目次

過去の記事をまとめて表示できるようにしてみました。 【 】がついている項目をクリックすると、それぞれのタイトルの記事を一括でお読みいただけます。 【 】内の数字が若い順に古い記事となっております。 【 】内の冒頭数字が同じものはそれぞれ対になるおはなしです。

これまでのおはなし

全タイトルを表示

御来訪感謝

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

自転車狂詩曲 9


 ゆるやかに──ゆるやかに、ふたつの体が河川敷の砂利へと倒れ伏すのを見ていた。
 コウヘイの拳はリュウジの脇腹を確実に、迷うことなく捉えた。
 そして、リュウジも覚悟の一撃を、この闘いで初めてコウヘイの腹の左側へとめり込ませていた。
 どちらも変わらぬ威力の応酬が、両者の背中を地へと導いた。
 
 小さく呻いたのは誰だろう。
 大きく嘆息したのは誰だろう。
 リュウジかもしれないし、コウヘイかもしれないし。もしかしたらオレ自身だったのかもしれない。
 何もかも判然としないけれど、それでも時間はたゆまずに流れているらしい。これもまたゆるやかに。

 時がのろのろと過ぎる気がするのは、リュウジもコウヘイも倒れたまま動かないからだ。
 いつもは優勢・劣勢が明らかに生じるので、こういう展開は珍しい。
 どちらも体を起こそうともがき、そうしながらも無意識に打たれた部分を手で押さえている。

 「引き分け──か? ダイゴ」
 オレはやはり黙って見守る仲間の耳許にこう囁いた。
 振り向いたダイゴは、重々しく首を縦に振る。
 「押忍、ハヤト。もうこれ以上の闘いは無意味だろう」
 そうオレに答えて、ついでに逆側にいた心配顔のノブオの肩にぽんと触れてからダイゴはリュウジとコウヘイの前へと出ていったんだ。

 「もう──よかろうな?」
 重々しくダイゴが口を開いた。
 その声にはじかれたように、辛そうにしながらもリュウジとコウヘイは同時に上半身を起こした。
 「両者とも。今日のところは引き分けでよろしいな?」

 ダイゴの言葉の意味を解したリュウジは、掠れた声で応えた。
 「ダイゴ……俺はまだやれるぜ」
 「いや、リュウジ。続きはまたにすべきだ。そもそも俺たちはそうした理由でここへ来たわけではなかろう?」
 「ああ──」
 ダイゴの言にはかなり説得力があった。

 時を同じくしてそれを聞いたコウヘイは、よろめきながら立ち上がって表情を歪めている。無意識のように手を添えているのは右の脇腹だった。リュウジは一度も直接そこを狙わなかったけれども、やはり痛むのかもしれない。
 「幾つになっても水を差すのはお手のものとでも言うのか? 鬼浜寺の」
 「押忍。どう言われても結構」
 「貴様は変わらんな。リュウジ劣勢と見るや──いや、もう語るまい」
 言い募る声は、リュウジのそれよりもひどく掠れていた。

 「さあ、リュウジ。もう行こう」
 「──ダイゴ」
 リュウジの目を見てダイゴは決然と言った。審判の下した判断は覆らないといったところか。
 「ハヤト、休めなかったが大丈夫か?」
 「あ、うん。オレは──平気だ」
 「押忍。それならよいな」
 ダイゴは頷いて、ノブオの手助けでリュウジが立ち上がるのを待っていた。
 立ち上がりつつリュウジは、コウヘイを見遣る。
 ふたりの視線の間には、いまだ燃え残った炎がくすぶっているようだった。
 オレは最後にコウヘイに向かって弁明を試みる。
 「コウヘイ、さっきは悪かった。オレ、本当に自転車はやっと仮免の段階なんだ。信じてくれなくてもいいけど」
 
 波乱含みだったオレの自転車教習の路上実習は、そのあと無事に鬼浜寺まで戻って終了したんだ。
 明日もまた続きをやるってリュウジは言ってたけど、今日は晴れて家に帰れる予感だ。
 鬼浜寺でようやく一休み。オレは張ってる筋肉を揉んだりしてる。
 でもって、思わぬ激闘を経てきたリュウジは、縁側に陣取って幾つもの擦り傷をノブオに手当されていた。
 「うわ……っっっ!!! 痛えぞ、ノブオ!!!」
 「ああっ、スミマセン!!! でも兄貴、消毒はちゃんとしとかないと……」
 「オウ、わかってる。けどよ、沁みるんだぜ、それ」
 「もう。じっとしててくださいっス~」
 はじめこそ決着がつかなかったことに不服そうだったリュウジだけど、ここまで戻ってくる間に黙っていろいろ考えたんだろう。今はいつも通りのふっきれた、さっぱりした表情をしていた。
 
 「まあ、こんなこともあるよね」
 リュウジとノブオの別の意味での攻防戦を見ながら、オレはダイゴと話している。
 「うん? 引き分けのことか」
 「そう。リュウジ、納得してなかったけどさ」
 「押忍。コウヘイに遠慮しすぎていたな。リュウジはまだやれなくもなかっただろうが、一撃で倒すを得ないとなれば勝負は長引く。そうしたら逆に、コウヘイをもっと痛ませる。そのようなジレンマが見えたのだ、俺には。だから割って入った」
 「ふうん……。やっぱり喧嘩勝負はオレにはムリだな。そんな駆け引きできないよ」
 まあまあ、というように、ダイゴはオレにいつもよりも目を細くして微笑んだ。

 「ところでダイゴ。気付いた?」
 「何をだ?」
 「リュウジの作文。あのとき会った『生意気なやつ』はやっぱりコウヘイだったんじゃないの?」
 ダイゴがふたりの喧嘩を止めたときのコウヘイの言葉。こないだ読ませてもらったリュウジの小学生時代の作文を思い返すとしっくりとはまるんだ。
 「ああ──あの口調からするとおそらくは。リュウジは気付いていないようだが、そうなのだろうな」
 「何年も前のことなのに、コウヘイってやっぱり執念深いかも……」
 
 なんだかんだ言って、因縁のふたりなんだなあと思う。
 現在のリュウジが総隊長たる漢となるきっかけは、おそらくコウヘイとの出会いから続く一本道。
 不思議な感じだなあ。

 「さ、終わりましたよ、兄貴」
 「オウ、ノブオご苦労。今度はもうちょっと優しくな」
 縁側からリュウジのいつもと変わらない声が聞こえてきた。
 「よし、そんじゃ明日の路上に備えてもうちょっと練習しとこうぜ、ハヤト!!! 駐車場、空いてるか? ダイゴ」
 「押忍。もうじき日暮れだからな」
 「ええっ、まだやるのか?」
 「何だよ、文句あるのか? 練習ってのはな、やってやりすぎることなんてねえんだぜ!!!」
 「はい、その通りです……」
 オレはふくらはぎを拳固で叩きながら立ち上がった。
 そう。リュウジのこんな熱心なところも、きっと幼い頃のコウヘイに会ったのがきっかけに違いないんだ。
 コウヘイに秘かに感謝してみる。おかげでオレはいい自転車乗りになれそうだ。


   * 自転車狂詩曲 完 *





テーマ : パチスロ - ジャンル : ギャンブル

<< 新米教官の自尊心 1 | ホーム | 自転車狂詩曲 8 >>


コメント

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

少し休憩しませんか。

自転車乗るための特訓がやっぱり・・・
コウヘイにぶつかるなんてそうとう運がわるいよw
ハヤトwww
まっすぐのれるようになったら一緒にチャリでデートしようねwww

>>Tohkoさま

ハヤトは……けっこうヒキ弱いよ。たぶん。
だって華丸がアレだから。
受け継いでいる予感。だはは。
でもさ。実機でも滅多に格下相手なバトルにならないし……。
カワイソwww

>まっすぐのれるようになったら一緒にチャリでデートしようねwww
お~!!! ハヤトがTohkoさんにもてている!!!
え~と、むしろリアにのっけてやってください。
あ、やっぱダメだ。甘やかしちゃいかんね。

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

 BLOG TOP 


  1. 無料アクセス解析
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。