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烈風、南へ


   * 1 *
 
 
 「オウ!!! こっちだぜ。タケル、テツ」
 「あ、リュウジだー。タケル、こっちこっち」
 「ああ。今日はお招きいただいてどうも」
 リュウジの手招きでオレたちの前に現れたのは長髪の、揃いの革ジャンを着たふたり──美山瀬烈風隊の隊長・タケルと特攻隊長・テツだ。
 
 「よく来たね。おつかれさま」
 地元から40kmの距離を走って、今日は彼らふたりで鬼浜町へ来ていた。
 ここは鬼浜町立病院の待合室。
 「ハヤト~!! こないだはありがとなー。おれ、ほんとに感謝してるんだ」
 人なつこい表情で、金髪を揺らすテツがオレに笑む。
 「いえいえ。どういたしまして。その後単車は? ちゃんとタイヤ替えた?」
 「もちろん。あの翌日には替えたよ」
 「ならよかった」
 
 「まあ、話は後にしとこうぜ。とにかく健兄待ってるからよ」
 そうリュウジに促されて、オレたちは4人して健兄さんの病室──一週間前までリュウジが盲腸で入院していた部屋へ向かうことにしたんだ。
 足の骨を折って入院中の健兄さんのお使いで、リュウジとオレとで健兄さんの地元へ行って。そのとき知り合ったタケルとテツが偶然にも健兄さんの後輩で。
 そんなこんなで、彼らを誘って一緒に健兄さんのお見舞いをすることになったってわけ。

 4人で病室の前まで来た。慣れた手つきでリュウジが扉に手をかける。すると──
 「悪い、ちょっと待ってくれ、リュウジ」
 「ん? どうかしたか? タケル」
 「テツ、俺どこか変なところはないか? 服とか髪型とか」
 「いやー、べつにどこも」
 答えながら、テツはちょこっと笑っていた。
 「相変わらずだなー、タケル」
 「当たり前だろう。だって健さんの前におかしな恰好で出られるわけがない」
 「ふうん。尊敬してるんだ、タケルは健兄さんを」
 オレが訊いたらタケルはもっともらしく頷いた。ついでにテツの襟元が歪んでるのに気がついたらしく、手を出して直してやっている。
 「で、そろそろいいか?」
 「ああ。待たせてすまない」
 答えたタケルは、目を閉じて深呼吸してた。

 「健兄、元気か?」
 「ああ、リュウジか。よく来た」
 「オウ!!! 今日はハヤトも一緒だぜ」
 「こんにちわ~」
 「よう。特攻隊長」
 健兄さんは、オレにも気安く手を振ってくれる。細面で整った顔立ちの健兄さん。軽く脱色した長い髪が頬にかかっている。

 「どうした? 早く入って来いよ」
 「あのな、健兄。今日はお客さん連れてきたんだぜ」
 リュウジは誇らしそうにそう言った。
 「お客──誰だ?」
 そして健兄さんは、扉の前にいたオレの後ろから顔を出したふたりを認めて、うれしそうに頬をほころばせたんだ。

 「お加減いかがでありますか? 健さん」
 「ご無沙汰してまーす」
 「タケルじゃないか。それにテツも。どうしたんだ? え?」
 タケルとテツがお見舞いにと持ってきた花束をオレは花瓶に移し替えながら、その様子を窺っていた。となりではリュウジが、やはりお見舞いの品のパウンドケーキを切り分けているところ。ケーキは手作りのようだ。もしかして健兄さんのお母さんの作かもしれないな。

 「先日、美山瀬でリュウジとハヤトに世話になったんです」
 「それはリュウジに聞いた」
 「おれたち、健さんが怪我してるなんてちっとも知らなくて。ほんっとにお見舞い遅れてすみませんでした」
 「いや──それは、まあな。あまり褒められたものでもないから。恰好悪いだろう?」
 健兄さんは苦笑した。
 「そんな──そんなことありません、健さん。健さんは誰よりも素晴らしい、俺たちの偉大な先輩ですから」
 いつもは淡々とした口調のタケルが熱く語ってた。
 よっぽど心酔しているんだな、ってのがよくわかる。
 
 「ハヤト」
 ちいさくリュウジがオレに耳打ちした。
 「今日な、タケルたち誘ってよかったな」
 オレは気をつけて花瓶を運びながら、リュウジに笑って頷いた。

 美山瀬の先輩・後輩の3人にケーキとお茶を出してあげてから、リュウジとオレは一旦病室を出た。3人でつもる話もあるんじゃないかな、って思ったから。

 美山瀬のふたりを連れて、ダイゴとノブオとは夕方に落ち合うことにしていた。
 一緒にお見舞いに来てもよかったんだけど、あんまり大勢で病室を騒がせてもいけないということで。
 ひとまずすることもないし、リュウジとオレは屋上へ続く階段を上がっていた。
 屋上へ出てみると、秋の空が広がっているのが心地いい。
 「ん~、今日もいい天気だ」
 「そうだな、ハヤト。気分いいよな!!!」
 言いながら、リュウジはやんちゃ坊主みたいにフェンスによじ登った。
 「あはは、危ないよリュウジ」
 なんて答えながら、途中で買ってきた紙パックのジュースをリュウジに渡してやる。

 「おっ!! ハヤト、ちょっと見てみ? ほら、あそこ」
 「なに?」
 振り返ったリュウジに促されて、フェンス際に立ってみる。リュウジが示しているのは病院の玄関付近。
 「あ、暗黒一家だ」
 「見舞いかな? コウヘイの」
 「そうだろうね」
 奇しくもリュウジの退院の日に、コウヘイは入れ違いでここに入院したんだ。
 「でも、あいつらも大変だろうな」
 「あいつらって、ハンゾウたちか?」
 「そう。リーダー不在って、精神的にけっこうこたえるから。オレにはわかるな」
 「そんなもんか?」
 リュウジは不思議そうな顔をしてた。
 
 「そういや俺、結局コウヘイにまだ挨拶してねえんだよな。ここはひとつ顔見にいってやるか」
 「えっ、本気で? いや、それはどうかな……」
 「なんだよハヤト。俺、別に喧嘩売ったりする気はねえけど?」
 「う~ん。でもさ。実際顔見たらどうだかね」
 「信用ねえな。でもまあ、こんなとこで仮に騒ぎになってもあれだもんな。遠慮するか」
 案外聞き分けいいリュウジが珍しくもある。けど、リュウジもこないだまで入院してたんだもんな。きっと病院で過ごす日々って、いつもと全然違うってことだろう。

 「けど、そろそろコウヘイも退院してもいい頃だろうからな」
 そう言いながら、リュウジは目を空へやった。
 もしかしたら何日か後の激闘みたいのを想像しているのかもしれない。



   * 2 *
 
 
 しばらく屋上で時間をつぶしていたリュウジとオレ。
 そろそろいい時間だし──ということになって、いったん健兄さんの病室に顔を出しててみることにした。
 病室には、豊かであったかい時間が流れていたことが察せられた。
 風貌はいかつい3人だけど、みんなおだやかな顔で静かに話していたから。

 「それでは健さん。近いうちにまた、必ず」
 「ああ。だが無理はするな。短い距離ではないだろう?」
 「そんなことないですよー、健さん。だってタケルは健さんのためならどんなに遠くっても平気みたいだし、なー?」
 「……テツ。余計なこと言わなくていい」
 くすり、と健兄さんは笑っていた。
 自分が後を託した後輩たちを、かわいくてたまらないといった目で見てたのが印象的だった。
 なんか、うらやましいな。オレたちはリュウジが初代だから、どっちかって言ったら後に託してゆくほうだから。

 そしてオレたちは4人して健さんにかしこまったお辞儀をして──タケルたちにつられたな──、それから退室した。
 病室を出ると、タケルが深い吐息をついてた。よっぽど緊張してたのかもね。

 「元気だったろ? 健兄は」
 「ああ。今日は本当にありがとう、リュウジ」
 いまだ深い目の色を湛えたまま、タケルはリュウジにそう言った。
 「わはは、そんな俺にまでかしこまって言うことねえぜ、タケル」
 「でもさー、リュウジ。タケルはほんっとに健さんに憧れてるからさ。しょーがねえの。だから感謝されといてよ」
 「……そうか?」
 「うん。そういうことにしとこう、リュウジ」
 なんとなくオレにはわかるような気がしたから、オレもリュウジにそう言っといた。
 置き換えてみたら、きっとノブオがリュウジに対してそう思ってるようなもんなんだろう──って考えたら釈然とするもんな。

 「そしたらそろそろ行くか!!! 今日は俺たちの仲間を紹介するって約束だしな」
 「ああ。是非挨拶しないといけないから」
 3階の病室から階段を1階分降りたところで、そんなふうに隊長ふたりが目配せしあうのを見てた。
 一歩下がってついて歩いてるオレとテツも、互いに頷きあったんだ。
 
 と──そのときだった。すぐ下の踊り場のところに奴らの姿を見つけたのは。
 「お、コウヘイじゃねえか?」
 リュウジが思わず口に出した名前。呼ばれた本人は当たり前だが振り向いてオレたちを視界に入れる。
 入院患者のコウヘイは寝間着ではなく服を着ている。同じように振り向いた、付き従うハンゾウらはそれぞれ大きな荷物を持っていて。
 
 「退院か?」
 リュウジが訊いた。ただでさえ響く声が、狭い階段にこだましている。
 「──まあな」
 どことなくきまり悪そうにコウヘイが答えた。
 「そうか!!! そりゃよかったな。俺、結局見舞いもしねえでよ。悪かったぜ」
 「何──?」
 コウヘイはリュウジの言葉に、意外そうに顔をしかめていた。
 「オウ。だってよ、俺、約束したじゃねえか。俺が退院したら速攻で挨拶行くって。守れなかった非礼を詫びたいと思ってたんだぜ」
 「……そんなの忘れたな」
 リュウジが言ってるのは、皮肉なんかじゃないのはオレにはわかる。ただ約束は守る漢だから、ごく自然に口をついて出たんだろう。
 けど、コウヘイたちにそれが伝わったかどうか。

 「とにかくこないだの決着はつけねえとな!!!」
 「──ちっ、そんなことまで覚えてやがる」
 「当たり前だろうが!!!」
 リュウジの言葉に、コウヘイらは揃って面白くない顔をした。そりゃそうだな。今だったら奴らには分が悪すぎる。
 けど、リュウジはこう続けた。ごく自然に、裏の思惑なんかまったくない口調で。
 「俺、待っててやるから退院してもちゃんと養生しとけな。早く治らねえといつまで経っても勝負棚上げってのも気分悪いだろ?」
 「ふん。リュウジ、貴様は甘いなあ」
 それだけ言って、コウヘイは仲間を促して階段を降りていった。オレの立ち位置からではコウヘイがどんな顔をしてるかわからなかった。

 「ねーハヤト。あれ誰?」
 コウヘイらが去ってゆくと、そう訊いてきたのはテツだった。
 「ああ、あれね。オレたちの宿敵一味ってとこだね」
 「へー。宿敵か。やっぱいるんだ。ハヤトたちんとこにも」
 「そりゃいるさ、テツ!!!」
 答えたのはリュウジだった。
 「敵、味方は隊を組む上では避けては通れないな」
 なんてタケルが言う。
 「そうかー。じゃあもし今度リュウジんとこが困ってたら、おれらが助けにこなくちゃな、タケル?」
 「ああ。そうだな。恩のある大事な仲間だから」
 「タケル、テツ──お前らいいこと言うぜ」
 「うん。そう考えるだけで心強いね、リュウジ」
 
 「しかしリュウジは本当の漢だな」
 続くタケルの言葉は、感心そのものを現していた。
 「敵の弱みに乗じない勝負をするのが本当の漢だと思うから」
 「そうそう。それが健さんの教えだからねー」
 テツが笑って賛同した。
 「俺たちはリュウジと知り合えてよかった。な、テツ?」
 「ほんとだねー。リュウジが健さんと仲良くなれたのがよくわかる」
 
 相次いでそんなふうに言われたリュウジは、すこし面はゆそうに話す。
 「俺思うんだけどよ、敵がいるから仲間の絆が強くなるんじゃねえかな、って。あいつら自体には腹立つことばっかりだけど、でもいないと困るんだぜ、案外。だってハヤトはたまには勝負に出してやらねえと、一生とぼけた男のままだしよ」
 「え──って、オレ? そんな風に思ってたのか、リュウジ……」
 「当たり前!!! 全世界がそう思ってるに決まってるじゃねえか。なあ?」
 それはおそらくリュウジの照れ隠し。
 そんなこと、引き合いに出されたオレだけじゃなくてタケルにもテツにもわかってたようだ。
 
 「お、こんなことしてる場合じゃねえな!!! きっとあいつら待ってるぜ。そろそろ行こう」
 つとめて大きな声を張ったように思えるリュウジに促されて、オレたちは病院の外へ向かったんだ。
 「俺らの仲間はな、ひとりはダイゴっつって、寺の息子だ。逞しくてよ、いつも落ち着いてて俺らを支えてくれるんだ。でもって、1年のノブオってのがまた、負けん気が強いのが俺の自慢でよ」
 歩きながら、リュウジはタケルとテツに仲間のことを語ってる。
 そんなときのリュウジっていい顔してるな。
 ──もしもオレのことだったらどんな風に紹介してくれるんだろう。ちょっと不安だな。



   * 完 *



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