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真夏の精神修行 4

 鬼浜寺での修行は2日目の朝を迎えていた。
 朝の掃除を手伝い、本堂で住職の読経を聞かせてもらい、朝食が済むとオレたちは墓所の外郭へと向かった。
 昨日やり残した、草取りの続きの作業だ。

 「朝に体を使うのって、気持ちいいっスね。ハヤトさん」
 「ん? あ、そうね」
 鎌を使うのも昨日より巧くなったとは思うが──あいにくの筋肉痛がオレを見舞っていた。よって、本当はあまり気持ちいいとか、そういう感じじゃなかったが。

 「あれ? ハヤトさん。なんか疲れてません?」
 「う~ん。ちょっとな。筋肉痛かな」
 「なはははは、それは辛いっスね」
 「ノブオは大丈夫なのか?」
 「ええ。オレは若いっスから。ハヤトさんより1コ」
 「ん?……何だって?」
 「おい、コラ!! そこ、しゃべってねえで手を動かせや!!!」
 いきなり叱責が飛んできた。相変わらず厳しいなあ、リュウジは。

 昨夜の恐怖の出来事は、もう誰も口に出そうとしなかった。
 ただ、あのあたりにアレが出たな、と考えながらそっちを見ると、ちょっと背中がぞくっと来たけど。

 「あ、猫だ」
 見れば、大小あわせて4匹の猫が近づいてきていた。
 「なに? ハヤト、どこだ?」
 「ほら、そこ」
 「わ~~~、カワイイっスね。親子ですかね」
 「おう、猫はいいな。喉鳴らすとより可愛いもんな」
 と、リュウジが鎌を置いて仔猫の喉を撫ではじめた。

 「この辺りには、たくさん住み着いているのだ。野良猫どもが。ときどき餌を施してやるからだろうが」
 「へえ、そうなのか。じゃあ俺、今度は餌もって来るかな」
 「はは、好きだねえ、リュウジ」
 「おう!!」
 もうメロメロの顔つきのリュウジが大きく頷いていた。

 「ギャッ!!」
 と──気ままに少し離れたところへ行きかけていた親猫らしきが鋭い鳴き声を上げた。
 何だ? とオレたちは一斉に顔をそちらへ向ける。
 「あ──れ? 鬼……浜?」
 オレたちの視線の先にあったものは、ピンクのモヒカンだった。言わずと知れた暗黒一家のタカシ少年だ。
 タカシの手には、小石が握られている。どうやらそのうちのひとつを、親猫に向かって投げつけたようだ。

 「この野郎、またお前か!!! 何しに現れた?」
 「わ、リュウジ──いや、別になんでもないゼ」
 「何でもねえってことは無いだろうが!!! 何で猫を虐めるんだ?」
 すでにリュウジは立ち上がり、タカシを真正面から睨んでいた。
 「い、いや、さっき公園で昼寝してたらコイツに引っかかれて、それで、仕返しに……」
 哀れな瞳で、タカシは逃げ腰の体勢を見せた。

 「仕返し、だと? 聞いて呆れる」
 「そうだそうだ!! こんなに可愛い猫を虐めて喜ぶなんて、暗黒かっこ悪いぞ」
 オレとノブオも立ち上がり、リュウジの両隣を固めた。
 「ええと、ゴメンナサイ!!! ほんの出来心です!!! 堪忍してください!!!」
 今まさに後ろに向かって逃げようとしたタカシだったが──音もなく背後に回り込んでいたダイゴに首根っこを捕まえられ、細い体を持ち上げられていた。

 「うわ~~~、ゴメンナサ~イ!!!」
 「謝るのならはじめから恥ずかしい真似はせんことだ」
 そう言って、ダイゴは宙づりにしたタカシから突然手を離した。
 着地の際にくずしたバランスをどうにか建て直し、タカシは逃げようとした。

 そのタカシの背中に、ダイゴが凄味を効かせてこう言い放った。
 「おい、おのれ、憑いとるぞ」
 「は?」
 「良くないものが背中に憑いておる、と言ったのだ」
 「──は?」
 思わず振り返ったタカシは目を見開いて、ダイゴを見つめていた。

 「充分に気を付けよ。また、おのれらの総帥にもおそらく何か強大なものが憑いておるはずだ。そう忠告しておけ」
 「え、ええっ? わ、そんな、ぎゃ~~~~~ッ!!!」

 もう、きっとパニックを起こしていたんだろう。
 ダイゴに言われてタカシは急に叫びながら走り出していた。
 よほど怖かったのか──かなり姿が遠くなるまで、木立にはタカシの泣き叫ぶ声が聞こえていた。

 「ふん、退治終了だ」
 そう言って、ダイゴはおもむろに鎌を持ち直していた。
 いつしか猫たちはどこかにいなくなっていた。

 その一幕が終わってしばし、オレたちは立ち竦んでいた。
 「ええと、ダイゴ」
 「何だ? リュウジ」
 「さっきモヒカンに言ってたの、って──」
 「ああ、あれか? ほんの冗談だ」
 細めた目で、ダイゴが笑った。
 
 「じょ、冗談って……」
 「押忍。仕返しにはあの程度で充分だと思ったのだ」
 「充分すぎるっす~~~」
 「ダイゴ、お前、冗談なんか言えたんだな……」
 リュウジが妙に感心しているのがおかしかった。

 「そう言や、ダイゴ、目はいつもどおり半分しか開いてなかったもんな。本当に憑いていたところで見えやしない、か」
 オレが言うと、ダイゴは頷いた。
 「ハヤト、正解だ。あれであの若造の精神も少しは鍛えられただろう」
 「お、ダイゴは優しいな。敵の修行までしてやるのか」
 「リュウジ──それ何か違う」
 
 ともあれ、オレたちの修行はそろそろ終わりに近づいていた。
 太陽はそろそろ中天。刈り取った草の青い匂いが夏の空気にとけ込んでいた。
 

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