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我が名にかけて 4-2

 初めて入った応接室の空気は、オレの知っている鬼工のどことも違う空気を醸している。
 なんか居心地よくないなあ、と思うのはきっと緊張しているせい。
 現在オレと時間を共有しているのは赤ジャージと教頭、それから上品な身なりをした、上品な雰囲気をもっている見知らぬおばあさん――そんな普段のオレにとって馴染みのない空間に包まれたオレは、身の置き所がないような感じ。

 とにかく座るようにと教頭に合図されて、オレは赤ジャージのとなりへ腰を下ろす。
 ……こんなゆったりしたソファになんて、もちろん座り慣れていないもんだから、余計に居心地がよろしくない。

 「こちらの坊ちゃんはどなたですか?」
 おばあさんが赤ジャージに問う。
 「はい。これはハヤトと申しまして、リュウジと親しい友人です」
 「あら、そうですか」
 おばあさんは、ふわりとやさしくオレに笑いかけた。本当に上品な物腰だよな。
 赤ジャージにこっそり膝をつねられて、あわててオレは会釈した。
 「ハヤト――です。はじめまして」
 いったん頭を下げたあとに正面から見たおばあさんの顔はふっくらとしていて、それを見たらすこし落ち着いた。

 「ハヤト君。こちらは鬼川のそばにお住まいの方で、この方のご主人様は――」
 「教頭先生。それは結構ですのよ」
 「ああ――これは失礼いたしました、奥様」
 と言って、教頭はおばあさんに深く頭を下げた。教頭のこんな姿は初めて見るな。
 ってことは、おばあさんのご主人は、よほど立派な人物なのかもしれない。
 「ハヤトさん。私は単なるリュウジさんに恩のあるおばあちゃんですわ。ただそれだけ」
 「リュウジに、ですか?」
 「ええ、そうよ。今日は一言お礼を言いたくて押しかけてきてしまったのですけれど……」

 そしておばあさんはこんなことを話してくれた。
 昨日の午前中、おばあさんのふたりのお孫さんたちが川原で愛犬の散歩をしていたときのことだそうだ。
 お孫さんたちは小学生と幼稚園の姉妹で、犬は小型犬。
 彼女たちは行き合った大きな野良犬と睨み合いになってしまったという。
 姉妹はおびえ、逃げ出すこともできずにいたらしい。そして愛犬はお姉さんのほうが手にしていたリードをゆるめた隙にやにわに逃走し――川へ入ってしまった、と。
 
 「そこにたまたま通りかかった方が勇敢にも救ってくれたのですよ。わたしの孫たちと愛犬を。孫達の前に立って野良犬を追い払ってくれ、野良犬が逃げてゆくと同時に川へ入って、愛犬を拾い上げてくれました。ご自分が濡れるのを厭わず、川へ入るときにとっさに脱いだ上着で、愛犬をぬぐってまでくださったそうなのです」
 おばあさんはうれしそうに話してくれたんだ。
 そして話の最後はこう締めくくられた。
 「上の孫がその方にお名前を伺ったところ、『鬼浜工業のリュウジ』さんとおっしゃられたということで、私はそれだけを頼りにこちらへ参ったのです。ああ、それにしてもきっと川の水がお体に障ったのでしょうね……」
 おばあさんは申し訳なさそうに表情を曇らせた。
 
 帰り際におばあさんは、オレの手をふんわりと握りしめてこう言った。
 「今日は直接お礼を申し上げられなかったのは残念でしたけれど、どうか宜しくお伝えくださいね。孫達も愛犬も、あなたのおかげで助かりました。どうもありがとうございます、と」
 「ええ。確かに伝えます」
 オレは微笑みを返しながらおばあさんの手を握り返した。
 
 なるほど、そんなことがあったんだ――
 おばあさんのちいさな後ろ姿を見送りながら、おぼろげに思う。
 確かにリュウジのしそうなことだよな。弱い者に助力を惜しまない、見返りも求めないでとにかく突っ走る漢、それが我らの総隊長――だけど、なんか引っかかるんだ。


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