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春風到来 5

 
 
 春イメージのかまぼこを作っている工場が裏手にあるから、と店番のおばさんが言ったのを承けて、オレたちは土産店の裏へ回ってみた。
 国道沿いの土産店。裏手の工場というのは路地を隔てた向かい側にあった。

 工場は白い壁の大きな建物だった。
 「へえ。ここで作ってるんだな、かまぼこ」
 見上げてリュウジは言っている。
 「原料が目の前にたくさん泳いでるんだから、そりゃ新鮮なやつができるってことだね」
 「わはははは!!! そんなとこだな、ハヤト」
 なんて話していたら、店番のおばさんが後から出てきた。
 「ごめんなさいね~、お兄ちゃんたち」
 「うん? どうかしたか? おばちゃん」
 「いえね、いつもだったら工場見学できるのよ。だから工場に連絡してみたんだけどね」
 「へえ、見学か!!! そんなのできるんだな」
 「そうなのよ、普段なら、ね。けれど今日はお断りされちゃったのよ」
 おばさんは済まなそうに、かぶっていた三角巾をはずしてリュウジに頭をちょこっと下げてる。

 「いまここで、『春風かまぼこ』を作ってる高校生たちっていうのは、ちょうど研修でここへ来ているのよ。それで、今の時間ちょうど彼らが大勢作業中だから遠慮してもらいたい、って。今日が最終日だから大変なんですって」
 「ふうん。それじゃしかたないね、リュウジ」
 「まあ、いろいろ事情ってのもあるだろうからな。今日はあきらめるか」
 「そうだな。それほどここは遠い場所でもないゆえ。また走りに来るのもよいな」
 「ですね~、ダイゴさん。お楽しみはあとで、ってのもイイっスよ」
 「ほんとにごめんなさいね、お兄ちゃんたち。おわびにサービスするから、お店に寄ってってね」
 オレたちのお袋よりも年上っぽいおばさんが、にこりと笑ってそう言った。
 「オウ!!! それはうれしいぜ、おばちゃん!!! よっしゃ、そしたら今日はかまぼこ買って、そろそろ鬼浜町へ戻ろうぜ」
 「うん、了解」

 リュウジの言にうなずいたオレたちを見て、おばさんが口を挟んだんだ。
 「あら、お兄ちゃんたち、鬼浜町から来ているの?」
 「そうだぜ、おばちゃん。ちょっと散歩がてら、な?」
 「は~い!!! 兄貴の言うとおり」
 「そうだったのね。それは奇遇だわ。ほら、いま研修中で、さっきの『春風かまぼこ』を作った高校生たちも、そっちのほうから来てる子たちよ」
 「ほう――?」
 ダイゴがおばさんと工場を見比べながら応えた。
 「なかなかやんちゃそうな子たちだわ」
 うふふ、なんて笑いながら、おばさんはリュウジを見て、そして一歩先に店の中へと戻っていった。
 
 なんか――なんか予感がしないか?
 気配とかそういうのに鈍いってリュウジに評されるオレでも『何か』を感じるわけで。
 4人でなんとなく目配せをしていたときだった。
 工場の門へトラックが入ってきた。
 建物の横に荷台をつけてトラックが止まると、ガラガラという音が聞こえた。内側からシャッターを開けたんだろう。
 開いた荷台からはいくつものコンテナがおろされて、シャッターの開いた建物に次々に運ばれていく。コンテナの中身はきっと魚だろうと想像できる。

 その様子を無言で見守っているオレたち。
 そして、オレたちの視界にひっかかったのは、コンテナに群がるおそらく研修中だという高校生の一団だった。

 ほらな――やっぱり。
 久し振りに見る奴らの姿は、作業着とゴムの前掛け、ゴム長靴といった出で立ちで。
 作業用の帽子もかぶっているので、印象はずいぶんと違うけれど。
 号令をかけているのは、あれ、コウヘイだ。
 それに応えている野生の叫び、あんな体格の奴はゴンタに違いない。
 スキンヘッドもモヒカンも帽子の下だけど、あっちはハンゾウで、隣はタカシだ。

 「ああっ!! 奴ら、暗黒一家じゃないっスか~!!!」
 「シッ、ばか、ノブオ。声が大きいよ」
 「あ、すみません、ハヤトさん」
 そりゃ、ね。声のひとつも出したくなるの、わかるけど。
 「そうか。研修中の高校生って、奴らだったんだ」
 「だな、ハヤト。暗黒一家って、水産高校だもんな。こんなとこにいたんだな。道理で最近、鬼浜町が平和だったわけだぜ」
 「リュウジ。どのみち、このような場所で挨拶はまずいのではないか?」
 「オウ、ダイゴ。まったくだ。気づかれる前に退こうぜ」

 リュウジにしては小声で言ったときだった。
 工場の門から出てきた小柄な人物が、オレたちのいる場所――土産店の裏口扉がある――を目指して走ってきた。
 手には大きめのダンボール箱を抱えている。その箱の上にも何かが不安定な様子で乗っかっていて。
 彼は最初に、オレと目があった。
 あれ――? って顔をしたような気がする。
 その後すぐにリュウジの姿が目に入ったみたい。
 すると急に、びっくりしたように一瞬足をとめて――そのせいで、箱の上に乗っていた何かが道路に落ちてしまう。

 「オイ、落ちたぜ」
 足許に転がってきた落とし物――さっきオレたちが土産店で試食させてもらった『春風かまぼこ』のパッケージだった――を拾って、リュウジは彼に手渡した。
 「あ――」
 「大事なもんだろ? ほら」
 「…………どうも」
 垣間見た暗黒一家と同じ出で立ちの、小柄で眼鏡をかけた彼は、オレたちを見て顔色を変えたと見える。
 ってことは、少なくともオレたちの顔を知っているってことだな。
 
 その問答の気配がしたのだろうか。
 工場の建物の方角から、彼の名前らしきを呼ぶ大音声が聞こえてきた。
 「ゴラァ!!! ミツル、何、油売ってやがる」
 振り向かなくても誰の発したものだかわかる、それは物騒な叫びだった。
 「す……済みません、何でもありません」
 そちらに向かって叫び返す彼。
 ヤバい、気配が近づいてくるんじゃないか?
 こんなところで事を構える気なんかないのは、リュウジの様子を見ても明白。だったらオレたちのすべきことは――奴らに姿を見せないことだけだよな。
 
 結局オレたちは何も言わずに小柄な彼をあとにして、狭い路地を通って正面玄関からもう一度土産店に入っていった。
 本当はこのまま、何も買わないで帰ったほうがよかったような気もするんだけど、店のおばさんと約束したのをリュウジが破れるわけもなく。
 それぞれに土産品を選んでレジに持っていったら、おばさんはにこやかに、これサービスね、って言いながら、オレたちそれぞれの袋に『春風かまぼこ』を入れてくれたんだ。
 さすがに誰も、お金出してこれを買う勇気はなかったんだけど。
 「奴らの作品――か」
 「まあな、誰が作ったものだとしても、旨いもんは旨いからな……」
 土産店の名前が印刷されたビニール袋をまじまじと見つめながら、複雑そうな表情でリュウジは言った。



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