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特別な日ではなく 2


 まだ時間があると千晶ちゃんが言ったので、紅茶とコーヒーのおかわりをそれぞれ注文した。
 待っている間に千晶ちゃんは一度席を立つ。お化粧直しだそうだ。
 千晶ちゃんが戻ってきて、オレたちは話の続きに戻った。
 「まあ、千晶ちゃんが言うのが合ってるかどうかはわかんないけど、だからってオレ、別にどうってことないな。とりたてて」
 「どうってことないって……。ハヤト、恋してないの?」
 「え、オレ? ──う~ん、言われてみれば鬼工に入ってからはまったくそういう雰囲気じゃないね。確かに中学のころは何となくそんなこともあったけど」
 「ふ~ん……。せっかくの青春のひとときなのにね。もったいない」
 「あはは。そうかな?」
 運ばれてきた2杯目のコーヒーに、今度は砂糖を入れてかき回しながら千晶ちゃんを見たら、ちょこっとため息ついてた。

 「まあ、そんな青春もアリってことか。人それぞれだから」
 「そんなもんだよ。うん」
 そう返して、オレは甘くしたコーヒーをすすってから続ける。
 「恋愛だったらこの先ずっとチャンスはあるだろうけどさ、仲間とこういう日々を過ごせるのは今だけだと思うし。まあ、何年か先にだって仲間たちとは一緒にいるんだろうけど、今みたく長い時間を共有するわけにはいかないから」
 「現在は自分の恋愛よりも仲間が優先、ってことね」
 「そういうことかな。今まであんまり意識したことなかったけど」
 「あ~あ。ハヤトがそんなタイプだったとはね。それじゃある意味リュウジは鬼工女子の敵だ。ハヤトにそんなこと言わせちゃうんだもん」
 「あはははは。敵なんだ。リュウジは女の子に弱いからね。喧嘩売られたら勝ち目なさそうだ」
 「言えてる~」
 ふたりして、タジタジになるリュウジを想像したらやたらと笑えた。
 
 「ってかさ、リュウジに彼女できたらちょっとは状況変わるかもね。そうか。ライブのときにハヤトに声援してた娘に教えてあげよ」
 笑いを収めた千晶ちゃんは、ぽんと手を叩いてそう言った。
 「リュウジに隙を作るにはそれしかないって思わない?」
 「ええっ……リュウジに彼女か。どうかな。実際想像できないけど」
 「そう? だってリュウジって惚れっぽいんでしょ?」
 「まあ、それはそうなんだけどさ。いろんな意味で鈍いし。ほら、さっきのコウヘイのことだって──あ」
 ここまで言って思い出す。
 そうだった。さっき千晶ちゃんはコウヘイに何かプレゼントをもらってたんだった。

 「ああ、暗黒の大将ね」
 複雑そうに千晶ちゃんはちょこっと笑う。
 「コウヘイ、何か言ってた? 電話かかってきたんだよね?」
 「ううん、別に何も。ただ時間と場所を指定されて呼び出されただけ」
 オレはコウヘイが千晶ちゃんに電話してる姿を想像してみる。
 ──奴でも緊張したんだろうな、それなりに。

 しばし無言になりながら、オレはコーヒーカップを弄んでいる。
 コウヘイが千晶ちゃんに好意をもっているのはどうやらオレの思い過ごしではなかったらしい。
 敵だ仲間だ、っていうのを超越したところにそういう意識が生まれるということに、崇高な何かを感じる。
 恋をするってすごいパワーを生むんだな。ちょっと感動だ。
 
 「なんか、そろそろほんとのこと言わないといけないかも。大将に」
 千晶ちゃんの声でオレは物思いから戻ってきた。
 「ん? 何、ほんとのことって」
 「うん……。あたし、女の子じゃないんだって」
 「え──あ、そうか!!! コウヘイって、知らないのか。そうだよね」
 敵、仲間の壁なんかよりもっと大きな障害があったことに初めて思い至ったオレ。
 嗚呼、とぼけてるなあ。やっぱり。
 「大将、やっぱりショックかなあ」
 なんて言いながら、千晶ちゃんがくすっと笑った。
 「どうだろね。でも千晶ちゃんは嘘ついてるわけじゃないし。向こうが勘違いしてるだけだから」
 「うん。でもま、あたし大将じゃなくても男の子にはそういう興味ないからさ。どっちみち、ね」
 「あはは。そっちのほうがショックかもね、コウヘイ」
 「……やっぱ言えないわ」
 「いいんじゃない? 恋って障害あったほうが盛り上がるっていうし」
 「あは。ハヤト、わかったようなこと言うね~」
 
 ケーキ屋の壁の鳩時計が3時を告げた。
 「あ、そろそろ時間だ。ハヤト、付き合ってくれてありがとね」
 「いえいえ。どうせ暇だし」
 言いながら、それぞれ立ち上がってコートを羽織る。と──
 「あ、千晶ちゃん、なんか落ちたよ。ポケットから」
 「うん? ああ、ほんと」
 小さく畳んだ紙切れを千晶ちゃんは拾い上げた。
 「これね、品質保証書だって」
 「何の?」
 「うん──コレ」
 千晶ちゃんがさらさらの髪の毛を左手で掻き上げる。あらわになった耳朶を飾っているものは、透明な石のついたピアスだった。
 「さっきお化粧直ししに行ったときにね、開けてみたの。大将にもらったやつ」
 「これ……コウヘイが?」
 「うん。びっくりしちゃった、あたし」
 千晶ちゃんの耳できらきら光を放つ宝石。
 保証書なんかついてるんなら、偽物なんかじゃないんだろう。コウヘイはどんな顔してこれを選んだのかな……。
 「似合う?」
 「うん。千晶ちゃんがこれつけてるの、コウヘイ見たいだろうなあ」
 オレがそう言ったら、千晶ちゃんは何も言わずに小首を傾げた。
 コウヘイも──前途多難だね。

 会計を済ませて店を出たところで、千晶ちゃんとは逆方向のオレ。
 「それじゃ千晶ちゃん、行ってらっしゃい」
 「うん。ありがと。ハヤトも今度おいでよ」
 「あはは。そうだね。じゃあ玉城がいるときにする。邪魔しちゃ悪いから」
 「え~~~、もう。そんなこと言って」
 照れたように千晶ちゃんは笑う。
 耳許のピアスがマジェンタ色の輝きを放ったように見えた。

 「じゃあ行くね。ハヤト、ステキなクリスマスをね!!」
 「え──ああ、まあいつもと一緒だけどね」
 「あは。そっか。じゃあみんなによろしく」
 「うん。伝える」
 小走りに道を行く千晶ちゃんの背中に手を振って見送った。

 今夜は河川敷で集会だ。
 ステキなクリスマスっていうのとはかけ離れているとは思うけど、それでもこんな特別なことなんて何もない日常が愛おしいオレには充分ステキなのかもしれない。
 うん。そう思うことにしておこう。
 そうじゃないとリュウジが暴れるからな、きっと──なんて笑ってみた。


   * 完 *


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コメント

もっとハヤトにけしかけて!

>確かに中学のころは何となくそんなこともあったけど
な、なにがあったの??ハァハァ・・・

仲間とつるんでるのも楽しいけどねぇ。
わかるけどぉ。

それより何より、ハヤトの恋バナもさることながら
コウヘイが・・コウヘイが気になるッ(笑)

>ピノコさま

>な、なにがあったの??ハァハァ・・・
気になる……?
え~と……何があったんだろなあ。
まあ、いろいろですよ。だはは。

>コウヘイが・・コウヘイが気になるッ(笑)
かわいいっしょ? コウヘイ、かわいいっしょ?
だってさ~、ハンゾウに付き合わせてるんだもん。
どうなるんでしょうねえ……謎。

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