そんな話の最中のこと。教室の前の扉が開いた音に振り返ると――彼がいた。
「おや、諸君。まだここにいたのだね。仲間と過ごす青春のひとときに乾杯だ」
流れるように言いながら、白鳥先生は微笑んでいる。
ちらりとリュウジに目をやると、さっきと同じ微妙な表情のままで白鳥先生を見ていた。
「どうしたの? 白鳥先生」
「ああ、千晶君。私としたことが、教室に忘れ物をしたようでね。取りに来たのだ」
そして白鳥先生は教卓に歩み寄って、中をごそごそやって――にこりと笑んで何かを取り出した。
白鳥先生の手には、一輪の白いバラの花があった。
「あは、先生、似合うね。バラの花」
「どうもありがとう、千晶君」
「どうしたの、それ?」
「さきほど女子生徒にいただいたのだ。うっかりしてしまって花に可哀想なことをした」
そして白鳥先生は、うっとりと目を閉じてバラの花の香りを楽しんでいる様子。
「へえ。やっぱり人気者なんだ、白鳥先生って」
「さほどでもないさ、ハヤト君。きみだってかなりの人気者だと噂を聞いたよ?」
「え――オレ?」
突然そんなふうに言われて――オレも、リュウジじゃないけどたじろいでしまう。
そんなオレを、千晶ちゃんはこう説明してた。
「あ~、先生。ダメダメ、この人自覚ないから。そのあたり」
「そうなのか、ハヤト君は。ま、青春の使い道も人それぞれだからね」
「そうそう。ほっといてやって」
千晶ちゃんと白鳥先生は、ふふふ、と笑いあっていた。
「ね、先生」
「何か? 千晶君」
「先生って彼女いる?」
何を思ってか、千晶ちゃんがそんなふうに切り出したんだ。千晶ちゃんはいたずらっぽく笑っていて、白鳥先生は妖艶に笑んでいる――って感じ。
「ふふふ。大人をからかうんじゃないな、千晶君。それとも私に興味があるのかな?」
「え――まさかぁ。あはは」
千晶ちゃんは笑い出す。これは作り笑顔とかじゃなくて、リアルな笑い。なぜなら千晶ちゃんの恋愛感情は、女子にしか向かないらしいから――オレしか知らないことだけど。
「でもさ。先生ってその道は百戦錬磨なんでしょ? ちょっとはこのへんの、デキのよろしくない生徒たちに、そっちも教育してやってよ」
「――って、オイ!!! 俺らのことか? 千晶ちゃん」
「うん、そう。だってリュウジもハヤトも、浮いた話のひとつもないんだもん」
リュウジと顔を見合わせてた。
……うん。オレたち、今はそういう感じじゃないよな? って感じで。
それを察したのかどうなのか。白鳥先生は大きく口を開けて息をつくとこう続けた。
「それは――またの機会に譲るとしようか、千晶君。なぜなら私もそれほど暇ではないのだよ」
言って、白鳥先生は前髪を掻き上げながらこう言い放って教室の前扉を開けた。
「では諸君。引き続き青春を彩るトークに戻ってくれたまえ。私は私で、することがあるので。では、アディオス!!」
くるりと身を翻し――今となってはフィギュアスケート選手だと千晶ちゃんから聞いて知っているので、そのあでやかな立ち居振る舞いは似つかわしくも見える白鳥先生は、踊るように教室から出ていったんだ。
それを見送りながらリュウジが言う。
「ハヤト」
「ん? どうかした?」
「アディオス、ってどういう意味だっけか?」
「……さあ? またね、って感じじゃない?」
「なるほどな。聞き慣れてねえからわかんなかったぜ」
「っていうか、そういうのを言い慣れてる人なんて、そんなにいないと思うけどね」
「むうう。見れば見るほど妙な男だ」
確かに、リュウジと白鳥先生はある意味対極だからね。しょうがないのか。
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【鬼浜魂疾走編 登場人物紹介】
☆ハヤト:このおはなしの語り手
鬼浜爆走愚連隊・特攻隊長
単車勝負が得意 実家はバイク店
一般評=クールなモテキャラ リュウジ評=とぼけた奴 趣味は昼寝
☆リュウジ
鬼浜爆走愚連隊・初代総隊長
喧嘩も単車も最強 実家はラーメン店「昇龍軒」
人情派で人望篤い 女子にめっぽう弱い 実は寂しがり屋の一面も
☆ダイゴ
鬼浜爆走愚連隊・親衛隊長
喧嘩勝負が得意 実家は鬼浜寺
寡黙で頼りになる存在 柔道の使い手 精神世界にも精通
☆ノブオ
鬼浜爆走愚連隊・若手
喧嘩も単車も修行中
総隊長リュウジを誰よりも慕う 打たれ強さは比類なし
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★コウヘイ:暗黒一家・初代総帥
★ハンゾウ:暗黒一家・特攻隊長
★ゴンタ :暗黒一家・親衛隊長
★タカシ :暗黒一家・若手
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◇千晶ちゃん
ハヤトとリュウジの同級生
本当の性別は男子ながらも、見た目も心も乙女な鬼工のアイドル
コウヘイは千晶ちゃんを女子と信じ続けており、恋している模様
《千晶ちゃん初登場》
→
本編/叢中に咲く一点の紅い花 ←
→
承前/アイドルの放課後 ←
《ハヤトが千晶ちゃんをサポートをする件》
→
本編/歌と和弦の日々 ←
→
承前/不器用な特攻隊長 ←
《コウヘイが千晶ちゃんを想う件》
→
本編/贈り物を心より ←
→
承前/特別な日ではなく ←
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し、白鳥先生・・・(゜Д゜;)
ア…アディオス…!!
白鳥先生は、一体どこまで華麗に舞うんでしょうか…!
おかげさまで、こっちまで白薔薇の香りがしてきそうです(笑)
でも、リュウジがアディオス何て言葉を使ったら…
言っちゃ悪いかも知れませんが、似合わな…(強制終了)
きっと、リュウジも自分で言った暁には鳥肌立ったりして(笑)
>鬼ムチコさま
アディオス……あれ、自分で笑いましたw
ごく自然に出てきたんですけどね~。書いてて。
そもそも、どこの国の言葉かも知らなかったりして。
でも、白鳥先生には似合うかなあ、って。だはは。
リュウジが言ったら――ヤヴァいですな(´∀`)
笑いが止まらないですわ、たぶん。
こんど言わせてみようかしら☆
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