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春風到来 4

 
 
 今年はけっこう長い間咲いていた桜も、今やほとんど葉桜になっている。
 それでも、相変わらずの平和な春の日々をオレたちは満喫していた。
 平和ついでに、今日は単車でちょこっと遠くまで来ている。ここは鬼浜町からは30kmはあるだろう場所。海沿いの国道をそのまま西へと走ってきた。
 取り立ててどこへ行くという目的も持たないで走るのって、気分がいいな。
 
 信号待ちで単車を停めると、海からの風が髪を揺らす。
 「でも、あれだな、ハヤト」
 「ん?」
 海の方に目をやったまま、リュウジがオレの名を呼んだ。
 「同じ海って言ってもな、なんかこう、ウチのほうとは違うよな、空気が」
 「ああ、わかるな、それ。こっちのほうが穏やかな色してるかもね。海面が」
 「魚とか、たくさんいそうっスよね~」
 「そうだな、ノブオ。このあたりは漁業が盛んなのだ。もう少し先へ行くと、鬼浜町にあるよりもかなり大きい漁港があるはずだ。土産ならばかまぼこが有名だな」
 「へ~。ダイゴ、詳しいね」
 「押忍。家の手伝いでこちらのほうに来ることもあるゆえ、な」
 「なんつってもダイゴは物知りだからな!!! 心強いぜ」
 リュウジは大きく口を開いてそんなことを言った。うん、たしかにね。
 
 途中でひと休み、ということで、コンビニに立ち寄ってみる。
 それぞれに飲み物なんかを買って、駐車場で小休止だ。
 「てゆーか、ホントにのんびりしてますね、ここんとこ」
 「うん。そうだね、ノブオ」
 なんて、しゃがみ込んでノブオと話してる。
 「あ、ちょうちょ飛んでますよ~、ダイゴさん」
 「おう、本当だ。モンシロチョウだな」
 「あ、よかった。白いやつで」
 「はい? 何がよかったんっスか? ハヤトさん?」
 「子供のころ、いとこの亜由姉さんに教わったんだけどさ。春にはじめて見る蝶が白いやつだと、その年はいいことあるんだってさ。で、黄色いほうだとあんまりよくないって」
 「ほう――そのような言い伝えがあるのだな。聞いたことがなかったが」
 「オレも初耳っスね~」
 「へえ。亜由姉もあれで昔は、そういう少女っぽいとこもあったんだな!!!」
 リュウジがそんなふうに言う。
 オレのいとこの亜由姉さんはそれなりにリュウジをかわいがっているんだけど、リュウジはほんとは、亜由姉さんをちょっと恐れている感じ。
 ほら、基本的にリュウジって、女性には弱いから。

 「あれで、って、リュウジ。それ、亜由姉さんに聞かれたら、どんなことになると思う?」
 「わはははは!!! 聞かれるわけねえだろ!!! だってこんなとこに亜由姉が来るとも思えねえし。ってか、ハヤト。お前、まさか告げ口する気じゃねえよな?」
 「え。それはどうだろう」
 「オイ、コラ!!! ハヤト!!!」
 「あはは。やっぱり怖いんじゃん、リュウジ。亜由姉さんのこと」
 「そ――そんなんじゃねえけどよ」
 リュウジときたら、どういうわけだかこんなときには幼い顔になる。

 オレは知ってるけど、こんなところは年上の女性にはウケが決して悪くはないんだよな。
 あと、不思議とノブオにも。
 「うはは。なんか兄貴、カワイイっす~」
 「何だと、ノブオ? 俺が可愛いってどういう意味だか言ってみろや」
 「え、あ、えっと……特に深い意味は。い、いえ、そのう……」
 「あ、逃げるか、ノブオ!!! 待てや!!!」
 「あわわわわ、スミマセン、兄貴ぃぃぃ~」
 なんて調子で、リュウジとノブオは駐車場で追っかけっこなんてやってる。
 あ~、ほんと平和だ。オレたち。

 「うむ。まったくだ」
 「ん? 何が? ダイゴ」
 レクリエーションに興じるリュウジとノブオを見ながらダイゴが言った。
 「今、ハヤトが『平和だ』と言ったので。同意したのだが?」
 「え。オレ、そんなこと言ったっけ?」
 「押忍。そう聞こえたが? 違ったか?」
 「え……オレ」
 あれ。オレ、口に出して言ったっけかな。なんか、寝ぼけてるんだろうか。
 「まあ、いいか。そう思ったのは嘘じゃないしね」
 ダイゴもときどき不思議と鋭いところがあるから。
 おっと。ここは『不思議と』なんて心の中でも言ったらいけないか。もしかしたら聞こえてるかもしれないからね。ダイゴに。

 そんな平和なひとときを過ごしたあと。
 「さてと。今日はこれからどうすっか? もうちょっと行くか? それとも、土産でも買ってぼちぼち帰るか?」
 飲み終えたいちご牛乳の紙パックを丁寧に潰しながら、リュウジが言った。
 「どうだろうね。夕方になると、道路混むよね? 海岸線だし」
 「そうだな、ハヤト。しかし逆に、夜遅ければまた空いても来るが」
 「それも言えるっスね、ダイゴさん」
 「個人的にオレはもうちょっと先まで走ってもいいけど……」
 どうする――? という視線を3人でリュウジに投げた。こういう時の決断を下すのはリーダーの仕事だから。
 ちょっとだけ考えて、リュウジはこう言った。
 「よっしゃ!!! そしたらとりあえず、かまぼこ買いに行こうぜ!!! 名物なんだろ? 帰るか走るかは別として、せっかくだったら土産屋が閉まっちまう前に、な」
 リュウジの決断はこうだった。
 ちょっとした遠出。それでもって、その土地のおいしいもの。なるほど、そんな楽しみもあるんだな、単車に乗るっていうのは。
 走ることにばっかり意識が行ってしまうオレって、意外と損してるのかもしれないね。

 小休止したコンビニの駐車場を出たあとは、ダイゴの先導で土産店へ。
 名産だというかまぼこのほかにも、干物だとかの海産物がずらりと並ぶ大きな店だった。
 「おばちゃん!!! これ、試食してもいいのか?」
 「どうぞどうぞ、お兄ちゃん。おいしいよ~、うちのは」
 「どれ――」
 着くなりリュウジはこんな感じ。さっそく店番のおばさんに、親しげに声をかけてる。
 「オウ、なるほどな!!! 名産だけあるぜ」
 「兄貴、こっちの揚げかまぼこ、ってのはどうです?」
 「うん? お、これもうまそうだな、ノブオ」
 こんな調子で、リュウジとノブオのふたりは店の中で爪楊枝に刺さったあれこれを味見している。
 オレは、リュウジが選んだのと同じものを買って帰れば間違いないだろう、と思って、リュウジの出方を窺っているだけ。
 
 「そうそう。お兄ちゃん、こっちはどう? 今年の『春風かまぼこ』なんだけどねぇ」
 思いついたように店のおばさんが出してきた商品は、桜の花びらと、それから葉っぱの形と色をした、ちょっと変わった2種類のかまぼこだった。
 「ほう。綺麗な色だ」
 おばさんの手元をのぞき込んでダイゴが言った。
 「そうでしょう? 大きいお兄ちゃん」
 「押忍。この品物ははじめて目にするな」
 「これはね、毎年違う形をした春限定の商品なのよ。ちょうど――そうね。お兄ちゃんたちと同じくらいの高校生たちが作ったものでねぇ」
 「うん? 俺らみたいな歳の奴がこんなの作ってんのか!!! なんかすげえな!!!」
 おばさんの言葉に、リュウジはなんだか興味を持ったみたいだった。
 「こんなのを作れるってのは、きっと芸術家な職人なんだろうな、その高校生ってのは」
 ……このリュウジの感嘆した、他意のない発言が発端だったんだけど。


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