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自転車狂詩曲 5

 
 いつもだったらリュウジが窓の外でオレを呼ぶ声で目を覚ますんだけど、今日はダイゴに揺すり起こされた。
 ぼんやりと目を覚まして見たのは、見慣れない天井だった。
 ああそうか、とオレはダイゴの家に泊めてもらってたのを思い出して、ダイゴにおはようと答えた。
 いつのも時間になると、ご丁寧にリュウジがここまで迎えに来た。
 呼ばれてオレたちが外へ出たら、リュウジはここらに住み着いてる猫たちに囲まれてうれしそうな顔してた。

 そして放課後は、また鬼浜寺まで戻ってきての自転車特訓だ。昨日と同じくライダースーツに着替えて、オレは教官3人の待つ駐車場へと向かった。
 「ハヤトさん、筋肉痛とか大丈夫っスか?」
 「うん。それなりにきてるな」
 「力入れすぎてんだよ、ハヤトは」
 「押忍。逆に力を抜いた方が真っ直ぐに走れると思う。周囲にも目がいくだろうし」
 「そ──か。でもさ、緊張しちゃうからどうしてもね」
 「わからなくもねえけどな。そのうち慣れるだろ。そうじゃないと困るよな、ダイゴ?」
 「いや、俺は別に」
 「ああ、そうか。いつまでもお邪魔してられないか。悪いね、ダイゴ。きっと今日も帰れない」
 「そしたら、明日は帰れるようにがんばりましょうぜ、ハヤトさん」
 「了解!!」
 
 そして今日もオレは、自転車道を究めようと気合いを入れる。
 最初はダイゴに後ろを支えてもらいながら走り出して、任意のところで手を離してもらう。
 そしたらいくらかは自走できて、でもダイゴがいないことに気付くとそこで安定感を欠いて、足をつくタイミングが合わないと転ぶ。それを繰り返し繰り返し。

 カーブがうまくいかなくて何度目かに転んだとき、リュウジが大きくこう言った。
 「あ~、惜しい。ハヤト、いまけっこう長いこと走れてたのに。ダイゴが手ぇ離してたのわかってただろ?」
 「うん。なんとなくね。でもまだ直進が関の山だよ」
 「そうっスね~。やっぱりカーブが苦手っぽいっスね」
 「押忍。俺がついていてやっている時もそうだが、ハヤトはカーブで体を倒しすぎているのではないか?」
 「あ、それオレも見てて思いましたよ、ハヤトさん」
 「え? そう? 自覚ないけど」
 「ああ。そうか。ハヤトはアレだ。チビの頃から単車乗りだからな。単車のときの感覚が染みついてるんだろ、体に」
 納得、ってな表情でリュウジが言った。
 「うん。言われてみればそうかもしれない。そうか、体は起こしたままでいいのか」
 「そうだ。それさえ体に覚えさせてやれたら、晴れて路上教習だぜ!!」
 「了解!! そしたらもうひと頑張りしないとね」

 きっかけはケイタに教えを請われたこと。そこから始まったオレの自転車特訓は、どうにかちょっとは進歩してきてるっぽい。
 なんか、自分で走れるようになるかもしれないって考えたら、けっこうわくわくしてきてた。
 どこかしら懐かしい気分だ。多分、ずっと昔に親父に初めてポケバイを教えてもらったときのことを心のどこかが覚えてるんだろうな。

 その日の練習も夕方遅くまで続いた。
 教官たちに指摘されたことを意識し始めたら、転ぶ回数が格段に減った。
 「よっしゃ。これなら明日は路上へ出てもいいだろ」
 一番星の見えるころ。すり寄ってきた猫を抱いたリュウジがそう言ってくれたのが、やけにうれしかった。
 
 翌日。オレの自転車修行は3日目を迎えていた。
 今日はリュウジもノブオも、家から自転車に乗ってここまで来てる。路上教習に伴走してくれるつもりなんだそうだ。
 「そしたらまず、ダイゴの支えなしで走ってみろ、ハヤト。駐車場を転ばねえで3周できたら外へ出てみようぜ」
 「3周か。あんまり自信ないなあ」
 「ダメっスよ!!! そんな顔するもんじゃありませんぜ、ハヤトさん。せっかく走れるようになってきたのに、ネガティブなのはよくないと思うっス」
 「いいこと言うぜ、ノブオ!!!」
 「えへ。兄貴、アザ~っス!!」
 うれしそうだな、ノブオ……。
 「けれども昨日の感覚を体が覚えていれば、さして苦になることはないと思うぞ。少なくとも二輪車の筋はいいはずなのだし」
 「ダイゴの言うとおりだぜ!! お前ならできる、ハヤト」
 「そうだね。うん。よし、やってみる」
 仲間たちの声援を受けて、オレは闘いのスタートラインに立った──あ、闘いってのは自分自身との闘いのことだけど。

 はじめはおそるおそる漕ぎ出したオレ。
 けど、昨日と一昨日の練習で、ある程度スピードに乗らないと倒れやすいってことは了解してた。
 体の力は極力抜いて。それからまっすぐ前だけ見てたら、外へ出たとき危ないんだよな。
 それから気をつけるべきはカーブ。単車のときみたく体を倒しすぎないように心がける。
 胸に刻んだ数々の教訓を思い出しながら、とにかくオレは自転車を走らせている。
 まだ肩に力が入っているのは自分でもわかってるけど、それでも最初の一周、次の一周と靴底を地面に擦ることもなく積み重ねていくことができた。
 うん。なんか今日は行けそうな気がする。
 半周向こうでリュウジたちが並んでオレを見てる。
 オレが出るいつもの勝負のときにも目にする光景だけど、単車に乗ってるときなんかより格段に緊張するんだよな、オレ。
 そんな風に思いながらのラストの半周を、危なっかしいながらも何とかこなして。

 「は~。肩こるね」
 ブレーキを掛けたあと、冗談めかして言ってみた。
 「おっしゃ!!! やればできるじゃねえか、ハヤト」
 「あはは。なんとかね。転ぶと痛いから」
 リュウジが手放しに褒めてくれるのって、なんかくすぐったい。そんなの慣れてないから。
 「うわ~、ハヤトさん、成長しましたね。オレ、感無量っスよ……」
 「おい……泣くなよ、ノブオ。オレが恥ずかしいじゃん」
 「まあ、そう言うな、ハヤト。ノブオも心から応援していたのだし」
 「うん。ありがとな、ダイゴのお陰だ。もちろんノブオも」
 「うわ~~~ん、ハヤトさん……」
 「わはははは、ハヤトがノブオ泣かしてるぜ!!」
 そしてオレはノブオが泣きやむまで、背中をさすってやっていた。やれやれ。なんだかな。


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