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春風到来 7

 
 
 「なあ、ハヤト」
 「ん? なに?」
 「お前、あのかまぼこ、食ったか?」
 「ああ、『春風かまぼこ』のことか」
 翌日の放課後のこと。例の親父さんに写真を返しにいくというリュウジに付き合って、ふたりで話しながら歩いてる。
 「リュウジは?」
 「俺は――まだだけどな」
 「うん。オレもだ。っていうか、冷蔵庫に入れといたから、帰ったらもうないかもしれない。ウチの親父、ああいうの好きだからね。それ以前に、食べ物には見境ないし」
 「そうか」

 リュウジは複雑な表情をしていた。
 昨日の遠出で買ったお土産の「おまけ」としてサービスしてもらった桜の花と葉っぱの形をしたかまぼこは、工場で研修中の暗黒水産高校の生徒作だったんだ。
 「でも、リュウジは食べたいんだろ? かまぼこ好きだもんね」
 「オウ。実はそうだったりもするぜ。そうとは知らずに試食したやつ、旨かったからな」
 「いいじゃん、食べれば。ほら、『敵を喰う』みたいなたとえだと思ったら、けっこうおいしくいただけるんじゃないの?」
 「お、意外といいこと言うな、ハヤト!!! んじゃ、そうすっか!!! そうだよな、喰ってやればいいんだよな、奴らのことなんて」
 オレのほんの思いつきを聞いて、リュウジは満足そうにしてる。
 「よっしゃ!!! そしたら速攻、用事済ませてうちのやつ一緒に食おうぜ、ハヤト!!!」
 「え? オレ? いや……オレはいいよ」
 「なんでだよ? お前、そんな態度じゃ逆に敵に喰われちまうぜ?」
 「ん~、やめとく。オレの胃腸って、けっこうデリケートだから。リュウジと違って」
 「何だと!!!」
 リュウジがふざけて拳骨を繰り出してくる。
 オレも、あはは、なんて笑いながら応戦するポーズ。ポーズをとるだけだけど。
 そんなこんなで、リュウジと一緒に歩くいつもの町。
 春の天気は変わりやすいみたいで、なんだか雲行きが怪しい日だった。

 「あれ、こっちの方なんだ」
 「そうだ。ハヤトん家から、わりと近いだろ?」
 親父さんの会社っていうのは、オレの家のわりと近所にあるオフィスビルに入っているらしい。今の時間は仕事中だろうから、約束はしていないけれど行ってみるとリュウジは言った。もしいなくても、受け付けのお姉さんに渡しておけばいいか、とも。
 差しかかったのは目的地まであとちょっとの、見覚えのある場所だ。
 「あ、ここ。懐かしいね」
 「オウ!!! 秋にさんざ練習したもんな、自転車」
 リュウジがにこりとこう言った。
 「そうだね。ケイタ、がんばってたもんな」
 「あいつ、もうちゃんと乗れるのか?」
 「うん。ばっちり乗り回してるよ。こないだなんか、手放し運転してた」
 「わはは!!! そりゃ巧くなったもんだぜ。ハヤトにはできねえだろ、手放しなんて」
 「……いいじゃん、別に」
 ケイタっていうのは、オレの家の近所に住んでる小学生。去年の秋にケイタに頼まれて、自転車教習をしてやったんだ。
 実はオレ、そのときまで自転車に乗れなかったもんで――自らもけっこう苦労しての役目だった。ケイタに内緒で、ダイゴの家で合宿して自転車乗りの練習したりして。
 
 で、ここはその思い出の場所。ケイタが何度も転んで、それで自転車に乗れるようになった練習場――かなり前に廃業したって聞く、パチンコ屋の駐車場だ。
 金網が張られてはいるけれど、その破れ目から簡単に中へ入れる。その金網に手をかけるなり、リュウジはいたずらっぽい目でオレを見た。
 「ハヤト、ここ、突っ切っていこうぜ!!!」
 「うん、了解」
 道順からすると遠回りになるとは思うんだけど。でも、オレもなんとなくそんな気分。
 
 駐車場側から敷地内に入っていって、逆側の金網の破れ目を目指す途中。
 昔は賑わっていたんだろう、今は喧噪も人気もないパチンコ屋の建物の前を通るとき。
 「うん? 誰かいるな」
 リュウジがひそめた声でそう言った。
 「え? どこに?」
 「いや、それはわかんねえ。けど、気配するだろ? あと匂いがするぜ」
 「匂い……?」
 「オウ。あっちだな」
 リュウジが確信を持って指さすのは、建物のさらに先みたいだ。雰囲気からすると、景品買取所か何かだったと思われる場所のほう。
 
 気配とやらを頼りに、そちらに足を向けるリュウジについていく。
 「あ、なるほど」
 向かう途中でわかった。リュウジが感じた『匂い』っていうのは、たばこの匂いだったようだ。
 近づいていったら、煙が出てるのが見える。
 それと、誰か――おそらく気配の主が咳き込むのが耳に入ってきたんだ。
 何を思ったんだか、リュウジは迷わずそちらに近づいていって、そしてこう叫んだ。
 「オイ!!! お前、学ラン着てる分際でたばこはねえだろうが!!!」
 
 リュウジの声に、しゃがみこんでいた学ラン姿は、びくりと肩を震わせて振り向いた。
 「――あ」
 そして彼はリュウジとオレとの顔を交互に見て、驚いた様子で指の間から火の付いたままのたばこを地面に落としてしまう。
 「お前!!! 火の始末は怠るんじゃねえぞ。ってか、吸い殻そのままってのも論外だぜ!!!」
 こんな状況でリュウジの正論に楯突くことのできる奴って、そうそういないだろうな。多分オレにだってできないから。
 仕方なさそうに、学ラン姿の喫煙者は落としてしまったたばこの火を消して――吸い殻をそのままポケットに落とし込んでいる。
 手持ちの携帯灰皿を貸してあげてもいいかと思ったけど――リュウジの怒りの矛先がこっちに来るからやめとこう。
 
 あれ? っていうか。
 よく見たら、彼の学ランってあれだな――しかも、彼の顔には見覚えあるよな?
 腕組みしているリュウジを仰ぎ見たら、そんなことは先刻承知といった表情だった。
 「お前、昨日も俺と会ったよな?」
 「…………」
 「暗黒水産のミツルだろ? お前」
 「…………」
 「黙ってることねえだろうが!!!」
 彼――暗黒水産のミツルは、けっこう剛胆な人物なのかもしれなかった。リュウジの怒号に動じることなく、小柄な体と眼鏡の両目でリュウジを正面から見上げていたから。

 相手から応えがないことなんて意に介さず、といった感じでリュウジが言いつのる。
 「俺らは、お前を捜していたんだぜ。こんなとこで会えるなんて好都合だよな、ハヤト」
 「うん。たしかに。それは言える。手間が省けたな、リュウジ」
 「なぜあなた方が、僕を?」
 それを聞いて、さすがに彼も身構えてる。それはそうだよな。
 自分たちの敵にあたる集団の総隊長に名指しで捜されている、なんて、気分のいいもんじゃないだろう。
 「俺らは、お前宛の伝言を預かってる。お前の親父からだ」
 「親父――?」
 「うん、そう。君の親父さんからね」
 「いいか、よく聞けな。お前の親父、『家に帰ってこい』って言ってたぜ」
 「え――親父が、僕に? それよりも、何故あなたがたにそんなことを……」
 眼鏡の奥で彼の表情が変わったように思えた。
 まるで、移りやすい今日の空模様みたいに。


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