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自転車狂詩曲 2

 「よう、リュウジ」
 リュウジの部屋の窓の下まで単車をつけると、おそらくマシンのエンジン音を聞いてそれとわかったリュウジが窓を開けてくれた。読みかけらしい雑誌を手に持ったまま見下ろすリュウジにオレは手を振る。
 「どうかしたか、ハヤト」
 「ああ。実はオレ、リュウジに折り入って頼みがある」
 「頼み? 何だ、言ってみろや」
 「いや──大きな声では……」
 「ん? おかしな奴だな、ハヤト」
 なんて言いながらも、リュウジはそのまま外へ出てきてくれた。

 「つーかハヤト。まるで家出でもするみてえだな」
 単車のリアにくくりつけた荷物を見るなり、リュウジの第一声がそれだった。
 「ああ。親父にも同じこと言われた」
 「わはははは。気が合うなあ。親父さんと」
 「って、そんな場合じゃなくって、リュウジ」
 「ああ、そうか。で、何だ? 頼みってのは」
 「うん。あのさ、オレを自転車に乗れるように特訓してくれないか?」
 オレに対してさっきケイタが言ったこととまったく同じ頼みを、こんな歳になって口にしなけりゃいけないオレ。どうか哀れんでほしい。
 「え──自転車だと?」
 そしてオレはかくかくしかじか──こんな荷物を持って前向きな家出を決意するまでの経緯をリュウジに話して聞かせた。
 
 話の途中で招き入れられたリュウジの部屋。こうなった理由とオレの意志とをひととおり理解してくれたリュウジは、腕組みしたまま眉間にしわを寄せていた。
 「なるほどな。俺、ちっとも知らなかったぜ。まさかハヤトが自転車に乗れないなんてよ」
 「乗れないっていうか、真剣に乗ったことないっていうか、本気で練習したことないっていうか……」
 「どれだって一緒だろ? 現に困ってるんだから」
 「まあね」
 オレはため息を禁じ得ない。我が身の情けなさへのため息だ。
 
 「でもな、ハヤト。自転車に乗れるようになるまでってのは、努力と根性と汗と涙と擦り傷の結晶なんだぜ?」
 「擦り傷──ああ、なんとなく予想つくな」
 「正直言って、あれは物心つく前に覚えとくもんだ。その方が恐怖感ねえからな」
 「うん。オレもそう思った。中学のときにね」
 「わかってるなら話は早いけどな」
 リュウジはこくりと首を縦に振ったんだ。

 「よし。それでもハヤトは自転車に乗れるようになるつもりなんだな?」
 「もちろんそのつもり。だってケイタと約束したからね」
 「そしたら──覚悟はできてるな?」
 「あ、ある程度だったら……」
 「まあ、そんなら大丈夫だろ。たとえ転んだって、コウヘイに殴られたこと思い出せばどってことねえ痛みだろうからな!!!」
 「え、いや、あれは必死だったから」
 「ハヤト、そしたら自転車は必死じゃねえのかよ!!!」
 「あ──」
 そうだった。オレ、痛いことなんて関係ないくらい必死にならなきゃいけないんだった。

 「──だろう?」
 オレの意識の変化みたいのが、リュウジには伝わったみたい。
 「そしたら、どっか人目につかねえとこで練習すっか。付き合ってやるよ」
 「悪い、リュウジ。恩に着る」
 リュウジに向かって拝むように手を合わせた。
 「でさ、ついでと言ったら何だけど、オレ、目的達成するまで家に帰らないつもりなんだ。その間、リュウジのとこに泊めてもらってもいい?」
 「いや、それはここよりいいとこがあるな」
 「え──?」
 「人目につかなくて、間違ってもケイタが来そうもないとこ。お誂え向きに舗装された場所まで完備。でもって、宿泊も可能となったらあそこ以外にゃ有り得ねえ」
 「あそこって?」
 「鬼浜寺。ダイゴんとこだ」
 ああ、なるほど。確かにリュウジの言うとおりだ。あそこだったらいろんな意味で安心かもしれない。
 
 「そしたら俺、ダイゴに電話で掛け合うわ。ちょっと待ってろな、ハヤト」
 「うん。頼む。悪いな、リュウジ」
 「いいってことよ!!! 俺だってハヤトを自転車ぐらい乗れるようにしてやりてえからな」
 あの──リュウジ、なんかむやみに目がきらきらしてるのはオレの見間違いか?

 とにかく、リュウジは電話をとった。ダイヤルしてしばらく待つ。と──
 「オウ、オレだ。リュウジ──って、あれ? なんだお前、ノブオか?」
 おいおい、リュウジ間違えてるじゃん!!!
 「まあいいや。ついでだしな。ノブオ、いま暇か? だったらちょうどいいぜ。お前も今からダイゴんとこ集合な!!! 理由? 来りゃわかるぜ。ああ。んじゃまたあとで」
 まくし立ててリュウジは電話を切った。
 「ノブオも来るってさ。よかったな、ハヤト。みんなで応援するぜ!!!」
 「……間違えただけじゃん」
 「わはははは、そんなこと気にすんな!!! んじゃ気を取り直して──と」
 
 ふたたび電話を手にしたリュウジは、今度こそダイゴとつながったようだった。
 首尾よく約束をとりつけてくれたから、あとはもうオレが気合い入れるだけ。
 リュウジの部屋を出るころには、オレはもう覚悟ができてた。

 転んでも泣いたりしない。
 擦りむいても痛くなんかない。
 絶対乗れるようにならなくちゃ。そうじゃなきゃ帰れないんだから──そんな数々の自己暗示をかけてみようと努力してる。
 リュウジとふたりで単車に乗って、ダイゴの家の鬼浜寺を目指してる途中のことだ。
 
 単車だったらエンジンあるから、よっぽどのことがなければ転ぶことなんてない。
 それでもオレはあえて危険を冒しにゆくところ。
 赤ジャージに負けないくらい熱血指導者な予感をはらんだリュウジは、オレの前を単車で走りながらときどき振り返ってくる。

 「逃げないってば。もうオレ、観念してるから」
 信号待ちでそう返したら、リュウジは満足そうな顔をした。
 きっと今ごろ、オレのスケジュールか何かを勝手に考えてるんだろう。
 リュウジの中では何時間受講したら卒検ってことになってるかな、とか想像しながら青に変わるのを待つ。
 足止めを食ってるオレたちの横を、自転車の女子中学生がすり抜けてく。
 彼女にも辛い練習期間があったに違いないんだよな。
 よし、オレもがんばろうかな──って思ったとこでちょうど青になった信号を、オレは無意味ににらみ付けていた。
 
 

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