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鬼工七不思議 1-1

 鬼工の雰囲気を言葉で表すならば、威勢がいい、とか。騒々しい、とか。柄がよろしくない、とか。
 そんな鬼工を満たす空気からは切り離されたような空間にオレはいた。
 オレを包むのは、古びた紙の放つ独特な香りと静寂からくる耳鳴りみたいなもの。

 ここは昼休みの図書室だ。なんでも辞書が必要だと言うリュウジに付き合わされて来ている。
 ウチの学校は読書家やら勉強家といった存在はそんなに多くはないので――って、胸を張って言えることがどうか微妙だけど――、いつでも図書室は人気が少なくて静かだ。
 もっともどこでも図書室ってのは静まりかえっているもんだけど。それに、いつでも、って言い切れるほどオレもここへ頻繁に来るわけでもないけど。

 リュウジが辞書をめくり、それから百科事典を見ると言い出したので、オレはリュウジとはなれて図書室をうろついている。
 いくつもの書架、整然と並ぶ背表紙。それらをなんとなく見て歩くだけでも勉強した気になるのが不思議だ。
 そしてオレは、普段だったら絶対素通りのはずのひとつの書架の前にいた。
 そこは哲学書が並んだ一角。そもそも哲学なんて、ちっとも親しみのある言葉じゃないけれど。だからこそ、と言ったら変かもしれないけど、そのうちの一冊を手にとってみた。
 えんじ色の、布貼りの装丁。かなりの厚みがあって、ずっしり重い。
 タイトルは『西洋哲学史』。目次を見たけど内容はちんぷんかんぷんだ。
 ギリシャ哲学とか、観念論とか、神学とか書いてあるけど、まったく目に馴染みのない言葉の羅列。
 鬼工のお気楽生徒たちから存在を知られることなく、きっとこの本は何年も書架に座していたんだろう。最初にページを開いたときに、中紙がくっついてぱりぱりと音をたてたくらいだから。
 目次と同じく内容もさっぱりわからなくて、でもそれを眺めただけで勉強した気になれるオレは――やっぱりお気楽生徒の一員ってとこか。
 
 こういうのも勉強したらそれなりに楽しいこともあるんだろうか、なんて思って、その本を持って机に移動した。
 絶対に読破しよう、とかそういう意志があったわけじゃないけれど、たまには違った世界を覗いてみる気になっただけ。
 中に書いてあることがらは、最初から順を追って真剣に読まないと理解できそうにない。ってことだけが理解できた。
 それでもオレは、哲学者の肖像やら、社会科か美術の教科書かなんかで見たこのある有名な絵画の写真なんかを眺めていた。
 
 ぱらぱらとページを進めて、本の最後の索引に目を向けて。やっぱりろくに知っている単語すらろくにないことを確認してから本を閉じようとした――ところで気がついたんだ。
 最終ページの奥付の、ひとつ前のページ。
 まるまる1ページ分の余白があって、そこに印刷ではない文字が書き付けられている。
 古いインクのあと。鉛筆やボールペンの筆跡とは違うそれは、たしか万年筆のものだと推察できた。昔、じいちゃんの大事にしてた万年筆をいたずら書きに使ってしこたま叱られたことがある。そのときと同じ感覚で書かれた、強弱のある文字だった。
 誰が書いたんだか知らないけれど、おそらく鬼工の先輩の手によるものなんだろう。
 ちょっと読んでみたら、落書きと言うには興味深すぎることが書かれていたんだ。

 「ハヤト。待たせて悪い。用は済んだぜ。漫画もときどきは奥深くて難しいもんだからな」
 「ああ、リュウジ」
 その落書きに見入っていたオレの背後からリュウジがささやいた。さすがに場所柄、いつもより数段トーンの低いリュウジの声だった。
 「何読んでるんだ?」
 「うん。これ」
 と、オレは本を閉じてリュウジに表紙を見せた。
 「哲学? って、ハヤトこんな分野に興味あったのか」
 「いや。まったくないんだけどさ。なんとなく手に取ったら、こんなこと書いてあって」
 「どれ?」
 そしてオレはリュウジに見せた。鬼工の先輩らしきの残した記述を。
 「鬼工――七不思議?」
 字面を目で追うリュウジがちいさな声のまま、それを読み上げたのを聞いていた。





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