目次

過去の記事をまとめて表示できるようにしてみました。 【 】がついている項目をクリックすると、それぞれのタイトルの記事を一括でお読みいただけます。 【 】内の数字が若い順に古い記事となっております。 【 】内の冒頭数字が同じものはそれぞれ対になるおはなしです。

これまでのおはなし

全タイトルを表示

御来訪感謝

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

特別な日ではななく

   * 1 *


 「かわいい子だったよね、くるみちゃん」
 そう評して、千晶ちゃんは頬をほころばせた。
 実際の性別はオレと一緒なのに、鬼工いちの美人と評判の千晶ちゃんはこのごろ頓にキレイになったようにオレは思う。ほら、こんなときの何気ない表情が、ね。

 リュウジのご近所に住む小学生のくるみちゃんは、おしゃまな女の子だった。幼いころに遭った事故が原因で足が少々不自由で、それをよくする手術を受けるための入院を控えていた。
 そんなくるみちゃんを激励するためにリュウジは絵を描いたり、プレゼントを選んだりでここのところ多忙だったんだ。

 そしてついに今日がくるみちゃんの入院の日。
 リュウジ以下オレたち4人と千晶ちゃんで、くるみちゃんに会いに行ったところ。
 くるみちゃんはリュウジの贈り物を、それはそれは素直に喜んでいた。
 亜由姉さんの監修のもとに描いた絵はオレたちも絶賛ものの仕上がりだったし、こないだ一緒に選んだ赤い毛をしたチンパンジーのぬいぐるみもさっそくくるみちゃんのお気に入りになったみたい。
 『くるみ、ちっとは寂しいだろうけど泣いたりするんじゃねえぞ』なんてリュウジが言ったのに対して、
 『あたりまえでしょ? くるみがちゃんとしなくてどうするのよ。くるみ、強い子だもん。リュウジこそくるみがいなくてさみしいんでしょ? くるみが帰ってくるまでちゃんといい子でまってるのよ』──ほわっとした笑顔と裏腹に、そんなふうに返してた。
 
 「くるみちゃん、リュウジにすごく懐いてたね」
 くるみちゃんが病院に向けて出発したあとひとまず解散となったから、オレは方向が一緒の千晶ちゃんと並んで歩き出したんだ。
 「ほんと~。リュウジってさ、なんで同世代の女子の前だといつもキャラが違うんだろうね。堅くなってるっていうか、それがちょっと見おっかないっていうか。いつものまんまだったらもうちょっともてるかもしれないのに」
 「あはははは。千晶ちゃん、それは本人には言ったらダメだな。リュウジってあれで気にしてるみたいだから、けっこう傷つくかも……」
 「……うん。なんかわかる気がする」
 なんて呟いて、千晶ちゃんは冬晴れの空を見上げてた。

 そしてオレは、すこし時間を潰したいという千晶ちゃんに誘われるままに駅の逆側のケーキ屋の喫茶スペースへと来ていた。
 ふたりでクリスマスケーキって感じでもないけれど、まあオレも甘いものは嫌いじゃないからいいかな、って。
 千晶ちゃんはブルーベリーのムースと紅茶、オレはチョコレートタルトとコーヒーをそれぞれ頼んで、店内からガラスの向こうのクリスマス気分な町を眺めていた。
 「で? ハヤトはこれから待ちあわせとか何かあるの?」
 「オレ? ああ、まあね。夜だけど」
 ちょうど運ばれてきたコーヒーにミルクを入れながら、オレは答える。
 「ふうん。デートの約束? やっぱり」
 「いや、違う。そんなんじゃない。夜はリュウジたちと集会」
 オレの言ったのを聞いて、千晶ちゃんは目をまんまるくしてた。
 「えええっ!!! ハヤト、今日ってクリスマスでしょ? それなのにそんな色気のないことするの? 正気?」
 「正気っていうか……リュウジの招集だからね。別に断る事情もないし」
 あ~あ、って顔で千晶ちゃんはため息をついた。

 「あんたたちって、結束が堅いのはいいけどさ。こんな時ぐらい誰か色気のある理由で欠席する奴って……いないわけ?」
 「いないね、そう言えば」
 タルトにフォークを刺しながら、オレはすこし考えてからそう答えた。
 「リュウジはあの通りだし、ダイゴは敬虔な仏教徒だし。それからノブオは……」
 「ああ、そうね。好きな女の子よりはリュウジを尊重するか」
 「そうそう。そんな感じだよ、オレたちは」
 「やれやれ。この時代にそんな奴らが身の回りにいるってのは、ある意味自慢できるかもしれないな、あたし」
 すこし苦い顔になりながら、千晶ちゃんはストレートの紅茶をこくりと飲んだ。

 「それで? 千晶ちゃんはこれからデートなんだ?」
 「えっ……」
 オレが訊いたら、千晶ちゃんはティーカップを唇から離したんだ。
 「やだな、ハヤト。デートっていうか……ただの打ち合わせだけどね」
 「おっ、やっぱり誰かと会うんだ」
 「うん。まあね。ほら、こないだ話したギターの女の子とね」
 そう言って、千晶ちゃんはほろりと笑った。
 乙女な男子の千晶ちゃんは、不思議と女の子が恋愛対象なんだそうで。
 それで、先日知り合ったギターを弾く女の子に今は夢中なんだそうで。
 
 「そっか。なら玉城も一緒なんだ。残念だったね」
 「ううん。今日はふたりっきり。だってさ、玉城くんとこも今日は夜まで部活だって言うんだもん」
 「玉城──野球部?」
 「そう。まったく、どこもかしこも色気ないよね」
 「……返す言葉が見つからないな、オレ」
 わはは、なんておかしくもないのに笑ってみる。あ~あ。

 「オレだって色気のあるクリスマスって憧れないわけじゃないんだけどね」
 とか、言い訳がましい台詞を吐くオレ。
 「そんな縁に恵まれないっていうか」
 「えっ? そんなことないでしょ? ハヤトは」
 「どういう意味?」
 なんかおどろいてる千晶ちゃんに聞き返した。
 「だって、ハヤトもてるじゃん。よく手紙もらったりするでしょ? 電話とか」
 「え──ぜんぜんそんなの、もらったことないな。少なくとも鬼工に入ってからは」
 「ま~た、ウソばっかり」
 「いやいや。ほんと。女の子に朝の挨拶してもらった記憶もないよ、オレ」
 「……へえ」
 そう答えたあと、千晶ちゃんはしばらく黙った。

 「でもさ、何でだろ。ハヤトが数少ない鬼工の女子の憧れだっていうのは実証済みなのにね。こないだのライブのときとかさ」
 「ああ──そう? よくわかんないけど」
 「そうだってば。あんたも案外鈍いね。誰かみたい──って、あ~、そうか。なるほど」 
 千晶ちゃんは何かに思い至ったようだ。
 「ハヤトが女の子に縁がないのはアレだね。リュウジだ、原因は」
 「ん? リュウジ?」
 「そうそう」
 笑いながらフォークでムースをつつく千晶ちゃんの手元をなんとなく見てる。

 「ハヤトってさ、たいがいリュウジと一緒にいるでしょ?」
 「うん。それは否定できないね」
 「リュウジってさ、さっきも言ったけど、女の子にはおっかないんだよ。だからそれと一緒にいるハヤトって同時に近づきがたいんじゃないの? リュウジには隙がないからなかなか越えられないんだ、その壁を。女の子たちはね」
 「──どうなんだろうね」
 オレは曖昧な笑顔なんかつくってみる。
 自分の発言に納得したらしい千晶ちゃんは、やけに満足そうだ。



   * 2 *


 まだ時間があると千晶ちゃんが言ったので、紅茶とコーヒーのおかわりをそれぞれ注文した。
 待っている間に千晶ちゃんは一度席を立つ。お化粧直しだそうだ。
 千晶ちゃんが戻ってきて、オレたちは話の続きに戻った。
 「まあ、千晶ちゃんが言うのが合ってるかどうかはわかんないけど、だからってオレ、別にどうってことないな。とりたてて」
 「どうってことないって……。ハヤト、恋してないの?」
 「え、オレ? ──う~ん、言われてみれば鬼工に入ってからはまったくそういう雰囲気じゃないね。確かに中学のころは何となくそんなこともあったけど」
 「ふ~ん……。せっかくの青春のひとときなのにね。もったいない」
 「あはは。そうかな?」
 運ばれてきた2杯目のコーヒーに、今度は砂糖を入れてかき回しながら千晶ちゃんを見たら、ちょこっとため息ついてた。

 「まあ、そんな青春もアリってことか。人それぞれだから」
 「そんなもんだよ。うん」
 そう返して、オレは甘くしたコーヒーをすすってから続ける。
 「恋愛だったらこの先ずっとチャンスはあるだろうけどさ、仲間とこういう日々を過ごせるのは今だけだと思うし。まあ、何年か先にだって仲間たちとは一緒にいるんだろうけど、今みたく長い時間を共有するわけにはいかないから」
 「現在は自分の恋愛よりも仲間が優先、ってことね」
 「そういうことかな。今まであんまり意識したことなかったけど」
 「あ~あ。ハヤトがそんなタイプだったとはね。それじゃある意味リュウジは鬼工女子の敵だ。ハヤトにそんなこと言わせちゃうんだもん」
 「あはははは。敵なんだ。リュウジは女の子に弱いからね。喧嘩売られたら勝ち目なさそうだ」
 「言えてる~」
 ふたりして、タジタジになるリュウジを想像したらやたらと笑えた。
 
 「ってかさ、リュウジに彼女できたらちょっとは状況変わるかもね。そうか。ライブのときにハヤトに声援してた娘に教えてあげよ」
 笑いを収めた千晶ちゃんは、ぽんと手を叩いてそう言った。
 「リュウジに隙を作るにはそれしかないって思わない?」
 「ええっ……リュウジに彼女か。どうかな。実際想像できないけど」
 「そう? だってリュウジって惚れっぽいんでしょ?」
 「まあ、それはそうなんだけどさ。いろんな意味で鈍いし。ほら、さっきのコウヘイのことだって──あ」
 ここまで言って思い出す。
 そうだった。さっき千晶ちゃんはコウヘイに何かプレゼントをもらってたんだった。

 「ああ、暗黒の大将ね」
 複雑そうに千晶ちゃんはちょこっと笑う。
 「コウヘイ、何か言ってた? 電話かかってきたんだよね?」
 「ううん、別に何も。ただ時間と場所を指定されて呼び出されただけ」
 オレはコウヘイが千晶ちゃんに電話してる姿を想像してみる。
 ──奴でも緊張したんだろうな、それなりに。

 しばし無言になりながら、オレはコーヒーカップを弄んでいる。
 コウヘイが千晶ちゃんに好意をもっているのはどうやらオレの思い過ごしではなかったらしい。
 敵だ仲間だ、っていうのを超越したところにそういう意識が生まれるということに、崇高な何かを感じる。
 恋をするってすごいパワーを生むんだな。ちょっと感動だ。
 
 「なんか、そろそろほんとのこと言わないといけないかも。大将に」
 千晶ちゃんの声でオレは物思いから戻ってきた。
 「ん? 何、ほんとのことって」
 「うん……。あたし、女の子じゃないんだって」
 「え──あ、そうか!!! コウヘイって、知らないのか。そうだよね」
 敵、仲間の壁なんかよりもっと大きな障害があったことに初めて思い至ったオレ。
 嗚呼、とぼけてるなあ。やっぱり。
 「大将、やっぱりショックかなあ」
 なんて言いながら、千晶ちゃんがくすっと笑った。
 「どうだろね。でも千晶ちゃんは嘘ついてるわけじゃないし。向こうが勘違いしてるだけだから」
 「うん。でもま、あたし大将じゃなくても男の子にはそういう興味ないからさ。どっちみち、ね」
 「あはは。そっちのほうがショックかもね、コウヘイ」
 「……やっぱ言えないわ」
 「いいんじゃない? 恋って障害あったほうが盛り上がるっていうし」
 「あは。ハヤト、わかったようなこと言うね~」
 
 ケーキ屋の壁の鳩時計が3時を告げた。
 「あ、そろそろ時間だ。ハヤト、付き合ってくれてありがとね」
 「いえいえ。どうせ暇だし」
 言いながら、それぞれ立ち上がってコートを羽織る。と──
 「あ、千晶ちゃん、なんか落ちたよ。ポケットから」
 「うん? ああ、ほんと」
 小さく畳んだ紙切れを千晶ちゃんは拾い上げた。
 「これね、品質保証書だって」
 「何の?」
 「うん──コレ」
 千晶ちゃんがさらさらの髪の毛を左手で掻き上げる。あらわになった耳朶を飾っているものは、透明な石のついたピアスだった。
 「さっきお化粧直ししに行ったときにね、開けてみたの。大将にもらったやつ」
 「これ……コウヘイが?」
 「うん。びっくりしちゃった、あたし」
 千晶ちゃんの耳できらきら光を放つ宝石。
 保証書なんかついてるんなら、偽物なんかじゃないんだろう。コウヘイはどんな顔してこれを選んだのかな……。
 「似合う?」
 「うん。千晶ちゃんがこれつけてるの、コウヘイ見たいだろうなあ」
 オレがそう言ったら、千晶ちゃんは何も言わずに小首を傾げた。
 コウヘイも──前途多難だね。

 会計を済ませて店を出たところで、千晶ちゃんとは逆方向のオレ。
 「それじゃ千晶ちゃん、行ってらっしゃい」
 「うん。ありがと。ハヤトも今度おいでよ」
 「あはは。そうだね。じゃあ玉城がいるときにする。邪魔しちゃ悪いから」
 「え~~~、もう。そんなこと言って」
 照れたように千晶ちゃんは笑う。
 耳許のピアスがマジェンタ色の輝きを放ったように見えた。

 「じゃあ行くね。ハヤト、ステキなクリスマスをね!!」
 「え──ああ、まあいつもと一緒だけどね」
 「あは。そっか。じゃあみんなによろしく」
 「うん。伝える」
 小走りに道を行く千晶ちゃんの背中に手を振って見送った。

 今夜は河川敷で集会だ。
 ステキなクリスマスっていうのとはかけ離れているとは思うけど、それでもこんな特別なことなんて何もない日常が愛おしいオレには充分ステキなのかもしれない。
 うん。そう思うことにしておこう。
 そうじゃないとリュウジが暴れるからな、きっと──なんて笑ってみた。


   * 完 *

<< 各話御案内/贈り物を心より | ホーム | 各話御案内/特別な日ではなく >>


コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

 BLOG TOP 


  1. 無料アクセス解析
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。