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海に降る夜の雪 1-1


 海辺の鬼浜町には有り得ないほどの激しい吹雪は過ぎ去った。
 いまは風もおさまって、ただ静かに粒の細かい雪が名残のようにはらはらと空から落ちてきている。ほどなく止みそうな気配ではある。
 
 さっきまで確かにともにあったちいさな、いとおしい存在が遠く離れていってしまったことへの空虚感がオレを満たしていた。
 漁港から立ち去ったのはしばらく無言で立ちつくした後のこと。
 おそらくオレと大差ない経験をしたと思われるハンゾウに促されてのことだった。
 「路面が凍結する前に戻ったほうがいい」
 「ああ、確かに……」
 そう声をかけられて現実に引き戻されたオレ。
 いつもならば互いを気遣う言葉なんて言い合うはずのない立場のオレとハンゾウだったけれど、今日ばかりは別だった。
 
 ハンゾウが先行して国道へ出た。それについてオレも単車をゆっくりと走らせる。
 国道は、雪の日にありがちなのろのろ運転の車列が続いている。
 そう――さっきまでまったく車の気配ひとつなかったことが嘘のように、想像できるとおりの雪の夜の国道の顔だった。
 暗黒水産を通り過ぎて町の方角へ。
 初めて見る、バトル中ではないライバルの単車を駆る後ろ姿。
 ハンゾウって案外肩幅広いんだな、なんてどうでもいいことを考える。

 鬼川にさしかかる手前で、ハンゾウはウィンカーを出した。国道を逸れる気らしい。
 オレンジ色の点滅が指示する方向は浜へ降りる脇道。
 ハンゾウが何をする気なんだか知らないけれど、オレもそれに倣う。
 角を折れたところでハンゾウは振り返る。オレが後ろを守っていることを認めて軽く頷いたように見えた。
 ハンゾウは浜の入り口に単車を停めて、そのまま砂浜を歩いて水際に近づいていった。
 無言のままオレもそれに従った。
 なんでそうする気になんたんだかわからない。ただ、きっとひとりでいたくなかったんだと思う。

 冬の浜に、それも夜になんて普段は降りることはない。
 しかも今はしんしんと雪が降っている。
 ハンゾウは黙って水際に立って、寄せる波を見ていた。
 「ハンゾウ」
 オレは静かに近づいて、スキンヘッドに声をかけた。
 「――ああ」
 いつもは鋭い奴の目が、今日は違った色合いを見せているように思う。
 頼りになる光源は国道をいく車のヘッドライトのみで、暗いから定かではないけれど。
 
 しばしの無言がオレとハンゾウの間に流れた。
 黙ったままハンゾウは水際に目を落としたままでいて、オレはというと空から来る雪が海面に融けていくのを見ている。
 海に降る夜の雪。静かにそれは吸い込まれていく。
 決して積もることはなく、即座に大いなる水の一部となるために。

 おそらくここ数日来、オレと似たような体験をしていただろうオレの強敵。
 なぜか知らずのうちに、奇妙な理解とか連帯とか、そんなのが生まれているようにも思う。
 いいよな――今日くらい。今夜くらいは敵同士の看板を下ろしたって。

 こんなとき、海は人にやさしいのかもしれない。規則的に寄せては返す波を見ていると、ようやく気持ちがおちついてくる。
 このまま雪と一緒に夜の海に融けてしまえたら、なんて幾分危険な蠱惑にとらわれるオレ。
 黙っているのがそろそろつらくなってきた。
 だからオレは今日だけはよき理解者であるはずのハンゾウの声を聞こうと試みた。
 「ハンゾウ」
 オレの声、ちょっとかすれてる。


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