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おおつごもり


 大晦日──特別な名前を持った日付の今日。
 オレはわりとマイペースだったけど、やっぱり世の中は慌ただしく動いていたように思える年の瀬の数日を締めくくる日だ。
 明日からは来年なんだなあ、なんて当たり前のことを考えると、すこしくらいは気分が改まるような気がオレにもしてくるから不思議だよな。

 さて、今日という日がオレたちの中で誰より忙しいのは当然ながらダイゴだ。
 鬼浜寺では23時半過ぎから除夜の鐘を撞くんだそうだ。オレたちも撞かせてもらえるらしいので、夜になったら集合することになっている。
 
 昼間は親父とお袋に付き合って買い物に行ったり、ちょこっとぐらいはと思って部屋の掃除のまねごとなんかしたり。飽きたら居間のこたつで寝転がったりなんかしながら、冬休みを満喫しているオレ。テレビでは、紅白歌合戦が始まったところだ。
 まあ、そんな時間をつぶしていると当たり前のようにあの声に呼ばれるんだけどね。
 「お~い、ハヤト!!! いるか~?」
 ほら、やっぱりだ。今日は営業していない店の前から大声がオレを呼んだ。店のほうに出ていってみると、家のラーメン店の上っ張りを着たリュウジが手を振ってる。
 「オス。どうした? リュウジ」
 「なんだ? ハヤト、まぶたがはれぼったいんじゃねえの?」
 「そうかな? いや、ちょっと昼寝してたから……」
 「わはははは!!! こんな日でも日課は欠かさねえってのか。さすが大物だぜ!!」
 「え……照れるなあ」
 うん。わかってる。ほんとは褒め言葉なんかじゃないって。

 「まあ、そんなのどうでもいいやな。ハヤト、今って暇だろ? ちょっと手伝ってくれや」
 「ん? 何を手伝えばいいんだ?」
 「ああ、ちょっとな。一緒に店に来てくれねえか?」
 「店? なんかあるんだ」
 「オウ。ちょっと頼まれ事っていうかな。ウチ寄って、一緒にダイゴんとこまで行ってくれ」
 そんなリュウジに連れられて、オレは大晦日の商店街まで繰り出した。
 魚屋の店先を飾る酢だこに心を奪われそうになったりしながら。

 「これ──日本そば?」
 店の中へ入ってみたら、食品用のコンテナがたくさん積んであった。ちらりと覗くと中にあったのはそれ──リュウジんとこの店でいつも使っているのとは明らかに違う色の麺だった。
 「まあな。珍しいだろ? うちの店に日本そばっての」
 「うん。ラーメン屋だもんね、ここ」
 「これな、今日のために仕入れたんだぜ。ほら、ダイゴんとこで夜に鐘撞くだろ? 昨日になって急に、そんときにそばを参拝者に振る舞うって住職が言うんでな。ちょっと手伝えたらって思って」
 「あ、それでそばか。年越しそばってやつだ」
 「オウ!! ちょっとばかしジャンルは違うけどな、同じ麺が相手だし、案外役に立ちそうじゃねえ? 俺」
 「うんうん。それはいいね。絶妙な茹で加減を披露したらみんな喜ぶだろうし」
 「だろ? だからさっきまで試しに練習してたんだが、わりと巧くいったぜ!!」
 鼻の下をこすりながら、リュウジはちょっと自慢そうに言った。
 「うん。食べてみたいな、オレも」
 「わはははは、旨いぞ、俺のそばは!! 期待してろや、ハヤト──って、その前にこれを運ばねえとな、鬼浜寺に」
 「了解!! 手伝うよ」

 そしてオレはリュウジと一緒にそばを鬼浜寺へ運んだ。実際には、リュウジの店の従業員氏が軽ワンボックスに積んで運転してくれたのに乗っかっただけなんだけど。
 鬼浜寺の正面で待ちかまえていたダイゴが搬入を手伝ってくれながら挨拶をする。
 「押忍、リュウジ。親父のほんの思いつきで世話をかけるな」
 「いいってことよ!! こんな時に役立てるのって俺はかなりうれしいぜ」
 リュウジはこういう、節目節目の催しがことのほか好きだからな。
 「ハヤトも。のんびりしていたのだろう? 手伝わせて悪いな」
 「え──ああ、まあ確かにのんびりしてたけどね。さっきまで」
 「わはは!! さすがにお見通しだな、ダイゴには」
 「あ、兄貴、ダイゴさん、ハヤトさん!! チィーっス!! 手伝いに来ましたよ~」
 「お、ノブオも来たか!! それじゃさっそく湯でも沸かすか。ダイゴ、どこで始めればいいんだ?」
 「ではさっそく、こちらへ」
 境内の鐘楼の近くにしつらえられた場所へ誘われたオレたちは、そうそうに準備にとりかかったんだ。
 
 先導をとるのはいつものようにリュウジ。
 今日はダイゴは忙しいから、ノブオとオレとでリュウジの指示を受けて動く。
 巨大な鍋に湯を沸かして、リュウジはカツオとかシイタケでだしをとってつゆを作る。
 「ほれ、ハヤト。味見してみっか? ノブオも」
 「うん。どれどれ」
 「兄貴、アザーっス!!」
 なんて受け取った紙製の容器ですすったリュウジ特製そばつゆは──絶品だった。
 「あ、兄貴ぃ~……泣けるっス」
 「そうか? だったらいいやな。さすがにそばつゆは作ったことなかったんで自信なかったけどな」
 「へえ。意外。初めてなんだ、リュウジ。でも勘所はさすがだな」
 オレが頷いたら、リュウジは誇らしそうに腕組みをした。

 そして迎えた23時半。
 先着順で除夜の鐘を撞けるというので、多くの参拝者が鬼浜寺に詰めかけている。
 そうした人々の接待で追われるオレたちは、忙しかったけれどもどこか気分も晴れ晴れとしていた。
 主な参拝者は地元の人たち。だからというか、けっこう見知った顔も中にはあった。
 「あ、赤ジャージじゃねえか!!」
 「チューっス!!」
 「おお、お前たち。そば、もらってもいいのか?」
 オレたちの担任・赤ジャージが顔を見せてくれた。
 「うん。もちろん!! な、リュウジ?」
 「オウ!! 喰ってってくれや。ってか、どうした? 今日はひとりか? マキ姉はいねえのか?」
 「ああ。こんな夜遅い時間に面会は許されていないのでな」
 「へえ。ストイックだね、先生」
 なんてオレが言ったら、赤ジャージは曖昧に笑って寄越した。

 次いで教頭先生が来たり。
 オレたちの同級生たちが来たり。ノブオの友達も来たり。
 あとは亜由姉さんと、友達で鬼工の保健室の遙先生が来たり。
 そうした知人たちにも、そうじゃなくても町の人たちにも挨拶と年越しそばを渡しながら、オレたちの年の瀬は刻一刻と新年に向かって針を進めていったんだ。
 オレたちが先日すす払いをした鐘は、次々と町の人たちによって撞かれている。
 しんしんと冷える空気を低く震わせるような、重厚で心に沁みる鐘の音。こういうのに心を奪われるのって、やっぱりオレも日本人だなあ、なんて思う。

 「皆。結局長いこと手伝わせてすまんな」
 「オウ、ダイゴ!! いいってことよ。なあ、ハヤト? ノブオも」
 「当たり前っスよ、ダイゴさん」
 「うん。忙しいけど楽しいしね。ってかダイゴ、持ち場を離れて大丈夫?」
 「ああ。だいぶ落ち着いてきたので」
 ダイゴは言葉のとおり、落ち着いた微笑みでオレに返した。
 「ところで皆も撞いていくだろう? 鐘を」
 「え、いいのか? 俺らも撞ける回数残ってるのか?」
 「もちろんだ。皆の分は最初から数に入っているので」
 「やった~!!! オレ、除夜の鐘って初めてっス」
 「オレもだ。へえ、なんか感動するね」
 そんなダイゴの誘いで、オレたちは勇んで鐘楼に向かったんだ。
 そばの持ち場はダイゴの母上とお仲間が引き受けてくれたので、心おきなく。

 ダイゴが話してくれたんだけど、除夜の鐘は108打。
 そのうち107打を今年のうちに、最後の1打は年が変わってから、住職が撞くのがならわしなんだそうだ。
 オレたちが鐘楼へ招いてもらったのは、23時50分を回ったころ。
 数えていたわけじゃないけど、そろそろ100打に近いころなんだろうと思う。

 さて、鐘楼に立ったオレたち。
 「なんか緊張するっスね、ハヤトさん」
 「そうだね。ちゃんと音、出るかな……」
 「ははは。心配はいらんな、ハヤト。普通に撞けば鳴るものゆえ」
 「あ~、普通に、ね。それがちょっと心配だよな、ハヤト!!!」
 「え──こんな時にそんなこと言うなよ、リュウジ」
 「わはははは!!! まあいいってことよ。ほれ、誰から撞くんだ? ノブオ、行くか?」
 「は~い!!! んじゃお先に失礼しま~っす!!」

 元気に答えて、まずはノブオが鐘に向かって一打。
 やけにうれしそうな顔をしていた。
 ゴーーーン──といい音がした。
 
 続いてオレが一打。
 なんか心配そうなリュウジとノブオの顔が見えたけど、ダイゴが頷いたので撞いてみた。
 ゴーーーン──よかった、無事に普通の音がした。

 そしてリュウジの番。
 精神統一でもしているような真剣な面差しを見せての一打。
 ゴーーーーーン──ひときわ大きく響いて聞こえた。

 オレたちが順に撞いたあとは、ダイゴたち鬼浜寺の人たちに鐘楼は委ねられた。
 ダイゴが打ったのは、やっぱりオレたち素人とは違う趣があった。
 若いお坊さんたちの音もしかり。
 一打を刻むごと新年へと近づいていくっていうのがつぶさにわかる。
 「もうすぐだな、ハヤト」
 鐘楼のすぐそばで見上げているオレたちは、どことなく引き締まった気分だった。
 「うん。不思議な気分がする」
 「あ、住職っスよ」
 ノブオの声に振り返る。鐘の前には住職──ダイゴの親父さんが立っていた。
 「お、ほんとだ。じゃあもう年が変わるんだ」
 「そうだな」
 
 多くの人出で賑わう鬼浜寺の境内に、そのとき本当に清らかに澄んだ、胸にせまるような音が鳴り響いたんだ。
 それは住職が撞いた、108打めの鐘の音。
 同時に年が改まったことを報せる、節目の音だった。

 「オウ!! 新年あけましておめでとう」
 晴れ晴れとした声でリュウジが言った。
 「うん。おめでとう」
 「今年もきっといい年っスよね!!」
 「もちろんだ、ノブオ」
 いつしかオレたちの近くにきていたダイゴと、4人で揃って新年の挨拶をした。
 
 「よし!!! なんかこう、気分が改まったとこで──今年も夜露死苦ぅ!!」
 「夜露死苦ぅ!!」
 いつも通りのリュウジの宣言に、オレたちも気合いを入れてそう返したんだ。

 さて、今年はどんな年になるんだろう。
 どんな毎日がオレたちを待っているんだろう。
 見上げれば澄んだ冬の夜空。
 幾多の星が新しい年のはじまりとオレたちを見下ろしていた。



   * おおつごもり  完 *




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