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風にのって鈴の音が 9-2

 白い靄を見た瞬間、オレの意識はふっと遠のいたのかもしれない。
 勝負の最中に気を抜くなんてことは絶対にしないはずのオレなのに、おのれの高鳴る鼓動を自覚したそのとき、周囲の景色が異質なものになっていることに気がついた。
 いつしか単車のスピードメーターは0km/hを示している。
 我知らずオレは単車を停めていた。
 そしてまた、熾烈なバトルを繰り広げていたハンゾウも。

 オレが国道を走り出して、行き合ったコウヘイらをぶっちぎった後あたりから確かにおかしな感じだったとは思う。
 周囲にあった車列が消えていたわけだし。
 ただ当たり前のようにハンゾウと出くわして、そんな場合でもないのにいつものように速度を競って――そうした結果、さらにおかしなことになっている。
 
 鬼浜町の東側の、暗黒水産を数km過ぎたところ。
 オレとハンゾウが前輪を同ラインに並べて単車を停めた、ここはちいさな漁港だ。
 空を覆う雲は分厚く、海の色は暗い。
 そちらの方角を振り返れば、いまだ雪と風とは強く鬼浜町界隈にたたきつけているらしい。
 にもかかわらず――オレとハンゾウのいる、海に張り出すようになったこの場所には静けさがあった。おかしなことに雪も風もない。寒さすらも感じなかった。

 ごくり、と自分の喉が鳴るのを、遠くで吹きすさぶ風の切れ間に聞いた。
 左の胸がやたらと熱い。
 心臓に覆い被さるように位置するポケットのその中にはフウカがいるんだ。
 
 オレはポケットに右手をやさしく差し入れた。
 指に馴染んだあたたかさがオレの全身を包み込む。
 中指にすがりつくフウカの感触を確かめて右手をポケットから抜く。
 すぐ横にハンゾウがいることなんてもうどうでもよかった。
 今までリュウジにも、気にかけてくれていたダイゴにも内緒にしていた存在を露わにすることを何とも思わなかった――いや、むしろそうすべきだと感じていた。

 てのひらをあたためるちいさなフウカ。紺色の瞳。透けるような肌。オレのいとおしい存在。
 「ハヤト」
 オレの名をフウカは呼んだ。耳に馴染んだ、鈴の音によく似た声。
 そしてオレを正面から見つめてちょこんとお辞儀をした。
 「ハヤト、どうもありがとう」
 「……フウカ?」
 オレが問うと、フウカは笑顔を見せる。心持ち影が混じり込んでいるようにも見える。
 「ハヤトのおかげで会えたわ。連れのセツカに」
 「え……?」
 フウカの視線を追う。その先にはハンゾウがいて。
 よく見ればハンゾウの左側の肩にちょこんとちいさな誰かが乗っかっていて――

 フウカと同じような格好をしたちいさきもの。透けるような銀色でフウカよりは短い髪の毛、瞳は明るめの紫色。
 ハンゾウが何かを呟く。ちいさきものがそれを受けて頷く。そんな光景を眺めているオレ。
 ああ、そうか。
 フウカの仲間はここにいたんだ。ハンゾウとともにいたんだ。
 偶然なのかな。それとも必然なのかな。
 
 ぼんやりと思って、てのひらに視線を戻した。
 「ハヤト。今までほんとうにありがとう。わたし、ハヤトのことはずっと忘れない。ハヤトがわたしのこと忘れても、わたしはずっと見守っているから」
 「フウカ? 一体何を言っているの? オレ、忘れるとか……そんなこと」
 せつない耳障りの言葉たちを、オレの意志は飲み込むのを拒んでいる。
 「ハヤトと波長が合ってよかった。楽しかったよ。セツカとはぐれて心細いはずなのに、心のどこかではこのまま……ううん、なんでもない」
 切なそうに笑むフウカ。オレは情けないことに言葉のひとつも出ないでいる。
 ただ目にフウカを焼き付けたくて。
 オレの恋したちいさなフウカを――。

 そのとき空から大きな風が吹いた。
 立っていられないほど強いというわけではなく、言い表すなら大いなる力を秘めたとでもいうような。
 どこか暖かくすら感じるその風がオレたちのいる漁港を包んだ。

 夜の海に、空のどこかから強い一条の光が差し込んでくる。
 まばゆい光に包まれて、そして体が軽くなるような感覚。
 何が起こっているのかなんてどうでもよかった。
 ただてのひらから、フウカの軽いながらも確実に存在する気配が次第にうすれていくことが真実悲しかった。
 オレの手を離れたフウカは宙に舞い、同じくハンゾウの肩から浮かび上がった仲間と手を取り合ったのを見た。
 そしてあの白い靄が生まれて――空に吸い込まれていったんだ。
 
 オレの目がフウカを捉えたのはそれが最後だった。
 あとに取り残されたオレ、それからハンゾウはしばらくの間ぽかんと空の一点を見つめて黙っていた。
 
 空になった左の胸ポケットが冷たい。
 喉の奥がしょっぱかった。鼻の奥がつんとした。
 それと、耳の奥で銀細工の鈴が、鳴らないはずの音をたてたのをはっきりと聞いた。
 もしかしたらオレは泣いているのかもしれない。
 もしかしたらハンゾウも同じかもしれない。


   * 風にのって鈴の音が  完 *


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