目次

過去の記事をまとめて表示できるようにしてみました。 【 】がついている項目をクリックすると、それぞれのタイトルの記事を一括でお読みいただけます。 【 】内の数字が若い順に古い記事となっております。 【 】内の冒頭数字が同じものはそれぞれ対になるおはなしです。

これまでのおはなし

全タイトルを表示

御来訪感謝

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

祝福すべき平和な午後 2-1


 「マキよ。一体何の写真を見せようというのだ?」
 急に背後から張りのある声に言われて、思わずマキ姉さんもオレも首をすくめてしまった。
 オレたちと同時に、赤ジャージとリュウジの耳にもそれは届いたようだった。
 「あ、兄さん」
 「佐藤……?」
 「お前たち、病院の真正面で騒ぎ立てるとは何事」
 「あ、いけね。済みませんです」
 リュウジは従順に佐藤先生に頭を下げる。オレもそれに倣った。
 「ほれ、赤ジャージも謝っとけって!!!」
 「俺か? ……ああ、まあ――そうだな。大人げなかったな。反省する」
 今日は笑い上戸のマキ姉さんが赤ジャージを見てまた笑ってた。
 「それで? 写真というのは?」
 「ううん。気にしないで。何でもないから。ね、ハヤトくん」
 「え、ええ。何でもないです」
 オレはマキ姉さんと顔を見合わせてそう答えた。うん、きっとバレてるな。佐藤先生には……。

 「それよりも妹に聞いたが。剣道を思い出せたそうだな」
 と、佐藤先生は赤ジャージに話を振ったんだ。
 「ああ。おかげさまでな。ふとしたきっかけがあって助かったのだ。佐藤の教え子が木刀を振るのを偶然見てな。それで運良く」
 「コウヘイか?」
 訳知り顔で佐藤先生はリュウジに訊いた。
 「はい。そうです」
 はきはきとリュウジが答えた。胸を張ってるのはなんでだろうな。
 「残念ながら我が教え子よりも彼のほうが腕前が上だったがな」
 「あ、それはどうでもいいじゃねえかよ、赤ジャージ!!! 俺には拳ひとつで充分なんだっての」
 そんなリュウジの姿を見て、佐藤先生はどうしてだかうれしそうに頷いてた。
 もしかしたらマキ姉さんの言ってた写真の時代のことを思い出しているのかも。
  
 「ところで兄さん。いま中から出てきたの?」
 「そうだ。待合室からマキの姿が見えたので」
 「佐藤、どこか悪いのか?」
 「いや……そういうことではないのだ」
 と、佐藤先生は訊いた赤ジャージにいつもの強い調子ではなく答えた。
 「お見舞いか何かですか?」
 リュウジがそう問うのには、首を横に振る。
 「病気ではなくて、だな。ええと……中に家内が」
 「お姉さんが? 怪我?」
 「それも違う。ええとだな、あれだ」
 そんなに佐藤先生のことを詳しく知っているわけではないけれど、そんなオレにとってもきっとこれは意外なところを見たんじゃないのかな?
 迷いなく、きっぱりと強く言い切るタイプの人だと想像する佐藤先生が、語尾に指示語を使って濁してる。
 ほら、妹のマキ姉さんだって首をかしげてるから。

 「いま診察を受けているのだが、どうやら身ごもったようで……」
 一瞬の間をおいてから、佐藤先生が答えたのはこれだったんだ。

 「ええっ!!! 本当? お姉さんが?」
 「それはおめでたいことだ」
 聞くなり、マキ姉さんと赤ジャージがびっくりしながら諸手を挙げて喜んでる。
 リュウジもオレもなんかうれしくなってる。
 「佐藤先生、おめでとうございます!!!」
 「おめでとうございます。ええと、体はいたわってください」
 「……ハヤト。それは奥さんだろ?」
 「あ、そうか。間違えた。ちょっと気が動転してたな」
 「なんでハヤトが動転すんだ?」
 「ははは。諸君、ありがとうな。実際私も動転しているので大差ないかもしれん。現に栄養あるものを喰わないといけない気がしておるゆえ」
 ああ、佐藤先生ってなんかあったかい人なんだなあ――オレはそんなふうに思った。



<< 祝福すべき平和な午後 2-2 | ホーム | 祝福すべき平和な午後 1-2 >>


コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

 BLOG TOP 


  1. 無料アクセス解析
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。