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我が名にかけて 8-1



 「待って、そっちのお兄ちゃん。リュウジお兄ちゃんを叩いちゃダメなんだから」
 リュウジとコウヘイの一騎討ちを制した声が次に言ったのはそれだった。
 闘いを制する声に、あっけにとられるオレたち――そして今まさに激闘を繰り広げている当事者たちもまた。
 
 声の主は女の子。ふたつに分けてアップにした長い髪を風に揺らしている。
 女の子はひとりではなくて、もうひとりのもっと幼い女の子と、それから小型犬を連れていた。
 彼女は手にしていた、犬につないだリードの端を幼い子に握らせてから、果敢にも土手から降りてきて――漢同士の闘いの巷に躍り出た。

 「そっちのお兄ちゃん。何があったか知らないけれど、リュウジお兄ちゃんをいじめちゃダメだからね!!! だって、リュウジお兄ちゃんは優しくて、あたしたちを助けてくれた恩人なんだから」
 女の子が言う。土手の上ではそれに同意を示すかのように、犬がワンワンと吠えている。
 
 女の子は勇敢だった。
 リュウジとコウヘイの間に立って、両手を広げて闘いを制したのだから。オレたちの誰にもそんなことはできないわけで。
 とはいえ、何かがちょっと噛み合わない。
 彼女がにらみつけている相手がぽかんと口を開いて、彼女に問う。
 「え――なんだって?」
 「だからね、リュウジお兄ちゃんとけんかをしないでって言ってるの!! 高校生なのに、そんなこともわからないの?」 
 「――は?」

 女の子が諫めているのは赤いリーゼントの漢。
 その名はリュウジ。
 だけれども、女の子はリュウジに言う。『リュウジお兄ちゃんとけんかをしないで』――と。
 幼い姉妹と小型犬。ダイゴとオレは瞬時に悟って視線を交わした。
 そしてオレたちが揃って注目した人物は、思ったとおり少々慌てていて。
 
 「お嬢ちゃん。俺は大丈夫だ。心配はいらねえな」
 女の子が庇ったつもりの背後で彼は言った。
 「リュウジお兄ちゃん?」
 振り返って女の子は心配そうに彼を見上げる。
 「これはなあ、喧嘩なんかじゃねえんだぞ。ただ、そう、挨拶の延長みたいなものだ。漢同士の、な。お嬢ちゃんにはわからねえだろうがな」
 「そう……なの? リュウジお兄ちゃん」
 「ああ。だから、こいつも本気なんかじゃねえ。なあ?」
 そう彼は、女の子を間に置いた向かいの対戦者に問いかける。
 問われたほうは意味もわからずに頷いた――そう、おそらく幼い女の子の手前だったから。

 「だから、お嬢ちゃん、気にしねえでくれ。ほら、早く行かねえと暗くなるだろう? 散歩の続きがあるのだろうし」
 「あ――うん。そうなの、リュウジお兄ちゃん」 
 「では、もう行くがいい。俺のことはもう気にしねえでくれ。第一喧嘩だとしても、俺が負けるわけがねえ」
 「あ、そっか」
 それを聞いて、女の子は納得した顔になる。
 「そうだよね!!! リュウジお兄ちゃんはわざわざけんかして確かめなくたって、誰より強いんだもんね。それで、誰よりも優しいんだもんね」
 女の子は彼に向かってそう言って微笑んだ。そして最後に体の向きを変えて言う。
 「そっちのお兄ちゃんも、リュウジお兄ちゃんのすてきなところを見習うといいわ」
 指をさされたリュウジは、あっけにとられて女の子とコウヘイを見比べていた。
 女の子は正義を讃える顔で諫めるようにリュウジを見ていて、讃えられている当の本人は、非常に決まり悪そうな表情をこっそり作っていたのをオレたちは見逃さなかった。

 「それじゃさよなら、リュウジお兄ちゃん。また困ったら助けてくれるでしょ?」
 「ああ、約束だ」
 手を振って挨拶したあと、土手をよじ登る女の子に彼――コウヘイは手を添えてやっている。
 そしてオレたちは、幼い姉妹と小型犬の後ろ姿が見えなくなるまで黙っていたんだ。

 その後、勇敢な少女によって水を差されたリーダー対決が再開することはなかった。
 ぽかんとした表情で、リュウジはコウヘイにこう問うた。
 「何だ、あれは? コウヘイ――」
 「ふん。俺の知ったことか」
 「けど、お前、あの子と知り合いなんじゃねえのか?」
 「別に」
 「別にって何だ? ってか、何でお前が『リュウジお兄ちゃん』なんだ? おい!!!」
 「――何でもねえって言ってるだろうが!!! 俺はなあ、詮索されることが一番嫌いなのだ。それから正義感というやつにも虫酸が走る」
 「正義感だと? 何だ、それは」
 「何でもねえさ。ただ――いや」

 コウヘイはリュウジに視線を向けて何かを言いかけたけれども、結局は無言のままにリュウジの前から逃れるように土手を登った。登り切ったところでごほごほと咳き込んでいたみたいだ。
 それに倣って暗黒一家の面々も引き上げていき――タカシは最後に心底悔しそうな顔をこちらに見せた――、最終的にオレたち4人だけが河川敷の鉄橋下に取り残された格好で。


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