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贈り物を心より 9


 線路際の、駐輪スペースを兼ねた人通りの少ない狭い路地。
 ここで遭ったが何とやら──リュウジとコウヘイは勝負だと息巻いている。

 亜由姉さんと待ち合わせをしているリュウジ。電車が遅れていて、亜由姉さんを待っている間にたまたま出会ったコウヘイに、ここから消えろと意味もわからないまま言われ、問答の成れの果てがこれだ。
 そう。これはいつものこと。とは言え、リュウジはそんな場合じゃないだろ?
 
 「そんなに知りたいなら言うがな、俺は人を待ってるだけだぜ。それに文句つけるのを許すつもりはねえからな!!!」
 リュウジが言うのに、コウヘイは答えなかった。かわりにハンゾウに問う。
 「ハンゾウ。今は何時だ?」
 「11時23分」
 「ちっ……そろそろか」
 忌々しい、といった目でコウヘイはリュウジを睨め付ける。
 「一気にケリをつけねえと拙い──リュウジ、覚悟しろやゴラァァァ!!」
 「望むとこだぜ──こっちも電車が着くまでの猶予しかねえからな」
 
 視線を絡ませながら間合いをはかるふたりの姿。
 両者ともに時間を気にしながらの対戦は、いつもとは違う緊張が見て取れる。
 「いくぜ、コウヘイ!!!」
 リュウジは振りかぶって拳をコウヘイの頬へ繰り出す。
 それを受けてコウヘイは、よろけて背後の自転車に覆い被さる格好となって数台の自転車を将棋倒しにした。
 がしゃん、がしゃん──と金属のたてる大きな音が路地に響く。
 
 「ひとつひとつ癪に障る奴だなあ、リュウジよ?」
 体勢を立て直して、コウヘイが吐き捨てる。
 「お互い様ってもんじゃねえか!!!」
 「ふん。それならば感激至極だ」
 言うが早いかコウヘイは、リュウジに向かって殺到した。
 まずおのれの肩をリュウジの胸にぶつけるように向かっていき、次いで拳で顎を狙う。
 喰らったリュウジは一瞬、アスファルトに膝をついた。
 が、ここはリュウジも堪えどころと弁えて、即座に立ち上がる。
 
 「よし。これで仕舞いだ」
 「それはこっちの台詞だぜ!!!」
 咆吼とともに交錯するふたりの力の限り──真っ向からの同時の攻撃に、互角の力同士は相手を倒すを得る。
 リュウジの拳はコウヘイの腹に突き刺さり、コウヘイの拳はリュウジの頬にめり込んだ。
 停めてある自転車に背中から倒れこんでいったのは、今度はリュウジだ。
 コウヘイは勢い余って、オレのいる位置近くまで吹っ飛ばされてきた。
 
 さあ──これで先に立ったほうが勝ちだ。
 こんなところで負けてる場合じゃないだろ、リュウジ。亜由姉さん来るまで待ってないといけないだろ?
 心の中でリュウジを激励したオレの目に、そのとき入ってきたもの。
 赤と緑の包装紙に包まれたちいさな四角い箱らしきものが、起きあがろうともがくコウヘイのポケットから日陰の冷えたアスファルトに転がった。
 
 「……?」
 転がってオレの足許まできたそれを拾い上げた。と──
 「総帥!!」
 突然にハンゾウは、彼にしては珍しいと思われる大きな声をあげながらオレを指さす。
 呼ばれたほうのコウヘイはゆっくりとオレを──それと、オレの手にしたちいさな包みを交互に目に止めて、やにわに体を起こしてオレに向かって突進してきた!!!

 「うわ、何──いや、これ落ちたから……」
 殴られる──!!! と体を無意識に堅くして目を閉じたオレ。けれども予想したような衝撃に襲われることはなかった。

 「ちょっとあんたたち。こんなとこで何やってんのよ?」
 そのときオレの背後で聞き覚えのある声が言った。
 目を開けたオレが見たのは、オレを通り越した背後に視線をやるコウヘイの顔──頬が赤くなっているのは、さっきリュウジの拳を受けたせいではなさそうだ……。

 その後のオレたちは、まるで無声映画を見たようなものだった。
 コウヘイは無言で、オレと視線を合わせようともせずにオレの掌からちいさな包みをもぎ取った。
 すると、オレの背後に現れた白いコート姿の千晶ちゃんの眼前にそれを差し出した。
 千晶ちゃんはおどろいたような顔でコウヘイを見つめる。
 コウヘイは何も言わずに、さらに千晶ちゃんの胸元近くに包みを押しやる。
 反射的にとでも言うか、とにかく千晶ちゃんはコウヘイの差し出したものを両手の中に収めた。
 「ええと……」
 千晶ちゃんが何かを言いかけた途端。コウヘイは猛スピードで、駅とは逆側に向かって路地を駆け抜けていったんだ。
 それを見るや、ハンゾウも後に続いて走る。
 途中で腕でもぶつけたのか、またも自転車を数台なぎ倒したようだ。そんな音が遠くから聞こえてきた。
 ふたつの人影は、そうやってオレたちの視界から消えていった。
 
 千晶ちゃんは鳩が豆鉄砲を喰らったみたいな顔をして、コウヘイが手渡した、赤と緑の包装紙にくるまった箱をじっと見ていた。
 しばらく後に千晶ちゃんは、ほんのり笑ってそれをコートのポケットに入れた。
 「何だったんだ──あれは? 千晶ちゃん」
 「わかんない。ただ昨夜、電話が来て呼び出されて。暗黒の総帥に」
 「呼び出されただと? じゃあコウヘイは──!!!」
 「そうか。千晶ちゃんと待ちあわせだったのか。なるほどね」
 千晶ちゃんのポケットに収まったのは、おそらくはコウヘイからのクリスマスの贈り物だろう。それを渡すための呼び出し、か。
 それでリュウジとオレを追い払いたかったんだ。オレたちのいる前で千晶ちゃんと顔を合わせるのは……確かに勇気がいるだろうから。それはわかるな。

 「おい、千晶ちゃん!! 怪我はねえか? 何か渡されたみたいだけど、変なもんじゃねえか? それにしてもよかったぜ、俺らがいて。なあ、ハヤト?」
 「──え」
 「だってそうだろ? 俺らがいなかったら、千晶ちゃん、コウヘイに殴られたりしたかもしれねえだろ?」
 「殴る──? コウヘイが千晶ちゃんを? まさか!!」
 「何でだよ、ハヤト。だって敵校の奴を電話で呼び出すっつったらそんなとこだって相場が決まってるじゃねえか」

 リュウジの言い分を聞いて、オレと千晶ちゃんは顔を見合わせて、力無く笑いあった。
 「リュウジって……鈍いよね」
 「うん。今に始まったことじゃないけどね。オレはもう慣れたな」
 「そうだね。あたしもだいぶ慣れたと思ってたけど、今日はさすがにやられたなあ」
 「オイっ!! ふたりとも、鈍いってどういう意味だ?」
 「うんうん。いいんだ。何でもない。リュウジはそれでいいんだ」
 あはははは、ともう一度千晶ちゃんと一緒に笑うオレ。

 「ちなみにさ、リュウジ。今日って何の日だかわかってる?」
 「今日──ああ、俺んちの近所のくるみが入院する日だぜ。ちょうどいいな。千晶ちゃんも一緒に励ましてやってくれるか?」
 「あ、今日なんだ!!! 行く行く~」
 クリスマスなんかよりくるみちゃんの入院の日ってほうがよっぽど大事な漢であるリュウジが総隊長だって思うと、オレは誇らしい気持ちでいっぱいになる。
 別にクリスマスに贈り物をするのが悪いって言ってるんじゃないけどね──コウヘイ。
 
 そして、ようやく線路の向こうから電車の来る音が聞こえてきた。
 「オウ、やっと来たか!!! 亜由姉もさんざんだったな」
 「ほんとだね。よかった、まだ昼前だ。くるみちゃんの出発に間に合わなかったらって思って、ひやひやしたよ」
 今日は明らかにやられ損だったリュウジの埃で汚れた背中を払ってやって、そしてオレたちは改札の前までようやく戻ってきた。
 「さ~て、リュウジの描いたのってどんな絵かな?」
 「何だよ、見せねえってば、千晶ちゃん!!!」
 そんなふうに照れたような顔で、リュウジは亜由姉さんの乗った電車が駅に滑り込むのを待っている。

 このときまだリュウジは知らない。
 亜由姉さんはリュウジの描いた絵を丁寧に額に入れて、それをこっちに向けながら改札を抜けてくることを──。

 オレたちがそのあと見たのは、大小ふたつの人物画だった。
 いつか見た教科書の落書きと同じ、ほわっとした表情の女の子。その横で大きく口を開けて笑ってる、赤い髪の漢。
 背景は青い海と青い空。そういえば、同じ青色の絵の具を頬につけてたこともあったな、リュウジ。
 きっと喜ぶだろうな、くるみちゃん。リュウジの描いた絵とそっくりな顔で、ほわっと笑うんだろうな──まだ会ったこともない女の子の姿を、そんなふうにオレは想像していた。

 
   * 贈り物を心より  完 *

 

テーマ : パチスロ - ジャンル : ギャンブル

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