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春風到来 6



 土産店と、その裏手のかまぼこ工場と。
 久々に見る暗黒一家の姿と、奴らの作った繊細な印象の『春風かまぼこ』と。
 あれこれ思いをよぎらせながら、鬼浜町まで続く海沿いの国道を単車で走る。夕方が近いから、そろそろ道路も混んできそうな頃合いだった。
 さっき寄ったコンビニの前を通過するときのこと。
 リュウジがふと思い立ったらしくオレたちを振り返って促した。
 なんだろ――? と、リュウジのあとについて駐車場に単車を止めた。ダイゴとノブオもオレのあとに続く。
 
 「どうかした?」
 オレの問いかけに、オウ、と目顔でリュウジは応えた。
 「いやな、走ってて、ずっと気になっててな」
 「何?」
 「これだ、これ」
 そしてリュウジが懐から取り出した財布の、その中身。
 大事そうに手に取ったそれは、数日前に河川敷で出会った酔っぱらった親父さんから預かっている写真だった。
 リュウジは写真に目を落として納得したような顔をすると、写真をオレに手渡しながらこう言った。
 「似てねえか? さっきの」
 「さっきの、って――」
 「ほら、かまぼこ屋の裏で会った奴」
 
 手渡された写真は、前に一度見た古い家族写真。写っているのは河川敷で会った、小柄で眼鏡の親父さんと奥さんであろう女性、それから彼らの息子だという子供がひとり。
 正直言って、何年も前に撮られた人物の現在の姿なんて、オレには想像もできなくて。
 ちょっと困って、写真をダイゴに回してみた。
 「なるほど、確かにな。体格も顔立ちも、この写真よりは現在の実物のほうが、先日の父親には似ていたかもしれんな」
 「ダイゴさん、オレにも見せてくださいっス」
 写真はダイゴからノブオの手に渡る。そしたらノブオも、もっともらしく頷いてる。
 
 「似てるだろ?」
 「まあ、言われてみればそうかもね」
 オレとしては、まったく自信ないけど言ってみた。
 「きっとビンゴっスね~!! すっごい偶然」
 「偶然ってか、どっちかって言ったらそんなことだろうと思ったけどな、俺は」
 「確かに。まあ、あの広くはない町で不良と称される一団で、俺達に心当たりがないということは、な」
 「だろう? ダイゴ。ウチじゃねえってことは、暗黒にいるんだろうって思ったぜ」
 「さっすが兄貴!!! ご明察っスね~」
 ノブオが拍手なんかしてる。でもって、オレは違うところに突っ込んでみた。
 「っていうか、オレたちって一般的にはそんなに不良なのかな?」
 「……少なくともハヤトは、な。俺なんかよりずっと立派な不良じゃねえか」
 なんでかため息なんかついてるのは、ウチの総隊長。なんでだろう。

 「つーか、あの親父。早とちりだったんじゃねえのか? 息子が家出したんだとか言ってたよな?」
 「ああ、そうか。彼が該当者だとしたら、家出じゃなくて学校の研修だったんだ」
 「確かに。ここ数日来のことを言っておられたのだとしたら、誤解なのだろう」
 「う~ん。親子の対話って、大事なんっスね~」
 「その点、ノブオは親孝行だよね。だって、何でも話すだろ? お袋さんに」
 「そりゃそうっスよ、ハヤトさん!! オレ、母ちゃんと仲良しですもん」
 誇らしげにノブオが言ってる。それはそれでほほえましいって言えば、そうだけど。

 「ともあれ、暗黒水産の連中はここのところ、研修でかまぼこを作っていた、っていうのが事実なんだよね?」
 「そうだな、ハヤト。ってか、ここ最近の町が平和だったからくりってのがわかって、俺、ちょっと安心したような気がするぜ!!!」
 「そして先程の人物が例の親父さんの息子だとすると、今現在は心配不要ということだ」
 ダイゴが言うと、より一層安心できるような気がするんだよな。

 「よっしゃ!!! そしたらさっそく報告してやろうぜ、親父に」
 「え? どうやって?」
 「写真の裏を見てみろ、ハヤト」
 リュウジに手渡された、例の写真。裏返してみたら、電話番号が書いてあった。
 「え――電話番号? ずいぶん珍しいことをするね」
 「俺も最初は気づかなかったけどな」
 「というか、よほど大事な写真なのかも知れんな、それは」
 「それ預かってるんだもんな、俺って案外責任重大だよな!!!」

 善は急げ、とばかりに、リュウジはコンビニの前にある公衆電話に走った。
 しばらく受話器に向かって、ときどきお辞儀なんかしながらしゃべっているリュウジを遠目で見守っていた。
 電話を切ったリュウジがオレたちのもとへ戻ってきたのは、夕陽が差しそめる頃だった。
 「どうだった? 連絡ついた?」
 「オウ。親父の息子は暗黒水産の1年で、ミツルって名前だった。ってか、緊張したぜ!!! この番号な、会社のやつらしくてよ。親父の名前知らねえから、ミツルの父ちゃんいるか、って聞いたら『少々お待ちくださいませ、ただいまお繋ぎいたします』ときたもんだ」
 「へ~。そりゃごくろうさん。ってか、よくそれで親父さんだってわかったよな」
 「ああ。俺もそう思ったけどな。でも、それ以外にどう言っていいか思いつかなかったからな。通じてよかったぜ」
 なるほど。さっきお辞儀してたのはそのときだったんだ、きっと。
 「やはり彼が正解だったのだな」
 「オウ、そうみたいだな、ダイゴ」
 「ってことは、やっぱり家出は親父サンの早とちりだったってことっスかね?」
 「いや、どうもそればっかりでもねえようだ。研修そのものは知ってたみたいなんだよな、親父。それより前から帰ってきてねえんだと」
 「へえ。そうだったんだ。それは思ったより根が深いかもね」
 だとしたら、親父さんとは約束したけれど。オレたちが云々できる立場じゃないのかも。
 オレたちと暗黒一家。互いに踏み込めない領域っていうのは、確かにあるから。
 
 「とにかく、任務が残ってるんだよな。あいつに『家に帰れ』って、俺、言わないといけねえんだよな」
 ほら、リュウジは板挟みになっている。
 親父さんとの約束と、常日頃の暗黒一家との間に引いた一線とのはざまでの板挟み。
 都合のいいほうをとって、悪い方をおざなりに、なんてできないあたりがリュウジの人となりなんだろうけど。

 けれども、とにかく――といった雰囲気でリュウジはこう続けたんだ。
 「俺、明日写真返しに親父んとこ行ってくるわ。会社の場所もわかるし、もうあいつの顔は覚えたしな!!! 今日は言えなかったけども、次に会ったら伝言すればいいよな?」
 「あんまり親父さんを心配させるな、って?」
 「オウ!!! ウチのノブオを見習え、って言っとくぜ。なあ、ノブオ?」
 「あ、兄貴!! 光栄っス~」
 ここ最近のリュウジってば、のせ上手になっている気がする。
 そうか、そうしてやったらノブオみたいなタイプは、きっと伸びるってことなんだ。
 「なるほどね。リーダーっていうのは、そういうところが巧くないといけないんだな」
 「うん? それはどういう意味だ? ハヤト」
 「あ――いや、何でもない。あはは」

 伸びようとしているノブオ。伸ばそうとしているリュウジ。
 これでいいバランスなんだな、きっと――って、ダイゴを仰ぎ見たらにこりと笑ってた。
 不思議と、ではなくて、察しのいいダイゴにはきっとわかってるんだよね?
 見慣れた風景とは違う海が、最初の夕陽を受けてきらりと光を放つ時間。
 なぜだか急に、居心地のいい鬼浜町が恋しくなってきたのは――この4人で一緒にいるからなのかもしれない。


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