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真夏の精神修行 3

 鬼浜寺掃除行部隊は、初日の修行を終えてすがすがしい疲労感に浸っていた。

 古風で大きな風呂で汗を流させてもらい、心づくしの夕餉を振る舞っていただき、なんか逆に恐縮してしまった。

 一息つくと、住職であるダイゴの父上が特別に説教を上げてくださった。
 「南無阿弥陀仏」の念仏の意味は「無量の光明の仏に帰依します」であること、「南無三」でいうところの「三」の示すことがらが「仏法僧」であるということ。
 そんなことを丁寧に、わかりやすく語っていただいたのだ。

 そして、静まりかえった鬼浜寺の夜。
 オレたち4人は、ダイゴに先導されて散歩に出ていた──。
 
 さすがに気がとがめたのか、リュウジは『肝試し』なんて言葉は慎んでいたけれど、ダイゴにせがんだのだ。
 「なあダイゴ。ちょっと外出てみねえ? こう、ろうそくとか持って」
 「外? こんな時間にか?」
 「おい、リュウジ……」
 「いいじゃねえかよ、ハヤト。だって、今どきこんな、真の暗闇って場所、そうそうねえだろ? いにしえの日本の夏みたいなのを味わえるんじゃねえかと思ってよ」

 「なるほど、そういうことか」
 ダイゴは頷いて立ち上がった。つとどこかへ消えて、ふたたび戻ってきたダイゴの手には、なんとも古風な提灯が。
 「どうだ、リュウジ? これで雰囲気出るか?」
 「おう、完璧!! じゃあ行こうぜ。おら、ノブオ、狸寝入りしてんじゃねえぞ!!」
 「ええ~~~、オレ、暗いの怖いっすよ、勘弁してください、兄貴ぃ」
 嫌がるノブオを布団から引きずり出して、そしてオレたちは縁側から下駄を履いて外へ出たんだ。

 「しかし本当に暗いな、この辺りは」
 街灯は遠くの道路に見えるだけ。寺の周辺はまったくの闇だ。
 境内には灯籠があるのだか、そのぼんやりした灯は、より四囲の闇を強調するかのようだった。
 「ハヤト、怖いんじゃねえの?」
 「そんなことないって」
 からかう口調のリュウジに返した。

 虫の声がうるさいほどだ。青臭い、草の息づかいすら聞こえてくるような気もする。
 ここはさっき草取りをし損なった辺り──墓所の外郭の木立の中だ。
 「ノブオ? 大丈夫か?」
 「いえ、あんまり。ハヤトさん、オレ……」
 「おい、声が震えてるじゃねえか、ノブオ。恐怖を克服することは強い精神を育てるための修行みたいなもんだぞ、わかってるのか?」
 「兄貴、そんな……」
 まあ、そう言えば言えないこともないかもな。こじつけまで堂に入っているあたり、リュウジはさすがなのかもしれない。

 「ノブオよ、早く歩け。はぐれるんじゃないぞ。俺は保証できんからな」
 「えええっ、ダイゴさんまでそんなぁぁぁ」
 ノブオの恐がり方がまるで子供で、オレたちはつい笑ってしまった。

 しばらくオレたちは、あまり声も出さずにダイゴの持つ提灯の明かりを頼りにして歩いた。
 さすがに墓地の内側に入ることはなかったものの、暗さと相俟って、充分すぎるくらい体感温度が低くなった気がした。もちろん気持ちの問題なのだが。
 
 「なあ──ダイゴ」
 急にリュウジが、珍しく掠れた声を出した。
 「?」
 一向はつい足を止めて、リュウジのほうを見た。
 「あれって……何だ?」
 リュウジの示すほうにあったのは、暗闇にぼんやり光るもの。ゆらゆらと揺れるように光を放っていた──。

 オレは心臓が高鳴るのを感じた。原初的な恐怖に、声も出ない。
 きっとリュウジも、ノブオも一緒なんだと思う。
 こんな状況で口を開くのは、ただひとり──ダイゴの低い声が一瞬できた静寂を破る。
 「あれか? あれは鬼火ってやつだ。珍しいものではないな」
 嗚呼──こんな環境で育つから、ダイゴは滅多なことには動じないんだ、きっと。

 恥ずかしながら、オレはすくんだ体を動かせずにいる。もちろんほかの2人も、と思いきや。
 「へええ、お、鬼火って──いうのか。き、綺麗だぜ」
 無理してまで言葉を放つリュウジは、やっぱり漢の中の漢なのかもしれないな──そう思いながらも、オレはいつしかノブオと手を握りあっていた。

 ダイゴの言うところの鬼火はすぐに消えてなくなり、そしてふたたび耳に虫の声が戻ってきた。どこか遠くないところで猫が鳴いたのに、オレは不覚にもびくっとしてしまう。
 そして、オレたちは誰からともなく散歩を切り上げる体勢に入っていたのだ。

 あてがわれた部屋に戻ってきたオレは、やけに疲れていた。筋肉痛どころではない。
 つとめて元気であろうとするリュウジは、さすが総隊長とされるだけのことはある。
 「なんだ、ハヤトもノブオもだらしねえな。精神修行が足りねえぞ!!! なあ、ダイゴ」
 「う~む。でも怖いものは怖いのでは? リュウジは怖くないのか?」
 「おう、ぜんぜん平気だぜ! さっきはいきなりで驚いたが。こうなったら何でも出てこいや!!!」
 「そうか。さすがだな、リュウジは。俺だって見たくないものもあるというのに」
 「え──?」

 いつもは無口なダイゴが、リュウジを相手に語っている。
 オレとノブオは黙って聞いていた。
 「世の中にはたくさんの魂魄が溢れている。その容れ物を具えたのが人間や動物だが、容れ物をなくしても存在する魂魄というものが存在する。つまり」
 「幽霊──?」
 「ぎゃ~~~、兄貴、言っちゃダメっす」
 「おい、ノブオ……」
 そんなノブオにかまわずに、ダイゴは続けた。

 「実は俺には、その容れ物をなくした存在が見えることがあってな。まあ、こういう家に生を受けたのも縁というものかもしれんが。だから、というか、俺がいつも目を半分閉じているのはそのせいなのだ」
 「そのせい──って言うと?」
 「見なくていいものを、半分は見ないままで済むということだ」

 オレたちは、いままで知らなかったダイゴの秘密を知った。
 リュウジですら黙っているところを見ると、多分この精神修行計画は成功だったんだな。
 オレはひっそりと、素晴らしい夏の経験をリュウジとダイゴに感謝した。

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コメント

きゃ~怖いッ!

私も肝試しは苦手ですー。
あと作り物とわかっててもお化け屋敷もダメッ!
何かが飛び出してくるっていうのが
ダメなんですよぉ!驚き屋さんなので。
夜道は平気なんですけどね。

>鬼火
ああ!鬼メーターに点灯してるのは
まさしく「鬼火」なんですねッ!!

鬼火

>ピノコさま
わたしも非常にびびり屋さんですww
ひとりでいるとき、放置していたケータイが鳴るだけでも傍目には笑えるほど「びくぅぅぅっ!!!」とします。
全身で反応します (^^;)

>ああ!鬼メーターに点灯してるのは
>まさしく「鬼火」なんですねッ!!
どうもそうらしいですね……。
わたしも書いてて気付かされましたよ、これがまた(汗)



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