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御来訪感謝

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疾走ロード 5

 鬼川を渡り、海岸線の国道を少し行くと浜に下りられる。
 信号待ちでも一言も声を発しなかったリュウジを後ろに乗せたまま、オレは浜へと下りていった。

 砂地にタイヤを取られるギリギリのところで単車を停める。
 海風に少しなびく赤い髪に、オレは訊いた。
 「何か飲む?」
 「おう、じゃあいつものやつ」
 「オス、了解」

 オレが少し離れた自販機まで往復する間に、リュウジは波打ち際に陣取っていた。
 「はいよ、いつもの」
 「お、感謝」
 リュウジの好きなイチゴ牛乳を手渡してやると、オレもリュウジの隣りに腰を下ろす。

 しばらく無言でリュウジが海を眺めていたから、オレも一緒に寄せる波を見る。
 シーズン直前の午前中の海岸はまだ静かで、穏やかで。潮の香りが心地よい。

 カポン、と金属音を立ててリュウジがイチゴ牛乳の缶を開けた。
 そして──リュウジは沈黙を破る。
 「マキ姉って言ってさ」
 「うん?」
 「キレイだったろ? 着物の」
 「ああ、さっきの」
 視線は海に向けたまま、リュウジが語り始めた。
 こういう時、オレはいつも相づちを入れるだけ。

 「マキ姉が高校生のころから大学卒業するまで、ウチの店でバイトしてたんだ」
 「へえ」
 「俺より10歳上だったか。俺が中学行く歳までずっと一緒にいてな。俺、本当の姉ちゃんみたく思ってたんだ」
 「うん」
 「料理の基礎もマキ姉に習った」
 うなずきかけて、俺は缶コーヒーをすする。

 「マキ姉もさ、シイタケ嫌いでな」
 と言うと、リュウジはふっと頬をほころばせた。
 「中華屋なのにさ。笑うよな」
 「確かに大変かもな……」
 「でさ、いつも言ってた。シイタケも干してなければ大丈夫なのに、ってな」
 「ああ、それで調理実習のとき」
 「おう。アレな、ダイゴには内緒だけどマキ姉の実験台だ」
 「わはは、なるほど」
 内緒、と立てた人差し指を口許に持ってくるリュウジがやたらと幼く見えた。
 記憶の中のマキ姉さんの弟に戻っているのかもしれない。

 「先週、マキ姉からウチに電話あってさ。見合いするんだって言って」
 「──」
 「俺、もう急にどうしていいかわからなくなった。喜ばしいんだか、悲しいんだか。ただ、どうしても見合いの前に俺のシュウマイをマキ姉に食べて欲しいと思った。なんでだかな」
 「マキ姉さん、シュウマイが好きだった?」
 「ああ、好きたっだんだが、シイタケ入ってなかったらいいのにっていつも言っていた。だから、ガキだった俺はいつか絶対マキ姉の好みのシュウマイを作ってやるって決めてたわけだ」
 リュウジは少し照れたようにオレの顔を一瞬見た。

 「さんざん悩んだんだがな。でもやっぱり思ったら最後までやらないと気が済まないもんで、今朝、こないだ練習したとおりにシュウマイ作って、さあ出掛けるかと思ったら単車のエンジンが調子悪くて」
 「ああ、それでオレのとこに、か」
 「おう。今日は引っ張り回してすまん、ハヤト」
 「いや、全然」
 素っ気なく言ってみたけれど、オレは誇らしい気持ちでいっぱいだ。
 リュウジがオレを頼ってきてくれたことが、とてつもなく誇らしい。
 オレは潮風を胸一杯に吸い込んでみた。
 

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