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春の突風吹き止んで 2



 「まあいいや。俺は難しいの好きじゃねえからな!!! あ、そうだ。忘れるとこだったぜ」
 そしてリュウジは話題を変える。
 ソファの隅に置いてあった、鞄とは違う方の紙袋を親父さんに差し出しながらこう言った。
 「親父。よかったらこれ、食ってくれるか?」
 「これは?」
 「オウ。ミツルたちが作ったかまぼこだぜ」
 「かまぼこ……」
 言いながら親父さんは紙袋を開けて、中身を手に取った。

 それはある意味、今回の騒動の転機になった品物――『春風かまぼこ』のパッケージ。
 ああ、そうか。リュウジも結局、まだ食べていなかったんだな、これを。
 「ほう。息子はこれを作っていたのだな」
 「オウ!!! 色も形もキレイだろ? わりと旨いし。なあ、ハヤト?」
 「うん。試食したけど、意外と繊細な味……って、意外とは失礼か。あはは」
 「わはははは!!! まあ、奴らが繊細ってのもアレだしな!!!」
 リュウジとオレの会話を聞いて、親父さんはにこりと笑ったみたい。
 「ありがとう。息子は何も持って帰ってこなかったので、これはうれしい。リュウジ君」
 「だろう? そんなことだと思ったぜ!!! あいつ、あの時点では何か覚悟してたみたいだしな」
 ああ、なるほど。ミツルくんは退学する意志すら持っていた。
 そのへんのことも、ゆうべは親父さんには話したんだろうか。
 
 「まあ、いいや。とにかく食ってくれな? 少なくとも俺が食うよりも、かまぼこもしあわせだと思うからな」
 「ああ。私も幸せかも知れんしな」
 親父さんは目の前のリュウジから、視線を『春風かまぼこ』に移した。
 どこどなく愛おしむような目でそれを見る――うん。リュウジの手元にあったらそんな目で見られることもなかったんだろうから。どっちかって言ったら、挑むような目つきで開封されたに違いないんだから。
 よかったね。桜の形のかまぼこたち。
 
 そのとき応接室の扉がノックされて、外から受付のお姉さんが室に入ってきて。
 そして親父さんに向かってこう言ったんだ。
 「恐れ入ります、社長。そろそろお時間です」
 「わかっている。すぐに行く」
 壁の時計にちらりと目を向けてから親父さんがそう答えると、お姉さんは一礼して扉を閉めた。
 「うん? 社長? 親父って社長さんなのか!!!」
 びっくりしたように目を見開いて、リュウジは言った。
 「ああ、そのようだ。小さい会社だが、一応は」
 「すげえな、なんか、すげえな!!! ハヤト、社長さんだってよ?」
 「あはははは。それ言ったら、リュウジんとこの親父さんだって一緒だよ。経営者じゃんか。昇龍軒の」
 「あ――そうか」
 「リュウジだって跡継ぎなんだろ? だからミツルくんと一緒じゃないか。リュウジにだって帝王学が必要だってことだよ」
 「オウ――なんか難しいやつが必要なのか」
 オレが言ったらリュウジは小声で、自信なさそうに言った。
 大丈夫、リュウジ、けっこう素質あるから――って言ってやろうとしたけど、先を越されちゃった。
 「リュウジ君は難しく考えるよりも、そのまままっすぐに伸びていったらよいだろう」
 眼鏡の奥で、親父さんの目がきらりと光った。なんだか強い輝きだったのは、レンズに蛍光灯が反射したせいだけでもなさそうだ。

 まあね。ほんと言うと、オレも似たような立場だけど。将来はたぶん親父の跡を継ぐことになるんだろうけど。
 そのへんはリュウジが気づいていないみたいだから、今日のところはスルーしてもらっていいかな。だって、まだ城主になる勉強の最中だから。オレは。
 
 親父さんに送られながら、会社の廊下を歩いてエントランスまで。
 その途中で、オレがちょっとだけ気になっていたことを訊いてみる。
 「親父さん。あの――」
 「何だね? ハヤト君」
 「昨日、あの場所が『新しい仕事場だ』って言ってましたよね?」
 「ああ、あそこか。立て替えをすることになってね、その内装を担当するのが我が社に決まったので、その下見だったのだ。昨日は雨で中止になったのだがね」
 「そうだったんですか。でも……立て替えってことは、もしかして?」
 「うん? ハヤト、なんでそんなうれしそうな声出してるんだ?」
 「え――」
 問われてどきっとしたオレと、いぶかしんでいるリュウジの一歩前にいた親父さんは、振り返ってこう答えた。
 「大手企業に買い取られてね。10年ぶりに再建の見通しになったのだ。あの店は」
 「へえ。そうなんですか。楽しみだなあ」
 「だから、なんだってハヤトは、そんな顔を――って、ああっ!!!」
 やっとリュウジは思い出したらしい。
 あそこが元々、どんな店だったのか。
 オレの密かな趣味が、何だったんだか。
 
 さすがに場所をわきまえて、リュウジはその場で大声を出したりはしなかったけれど。
 別れ際にエントランスで親父さんと握手をして。
 やけにすがすがしい気分で一歩外へ出たとたん。

 「そうか。そういうことだったんだな? やっとわかったぜ。あそこ、昔はパチンコ屋だったんだよな?」
 低くリュウジは呟いた。と思ったら、次はすごい剣幕で。まるで昨日、ミツルくんに会ったときと同じような勢いで。
 「ハヤト!!! お前、学ランの分際でパチンコなんて俺は許さねえからな、よく覚えとけや!!!」
 「あはは、さすがにそんな勇気ないよ。学ランでパチンコは。ちゃんと着替えるって」
 「そういうことじゃねえだろうが!!!」
 「わ。まずい、リュウジ怒ってる?」
 「当たり前!!! って、オイ、逃げるんじゃねえぞ、ハヤト!!! 待ちやがれ!!!」
 
 とりあえず、ここは走っておこうかな。
 どうせ走ったらリュウジのほうが早いんだから、すぐに捕まっちゃうんだろうけど。
 でもって、頭に鉄拳が降ってくるんだろうけど。
 これはこれで――オレの趣味のひとつみたいなもんだから。
 あ。べつに虐められるのが好きってことじゃないけど。

 本気で逃げてるわけじゃないオレは、本気で追いかけてくるリュウジにもうすぐ捕獲されるところ。
 どんなときでも本気のこの漢は、きっと生まれもっての『器』なんだろう。
 とか思っていたら――ほら、予想していた衝撃が脳天を直撃したよ。
 ……予想よりもずっと痛かったけど。
 
 
  * 春の突風吹き止んで 完 *
 
 
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【鬼浜魂疾走編・登場人物紹介】

☆ハヤト:このおはなしの語り手
鬼浜爆走愚連隊・特攻隊長
単車勝負が得意 実家はバイク店
一般評=クールなモキャラ リュウジ評=とぼけた奴 趣味は昼寝

☆リュウジ
鬼浜爆走愚連隊・初代総隊長
喧嘩も単車も最強 実家はラーメン店「昇龍軒」
人情派で人望篤い 女子にめっぽう弱い 実は寂しがり屋の一面も

☆ダイゴ
鬼浜爆走愚連隊・親衛隊長
喧嘩勝負が得意 実家は鬼浜寺
寡黙で頼りになる存在 柔道の使い手 精神世界にも精通

☆ノブオ
鬼浜爆走愚連隊・若手
喧嘩も単車も修行中
総隊長リュウジを誰よりも慕う 打たれ強さは比類なし

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☆コウヘイ:暗黒一家・初代総帥
☆ハンゾウ:暗黒一家・特攻隊長
☆ゴンタ :暗黒一家・親衛隊長
☆タカシ :暗黒一家・若手

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