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風にのって鈴の音が 5-2

 結局、収穫なし、だった。
 そろそろ帰ろうか――ということになったのは、すっかり日が落ちて、だいぶ気温も下がってからのこと。
 鬼浜町からはだいぶ遠くまで来ていたことに我ながら驚きながら、一応フウカに了解を得てからもと来た道をたどり始める。
 帰り道の途中でコンビニに寄って、肉まんと缶コーヒー、それからフウカのためにビスケットを買う。駐輪場の片隅の、人目につかないところを選んでオレはフウカをポケットから呼び出した。
 「フウカ。お腹すいただろ?」
 「うん。ありがとう、ハヤト」

 ちいさなフウカと、彼女の好きなビスケットを左の掌にのせる。オレは右手を缶コーヒーであっためながら、フウカを見ていた。フウカは人形みたいなかわいらしい指でビスケットの端っこを持って、えいっ、とばかりに断片を折りとってから満足そうに口に運んでいる。、
 「え――なに?」
 「いや、べつになんでもないけど?」
 「やだな、そんなに見ないで。恥ずかしいから」
 「あはは、それは悪かった」
 「もう。笑うことないでしょ」
 色白の頬にすこしばかりの薔薇色を掃いて、フウカは不満を口にする。
 それがまたとんでもなくかわいくて――口には出さないけど、オレは表情にそう混ぜ込んでフウカを見る。
 すると彼女はわざとのようにオレから瞳を逸らすんだ。
 「――だめだよ、ハヤト」
 「え? なにがだめなの?」
 「うん……なんでもない」
 一瞬だけうつむいてそう言って。けれども次に顔を上げたときにはもうなんでもなさそうな表情でフウカはオレに笑いかけた。

 ほんとは彼女が言いたいことは解る気がする。
 もともとの住む世界が違うから、とか。いつか帰らなきゃ行けないから、とか。
 けれどもそれは少なくとも『今』ではない。
 だからオレはあえて気づかないふりを決め込んで――人差し指でフウカの透けるような淡い色の長い髪をなでていた。
 先のことなんてどうでもよくて。ただ、この瞬間にオレがフウカと一緒にいることだけが真実で――そう思うことだけが今のオレの支えだった。
 
 帰り道の途中でも、もしかしてフウカが何か気配を感じたりしているかもしれないから所々で単車を止めて、フウカに問いかけて。
 そうこうしながら家までたどり着いたのは、22時を過ぎていた。
 居間でテレビを見ていた親父とお袋に声をかける。
 「ただいま」
 「おかえりなさい。ご飯は?」
 「うん。食べる。着替えてから」
 「おう、遅かったな、我が自慢の放蕩息子」
 「え、そう? 割と早いほうじゃない? 今日は」
 振り向く親父に答えるオレ。
 「早くはないだろう? これから合流するのか? 仲間連中とは」
 「……え――?」
 「今夜は集まりなんだろう? さっきからリュウジが何度か電話してきている。一度はここまで爆音轟かせて来たくらいだぞ。ハヤトはまだ帰らないのかと」
 「リュウジ……? あっ」
 そうだった。親父に言われて思い出した。
 今夜は集会だったんだ。

 その晩、オレは初めて集会に欠席した。
 明日の朝、リュウジはどんな顔してオレを迎えに来るだろう。心配させたくないんだけど……フウカを。
 こんなときでもそこに意識のいく自分に皮肉めいた笑いを捧げて、枕に頭を預けた。
 耳を澄ますと、フウカの寝息が鼓膜に届いた。なんだか安心するな――。



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