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地元から20km 2-2



「助かったな。オレに役目が回ってこなくて」
「言える。俺も命拾いだわ」
 にまりと笑いあう、タクミとオレは傍観者であった。
「俺、けっこうビビリだから、伝説作っちまいそうだもんな」
「オレはそういう気配には鈍感だし、お化け役は知った顔ばっかりだからそうでもないかもしれないけど。でもリュウジが微妙だからな」
 こんな感想をしながら、傍観者どもはお気楽にも校庭の隅まで歩いてきてた。
 夏真っ盛りの、むっとするような草いきれ。天には月が冴え冴えと。
 
 夜になってだいぶ涼しくなったな、なんて話しながらのそぞろ歩き。
「そっか。ハヤトはこっちに引っ越したんだったもんな。そういや地元でしばらく見かけないな、とかしばらく前にふっと思ってたりしたんだわ、俺」
 タクミは笑った。笑うと目がなくなるような表情がほんの数基ある外灯に照らされる。
「……忘れられてたんだ、オレ。影薄かったんだな。やっぱり」
「わはは。そういうこっちゃないっつーの!!」
 まだ笑いながらオレの背中をびしびし叩くタクミは、そういえばよく笑う人だったっけ。
「地元はどう? 変わらない?」
 オレが中学時代までを過ごした町は、海へ注ぐ川を上流に辿って20kmの距離にある。それほど遠くはないけれど、言われてみれば今となってはあまり立ち寄ることはないかな。
「そうね。あんまし。毎日見てるからかもしれんけど。で、どうよ? こっちの居心地」
「うん。オレには合ってると思うな。なんだかんだ毎日楽しいしね」
 ごく自然にそう答えたら、タクミは目を大きく見開いた。
「へええええ!! ハヤト――なんか変わったなあ」
「え、そう? どこが?」
「そうだなあ。俺が思ってたのは、ハヤトって、とっつきにくいのとは違うんだけど――ほら、俺も一緒でどっか抜けてるとこがあるってことで、まあ、それは置いとくとして、何てんだ? 日常が『楽しい』とかのキャラでなくて……そうね、もっとクールっての?」
「そう――かな? あんまり自覚ない……ああ、でも言われたことがないわけじゃないな。前は。最近そういう評価とはご無沙汰な気がするけど」
「へええ。見た目は相変わらずクールそうだけどな。んじゃ、本性は違ったってことか。俺ら中学んときの仲間の前じゃ、ハヤトは地を出せなかったんかな?」
「そんな自覚もないんだけど。あ、っていうか――そうか。オレ自身があんまり自分のことをわかってない奴なんだってことに気づいたのが最近かも」
 言ったオレにタクミは、おかしそうに、では断じてなく、なんかいい顔で笑ってくれた。
「そかそか。んじゃ、ハヤトはそれでいいんじゃね?」
 多くを語らなくても何かを察してくれる昔馴染み。旧友、なんて呼び方じゃなくて、きちんと『友達』でいないとダメなんだな、なんて思う。

 プールの前まで来たら、中に人の気配を感じた。水音と笑い声も聞こえてくる。
 おそらく調子づいたリュウジたちの同窓生が柵を越えて侵入したんだろう。
 月明かりにきらりと水しぶき。
「な、ハヤト。ついこないだ単車で地元通ったろ? 俺、ちょっと見たわ」
「ああ、うん。ちょっとね。ライバル関係の奴と地元の手前で出くわして、行きがかり上スピード勝負になって。その最中に通ったんだ。だから本当に通り抜けただけ」
「超速だったのはそのせいか。つーか、はっきり言って見分けられた俺ってすごくね?」
「だね。我ながらけっこう飛ばしてた覚えがあるよ。本当によく判ったな、タクミ」
 オレが言ったらタクミは誇らしそうに腰に手をあてた。そしてこう言ったんだ。
「な。俺、こう見えてもハヤトの役に立ちたいわけなんだぜ。遠い将来の話で悪いけど」
 えへへ、と、今度は照れたような笑い。いろんな笑いを持っていたんだっけ、タクミは。
「ん――? 何の話?」
「俺、将来は単車を作る人を目指してたり。だから理系大の付属高選んだし、っていう」
「あれ、そうだったんだ。知らなかった、オレ。全然」
「そりゃそうだわ。俺、今初めて言ったし。へへへ」
 なんかいいね。久し振りでもこういう気安い雰囲気って。
 
 その夜、リュウジたちがかつて学んだ教室という場所に敷き詰められた布団にくるまって、眠りに落ちる寸前にタクミと約束したことがふたつあった。
 ひとつはタクミと一緒に単車で遠出する約束。
 もうひとつは、オレたちも近々同窓会を開こう、っていう約束だった。
 どうか朝起きても覚えていられますように――。
 
 ……というか、深夜に目がさめたときにはそれをきちんと覚えていられてた。
 枕が変わったところで眠りが浅いなんてことはないオレを深夜に目覚めさせたのは、リュウジがうなされて叫んだのと、秋山くんが寝言で誰かに助けを求めたせいだった。
 よっぽど怖かったんだろうか、鬼工野球部の肝試し企画は――憐れみつつまた眠った。




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