばいとオレに手を振った。
 ……そうだよな。いくら何でも学校の先生のいる前で打てないよな。番長。
 
 「うん。それなら安心だ。じゃあオレは行くから。ふたりとも勝ってね」
 ふたりの女性にそう微笑んで、オレは駐輪場にひとり逆戻りだ。
 なんか切ない。オレ、よっぽど番長運に恵まれてないんだろな……。

 悔し紛れにひとりで駅前の店に戻って、ちょこっと番長を打ってみた。
 ──轟さん、あんた弱いよ。リュウジに鍛え直してもらったほうがいいな。絶対。


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