目次

過去の記事をまとめて表示できるようにしてみました。 【 】がついている項目をクリックすると、それぞれのタイトルの記事を一括でお読みいただけます。 【 】内の数字が若い順に古い記事となっております。 【 】内の冒頭数字が同じものはそれぞれ対になるおはなしです。

これまでのおはなし

全タイトルを表示

御来訪感謝

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

単車屋お天気屋 3-1



 ちょっと見は通常モードに戻ったらしい親父を店に残して、オレはリュウジを連れて部屋へ戻ることにした。
 その前に台所へ寄って、リュウジが買い物袋から肉やら何やらを冷蔵庫に収納している間にコーヒーを淹れて。
 ようやく部屋のテーブルに落ち着いたところで、リュウジがひそめた声で話し出す。
「ハヤト。親父さん、変に元気じゃねえ?」
「そうなんだ。基本的に陽気な人なの確かだけど、今日はちょっと突き抜けてる」
「だよな。ってかお前、親父さんに話したのか? 母ちゃんは実家だ、っての」
「いや、話してない。っていうか親父があえてその話を出そうとしない感じ」
「……そうなのか? でも、心配じゃねえのかな?」
「心配じゃないってことはないだろうけど。もしかしたら自分で電話のひとつもかけたのかも――いや、それはないか。そういうタイプじゃないな」
 オレが答えると、リュウジは難しい顔をして腕を組んだ。
「何てか、大人ってのは複雑な生きものだよな」
「そうかもね。もしかしたら、ほら。英文法よりは複雑かも」
 にまりと笑って、オレはリュウジの前に閉じられていた英文法の宿題帳をめくってやった。案の定、まったくもって白紙の状態だった。
「ってハヤト。誰がうまいこと言えっつったよ」
 作った表情でリュウジは正面からオレを睨んでる。
「俺にはどっちも同じぐらい複雑だぜ……ふぅ」
「あはは。ため息なんて似合わないって、総隊長どの」
 
 とにかく宿題を片付けて、というか丸写しにして、のほうが近かったけれども、そうしたあとにリュウジが親父とオレの晩飯を作ってくれた。
 リュウジが台所へ立ったのは親父が店を閉める頃合だった。
 親父にはビールをあてがって支度ができるのを待たせた。容器に詰めて持参したチャーシューをリュウジが皿に盛って出してやると、親父はものすごく喜んでつまみにしてる。
 というか、いくらも待たなかったっていうのが正解。
 さすがにラーメン屋の息子であるリュウジの作業はものすごく手際がいいので、あっという間にいいにおいが台所を満たしたかと思うと、あっという間にテーブルの上が皿で彩られていく。

 リュウジが作ってくれたのは酢豚としゅうまい、春雨サラダ、それから味噌汁。
 買い物袋から見えていたねぎは刻まれて、味噌汁に大量に入っていた。
 オレの部屋で宿題をやってる最中に、いつの間にか米もといで炊飯器のスイッチを入れていたらしい。そういえばトイレに行くって席を立ったときにずいぶん長いと思ったんだった。おそろしく段取りがいいリュウジに感服する。
「どうだ、親父さん。口にあうか?」
「うむ、うむ。絶品だ、リュウジ」
 親父は大きく頷きながらリュウジの顔を覗き込んでる。
「俺もリュウジのような料理上手の息子に恵まれたかったと思ったな」
「わはははは。別に料理とかそういうのは、生まれつきの技術じゃねえから。ほら、ハヤトだって努力次第で親父さん好みの息子になれるだろ」
「む? 我が息子が、か? それは本当か、リュウジ」
「あ~、ちょっとリュウジ、焚きつけないでくれって。オレはそっちのセンスないっての知ってるじゃん。親父もだ。本気にしてるんだか酔っ払ってるんだかわかんないけどさ」
「ハヤト。俺は酔ってなどいないぞ。ただ今後、もしも父一人子一人になっ……」
 そこまで言って、親父は言葉を切った。
 なんだって? いま、なんて言った?
 一瞬意味を解釈し損ねたオレだったけれど、口の中で咀嚼していたしゅうまいをのどの奥に流し込むのと同時に理解が訪れた。
 父一人子一人とか言ったのか、親父は!! 何だよ、それは!!
 あまりのことにむせて咳き込んでしまったオレに、リュウジがお茶を差し出してくれた。
 
 そしてその後、父と息子と総隊長兼総料理長の囲む食卓は無言に包まれることとなった。
 リュウジには申し訳ないけど、せっかくの料理の味も途中からよくわからなくなった。
 食事は明るく楽しくおいしく、というスタンスのリュウジでさえも、何の話題を振ることもできなくなっていたようだから仕方ない。
 爆弾発言ともとれる親父の言いかけたことへ突っ込む勇気はオレにはなかった。
 疑問に思ったら即座に問いただす漢・リュウジですらもオレと似たり寄ったりだ。
 親父もそれについては何も言おうとしないまま、2本目の瓶ビールの栓を開けている。



<< 単車屋お天気屋 3-2 | ホーム | 単車屋お天気屋 2-2 >>


コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

 BLOG TOP 


  1. 無料アクセス解析
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。