派手に目立つ自転車は、いったん公園近くのゲーセンの駐輪場に預けさせてもらった。前もってリュウジがその約束を取り付けてくれていた。
そしてダイゴとオレは舞台衣装から私服に着替えるために、こっそり人目を忍んで商店街の酒屋さんへ向かった。ここの奥座敷が商店街の寄り合い所になっている。
店先でお辞儀をすると酒屋さんの赤ら顔の店主氏はにっこりと笑ってくれて、オレたちを通してくれた。何度か挨拶するうちに顔を覚えてもらえたようだ。
ひとまず着替えて、若奥さんと思われる人が持ってきてくれたジュースで喉を潤して。
ようやく人心地ついたオレはダイゴとあらためて「おつかれ」を言い合ったところ。
「大仕事だったな、ハヤト。企画成功本当におめでとう」
ダイゴの笑みは奥深い表情に見えた。本気でねぎらってくれているのがわかる。
「いや、オレに祝福っていうのは違うよ、ダイゴ。ただオレは自分のやりたいように話を力業で持ってったっていうか、乱入しただけだし。オレ全然力持ちじゃないのにね」
いくらか普段よりテンション高くダイゴに言ったら、今度は軽い笑顔を寄越してくれた。
「それに、ほら。全体的には成功だったっぽいけどさ。オレ、最後に失敗しちゃったし」
「あれはあれでよかったのではないか? というより、俺など知らずに見ておれば、あの場面も台本にあった通り、と受け取ってもおかしくないと思ったが」
「え、そんなもん? オレ、うっかりとんでもないこと口走った気がするけど」
「とんでもなくはないと思う。そもそもヒーローも怪人も、同じく『覇』を唱えんとする立場であろう? 手段に一般的な正義が強調されておればヒーロー、逆なら怪人といったところか。目指すところは似たようなものだと俺は仮説するが」
「へ……えぇぇ。なんかオレ感心した。ダイゴって、そういう解釈なんだ。だてにマニアじゃないよな。おもちゃ見ながらそんなこと考えてるんだ」
「まあ、それだけではないがな」
「ん? 他にも何かある?」
「案外、俺達の日常にも似たようなことがあるのかも知れん、とも思う」
ああ――そうか。それってオレたちと暗黒一家のことなのか。
すべてを語らなくても、ダイゴの言葉の意味がわかった気がする。
そしてオレが理解したってことを、ダイゴが察してくれた気がする。
いいチームメイトを持って幸せだ、オレ――カイジンブルーは。
ダイゴとふたり、あれこれ話して。
昂ぶっていた気分が落ち着いたあとのオレは、後にしてきた公園の様子が気になってる。
「握手会は終わったかな?」
「どうだろうな。握手はいいとして、写真希望の子供がたくさんいそうだったからな。まだかかるかも知れんな」
「そう――か。っていうか、ゴンタは来たかな?」
「それはどうだろうな。奴は人だかりは好きではなさそうに思うゆえ」
「……だよね。オレもそれはそう思う」
「ハヤト。気になるのか?」
「あ、わかる? オレ、実はさ。ヒーローと一緒に写真撮ってもらって部屋に飾りたいな、とか思ってたり」
「なるほど。では行ってみるか? 衣装から着替えていれば問題なかろうし」
なんてダイゴが言うのに、オレはすこし恥ずかしいとは思いつつも頷いている。
じゃあ行こうか、という空気になったところで、座敷の襖が開いたんだ。
「ふたりとも、おつかれさまでした」
にっこりと笑って軽やかにアニメ声で言ったのは、花屋のあおいさんだった。
あおいさんは白鳥先生の想い人――詳しくは聞いていないけど、もしかしたら恋人に昇格させてもらったかもしれないお姉さんだ。
「ああ、こんにちわ。ども、おつかれさまです」
「押忍。この度はいろいろとお世話になりました」
「いえいえ、こちらこそ。楽しませてくれて、ありがとね」
商店街の人たちも着てたはっぴの中にひまわり色のミニのワンピースのいでたちのあおいさんは、オレとダイゴに握手してくれた。
様子を知っていそうなあおいさんに、オレはこう訊いてみた。
「あおいさん。握手会ってまだ開催中ですか?」
「うん。絶賛開催中みたい。なかなか子供たちが解放してくれないって」
あはは、と口を大きく開けて笑うあおいさんであった。
「あ、それでね。ふたりにも出演要請に来たの。リュウジくんに頼まれて。着替えちゃったところ悪いんだけど、舞台衣装で公園までご一緒してもらえるかしら?」
「はい? オレたちですか? 怪人ですが、需要はあるんですか?」
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