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単車屋お天気屋 6-2



 かくしてオレの思いつきは、いい線行ってた。
 仕事場に突然押しかけたオレを亜由姉さんは訳知り顔で招き入れてくれたんだ。
「あら、おみやげ? 悪いね。別にいいのに」
 なんて言いながら、エプロンと腕カバー装備の亜由姉さんはオレの肩をぽんぽんと叩く。
「こっちこそ、急に悪かった。仕事中?」
「うん。まあね。ま、いいって。気にしないの、あんたは」
 仕事部屋とは別の居間に収まって、オレは出してもらった日本茶をすすっている。
「で? あんちゃん、反省してる? ねえさんのこと」
 あんちゃん、とは親父のこと。ねえさん、はお袋だ。
「うん。どうなんだろ。おとといは怒ってて、昨日は上機嫌で、今日は落ち込んでるけど」
「まったく、しょーもないな」
 言って、亜由姉さんはけらけらと笑ってる。
「亜由姉さん、お袋と会ったんだ?」
「ううん。電話で話しただけ。今日から出かけてるじゃん?」
「え、そうなの? どっか行った?」
「あれ、知らなかった? ねえさん旅行だよ。前から決まってたっていってたけど。今朝までは実家にいたけどね」
「そうだったのか。オレ知らなかったな」
 言われてみればお袋はけっこう友達やらが多くて、年に何度か旅行で家を空ける人だ。
「てゆーか、それでけんかになったらしいよね? あんちゃんと」
「オレ、それも知らない。親父は何も言わないし。やっぱり喧嘩してたのか、って程度」
「あー、もしかしたらあんちゃん、それすら忘れてるかもね。あの人、いつもは穏やかなのに逆上すると何で腹を立ててるのかも忘れるタイプって、ねえさん言ってたな。ハヤトはそんなとこ、父ちゃんに似るんじゃないよ?」
 亜由姉さんに釘を刺されたけど――ちょっと思い当たる節もあるな、オレ。

 お茶のおかわりは? と問われて、大丈夫、と答えた。
「今日もね、旅行先からこっちには連絡あったよ。そろそろ心配だから、明日には様子見に行こうと思ってたけど。ねえさん、そろそろあんちゃんが泣いてる頃だろうって言うし」
 ほぼビンゴである。さすが夫婦ってことなのかな。昼間はさすがに泣いてはいなかったけど、あれで酒でも飲んだら泣き上戸に違いない。
「旅行って言っても国内だし。何だったらあたし、宿の連絡先も知ってるからハヤトは心配することないよ。けど、あんちゃんにはいいクスリかもよ? けんかの原因忘れてるんだったら、行方不明にしとくのもいいかもね」
 いたずらっ子みたいな、ときどき何か思いついたときのリュウジが宿すような輝きを瞳の奥に見せて、亜由姉さんは含み笑いをしてた。
 とにかくお袋がどうしているのかも、そもそも何で親父とこうなったのかの原因の糸口もわかったオレは満足して鬼浜町へ戻ることにした。
 念のため、お袋の宿の連絡先を亜由姉さんから教わってメモしておいたし。
 また、念のため――
「亜由姉さん。まさかとは思うけど、お袋、お産とかじゃないよね?」
「……はぁ? 何それ、ハヤト? どっからそんな発想?」
 訊いたら亜由姉さんに笑い飛ばされた。やっぱり違ったんだ。やれやれ。

 来た道を引き返すため、再び愛車に跨った。
 夕方のラッシュがひと段落してきた頃合である。とは言え、オレたちがメインで活動するような時間にはまだ遠いので、気の向くままに速度を出せるような道路状況ではない。
 それでもだいぶ車の数はばらけてきていたので、ときどきすり抜けを繰り返していくうちに車列の途切れ目へと突っ込むことができた。
 よし、これでしばらくは快適に飛ばせるな、なんて考え始めた矢先のことだった。
 背後から耳になじんだ排気音がオレを追ってくる。
 奴だな――振り返らなくてもそれとわかる、独特なうねりの大きい音。
 音がオレの横へぴたりと並ぶ。
 ちらりと見ると視線がぶつかった。
 挑むような奴の眼光へ、オレは方頬をつり上げながら首を縦に振って見せる。
 ああ、いいよ。OKだ――それだけでコンタクトできるオレと奴、ハンゾウとの突発的な勝負の火蓋が切られたところ。
 オレとハンゾウは隊同士のプライドとは無関係に、たまたま道で出くわしたときに誰も見ていなくても勝負になってしまう間柄だ。いつもは隊の看板を背負う者同士の、いわば練習の域の手合わせ、と認識している。
 闘う理由なく喧嘩するようなことをリュウジは嫌うが、単車に乗った状態のオレとハンゾウにおいては「今ここで会ったのが奴だった」それ自体が闘う理由に等しい。

 鬼浜町まであと10km弱の地点。
 いつもの勝負とはルートが違うが、おそらく普段通りに海辺の倉庫街がゴールだな。
 言葉での意思疎通なしに始まったバトルは、初っ端から熱のこもったぶつかり合い。
 最初は目の前を遮る車がほとんどないところからのスタートだった。互いに間合いを計りながら速度を上げ、ときに退き、緩いカーブに差し掛かる箇所での位置取りに心を砕く。
 そうしていると、また前方に車が団子状になった列が現れて、いかにそれへ突っ込んでいって先に抜けるかのテクニック勝負となる。
 他の者ならいざ知らず、オレと奴との対決ならばこのあたりは互角。仕掛けどころの早い遅いはあれど――どちらかと言うとオレは早め、ハンゾウは遅めだ――抜け出すタイミングに目に見えるほどの差は皆無。
 思ったとおり、オレもハンゾウもほぼ同時に車の群れから放り出される。
 そしてしばらく見通しのいい県道を走った。
 オレのマシンの音。奴のマシンの音。
 そのふたつだけがアスファルトに響いているような錯覚をしばし味わった。
 
 県道の終点は海沿いの国道に突き当たった地点。
 信号は赤だ。さすがに突破するのも気が引けるので、なるべく停まらずにすむように速度を落として信号が変わる瞬間をじりじりと待つ。
 国道に出ると、ゴールはおよそ2km先。もう目の前とも言える距離だ。
 リスタートの直前、突然別の排気音がオレとハンゾウの背後から絡みつくように追いすがってくるのが聞こえた。
 いつもだったら勝負の最中だし、まったく気にも留めないはず。にもかかわらず音の出所を確認しようとしたのは、半歩前にいたハンゾウが振り返ったからだ。
 つられるようにしてオレも首を後ろへ曲げる。
 見覚えのあるような、ないような。シルバーのボディを黒で飾った単車、乗り手は薄い色――暗いので何色かはわからない――のライダースーツに身を包んでいる。
 視線を顔を前へ戻す直前のハンゾウの眉が面白くなさそうにゆがめられたのが見えた。
 何だ? ハンゾウの知り合いか?

 一瞬、ハンゾウの表情を覗き込もうとした。それが致命的だったようだ。
 オレは思いもしなかった衝撃を与えられて、足を地面に着かざるを得なかった。
「――っ!!」
 背後からの追随者はオレの単車を抜き去りざまに蹴飛ばした。
 衝撃はそこから生じたらしい。
 意図しない体勢から地面についた足首は、ぐきっ……と軋んだ。
 痛い。それもかなり。
 オレの意識が痛む左足首にとらわれているうちに、追随者はハンゾウに絡んでいった。
 信号が青に変わるのが見えた。
 ハンゾウが追随者の標的であるらしい。ハンゾウはオレに一瞬視線を寄越したが、追随者をスルーするわけにもいかないようで、そのまま2機は国道へと出て行った。
 気がついたらオレひとり取り残されている。
 路肩に単車を寄せて、視界からハンゾウたちが消えてゆくさまを見守っていた。



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