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これまでのおはなし

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年の瀬の鬼浜町

   * 1 *    


 年末に忙しい職業も数あれど、ことにダイゴのところの家業はそれの最たるものだと思われる。
 ダイゴの家はお寺──鬼浜寺だ。
 大晦日って言ったら除夜の鐘がつきものだ。
 例年多くの参拝客が鐘の音を聞きにくることで有名だから、当然その日は大忙しだ。
 
 「今年はあそこにはいろいろお世話になったもんなあ」
 「そうっスね、兄貴」
 「ほんとにね。とくにオレは、こないだも合宿させてもらったし」
 「わはは、そうだな、ハヤト。お前が一番お世話になってるな。ってことで一番気合い入れて働けや!!」
 「うん。頑張るよ」
 リュウジとノブオと3人で歩きながらそんな話をしている。
 今日は日頃の感謝をこめて、朝から鬼浜寺の大掃除の手伝いをしに行くところだ。
 鬼浜寺はいつでも掃除は行き届いていてきれいなんだけど、それにしたってオレたちが行ったら何かしら仕事はあるだろうから、ってリュウジが言いだしたんだ。

 そうしたわけで、鬼浜寺に着いてみるとダイゴが出迎えてくれた。作業着姿で、頭には手拭いをかぶってる。
 「皆、忙しいだろうに悪いな」
 「とんでもない!! この時期ダイゴんとこほど忙しい奴はいねえって。なあ?」
 「もちろんっス。それにハヤトさんが自転車乗れるようになった恩返ししないといけませんしね~」
 「……ノブオが言うなよ」
 「わはははは!!! そんな顔すんなや、ハヤト。だって本当のことじゃねえか」
 「まあね。うん。頑張るけどさ」
 そんなオレたちのやりとりを、ダイゴはうれしそうな顔で見てた。
 ちょっとはお役に立てるといいな。

 「そしたら何からやればいいんだ? ダイゴ」
 「押忍。まずは大仕事なのだが」
 ダイゴの言った大仕事っていうのは、滅多に経験できないだろうっていう珍しいことだった。
 なんと、鐘のすす払いをするのだという。
 大晦日には厳かな音を周囲に響かせる鐘と、それを吊した鐘楼とを清める作業。
 そんなことに立ち会えるなんて、ちょっと誇らしい気分がする。

 鐘楼の前には祭壇がしつらえてあって、まずは住職──ダイゴの親父さんが読経をする。
 3人いたほかの若いお坊さんもダイゴのお袋さんも、数珠を手にしている。
 読経が終わると、オレたちも含めて順々にお焼香をする。
 そうしたのちに作業が始められたんだ。

 それぞれ雑巾とか、柄の長いはたきなんかを携えてまずは鐘楼の掃除。
 「ダイゴ、これ昇っていいのか?」
 置いてあった脚立を指さしてリュウジが問う。
 「ああ。上の方を頼めるか? リュウジ」
 「オウ!!! 高いとこは任せとけ!! ノブオ、雑巾絞って渡してくれ」
 「了解っス、兄貴!!」
 「ハヤトは手の届く範囲ではたきで埃を払っておけな」
 「うん、わかった」
 この珍しい作業を、リュウジが率先してやるってのは想像の範囲内だ。だってこういうの好きそうだもんな。

 リュウジの指示に従って動くオレたち。チームワークなら任せておいてほしいとばかりに気合いを入れる。
 鐘楼がだいぶきれいになってきたところで、住職とお坊さんたちは鐘本体を磨くほうに回った。
 「なんっていうか、厳かな気分になりますよね~、ハヤトさん」
 一緒になって手の届くあたり──柱の下の方なんかに雑巾をかけていたノブオが言う。
 「そうだね。一生懸命やったら来年いいことありそうな気がするよ」
 「うはははは。そうだといいっスね~」
 「オイ、ハヤト!! ちょっとはたき取ってくれ」
 「ああ、はいはい」
 見上げると、脚立の上のリュウジは埃まみれの顔。
 こんなときのリュウジはすがすがしい表情してるよな、ほんとに。

 鐘も鐘楼もすっかりきれいに拭き上がるころには、お昼近くになっていた。
 空気が冷えてるけど、よく体を動かしたから不思議と寒いとは思わなかった。
 
 お昼ご飯のもてなしを受けたあと、オレたちは午後の作業に取りかかることになる。
 「皆、落ち葉を掃くのを手伝ってもらってもいいだろうか。こんな際に裏手のほうまで掃いておきたいのだが」
 「了解っス、ダイゴさん!! きれいにしますよ~。ハヤトさんが」
 「うん。体あったまりそうな作業だね、それ」
 「ハヤト……。否定はしねえけどな。やる気、あるよな?」
 「当たり前じゃん!!! オレ、熊手使うのけっこううまいよ? 中学の頃は裏庭の掃除当番が好きだったし」
 「それではハヤトに期待しておこう」
 ダイゴがそう言って、さっそく熊手を渡してくれた。
 よし、やるか!!

 イチョウやサクラの木からの落ち葉が、黄色とワイン色に地面を染めている。
 すごく風情があっていいとは思うけれど、これは掃除だからね。真剣にやらないと。
 「ハヤト。確かに慣れているな、熊手」
 「だから言ったじゃん、ダイゴ。自信あるって」
 「兄貴……竹箒、いまひとつっスね」
 「そうか? どっか変か? ノブオ」
 「変ってか。動きが大きいわりにあんまり葉っぱが集まっていないような気がするっス」
 「ええ? 何だろな。どこが悪いんだろ」
 「あはは。リュウジ、竹箒はさ、掃いた最後を止めないと散るから」
 「へええ!!! ハヤト、お前案外役に立つな」
 「案外って……まあいいか。どうもね」
 なんて会話しながらの掃除はけっこう楽しいもんだ。
 思った通り体もあったまってくるし。

 しばらく作業が続いて、あたりはだいぶきれいになった。大量に集まった落ち葉を見たリュウジが言う。
 「なあ、これってたき火とかするのか? ダイゴ」
 「そうだな。通常はそうする」
 「そしたら、八百屋行こうぜ!! 芋焼こう」
 「うわ、焼き芋っスね!! 名案っス、兄貴~」
 「うん、いいね。じゃが芋もおいしいよ、きっと」
 「押忍。それでは早いところ作業を終わらせよう、皆」
 目先に楽しいことが待ってる感じっていうのは、作業効率向上に役立つもんだ。
 馬の鼻先にニンジンとか、そんなのかな。
 そんなわけでオレたちは、できる限りの速さと丹念さとでもって鬼浜寺の裏庭掃除に従事したんだ。
 最後のほうには、リュウジの竹箒の技術もだいぶ磨かれていた。



   * 2 *


 鬼浜寺の大掃除は夕方まで続いた。
 裏庭を掃いて集めた落ち葉を使って焼き芋をしようということになったオレたちは、薄暮の中を商店街まで歩いていった。
 「冬の醍醐味じゃねえ? こういうのって。落ち葉でたき火して焼き芋なんての」
 発案者のリュウジは至って満足そうな顔をしている。
 「そうだね。オレ、たき火も焼き芋も子供の頃以来だな」
 「あ、オレもっス、ハヤトさん!!」
 「だよな。俺んちも商店街にあるしよ。俺もガキの頃、お袋の田舎でやった記憶がある程度だぜ」
 なんてオレたち3人は、イベント気分で盛り上がってる。

 「ああ、皆そうなのか。俺にはたき火は珍しいことではないので」
 「そうだろうな、ダイゴんちは。あれだけ木があったら何かと大変だろうし」
 「無粋なこと言うなや、ハヤト!! 大変だろうけどたき火も焼き芋も俺にはうらやましいぜ」
 「うはは、兄貴って子供のココロを残してるんっスね~」
 「ノブオ、お前、今笑ったな……?」
 「え──あ、ご、ごめんなさい!!」
 ノブオはリュウジにちょこっと睨まれたもんで、すかさずダイゴの背後に隠れた。
 「ははは。ノブオは褒めたつもりだったのだ、リュウジ」
 「そうか? ダイゴ。まあいいけどよ」
 ダイゴに宥められながら唇をとがらせるリュウジ。こんなのも子供みたいだよな。

 年末の商店街っていうのは独特の雰囲気がある。
 お店の人たちの声も威勢がいいし、お客も慌ただしそうにあれこれの買い物をしてる。
 目当ての八百屋まで来ると、店主らしき赤ら顔のおやじさんがリュウジを認めて気安く声をかけてきた。
 「おっ、リュウジ。店のお使いかい? えらいねえ」
 同じ商店街でお店をやっている同士で顔なじみみたいだ。
 「オウ、おやっさん!! 今日はお使いじゃねえぜ。芋買いにきた」
 「へえ。芋かい。どんなんだ?」
 「あのな、焼き芋するのにうまい奴選んでくれや」
 「なるほどな、焼き芋か。そしたらこれだ。甘いぞお!!」
 「リュウジ、じゃが芋も」
 「オウ、そうだったな、ハヤト!!」
 「お。友達かい? じゃあサービスしねえと悪いな」
 「わはは、頼むぜ、おやっさん!!」
 
 結局さつま芋とじゃが芋と、それからダイゴがお家の人に頼まれたというみかんをサービス価格で買いこんで、オレたちは八百屋のおやじさんにお礼を言った。
 帰り際におやじさんが思い出したようにリュウジを呼び止めた。
 「ああっ!!! うっかり忘れてたぞ。リュウジにゃやれねえが、友達ならいいんだよな?」
 「ああ、そうかそうか。福引きな。お前ら、ためしにやってくか?」
 「福引きっスか? うわ、いいっスね~!!!」
 「それなら挑戦してみな。これがさつま芋の分で、こっちがじゃが芋の分。それからみかんの分で3枚だ」
 おやじさんはダイゴとノブオとオレにそれぞれ福引き券を渡してくれたんだ。
 「よし!!! お前ら気合い入れて当ててけや!!!」
 リュウジの声がにぎわう商店街に響き渡った。どんな喧噪の中でも通る声だな。

 主催側の商店街の関係者であるリュウジは、福引きには参加できないんだそうだ。
 リュウジの先導で紅白幕で囲んである特設テントに到着したオレたちは、それぞれ1回ずつ抽選器を回す権利を持っていた。
 「あら、リュウちゃん」
 「オウ!! 寒いのにご苦労だな、おばちゃん達も」
 前掛けの上からはっぴを着たふたりのおばさんも、当然ながらリュウジの顔なじみみたいだ。さすが地元の顔って感じだよな。
 「どうだ? まだいいもん残ってるか? 俺の仲間が引くんだけど」
 「そうねえ。特等は出ちゃったけど、まだ1等と3等が残ってるわね」
 「よし、そしたら1等狙いだな!!! ハヤト、お前からだ」
 「はいはい──って、オレこういうの当たった試しがないんだけどさ」
 「闘う前から弱気でどうすんだ!!! 特攻隊長だろ、お前は」
 ……そういう問題でもないと思うけど、なんて思ってくすっと笑った。
 
 木製の、六角形の昔ながらの抽選器。おばさんに福引き券を渡してから取っ手をもって回す。中でたくさんのちいさい玉がぶつかり合うのが手に伝わってきた。
 懐かしいなあ、こういうのって。
 「あれ……? 玉、出てこないな」
 「お兄ちゃん、回すの早いのよ」
 うふふ、なんて、パーマヘアのおばさんに指摘された。
 「あ、そうなんだ。ゆっくりでいいのか」
 「さすが特攻隊長っスね~!!」
 ノブオに言われてちょこっと恥ずかしくなりながら、今度はゆっくりと一回転。
 そして転がり出てきた玉は──青いやつ。
 
 「あら、6等賞ね。おめでとう、お兄ちゃん」
 眼鏡のおばさんがにこりと笑って、後ろのダンボールから取り出してオレに渡してくれたのは、手拭いだった。『鬼浜町商店街』っていう字が印刷してある。
 「あはは、ありがとうございます」
 「おっ、いいじゃねえか、ハヤト!!! それ、さっきのダイゴみたいに頭にかぶってみろや。きっと似合うな」
 「ええ、そうかな」
 なんて言いながら、リュウジに言われたようにしてみた。
 「うはは、けっこうイイ感じっスよ、ハヤトさん!!!」
 「押忍。なかなか似合うかもしれんな」
 ……そうなのかな。自分じゃどんな姿してるかわかんないんだけどさ。

 「よし、そしたら次はダイゴだな」
 「押忍」
 抽選器に向かって柏手を打って拝礼をしてから、ダイゴは心を静めて──ってふうに見えた──ガラガラと一回転。
 出てきたのはオレと同じ青い玉だった。
 オレと同じようにおばさんに手拭いを渡されて、オレと同じように頭に巻く。
 「わはははは!!! ふたりともいいじゃねえか。な、ノブオ?」
 「ほんとっスね~。オレも欲しくなったっス、それ」
 出番を控えたノブオは、腕まくりなんかしてる。
 
 「そんじゃいきま~っす!!」
 やけにはりきって前に出たノブオが回した抽選器から出てきた玉は、オレたちとは違う色をしていた。
 「あら──手拭いハズレっスね……」
 なんて残念そうに呟いたノブオの目の前で、パーマヘアのおばさんが鐘を手にしたのをオレは見た。
 「おめでとう!!! 出ました、一等賞!!!」
 「え──?」
 「やったね、お兄ちゃん!! 旅行券大当たり~」
 「うお、すげえぞノブオ!!!」
 「やったじゃん、一等賞!!」
 「押忍。ここぞの勝負どころには強いな」
 「え──え? ほんとっスか? うわ、オレやりましたよ、兄貴~!!!」
 喜色満面のノブオは、リュウジと手を取合って小躍りしてる。
 
 一等賞の景品は、二名分の温泉宿泊券だった。
 親孝行なノブオは、ご両親へのお年玉にするんだって言ってた。
 かわいいところあるな、なんて思ったから、オレは欲しがってたみたいなのでノブオに手拭いをゆずってやった。
 なんかとっても喜んでた。ほんとに一等賞より狙ってたのかも……。



   * 3 *

 
 さつま芋とじゃが芋とみかん、それから福引きでもらった景品とを携えたオレたちは、ふたたび鬼浜寺へと戻ることにした。
 「えへへ。今日は充実してますね~」
 福引きでの一等賞の覇者・ノブオは、さつま芋の入った袋を胸に抱いてうれしそうに言う。頭にはオレが進呈した手拭いを巻いてる。
 「そうだな。掃除して気分よくなって、福引きでもいい気分だもんな、ノブオは」
 「うん。それってお寺の掃除の御利益かもね、ノブオ」
 「あっ、そうっスね~!!! それじゃこれからは、年に何度でも掃除に行きましょう、ハヤトさん!!」
 「押忍。それは助かるな。ではさっそく来月にも」
 「もちろんっス!! いつでも呼んでくださいね、ダイゴさん!! ね、ハヤトさんも」
 「え──ああ、そうね。うんうん」
 やれやれ。ノブオときたら。

 「さて、早いとこ戻ろうぜ!! いくらたき火ったって、日が落ちると寒いからな」
 「そうだな。あまり遅い時間に火はまずいので」
 「だろ? ダイゴ。ほれ、ハヤトもノブオも早く歩け」
 「は~い、兄貴!! ほらほら、ハヤトさん。遅れちゃダメっスよ」
 「オレ? って、ノブオより半歩先歩いてるじゃん!!」
 「うはは。気のせいっスよ。そしたら競走しましょうぜ~。単車じゃ勝てないけど、オレ走ったら案外ハヤトさんより速いかも」
 「なんだって? そんなことないと思うけど……って、お~い!!」
 言うが早いか、ノブオはおどけて走り出した。そう、追い抜いたオレを振り返りながら。
 「おいおい、子供じゃないんだから……」
 とか言いながらも、ついつい釣られてノブオの後を追うオレ。
 付き合ってやらないとかわいそうかな。なんて後輩思いなんだ、オレは。

 さすがに全力疾走ってわけじゃなくて、ただふざけているだけのノブオの走り方。どちらかっていうと早足歩きのペースに過ぎない。
 ノブオって、度胸が据わっててやるときはやる男だけど、まだどこか中学生男子みたいな行動をするときがあるんだよな。お調子者っていうか。
 そんなノブオをオレたちはかわいがっているわけで。
 「あ~、ほら、ノブオ。ちゃんと前向かないと危ないってば」
 「そんなこと言って~。オレが前見て走ったら、その隙に追い抜く気でしょ? ハヤトさん」
 「そんなことしないってば──あ」
 ほら、言ったとおりだ。
 商店街を抜けたところの路地から出てきた人影と、ノブオは衝突したんだ。

 「あっ、スミマセンっス──って、あわわ……」
 「──モガー!!!」
 「うわっっ!!! あ、兄貴ぃ~!!!」
 ぶつかった相手を見るや、ノブオが大きな声で呼ばわった。
 それを聞いて、後ろから普通に歩いてきていたリュウジとダイゴがオレたちに追いついてきた。
 「どうした、ノブオ? お──?」
 しりもちをついたノブオがぶつかった相手は──ゴンタだった。
 
 「貴様等、ご挨拶だな?」
 当たり前のようにとでもいうか、ゴンタはひとりではなかった。
 ゴンタの巨躯の陰からコウヘイが現れ、次いでハンゾウとタカシの姿が見える。
 「オウ、コウヘイ!!」
 これはまずいんじゃないか? 奇しくも両軍揃い踏みだ。ちょっと心配しかけたオレだけど、一瞬のちに出てきたリュウジのひとことはこうだった。
 「ノブオが悪いことしたぜ。故意なんかじゃねえ。済まなかったな」
 「──ふん」
 この1年、幾度となく顔を合わせたオレたちの宿敵・暗黒一家。
 リュウジはこちらの非を詫びた。事を構える気がない証拠だ。
 とはいえ、それで済ませられないのが奴らとの常といったところ。オレはある意味覚悟を持って、コウヘイらを見た。

 「おい、貴様」
 コウヘイは低い声をもってノブオに凄味を効かす。
 「や、やる気か~?」
 「おい、馬鹿、ノブオ──」
 言いかけたオレの声にかぶさるように、低い声がノブオに再度かけられる。
 「邪魔だ。そこを退け」
 「は?」
 「何度言わせるんだ、ゴラァ!!! そこを退けと言っている」
 いまだしりもちをついていたノブオが反射的に立ち上がると、ノブオをちらりと見ただけでコウヘイは横をすり抜ける。
 「ふん。場所が悪すぎる。このようなところで事を起こす気にはなれねえな」
 一瞬立ち止まって、振り向かずにコウヘイは言った。
 そしてそのまま、ノブオが塞いでいた場所──建物の門へと進んでいき、4人は順に中に吸い込まれていった。

 普段は特攻服の裾が触れるだけで対決騒ぎになる暗黒一家が今日はおとなしかった理由は簡単に推察できた。
 ノブオとゴンタが衝突した場所は、教会の前だったんだ。
 屋根には十字架が、門の内側には聖母マリア像がある、キリスト教の教会。
 「ここ──教会に入ってったな、奴ら」
 「うん。なんか意外な取り合わせだ。コウヘイとマリア様」
 「クリスチャンだったんっスね、あいつら……」
 「押忍。初めて知ったな」
 奴らの普段と屋根の十字架のあまりのミスマッチに、オレたちは言葉少なくその場にしばらく立っていた……。

 年の瀬ぎりぎりの暗黒一家との対面は、ありえないほど平和に済んだ。
 確かめたわけじゃないけれど、奴らは行動からするにキリスト教徒。それでもってオレたちはこれからダイゴの家・鬼浜寺に戻るところ。
 そういう大きな力へ依る段になると、些細な日常の諍いなんかちっぽけなものなのかもしれないけど。
 でも、オレたちはただのちっぽけな、ちょっと荒っぽい勝負者であって単車乗りだから、なんだかんだこれからも顔を合わすたびに事が起こるんだろうけど。

 やっとこさ鬼浜寺の境内に着いて、掃き集めた落ち葉の山でたき火をはじめたころにはうっすら空が暗くなり始めていた。
 火のついた枯れ葉の香りが辺りに漂って、独特の風情。オレたちはたき火に手をかざしながら、芋が焼き上がるのを待ってる。
 うん。火を囲んでいるってだけで、気持ちはやたらと平和だ。
 「ど~れ、そろそろ焼けたか?」
 「あ、ちょっと割ってみましょうか、兄貴? ダイゴさん、棒ありますかね」
 「これでどうだ、ノブオ」
 「アザーっス!! お、あったあった。はい、ハヤトさん。割ってみてくださいっス」
 
 さっき福引きでオレが当てた手拭いを嬉々として頭にかぶったノブオが、火の中から掻きだしたさつま芋をオレに渡した。手に取ったオレはホイルを開けて、ほっこりした中身を想像しながらふたつに割ってみることにした。
 「うん、どれどれ──って、うわ、熱いじゃんか!!!」
 予想だにしなかった──っていうかそれが当たり前なんだけど、あまりの熱さに直接触れたオレは思わず飛び上がりそうになった。
 「わはははは!!! そりゃ熱いに決まってるだろうが。やっぱハヤトだな、ダイゴ」
 「押忍。どこか調子がはずれているのがハヤトだと思う」
 「ホントっス~。でもそれが憎めないっていうか」
 3人の楽しげな笑いが暮れ始めた空に立ちこめる。
 悔し紛れに、オレは3人に負けないくらいの声で笑ってみた。
 嗚呼、結局オレはそうやって笑われながら今年を納めるのかな。



   * 年の瀬の鬼浜町  完 *



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