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愛おしき日々、愛おしき人々


 「なあ、ハヤト。ちょっとウチ寄っていかねえ?」
 体育祭の帰り道。途中まで一緒だったダイゴとノブオに別れを告げて、いまはリュウジとふたりで駅の近くまで戻ってきたところ。
 ほんのさっきまでやたらとテンションの高かったリュウジだけれど、オレとふたりになった途端に口数が減っていた。
 「どうした? リュウジ。疲れた?」
 「いや、それほどでもねえけどな。ただ──」
 「え?」
 「なんかさ、ああいう祭の終わったあとって、俺、案外苦手なんだよな」
 言ってリュウジは、ちょこっと気恥ずかしそうに笑った。
 「ふうん。わからなくもないけどね。気が抜けるんだろ? リュウジ」
 「まあそんなとこかな」
 
 神社のお祭りのときには率先して御神輿を担ぐリュウジ。それから、夏の終わりには町内イベントなんかにも取り組んだこともあったっけ。
 なんだかんだ、お祭りと名のつくものには惹かれるんだろうと思う。
 そんなリュウジは、おそらく祭がはねた後はオレなんかじゃ想像つかないくらいの喪失感が胸を満たすのかもしれないな。

 すこし寂しげにも見えるリュウジを放り出して帰るのがためらわれて、オレは笑ってリュウジにこう答えた。
 「そうだね。ちょっと一休みしてこうか、リュウジんとこで。なんか甘いものでも買ってく?」
 「オウ、それ名案だぜ!!! こんなときには甘いもんだよな!!!」
 「よし、じゃあ決まりだ。せっかくだからちょっと戻って、駅の向こう側のケーキ屋行こう。そこのモンブラン最強だから」
 「ってハヤト、コンビニでいいじゃねえか? 戻るのかったるいし」
 「そんなこと言わないでさ。おいしいほうがいいじゃん。な?」
 
 オレは無理にリュウジに方向転換を強いて、好みのケーキ屋へ連行した。
 いちご牛乳があればそれだけで幸せ、の単純なリュウジなんだけど、いざケーキ屋に着いてみたらオレなんかよりよっぽど目を輝かせて、ガラスケースの中を眺め回していた。
 うん、ちょっとは気分も変わったかな?
 漢気の代名詞みたいに思われているけれど、実はリュウジは寂しがりなんだ。そんなふうにオレが思っていることなんてリュウジは知らないだろうし、もしかしたら本人に自覚すらないのかもしれないんだけど。
 
 それからふたりして、今日はリュウジの家の店内ではなくて、リュウジの部屋でなんとなく時間を過ごしていた。
 「オウ、さすがに旨いな。コンビニのとは違うぜ」
 手始めにチーズケーキを一口食べて、リュウジは唸っている。
 「だろ? ちょっとは回り道した甲斐あったよな」
 「だな。つーかハヤトって贅沢してるな」
 「え~と、そうかな?」
 あはは、なんてオレは笑ってみる。リュウジのいれてくれたコーヒーも贅沢な香りがしてた。
 
 ひとつめを平らげて、次はいちごののったショートケーキ。店でどれにしようか決めかねたらしいリュウジは、3つ選んだケーキを迷うことなく食べ尽くす気らしかった。
 オレが大きめのモンブランを食べ終わるころには、リュウジの皿には3つめのチョコレートケーキが鎮座していた。
 「これも旨そうだな」
 「うん。これさ、ちょっと洋酒の香りがするだろ? それがなんとも味わい深いよね」
 「へえ──洋酒か。それで嗅ぎ慣れねえ匂いなんだな」
 言いながら、リュウジはチョコレートケーキにフォークを入れたんだ。

 「なあ、ハヤト」
 「ん? なに、リュウジ」
 リュウジは皿に視線を落としたまま、オレを呼んだ。
 「あのな、なんか──有り難うな」
 「え──」
 オレの顔を見るわけでもなく、リュウジはそんなことを口にした。
 
 「今日っていうか、準備期間から体育祭本番まで、俺を盛り立ててくれたのはハヤトだもんな。もちろんダイゴもノブオもそうだけど」
 「……リュウジ?」
 リュウジの様子というか、いつもとはかけ離れた、とことなく神妙でさえあるような口調にオレはどきりとしてしまった。
 「正直言って、俺はさすがに全校生徒の代表なんて柄じゃねえと思ってた。けど、森園に頼まれたら断れるわけねえだろ。実際、最初は内心ちょっとは心配だったんだよな」
 「へえ、そうだったんだ。意外だね、リュウジ」
 「そうか? 俺、案外デリケートだからな。でもな、ほら、ハヤトが持ち前のとぼけたところでさりげなく俺を和ませてくれてたのが、俺はいつも心強かったんだぜ」
 「は? え、ええと……」
 オレはうろたえた。だって、そんなつもりもなかったし、第一リュウジがそんなふうに感じてるなんて思ってもみなかったから。
 
 そんなオレの内心がわかったんだかどうなんだか、リュウジは勝手に言い募った。
 「なんかさ。ハヤトのちょっととぼけたとこってのはな、俺にはちょうどいいのかもしれねえなって思った。ほら、いつだか言ってたろ? 森園が、ハヤトは俺の右腕だからって」
 「ああ、そんなこともあったっけ」
 「俺、その意味がわかった気がするぜ。何て言うんだろうな、ハヤトが俺の硬いとこを中和してくれるのかも知れねえやな」
 「あはは、そんなもんなのかな。でもさ、オレもリュウジに気合い入れてもらわないと朝も起きられない奴だからね。お互い様みたいなもんかもね」
 なんかちょっと照れるな、なんて思って、オレは気持ち論点をずらしてみた。
 それが功を奏したのかどうなのか。しばしの沈黙が訪れた。

 チョコレートケーキの最後の一口を、名残惜しそうに片づけたあとにリュウジはこんなふうに──まるでひとり語りのように言っていた。
 「俺な、ここんとこ毎日楽しくてよ。お祭り気分だったからってことだけじゃねえんだけどな。でもって、ずっとこのまま、楽しいままでいられたらいいなあ、とか思ってたんだぜ」
 「うん。楽しいのはいいことだ、リュウジ」
 「ハヤトがいて、ダイゴとノブオがいて。森園たちがいて、千晶ちゃんがいて赤ジャージもいて、それでもってコウヘイらもいるから楽しいんだよな」

 なんとなく視線を窓の外のどこか、ここではないどこかへ彷徨わせるようにしてリュウジは言っている。
 「俺、鬼工へ入ってよかったぜ。今日はじめて母校愛みてえのがわかってな。なんか、泣けてくるほどいいなって思った」
 もう、リュウジはオレが聞いているのかどうかなんて、意識の外だったのかもしれない。
 だって、それはほかの誰かに対して言いそうにないようなことだったから。

 泣けてくる、って、それが弱いせりふだなんてオレには到底思えなかった。
 ただもう、逆にそれこそ漢気そのもののようにさえ思えたんだ。
 オレは何も口には出さずに、頷きだけをリュウジに向けて放り投げた。
 リュウジはそこで言葉を切ったんだ。
 なんとなく暖かで、限りなく豊かな沈黙がリュウジの部屋に流れてた。

 こんな沈黙を破ってしまうほど野暮じゃないから──オレはあえて口を開かないでいたんだけど。
 次に聞こえてきたのは、あろうことかリュウジの寝息だったんだ。
 「あれ? リュウジ? ──あらら、寝ちゃったのか」
 まあね。疲れてたんだろうし。仕方ないか。そう思って、テーブルに突っ伏したリュウジを仰向けに寝かしてやった。
 そしたら気付いた。リュウジの顔がほんのり赤かった。
 「え、もしかしてケーキの洋酒で酔ってるのか? リュウジは……」
 やれやれ。リュウジはオトナの嗜好に弱いんだもんな。オレだったら多少のアルコールなんかには負けないんだけど。
 一番つっぱっているように見えて、実はオレのほうがよっぽど不良なことはリュウジには絶対内緒だけどね。

 オレは押し入れを勝手に開けて、毛布を引っ張り出してリュウジにかけてやった。ついでに電気を消して、部屋を暗くする。窓の外には月が見えていた。
 そのまま帰るなんてできなくて、なんとなくリュウジの寝息を聞いてた。
 だって、目が覚めてひとりだったら、もっと大きな喪失感にリュウジが苛まれるかもしれないからね。しょうがないからリュウジの昼寝が終わるまで、オレはここにいてやろうかな。
 
 ──オレも鬼工に入ってよかったと思う。
 リュウジに出会えて、ダイゴやノブオにも会えて、ほかのみんなとも知り合えて。いまオレがこうあるのは取り巻く人々のおかげだから。
 仲間がいて、敵がいて、笑えて、本気出せて。そんな日々への感謝なんかを胸によぎらせながら、オレは今日もここにいる。
 
 嗚呼、なんかしあわせだ。オレ。
 聞こえていないのを幸いに、リュウジの寝顔にそんなふうに呟いてみた。
 

   * 完 *


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