目次

過去の記事をまとめて表示できるようにしてみました。 【 】がついている項目をクリックすると、それぞれのタイトルの記事を一括でお読みいただけます。 【 】内の数字が若い順に古い記事となっております。 【 】内の冒頭数字が同じものはそれぞれ対になるおはなしです。

これまでのおはなし

全タイトルを表示

御来訪感謝

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

鬼神生還

   * 1 *
 
  
 「いや~、それにしても長かったぜ、一週間」
 感慨深そうにリュウジは言った。
 その口調がすごくうれしそうで、聞いているオレたちも気分がよかった。

 盲腸をわずらって人生初の手術および入院という試練を受けたリュウジが、やっとのことで退院のお許しをもらったんだ。
 寝間着で過ごした一週間に別れを告げたリュウジは、服に着替えてこう言った。
 「ん~。やっぱカラダがなまってる気がするぜ」
 「あはは。そりゃしょうがないだろ、リュウジ」
 「その通りだ。やはり動かないことにはな」
 「そしたら兄貴、オレ相手になりますよ~。じゃんじゃん殴っちゃってくださいっス~」
 よくわかんないけど、ノブオの言ってることっておかしいよな……。

 「……ノブオ。そんなにヤられたいのか?」
 「ええ、そりゃもう。兄貴の拳だったらいつでもオッケーです!!! あ、ハヤトさんのじゃダメですけどね。効かなそうだし」
 「ノ~ブ~オ!!!」
 「きゃ~~~!!!」
 ノブオは廊下へ逃げていく。オレもほんの2、3歩だけ追いかけるふりをした。

 「わはははは……って、痛えんだよ、まだ。笑うと。だからちっとは遠慮してくれな、お前ら」
 「あはは。ごめんごめん」
 「へ~ん。ハヤトさん怒られてやんの~」
 「──お前もだ、ノブオ」
 「ああっ、兄貴!!! ゴメンナサ~イ!!!」
 「まったくもう」
 リュウジが元気になったとたんにノブオがハイになっちゃってる。
 やっぱダメだね。リュウジがいないとさ。

 「ところでリュウジ」
 「ん? どうした? ダイゴ」
 「お主、本当にこれからすぐに暗黒一家に挨拶に行く気では──」
 「ああ、そのことか。そうだよなあ。真っ先に挨拶に行くって言ったからな、俺。とはいえ今の状態で喧嘩なんかしたら、きっと開くな。腹」
 「うえ……オレやだな。ホラー映画みたいの苦手だ。そんなの見らんないよ」
 「オ、オレはハヤトさんと違ってホラー映画は大丈夫っスけど、でも兄貴が痛いのは見てられないっス……」
 「ちきしょう、あくまでオレに喧嘩売ろうってのか、ノブオめ」
 まあね。ホントに喧嘩したらオレ負けるんだろうけどさ。

 「話が逸れたが、それでどうするのだ? 俺は賛成できんのだが」
 「オレもまだ無理は禁物に一票だ。あ、そうか。それだったらもうちょっと入院してたらいいんじゃないの? リュウジ」
 「何っ!!! 冗談じゃねえぞハヤト。俺は一刻も早く腹一杯になりてえんだぜ!!!」
 そうだよな。病院食にうんざりしてたもんな。リュウジ。
 「てゆーかハヤトさんってやっぱり考えること違いますよね~」
 「……そう? 褒めてくれてありがと、ノブオ」
 「いや──そんなつもりでも……」
 リュウジは笑ってた。ちょっと腹が痛そうだ。

 「とにかくまあ、挨拶には行かねえとな。俺は嘘をつくのは好きじゃねえから」
 「そうか。リュウジらしいけどな」
 「押忍。だが──」
 「心配するな、ダイゴ。いざとなったらノブオが俺をかばってくれるから。な?」
 「も、もちろんっス!!! オレに任せてください!!!」
 本当に誇らしそうに、ノブオが応えた。
 「わはは。頼もしいぜ、ノブオ」
 「まあいいか。それならいいか。な、ダイゴ?」
 「──どうだろうな」
 慎重派のダイゴは、まだ浮かない顔をしてた。

 それからオレたちはリュウジの荷物の片づけを手伝って、リュウジと一緒に相部屋の患者さんたちに『お世話になりました』『お騒がせしました』と言って回った。
 骨折で入院中の、長髪の大学生氏はリュウジと気があったみたいで、勉強も喧嘩もがんばれよ、と笑顔で言ってくれてた。リュウジもまたお見舞いに来るって言ってた。
 あとふたりはおじさんだったけど、どっちもリュウジと握手したり、肩を叩いたりして送り出してくれた。
 こんなとこでもリュウジは人気者だったみたいだ。だって、日参するたびにオレたちにもみんな優しくしてくれたから。
  
 オレは知ってるんだけど、実は別れが苦手なんだ。リュウジは。
 だから、一刻も早く退院したいのは本音だけれども、一週間をともに過ごした相部屋さんたちと別れるのが辛いんだと思う。
 部屋を出るとき、何度も何度も「また来るからな」って言ってた。
 きっとそれも嘘じゃないんだろうな。
 また友達増えたな、リュウジ。

 手分けして荷物を持って、オレたちは病室をあとにした。
 リュウジが抱えているのは、鞄に入りきらなかった大きなクマのぬいぐるみ。亜由姉さんと遙先生からのお見舞いの品だ。
 「兄貴、クマさんに名前つけました?」
 「え……ま、まあな」
 一瞬ぎくりとした表情をリュウジは見せた。
 「なんていうんっスか?」
 「いいじゃねえか、何だって」
 「え~、そんなこと言わずにぃ」
 ノブオが食い下がる。見ているダイゴとオレは、目を見合わせてくすくす笑ってる。
 そんなオレたちを一瞬きっとリュウジは睨んだ。
 「あはは、おっかないね、リュウジ」
 でもまあ、照れてるんだろ。かわいいとこあるよな。リュウジ。
 
 そして、観念したようにリュウジはちいさくこう言った。
 「……くーちゃん、だ。クマだからな」
 「あはは、リュウジ、ストレートだね。くーちゃんって……」
 「なんか文句あるか? ハヤト!!!」
 「わ、い、いや、何もないで~す」
 いいよね。4人でこうしていられるのって。
 一週間を経て味わう『日常』がやけに新鮮で楽しい感じ。

 「ではリュウジ。退院祝いに俺たちがもうひとつプレゼントしよう。クマのぬいぐるみを」
 突然ダイゴが言い出した。
 「なんで? ダイゴ」
 「二頭目はまーちゃん、だろう? リュウジ」
 「ってダイゴ……ええと、そうかな。それもいいやな」
 「ダイゴさん、意外な発想ですねえ」
 「そうか? 至って普通だと思ったが」
 あはははは。なんかみんないい感じだ。

 階段を下りてあとは看護師さんたちと先生に挨拶をしたら、やっとリュウジは病院の外へ出られるんだ。
 ようやくリュウジが戻った鬼浜町は、きっと前より楽しいんだろうな。



   * 2 * 


 「そんなわけで、お世話になりました」
 珍しく普通の敬語で言ったリュウジは、控え室にいた若い女性の多い看護師さんたちから口々に祝福をもらっていたようだった。
 「そうかそうか。今日退院だったのね。リュウジくん」
 「リュウジくん、またおいで~。可愛がってあげるから」
 「え……いや、もう俺、入院は結構だな」
 「そんなこと言わないで」
 あはははは、なんて女性たちの高らかな笑い声が廊下で待っているオレたちのところにも聞こえてきていた。

 「あ~、参ったぜ。まったく」
 最後に扉のところでぺこりとお辞儀をしたリュウジは、ようやく看護師さんたちから開放されたようだ。
 「俺、もし傷が開いたら今度は別の病院行くかな。ここの姉ちゃんたち、みんなで俺をおもちゃみたく扱うんだぜ? 敵わねえったら」
 「リュウジ、それってどこでも一緒かもよ? だってリュウジって、なあ?」
 「押忍。可愛がってもらっているだけではないか」
 「ええっ、そんなもんなのか?」
 なんか納得いかなさそうな顔をリュウジはしてた。どういうわけだかそれにノブオが付き合って、これまた渋い表情なんか作っている。
 「とにかく、あとは先生のとこ行って挨拶したら終わりだぜ」
 振り向きざまにリュウジはオレたちにそう言った。うん、うれしそうだな。

 さて、あと一仕事。そんな気楽さにオレたちが満たされていた矢先、急に病院の中の空気が慌ただしい色を帯びたことに気がついた。
 ばたばたと走る医師先生、付き従う看護師さん。
 やがて遠くからサイレンの音が聞こえてきて、どんどん近づいてくるのがわかった。
 「ああ、救急車が来るんだ」
 「そうか。それでみんな慌ててるんだな」
 感慨深そうにリュウジが言った。
 「俺のときもこんなふうだったんだろうな」
 「うん。きっとね」
 オレはそんなふうに返している。あのときは、病院だけじゃなくて学校でも大騒ぎだったんだよな。

 「ああ、先生!!!」
 リュウジが呼び止めたのは、こちらへ向けてどてどて走ってくる、恰幅のいいお医者さんだった。たしかリュウジの執刀医だった先生。
 「おや、リュウジくん。退院おめでとう」
 「ありがとうございます。挨拶行こうと思ってたとこなんすけど……」
 「ああ、そうか。申し訳ないが、いま急患でね。悪いけど今日はここで。また数日したら来なさいな。経過診るから」
 「わかりました!!! んじゃ俺はこれで」
 リュウジが会釈するのに手を挙げて応えた先生は、そのときちょうど到着した救急車のもとへ駆け寄っていったんだ。

 さて、これでリュウジの長かった入院生活も晴れて終了だ。
 ようやく外の空気をリュウジに吸わせてやれるんだな、なんて思いながら視線をやったら──
 「あ、れ?」
 見るとはなしにオレの視界に入ってきたのは、ちょうど到着したところの救急車。リアのハッチが開いて搬送されてきた人が降ろされるところだった。
 「うん? どうした、ハヤト?」
 「ほら、あれ。救急車に乗せられてきたのって──」
 「え? あ……れ? コウヘイじゃねえか?」
 「何?」
 「ええっ、コウヘイですって?」
 オレたちはそのまま立ちつくして、救急車をとりまく慌ただしさをぽかんと口を開けたまんまで眺めていたんだ。

 オレたちの目の前を、ストレッチャーに乗せられたコウヘイが運ばれていく。付き添いは暗黒水産の佐藤先生だった。佐藤先生はオレたちに気付いたようで、『おや?』っていう顔を見せたがそのまますぐに行ってしまった。
 「ああ、ちょっと看護師の姉ちゃん!!」
 通りかかった看護師さんをリュウジが呼び止めた。
 「あら、リュウジくん。退院ですってね」
 「オウ。そうなんだが、今救急車で運ばれてきた奴って病気か? 俺、知ってる奴なんだが」
 「ああ、あの子。リュウジくんが運ばれてきたときと似たような症状みたいよ」
 「え──」
 オレたちはそろって顔を見合わせた。
 「なんだ。タイミングいいじゃん。退院の挨拶、ここでできるな。リュウジ」
 「だからハヤト。そんな問題か……?」
 リュウジに呆れたような顔をされてしまった。そういう問題じゃないのか。
 
 ちょうど一週間前にオレたちが気を揉んでいた手術室の前のベンチ。
 そこに今、あのときと同じような不安さが満ちていた。
 付き添いの佐藤先生を真ん中に、ハンゾウとゴンタとタカシが揃って険しい面持ちで『手術中』のランプを見上げてる。
 退院するための荷物を抱えたままのリュウジ以下オレたち一行は、結局町立病院から一歩も外へ出ないまま、すこし離れたベンチに陣取って手術室の前の様子を窺っていた。

 「そうか──コウヘイも辛い思いするんだな」
 過去一週間に思いを馳せるように、リュウジは神妙な口調で言った。
 「かわいそう? リュウジ」
 「まあな。腹減るだろうからな」
 「あはは。やっぱりそれか。辛いのは。寂しいことじゃなくって?」
 「いや、それは別に。毎日お前ら来てくれたじゃねえか」
 「あはは。それにくーちゃんもいたし、ね?」
 「ああ、こいつか」
 リュウジはお見舞いにもらったクマのぬいぐるみを見て、ちょこっと笑った。
 「コウヘイに貸してあげれば?」
 「え、冗談じゃねえぜ、ハヤト!!! こいつは俺の友達だからな」
 「うはは、兄貴、似合ってますぜ~」
 「そうだろ? ノブオ」
 ……まあいいや。リュウジが気に入ってるならそれで。
 
 「けれど、これは幸いだったのではないか? 約束通り挨拶できても、今度はあちらの都合で決着が先延ばしできるからな」
 「そうだな、ダイゴ。今のうちに鍛え直しておかねえとな!!!」
 リュウジは晴れがましく言ったんだ。
 「あ、兄貴!! 終わったみたいっスよ」
 「そうか、ノブオ」
 
 思わずオレたちは立ち上がった。同時に手術室の扉が開いて──目を閉じたままのコウヘイがストレッチャーに乗せられて出てきた。
 「総帥~~~!!!」
 「モ……ガーーー」
 「君たち、大丈夫だから。麻酔で眠っているだけ。心配いらないのよ」
 「ちゃんと目、覚めますよね?」
 「当たり前じゃないの。ほら、眠らせておいてあげなさい」
 そんなふうな光景を、奴らは作り出していた。
 そしてそのままコウヘイは病室に運ばれていったんだ。
 
 「……なんだ? コウヘイ、全身麻酔かけてもらったのか? ふん。だらしねえぜ。俺なんか腹切られながら、先生としゃべってたぜ。切ったあとのやつ見せてもらったしな」
 「うえ……オレ、無理だな。ソレ」
 なんとなく勝ち誇ったリュウジの顔。あ~あ、強いな。

 さすがに今すぐ挨拶はできないということになって──オレ、名案だと思ったんだけど──、ひとまずオレたちは予定より1時間ほど遅れて、今度こそ病院の外へ出ることにした。
 通りすがりに受付で知り合いなんだと言ったら、難なくコウヘイの入った病室を教えてもらえた。それだけ訊いて、ついにオレたちは正面玄関から出ようとしているところ。
 「──ってことは、俺がさっきまでいたベッドに入ったのか。コウヘイは」
 「そうみたいだね」
 「じゃあちょうどいいな。いろんな約束がいっぺんに果たせるぜ」
 「押忍。同室の皆さんのお見舞いも、コウヘイへ挨拶もな」
 「うはは。なんか一石二鳥っスね~」
 「まったくだぜ」
 約束を守る漢・リュウジはいろんな意味で満足そうに、ようやく晴れて病院を出て鬼浜町の空気を吸ったんだ。
 「うん、やっぱ外はいいな。なんかこう、酸素が濃い気がするぜ」
 大きく呼吸をするリュウジを、みんなで見てた。

 リュウジが帰ってきた鬼浜町は、夕暮れ前の陽射しできらきら輝いていた。
 オレも試しに深呼吸してみたら、なんだか昨日までとは違う空気が胸を満たしたような気がした。
 あはは。気のせいだろうけどね。
 

   * 完 *
 
 

<< 各話御案内/鬼の霍乱 | ホーム | 各話御案内/鬼神生還 >>


コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

 BLOG TOP 


  1. 無料アクセス解析
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。