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贈り物を心より 8


 「本当は俺が取りにいくのが筋なんだけどよ。亜由姉、出掛けるって言うからな」
 今日はくるみちゃんが入院する日だ。
 リュウジは、完成したという絵をまだ亜由姉さんのところに預けたままにしているんだそうで、取りに行くと電話をしたら鬼浜駅まで持ってきてくれることになったらしい。
 リュウジに付き合うように言われて、オレは一緒に駅まで来ていた。
 受け取ったらリュウジの家でダイゴとノブオと合流して、昼頃になったら4人でくるみちゃんの激励に向かう段取り。
 駅前の空気は完全にクリスマス。心なしか着飾った女の子が多いような気がする。あとカップルも。オレはどうして今日もリュウジと一緒にいるんだろ。色気ないよな……。

 「なんかよう。最後まで世話になりっぱなしだぜ」
 「あはは。いいじゃん。亜由姉さんってあれでけっこう世話好きだしね。リュウジのことも気に入ってるんだよ。実際」
 「……そんなもんか? 俺、気に入られてるのか? 亜由姉んとこ行ったときって、俺いつもパシリだぜ? チャーハン作れとか、肩もんでくれとか。それでもって何かっていうとひっぱたくし」
 「あはははは。愛情表現だよ、それは。前に言ってたもん、亜由姉さん」
 「何をだ?」
 「リュウジみたいな弟がいたらおもしろそう、って」
 「ええっ!!! ──ああ、でもああいう姉貴だったらいても悪くねえかなって俺もちょっと思うな」
 同世代の女子にはめっぽう弱いリュウジだけど、歳の離れた女性には可愛がられるタイプみたいだって、オレは前から思ってた。
 しかも今は、ちいさな女の子の友達のためにがんばってるんだしね。

 駅前の喧噪やら、近くのお店から流れてくる季節ものの曲なんかを切れ切れに聞きながら、オレはリュウジとなんとなく話しながら亜由姉さんを待っている。
 そうしているうちに、構内のスピーカーから流れてくるアナウンスが耳に入った。
 『……お急ぎのお客様には大変ご迷惑お掛け致します。ただ今信号機の故障箇所が見つかりまして、電車の運行を見合わせております……』

 「今の聞こえた? リュウジ」
 「ああ。電車停まったんだな。やっぱり悪いことしたぜ、亜由姉に」
 「うん。ついてないね。大きな遅れにならないといいけど」
 「そうだな。しばらく様子見るか」
 リュウジは心配そうな顔で改札口に目を遣った。
 駅員さんに食ってかかっているスーツ姿の男性がいるけど、こういうのってどうにもならないからな。
 とにかく『待ち』を余儀なくされたオレたちは、ちらりと大時計を見た。
 「時間はまだ余裕あるよね。ちょっとぐらいならダイゴたちも待っててくれるだろうし」
 「オウ。でもよ、俺って誰かを待たすのって嫌な性分なんだよな。待つのは案外平気だけど」
 「……いつも待たせて悪いね」
 「わはははは!!! そうだよな。俺って毎朝ハヤトに待たされてるもんな。おかげで慣れたのかもしれねえぜ」
 「ええと……来年になったら気をつけるよ」
 「あてにならねえこと言うなや。俺はとっくに諦めてるぜ」
 
 さて。じっとしているとさすがに寒いわけで。
 「なんかあったかいもんでも飲むか?」
 「そうだね」
 ということになって、リュウジとオレは線路際の路地へ入った。人通りは少ないものの駐輪スペースを兼ねているから歩きやすいとは到底言えない、細い路地。
 少し行ったところにある自販機が通常よりも10円安いのを知っているので、このへんで飲み物を買うときにはいつもそこを狙っている。
 自販機から出てきた缶コーヒーで手をあたためながら、ふたたび駅前へ戻ろうとするオレたちは、路地の出口をふさぐふたつの人影に先を阻まれることとなった──。

 「──おい。ちょっとそこ通してくれや」
 どこかで見覚えのあるふたつの背中へと、リュウジは声をかけた。
 くるりと体の向きを変える奴ら──まったくこれは、どういう偶然なのか。
 振り向きざまにオレたちを認めたときのコウヘイの顔は、言うなればぎくりとした表情だったように思えた。
 あれ? なんか珍しい反応じゃないか? なんてオレはぼんやり思った。
 「貴様等。ここで何をしているのだ?」
 「別に何だってコウヘイにゃ関係ねえだろ? ただそこを通りたいだけだ」
 「……ふん。通りたいならさっさと通りやがれ」
 これだけ言うとコウヘイは、ハンゾウにも顎で示してからおとなしく道をオレたちに譲ったんだ。
 正直言って珍しいことだと思った。いつもだったらこんなくだらないことでも、少なくとも言葉の応酬程度の一波乱があるから。

 リュウジも妙だと思ったらしい。オレにそんな視線を寄越したから。
 けれども今日はこれから約束もあるし、要らぬ諍いを起こしている場合じゃないわけで。
 だからオレたちは何も言わずにコウヘイとハンゾウのよけてくれた道を通って、さっきまでいた改札の前あたりに戻ってきた。
 「……よかったな、リュウジ」
 「うん? 何がだ?」
 「いや、コウヘイと妙なことにならなくて」
 「ああ、まあな。奴らもたまには平和な気分になることもあるんだろうよ」
 「そうかな? けどさ、それにしたらあいつら、まだこっち睨んでるように思えるけど」
 そうなんだ。コウヘイとハンゾウは、さっきと同じ位置に陣取ったまま動かずにいて、オレたちの様子を明らかに窺っているような気配。
 「気のせいだろ? まさか、俺らを見張ってるほど暇じゃねえだろうし」
 言って、リュウジはミルクティーを満足そうに飲み干した。

 「どうだ? 飲み終わったか? ハヤト」
 「ああ、うん。もう終わる」
 「そしたら缶捨ててくるわ、俺」
 手を出すリュウジに空いた缶を渡したオレは、一瞬ののちに後悔することになる。
 ──オレが捨てに行くべきだった!!
 リュウジはまっすぐな漢だ。だから空き缶を放置することなんて許さない。その上、できるだけ買った自販機の横の空き缶入れに捨てるっていうのを善しとするわけで……。
 当たり前のことだけど、またも路地の入り口で、今度は正面からコウヘイに通してくれと問答を始めたようだ。慌ててオレもそっちへ走る。

 「貴様。あそこで何をしているのだ?」
 「だから別にコウヘイには関係ねえって言ってるだろ? なんで答える必要があるんだ」
 「必要とか不要とかではない。ただ目障りだと言っている」
 少々きまり悪そうな物言いをコウヘイは返してきた。横ではハンゾウが黙ったまま腕組みをしている。
 「目障りって何だよ? しょうがねえだろ、俺らにだって用事があるんだ」
 「……貴様等の用事が何だか知ったことではないが、さっさとここから消えてもらうしかねえようだな」
 「何を言ってるんだ──?」
 「勝負だ、ゴラァァァ!!!」
 オレたちには意味不明だが、とにかくコウヘイはリュウジに闘いを挑む台詞を口にした。
 それを聞いて、途端にリュウジの顔色が変わった──これはまずいな。
 「ちきしょう、何だかわかんねえけど無性に腹が立つぜ!!! コウヘイ、どうして俺がお前に指図されて用事そっちのけで消える義理があるってんだ? 勝負でもなんでも受けてやる。あんまり時間ねえから手短に行くぜ」
 「え、ちょっと、リュウジ──!!!」
 こうなったらオレではリュウジを止められないし、向かいのハンゾウもそんなつもりはないようで。

 ちょっとした電車の遅れがまさかこんな展開になるなんてオレは思いもしなかった。
 線路際の路地の空気は、一瞬にして緊張感を増していた。



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